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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫のお茶会1

 翌日、カイリー・トムリンソンから返事が来た。返事は当然『諾』。


「王女に招待されたのだもの。普通の人なら断れないわよね」


 これも権力だな、と思いつつ反省はしない。犯人を検挙するのに必要なことだから。


「ここまでして男爵令嬢が犯人でなかったら、姫様はどうなさるおつもりです?」


 ヘラが心配そうにこちらを見る。彼女の心配はもっともだ。でも、大丈夫。


「いいえ。彼女が犯人よ」

「なぜ断言できるのですか?」

「爪よ。ヘラはあの令嬢の爪を見た?」


 私の質問が意外だったのか、ヘラはきょとんという言葉がぴったりの顔をした。


「いえ、見ておりません。男爵令嬢の爪に何かあるのですか?」

「一部欠けているのよ。本人は隠しているようだったけれどね」


 カイリーは常にレースの手袋を着用していた。だが普段は違うのか、彼女はシュガーポットの蓋を開けるのにだいぶ苦戦していた。

 結局、カイリーは左手だけ手袋を脱いで蓋を開けた。その際に、カイリーの薬指と小指の爪が不自然に欠けているのが見えたのだ。


「そのようなところまで見ていらしたのですか? ですが、爪を何に……あ」


 言っているうちに気づいたらしく、ヘラが顔を青くする。


「気づいたわね。彼女は自身の爪を入れてクッキーを焼いた。でも、切られた爪はすでに整えられている。証拠にはならないでしょうね」


 全部の爪を同じ長さに切り揃えられれば、それに越したことはない。

 だが、世間ではある程度爪を伸ばして綺麗に整えるのが令嬢の嗜みとされている。だからカイリーは、すべての爪を短くするのをためらい、一部だけ爪を切ったのではないだろうか。一部だけだとしても、かなりの覚悟だったはずだ。その思いまでは知りたくないけれども。


「姫様のお話を聞いて思ったのですが、男爵令嬢はなぜ右の手袋をとらなかったのでしょうね」

「そうよね。彼女は右利きだったわ。疑われるとわかっていて、なぜ左の手袋を脱いだのかしら。そこだけが謎ね。……案外、衝動的な行動だったりして」


 まさかとは思いつつ、お茶をしていた時のカイリーの様子を思い出す。

 カイリーはシュガーポットを開けられず、明らかにイライラしていた。

 見ている私もだいぶやきもきしたほどだ。衝動的に左の手袋を外したとしてもおかしくない。


 ただカイリーは控えめな性格で、揉め事は好まないとフィスから聞いている。

 私も実際に会って、フィスの言葉に嘘はないと納得していた。


 しかし、あのイライラした様子を見てからは、どちらが本当の彼女なのかと考えている。


「短気な性格には見えませんでしたが、人は見かけによりませんからね」

「そうでなければあの手紙は書かないでしょう? 手紙だけだったらまだよかったのに」


 王族に危害を加えたのだ。生半可な処罰では済まされない。


 とはいえ、確たる証拠がないので、捜査陣はいまだに逮捕に踏み出せていない。だからこそ、今度のお茶会で私が彼女から決定的な自白を引きだす。


「さあ。お話は終わりよ。一週間後のお茶会に向けて綿密な打ち合わせと準備をしなくてはね」

「……本当に姫様は十二歳でいらっしゃいますか? 中の人が三十路だとしても驚きませんよ?」

「中の人って何? そんな人、いるわけがないでしょう!」


 ヘラの失礼な発言でわあわあ騒ぎつつも着実に準備を進める。

 そしてあっという間に当日となった。




 当日は、朝から快晴だった。雲はあまりなく、澄み渡るような青い空に、輝く太陽。私をあと押ししてくれるような力強さだ。初めて主催するお茶会でもあるので、なおさらありがたい。


 今日は絶対に失敗できない。ヘラにお願いして早めにドレスに身を包む。淡い水色で、胸元のリボンが可愛らしいドレスだ。

 着替えたら、次は綿のようにふわふわした髪をツインテールにして、リボンを結ぶ。

 靴はドレスと同色のものを選んだ。今日もばっちりだ。


 支度を終えると、ヘラとメイナードを従え、ガゼボに向かう。

 ガゼボにはすでに兵士たちがいた。使用人と一緒にテーブルや椅子を拭いたり、歩道の石を取り除いたりしている。

 指揮を執っているのは騎士隊長と副騎士隊長だ。二人のもとに行き、挨拶をする。


「騎士隊長、副騎士隊長、ごきげんよう。本日はわたくしの要請に応じてくださり感謝します」

「これは第三王女殿下。ごきげん麗しゅう存じます。王太子殿下からお話は伺っております。どうぞよろしくお願いいたします」


 騎士隊長の言葉から、ウィル兄様がきちんと約束を守ってくれたのだとわかる。兄様からも、『兄馬鹿を発揮しておいた』と申告されているので間違いない。

 それなのに、騎士隊長たちは第三王女の我儘だと思っているようだ。彼らの雰囲気からそれとなく伝わってくる。

 もし私が『犯人に自供させるための茶会だ』と言ったら、彼らはどんな顔をするのだろう。ちょっと見てみたい気もする。


「ええ。こちらこそよろしくお願いしますね。ところで、本日控えてくださる兵士の方々は、あちらで動いている方たちでよろしくて?」


 ウィル兄様の配置にしては人が少ないので尋ねてみる。すると、騎士隊長が手で別の方向を示した。


「はい。あとあちらで打ち合わせをしている者たちもそうです」


 騎士隊長が示した先を見て、目を見開く。どきりと胸が跳ね、うるさいくらいに鼓動が高まった。

 騎士隊長に返事をしようと口を開くが言葉にならず、ただ一点だけを見つめる。


 ……どうしてイライアスがここに!? 彼にだけは知られたくないのに!


 驚きとともに、焦りが募る。


 会えて嬉しい気持ちはもちろんある。

 だが嬉しさより、私がこれからとる行動にイライアスが幻滅するのではないか、という恐れの方が強かった。


 居ても立ってもいられず、側にいるヘラとメイナードを見る。

 ヘラは大丈夫だと言わんばかりに優しく微笑んでいた。

 かたやメイナードは、今から死地に向かうような真剣な表情だ。一つ静かに、けれどとても力強くうなずいてくる。まったくもって意味がわからない。


 真意が読みとれないまま、とりあえず小さくうなずき返してみる。なぜかうるさかった鼓動が少しだけ落ち着いていることに気づいた。


 心に多少の余裕ができ、改めてイライアスを見る。

 イライアスはこちらを見ていたようで、私が目を向けた瞬間に目が合った。


「あ……」

「殿下、何かございましたか?」


 騎士隊長に声をかけられ、視線を戻す。無意識に声を出していたことに気づき、静かに首を振った。


「いいえ、何もないわ。そろそろ時間だから兵士たちを配置してくださる?」


 配置とはいうけれど、実際には隠れてもらう。

 そのあたりの警備については、私からも騎士隊長に話をしている。

 騎士隊長には隠れる必要があるのかと問われたが、相手を委縮させたくないから、と苦しい言い訳で押し通した。本当はもう少しよい言い訳ができればよかったけれど、ほかに思いつかなかったので諦めた。


 騎士隊長が一礼し、周囲の兵士たちに配置に着くよう指示を出す。

 指示を受けた兵士たちが散っていく中イライアスを窺えば、所定の位置に就いた彼がこちらに目を向けた。先日とは違い、今日は優しい表情だ。


 その表情も好き、と一瞬にして想いがあふれだす。

 このままずっと見つめていたい。側にいたいし、お話しもしたい。そんな欲望が一気に押し寄せてくる。


 けれど、私は王女。人前で下手な行動はとれない。

 想いが顔に出ないように気をつけつつ、にこっとイライアスに笑いかける。

 するとイライアスが目をさまよわせ、意を決したようにこちらを見てはにかむような顔をした。


「!」


 ……な、何その表情!! 可愛いのですけれどっ!?


 胸にトスッと矢が刺さったような衝撃を受け、片手をそっと左胸に添える。無様なまねはできないのに、顔がにやけてしまいそうだ。

 今日はこのまま部屋に引きこもって、イライアスの可愛さを延々とヘラに語っていたい。きっと夜まで口が止まらないだろう。


 でもだめだわ。私にはやらなければならないことがある。浮かれてはいられない。

 正気に戻り、ランディ兄様の姿を思い出して気持ちを切り替える。

 折しも、男爵令嬢カイリー・トムリンソンの訪いの知らせが届いた。

 いよいよ本番ね。気合を入れるわよ!

【お知らせ】

再びタイトルを変えてみました。

あれこれ試してみて、戻すかもしれませんし、また別のものに変えるかもしれません。

旧題は併記するつもりですが、文字数が足りなければあらすじにて付記いたします。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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