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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫のお茶会2

「みな配置に着いたわね? いいわ。トムリンソン嬢をこちらにお通しして」


 カイリーの到着を知らせに来た、ヘラとは別の侍女に命じる。

 彼女も私の侍女だ。暗部の者ではないので詳しい話は避けつつ、事情を説明している。

 侍女は頭を下げてからカイリーを迎えに行った。


 去っていく侍女を見送り、無言で席に着く。

 本当は、客人の着席後に王族が登場する形が望ましい。だが今回は私が最初に座り、カイリーの注意を引きつけていたい。私がいない間に辺りを見回したり歩いたりして、兵士たちに気づかれたら困るからだ。その意味もあって、あえて通路からはっきりと見える位置に座っている。


「姫様、来たようです」


 ヘラがそっと近くに寄り、私の耳元でささやいた。

 声には出さずに小さく首を縦に振る。直後、若草色のデイドレスを纏ったカイリーが姿を現した。


 静かにその場所に立ち、カイリーが側に来るのを待つ。

 カイリーが私の前に来ると綺麗な礼をとり、挨拶してきた。


「第三王女殿下、この度はお招きいただき誠にありがとうございます。殿下のお茶会に参加という素晴らしい栄誉を賜り、恐縮の限りでございます」

「ふふ。トムリンソン様。わたくしのお茶会に来てくださってありがとう。最近よくお会いするから、一度ゆっくりとお話をしてみたかったのよ」


 まずは軽く嫌みから。にっこり笑って言えば、カイリーの頬が大きく引きつったのがわかった。


「わ、私も……今日、この時をとても楽しみにしておりました……」


 顔を引きつらせながら言う言葉ではない。だが、彼女の心境なら仕方がないことだ。私も狙ってやっているし。


 持っていた扇子を開いて口元を隠す。そのまま首を軽く傾げて、カイリーを見つめる。この時、目は笑っているよう見せるのがコツだ。


「まあ。そのようにかしこまらないで? 普通の敬語でよいのよ? わたくしのことは、グロリアーナとお呼びくださいな」

「ありがとうございます、グロリアーナ王女殿下。私のことはぜひカイリーとお呼びくださいませ」

「嬉しいわ。ではカイリー様、と呼ばせていただきますわね。さあ、どうぞお座りになって」


 よくある挨拶を終えて互いに席に着く。

 少しして、それぞれの前にティーカップが置かれた。爽やかな匂いがほのかに漂う。


「今日は料理長に特別なお菓子を用意してもらいましたの。どうぞお召しになって?」


 さまざまな種類のクッキーが盛られているプレートを、さっと閉じた扇子で示す。

 この日のために料理長とたくさん打ち合わせをしてきたクッキーだ。指示を出した私から見ても、素晴らしい出来栄えだと思う。


「どれもおいしそうですわね。では、こちらをいただきま……」


 不自然にカイリーの言葉が途切れた。

 カイリーの顔を見れば、こぼれ落ちそうなほど目を見開いている。


「どうかなさって?」

「いえ、なんでもございません……」

「そう? ならどうぞ」


 心配しつつも無垢な笑顔を心がけ、カイリーが最初に取ろうとしたクッキーを勧める。

 とたんにカイリーの顔が青くなった。そのままカイリーは黙ってしまい、一向にクッキーに手が伸びない。


「もしかしてクッキーは苦手だったかしら? ごめんなさい、わたくしったら調査不足で……だめね、マナーの先生に叱られてしまうわ」


 カイリーの罪悪感を引きだすように、しゅんとした顔をする。

 もちろんわざとだ。鏡の前で何度も練習し、ヘラやメイナードから『問題ありません』とお墨付きをもらっている。そう簡単に見抜かれることはないだろう。


「そっ、そのようなことは! ここ、こちらのクッキーを、いただきます!」


 カイリーの声が上ずっている。まるで私が彼女をいじめたみたいだ。

 だが、これは単に彼女の愚行が自身に跳ね返ってきただけの話。手を緩めるつもりは当然なく、そのまま黙って様子を見守る。


 そんな中、カイリーは恐る恐るクッキーに手を伸ばしていた。

 クッキーは、ランディ兄様の差し入れにあった例のクッキーに酷似したもの。所々できらりと光るダークブラウンの繊維も一緒だ。

 カイリーは繊維部分を避けるようにそっとクッキーを割る。


 甘いわ。どこを割ってもいいように料理長に指示を出している。料理長は私の厳しい注文に見事に応えてくれた。だから、割った先にも……。


「ひっ!!」


 カイリーが割ったクッキーの中から、白くて小さいものがぼろぼろとこぼれ落ちた。

 その瞬間、カイリーがクッキーを手放し、席を立つ。


 ……ふふ。クッキーの中身が何か、気づいたみたいね。苦労したかいがあるというものだわ。


 そう。料理長に頼んで作ってもらったクッキーには、髪と爪が入っている。

 といっても、本物の髪と爪はではない。どちらも食材だ。


 髪に似た部分は、焦げる寸前まで砂糖を煮詰めてカイリーの髪色に限りなく近つけたもの。それを糸状にして固め、髪の毛に見えるよう飾りつけている。


 一方爪は、ホワイトアイアンナッツと呼ばれる木の実で表現している。

 ホワイトアイアンナッツはサンメドゥ国ではおなじみの木の実で、名前のとおり白くてとにかく硬いのが特徴だ。その実を削って爪の形にし、中に入れてもらっている。


 この一週間、髪と爪らしさを徹底的に追求し続け、私でさえどきりとする出来栄えになった。実物を知るカイリーの驚きは相当だっただろう。

 とはいえ、同情はしないし、手加減もしないけれど。


「まあ! わたくしのお茶会はお気に召さなかったのね」


 カイリーをさらに追い込むため、拗ねた態度でカイリーに尋ねる。

 席を立ち、礼を欠いたカイリーの顔は真っ青を通り越して最早白い。


「そ、そのようなことはございません!」

「なら、こちらをお召しになって?」


 カイリーが手放したクッキーはすかさずヘラが片づけたため、座り直した彼女に新しいものを勧める。

 直後、カイリーの肩がびくりと跳ねた。


「ああああああ、あの、それはっ……」

「大丈夫? お茶を飲んで、落ち着いてちょうだい。ああ、でもお茶はまだ熱いかしら。お湯……も熱いわよね。困ったわ。お水は用意していないのよ」


 かなり動揺しているらしく、激しくどもるカイリーに、お茶を飲むよう手で示す。

 だが、お茶はまだ淹れたばかりで熱く、一気に飲めるほどではない。

 どうしたものかとおろおろしていると、ヘラが割って入ってきた。


「失礼いたします。姫様、このようなこともあろうかと、近くの訓練場から水差しを調達しております」

「まあ。よく借りられたわね。今も使用しているでしょうに。兵士たちが干からびていないか心配だわ」


 汗をかいた兵士たちがすぐに飲めるようにと、訓練場には多くの水差しが用意されている。

 たくさんあっても足りないくらいだと聞いているが、本当に借りてきて大丈夫だろうか。そう不安を口にすれば、ヘラが理由を説明してくれた。


「それが、訓練場を訪ねましたら、折よく例の事件で押収された水差しが返却されたところでして。その水差しなら余っているからと、貸していただきました」

「あら、水差しからは何も出なかったの? アレが検出されたと聞いているのだけれど」

「水から検出されましたが、蒸発すると困るからと別の容器に移し替えたようです。水差しは、中を念入りに洗ったそうなので、問題はないかと」


 なら大丈夫かしら? と考える素振りをしてからカイリーの方を見る。

 そのままにっこり笑いかけると、カイリーがまさかと言わんばかりの顔をした。

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