見劣り姫は騎士と話をする1
お茶会の翌日。朝食の際に、お父様からあとで部屋に来るようにと言われた。絶対に昨日のことだ。
指定された時間にメイナードを従えて、お父様の私室に行く。部屋の中にはお父様だけでなくお母様もいた。二人ともソファーに座っており、私も、お父様の指示で向かいの席に座る。
「さて、リア。なぜ呼ばれたのかわかっているかい?」
私が座るとすぐにお父様が話を切りだした。お父様の声は普段よりも低く、怒っているのだとわかる。
言われなくても理由はわかっているので、素直に頭を下げた。
「お茶会の件ですね。勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「私に話を通してくれてもよかったのではないか? なぜウィルだけに話を通した」
「知られてしまったからです。本当は誰にも言わずに動くつもりでした。危険な行為なので止められるとわかっておりましたから。実際、ウィル兄様に止められました。でも、私は決行したかった……許せなかったのです」
「頭を上げなさい。リア、あなたは何が許せなかったのですか?」
お母様に言われて頭を上げると、しっかりとお母様の目を見る。
「ランディ兄様があんなに苦しんでいたのに、犯人は罪に問われずに日常生活を送っていたことです。それと、私の判断ミスで兄様があのような目に遭いました。それが許せませんでした。彼女にも、私自身にも……」
「それで、あなた自身の手で犯人を捕まえようとしたのですか?」
「はい。捕まえるのが無理でも、せめて一助に、と」
ランディ兄様に負い目があった。
あの時、手紙だけだからと令嬢の監視を怠らなければ、兄様が倒れることもなかったかもしれない。だからその失態を、少しでも償いたかったのだ。
もちろん、悪人をのさばらせるわけにはいかないと考えたのもあるけれど。
「ふむ。リア、いくつになった?」
「はい? 十二、になりましたけれど……?」
突然、今までの話とはまったく違うことを問われ、ぱちりと目を瞬かせる。お父様の顔からは感情が読めない。いったい、何が言いたいのだろう。
「そうだね。この十二年間、大きな怪我や病気もなく、元気に育ってくれてありがとう。ずいぶん大きくなったね。だがね、リアはまだ十二なんだよ。大人に護られていていい年だ。ましてや王族だからね。護られることは何も恥ずべきことではない」
お父様の話に静かにうなずく。王族はとにかく命を狙われやすい。こちらが善行をしていても狙われるのだ。対策のしようがない。ならばなおのこと、護れていなさい、ということか。
そう考えながら話の続きを聞く。
「最近、調べるだけでなく、素晴らしい技術を身に付けたと聞いている。大人顔負けの能力なんてすごいね。リアがその能力をみんなのために活かしたいと思うこともいいことだよ。王族として立派なことだ」
褒めてもらえて嬉しい。感謝の気持ちを込めて、静かに頭を下げる。
だが、頭を上げて再びお父様の顔を見れば、お父様の顔がやや険しいものになっていた。
「だがね、リアの行動はいささか無謀だった。手にした力を過信して行動した結果、何が起こった? 勇敢と無謀をはき違えてはならないよ」
「はい……」
お父様の言葉は理解できる。気をつけていたつもりだが、少し過信していたかもしれない。
それもあって、私は誰かに目をつけられたのだろう。今回の件でいろいろと動き回っていたから、よけいに目に留まったはずだ。そして、お茶会を開くと知られて、命を狙われた。
残念なことにローブの男には逃げられてしまい、誰が指示したのかわからない。けれど、軍ではお茶会の情報が洩れて狙われたと見ている。
「本当にわかっているのかい? 今回は外の人間だったけれど、リアとお茶をしていた被疑者が突然襲ってくる危険性だってあったはずだ。相手が近ければ近いほど、とっさの判断が生死に直結するんだ。素直にプロに任せなさい」
「……」
お父様の言葉は正しい。そのための護衛だということもわかっている。
でも、どうしても首を縦に振ることができなかった。だって私も戦える。今回ちゃんと攻撃をかわせたのだから、次だってうまくやれるはず。
それが過信なのかもしれないけれど、何もせずに護られているだけなんてイヤ。自分の身は自分で護りたい。
お父様の言葉に返事ができず無言でいると、お母様が落ち着いた声で話しかけてきた。
「ランディのために犯人を捕まえようとしたリアは勇敢で、兄思いのいい子だわ。でもね、あなたに何かあったら家族みんなが悲しむのよ。それだけはわかってちょうだい」
「あ……」
お母様に言われてようやく気づく。私は家族に心配されているのだ。
もし今の状況が兄や姉たちだったら、私はきっと心配してお父様と同じ言葉を口にするだろう。そう思ったら再度頭を下げていた。
「心配かけて申し訳ございませんでした」
家族に心配をかけたことに対して謝罪をする。
とはいえ、何かあれば私はまた同じ行動をとる。そこだけは申し訳なく思う。
でもその代わりに、絶対に怪我をしない。これは必須だ。そのためには、技術をさらに磨く必要があるだろう。
ぎゅ、と手を握りしめて一人意気込む。するとお父様から小さなため息が聞こえてきた。
「周りに迷惑をかけないよう、ほどほどにするんだよ。あと、どこに行くにしても、護衛は必ず伴うように」
「はい!」
頭を上げ、今度は力強くうなずく。お父様を見れば、困ったように笑っていた。
話を終えて部屋をあとにする。すかさず護衛のメイナードがやってきた。騎士らしい体格なのに、右目の下にある黒子が妙に色っぽい。顔も整っているので、近くにいるメイドが黄色い声を上げるのは当然だ。
そう思いながらまじまじとメイナードの顔を見ていると、彼が話しかけてきた。
「姫様、私の顔に何かついていますか?」
「いいえ、いつもと同じよ。代り映えがまったくないわ」
「変わっていたら逆に怖いですよ。それより、陛下とのお話はどうだったのですか? 叱られたりしませんでしたか?」
メイナードは不安げで、心配してくれているのがよくわかる。
その気持ちはとても嬉しいけれど、残念ながらよい話はできない。
「もちろん叱られたわよ? これからは何をするにも護衛を伴うようにと言われたわ」
「そうでしょうね……。私も、これからはいくら命令されようが、姫様から離れないようにいたします」
「……そうよね。こうなると思っていたわ……」
「第三王女殿下」
メイナードと話をしていると、不意に声をかけられた。
ものすごく素敵な男性の声に、まさか、と胸がときめく。
急いで声のした方に顔を向ければ、予想どおりイライアスがいた。どうりで美声なわけだ。




