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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫は保管庫に潜入する2

 こうして、私は無理やりメイナードを納得させた。

 メイナードは始終反対の姿勢を見せていたものの、ほかに私を説得する材料がなかったらしい。ヘラともども渋々といった顔でうなずいた。



 現在、私はレミとともに城の敷地内にある軍の本部に潜入している。

 もちろん『気配隠し』は使用中だ。


『気配隠し』は完璧ではないけれど、ここは軍の本部。護衛任務とは無縁の場所にいるので、メイナードのように周りに気を張っている人はそういない。

 人にぶつからないようにだけ気をつけて、保管庫がある三階に向かう。


「あった。この部屋ね、レミ」


 事前に調べておいた道を行き、やがて保管庫に着いた。念のため、レミに小声で確認する。

 レミは無言でうなずくと、かぎ針のような細い鉄の棒を取り出して、鍵穴に差し込んだ。


 手持無沙汰の私は、軽く辺りを見回して人が来ないかを見張る。

 左右を見終えて顔を戻す頃には解錠されていた。さすがレミ。

 ゆっくりと取っ手を回し、極力音が出ないよう注意しながら手前に引く。

 人が通れるくらいまで開けると、さっと体を滑り込ませるようにして部屋の中に入った。


 部屋の中は薄暗かった。

 カーテンは閉まっており、扉脇の棚に置かれたろうそくは、火がともされていない。

 これでは実物の色が曖昧になってしまう。

 扉を閉めてまっすぐ窓辺に行くと一部のカーテンを開ける。とたんに眩しいほどの光が射し込んできて、思わず目を瞑った。

 目が順応するのを待ってからそっと開ける。

 目を瞑る前とは違い、物の色がわかるくらいには部屋が明るくなっていた。


「ここまでは順調ね。レミ。ランディ兄様に贈られた例のクッキーを、この倉庫の中から一緒に探し出してちょうだい」


 声を抑えてレミに指示をする。

 レミはすぐに返事をして、奥の棚からクッキーを探し始めた。

 私もすぐに作業を始める。まずは手前の棚からだ。

 棚には、過去から今までの事件で押収された証拠品がずらりと並んでいる。なんでもかんでも保管するわけではなく、一定期間が過ぎれば適切に処理されるらしい。

 兄様の事件はまだ解決に至っていないし、最近起きたばかりだ。絶対にこの中に保管されている。日付で保管されているようなので、目的の棚さえ見つかれば、すぐに実物を確認できるだろう。


「ここは五年前の日付ね。隣の棚は……」


 小さな声でつぶやきながら、一つ一つ棚を見ていく。

 そして、ようやく最近の証拠品を扱う棚を見つけた。

 達成感から大きな声を上げそうになるが、なんとかこらえてレミを呼ぶ。


 すぐに来てくれたレミと手分けして、クッキーを探す。

 証拠品は無造作に木箱に詰められていて、埃を被っているのもある。

 まさかクッキーもそのまま木箱に入れられているのでは? と不安になった矢先に、レミに声をかけられた。


「ありました。これですよね?」


 作業の手を止めて、レミが手にするガラスケースをまじまじと見る。間違いない。探していたクッキーだ。


「でかしたわ、レミ。ちょっとそれをこちらに」


 レミからガラスケースを受け取ると、先ほど開けたカーテンの側に行く。それから日に当ててじっくりとクッキーを観察する。

 一見すると、普通のクッキーだ。だが。


「わかっていても気持ち悪いわね……。クッキーに髪の毛を入れるって何? 食べ物を冒涜しているの?」


 シンプルなクッキーの中に、ふんわりとカーブを描く焦げ茶色の髪が入っている。

 さらによく見ると、白い三日月型の固形物が入っていた。おそらくこれが爪だ。

 忘れてしまわないように徹底的に形や色を頭に叩き込む。クッキーを作った本人が騙されるくらい精巧なものがいい。


「? 色にむらがある? 左側がちょっと濃い気がす……っ!?」


 顔を近づけてクッキーを見ていると、扉からかすかに音がした。

 慌てて『気配隠し』をして、クッキーを近くの棚に戻す。

 そのままレミとともに奥にある棚の裏に隠れると、扉がバン! と音を立てて勢いよく開かれた。危なかったわ。


「誰かいるのか?」


 若い男性の声がする。十中八九兵士だろう。人があまりいない場所なのに見つかるなんて、運が悪いにもほどがある。

 ……それにしても、この声。まさか、ね。


 必死に息を殺しながら、レミとともに兵士が去るのを待つ。

 このまま何もなければいい。そう願うのに、兵士は念入りに棚と棚の間を見ながら近づいてくる。


 いよいよ困った。ここまで警戒されると『気配隠し』が看破される恐れがある。ましてや、先ほどカーテンを開けており、影ができてしまっている。

 何か打開策を考えなければ。と、焦りを覚えながらレミを見ると、彼女はナイフを取り出して一戦交えようとしていた。


 ……ええっ!? それはだめでしょう?


 慌てて手を添えて、レミを制止させる。

 戦闘は絶対にだめ。誰かが傷つくのは避けなければ。


 ……あら? でも、物の使用法は一つではないわよね。ならナイフを戦いの道具にしなければよいのではないかしら?


 切羽詰まった頭に、突如としてそんな考えが浮かんだ。

 一瞬、焦りすぎて頭がおかしくなったと思った。

 だが、心配とは裏腹に私の思考は至って冷静で、どんどんと先の戦略を立てていく。

 その間も兵士の歩みは止まらない。もうすでに目の前まで来ていた。


 ……っ! 迷っている暇はないわ。ままよ!


 猫のように身をかがめ、兵士との距離が縮まるのを待つ。

 視界に兵士の足が見えたと思うが早いか、袖口に隠していたナイフを取り出して放った。もちろん、兵士に当たらないように完璧な調整をして。


「なっ!?」


 突然ナイフが飛んできて驚いたのだろう。兵士が声を上げた。

 その脇を、身をかがめながら走り抜けて、少し離れた窓辺に向かう。

 勢いよくカーテンを開けて、ガラッと窓を開けると、ほぼ同時に、首元に剣が添えられた。

 こうなっては『気配隠し』の意味がない。慌てて両手を上げる。

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