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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫は保管庫で騎士に遭遇する2

 いなくなったと思ったイライアスが、建物の影から姿を現した。

 彼は私の方を向くと、ものすごい速さで走ってくる。

 これは非常によろしくない。すぐさま向きを変えて、脱兎の如く逃げだした。

 どこかの国に『三十六計逃げるに如かず』なんて言葉があったが、まさにそれだ。戦略的撤退だと自分に言い聞かせて、捕まらないように懸命に走る。


 ちらっと後ろを見れば、イライアスとの距離が縮まっていた。


 ……うそ!? 縮まっているわ! もっと速く!!


 さらに速度を上げる。もはや死に物狂いの逃走だ。イライアスの表情も鬼……ものすごく怖いから、よけいに必死になる。


 よく物語に『ほほほ、捕まえてごらんなさい』なんて場面があるけれど、そんな可愛いらしいものではなかった。捕まったら『死』だ。人生はもちろん、社会的に終わってしまう。あと、イライアスに嫌われたくない!


 ……ああ、もう、好きだけれど今は来ないでーー!!


 頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、イライアスの追跡を振りきろうとひた走る。

 途中、『気配隠し』の存在を思い出し、角を曲がったのを機に使用した。今のイライアスに通用するかわからないけれど、ないよりはましだ。


 だが、だめで元々だと使用した『気配隠し』は、意外にも効果があった。

 角を曲がってきたイライアスが、はっとした表情であちこち見回している。

 その姿に、『焦る姿もまたかっこ(やっと終わった。)いいわね。眼福だわ(死ぬかと思ったわ)』と、崇め(げっそりし)ながらも、急いで王女宮に戻った。




 王女宮には私の部屋があり、南の区画に位置している。

 自室に戻るには正門を通るのが一番だが、今の私は暗部の姿で、普通に入るのは難しい。

 正門には見張りがいて、扉は閉ざされているため、塀を越えて庭に回った。


 二階にある自室の窓の下に行き、窓が割れないくらいの小さな石を拾って投げる。

 少しして窓が開いたので、すぐさま錘つきのロープを部屋の中に投げ入れた。

 そのまま待つこと数十秒、ロープがくいくいと誰かに引っ張られた。向こうの準備が整ったらしい。

 極力人に見つからないように、『気配隠し』を使用したままロープを伝って壁を登る。これもちゃんと訓練していたから、あっさりと登れた。


「ふぅ。ただいま、みんな。異常はなかった?」


 部屋の中に入り、仮面を外して側のヘラに尋ねる。ヘラは、私の差し出した仮面を受け取りながら答えた。


「おかえりなさいませ、エーレ様。今のところ何も異常はございません」

「そう。よかった。レミは戻ってきている?」

「……いえ。一緒ではなかったのですか?」


 ヘラが目を細め、私を探るように見てくる。なかなかに鋭い。


「ええ。ちょっといろいろあって……」

「ただいま戻りました! いやあ、焦りました。エーレってば意外な行動に出るんですから。心臓がいくつあっても足りませんよ」


 会話の途中でレミが戻ってきた。レミは部屋に入るなり、あっけらかんと言い放つ。

 あっ! と思ってヘラを見た時には、すでに彼女の目がつり上がっていた。


「……どういうことか、お聞かせ願えますか?」

「ああああ、レミ、おかえりなさい! 大丈夫だった?」


 ヘラが言い終えるよりも早く、レミに話しかける。このあとお父様か誰かの説教があるはずだから、ほかの人からはご遠慮願いたい。


 レミは、私の問いかけに何の疑いもせずにうなずいた。


「はい。エーレが飛び出したのを見届けてから、『気配隠し』で普通に出てきました。それより、例の騎士様に会えてよかったですね」

「! そう! そうなの! 本当に素敵! かっこいいわ。いつまでも見ていたいくらい……」


 叱られかけたことなど忘れそうな勢いで、レミの話に食いつく。

 心なし声が大きくなるのも仕方がない。だって久しぶりに会えたイライアスは、本当にかっこよかった。普段はお目にかかれない表情が刺激的で……。今思い出してもどきどきしてしまう。


「そういえば、レミからもらった飴をあげてしまったわ。ごめんなさいね。彼は受け取ってくれたかしら?」

「あのあとちゃんと拾っていましたよ」

「本当!? なら嬉しい!!」


 今の気持ちを全身で表現したいくらいだけれど、ヘラに怒られそうだからやめておく。代わりに頬に両手を添えて、この嬉しさを噛みしめる。

 そんな中、部屋の扉がノックされた。とたんに夢から覚めて、ぴしっと背筋を正す。

 直後、ヘラが扉を開けて、メイナードが廊下から顔を出した。


「姫様。お待ちかねの時間です。王太子殿下がこちらにいらっしゃいました」

「よ、よりにもよってウィル兄様……」


 娘に甘いお父様ならそこまでひどい説教にならずに済んだと思う。けれど、優しくも厳しいウィル兄様は違う。叱る時はしっかりと叱ってくる。詰んだわ。


「わわ、私はいないと言ってくれるっ!? もしくは着替え中だからと……」

「残念ながら無理です。すでにそこにいらっしゃいますから。骨は拾いますね」

「では、私は仕事に戻りまーす!」


 レミが笑顔で部屋を出ていく。う、裏切り者!!

 すぐにレミを止めようとして、それより早く別の人物が姿を現した。


「やあ、リア、お帰り。ずいぶんとお転婆なことをしていたんだね」


 声を聞いた瞬間、先ほどとは別の意味でドキッとした。寿命が縮まるとか、死刑宣告を受けたとか、そんな意味合いだ。


 思わず体が縮こまりそうになる。けれどなんとか耐え、恐ろしく緩慢な動きで長兄に顔を向ける。

 ウィル兄様はにこやかな笑顔で、けれどみじんも笑っていなかった。……泣きそう。


「ウィ、ウィル兄様。朝ぶりですわね。今は執務中だと思ったのですが、ご休憩ですか?」

「そうだね。どこかの誰かさんがよけいな手間をかけてくれたから、強引に休憩をもぎとってきたかな」


 ひいっ! 仕事の邪魔をされて最高に怒っている!


「あ、あの、兄様! これにはいろいろと事情があって……」

「じゃあ、その事情を聴かせてもらおうかな。立ち話もなんだし、そこのソファーに座ろうか」


 ウィル兄様が部屋のソファーを手で指し示す。まるで最初から自分の部屋だったと思うくらい堂々とした態度だ。

 立場の弱い私には異論など認められていない。それはもう、売られていく子豚よろしくソファーに座った。

 ローテーブルを挟んだ向かいには、ウィル兄様がいる。


「さて、リアはいったい何を企んでいるのかな? 洗いざらい話してもらうよ」


 ウィル兄様は深々と腰を下ろし、じっくり聴く体勢だ。

 これはごまかしきれない。元から覚悟していたが、その段階を引き上げた。諦めたとも言う。

 一度ゆっくり深呼吸をすると、ウィル兄様の顔をまっすぐ見る。そして、私の立てた計画をすべて打ち明けた。

逃〇中……。

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