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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫は保管庫に潜入する1

「ヘラ、調べ物がしたいわ。事件の証拠品を保管する倉庫に忍び込むわよ」

「なっ! なぜ姫様が軍の保管庫に!? お考え直しください!」


 突然ヘラが前のめりになって声を上げた。

 驚いているような、焦っているような、あるいは困惑? そんな複雑な表情だ。


「犯人がランディ兄様に贈ったクッキーの実物が見たいの。作戦には絶対に必要だから」

「でしたら、きちんと許可をお取りになればよろしいではないですか」


 ヘラの言葉は正論だ。だが、真っ向勝負は愚策すぎる。私はまだ十二の小娘なのだ。

 ヘラだってわかっているでしょうに、なんとしても私を止めたいみたい。もっとも、諦める気などみじんもないけれど。


「私が申請して許可が下りると思う? 権力に頼ったとしても、間違いなく『我々に任せなさい』と言われて終わるわよ」


 ウィル兄様はおろか、私に甘いお父様にお願いしたとしても結果は同じだろう。軽くあしらわれて終わる未来は想像に難くない。


「なら、陛下方にご一任なさればよろしいのです。必要でしたら我々が手となり動きますので」

「いやよ。これは私がやらなければだめ。引くつもりはないわ」


 私の不手際でランディ兄様が倒れた。その償いは、自身の手でやると決めている。

 もちろんすべては担えない。それでも、私ができることは率先してやるつもりだ。

 そう告げると、ヘラが大きなため息をついた。


「では私がご一緒いたします。必ずお護りいたしますので、何かあったら迷わずお逃げください」

「だめよ。あなたは連れていかない。誰かが尋ねてきた時に筆頭侍女のあなたが対応するの。『姫様はお部屋でお休みなっておられます』、とね」

「……私が残って隠蔽したとしても、すぐに気づかれますよ」

「かまわないわ。実物が見られるのならお父様たちに知られてもいい。私は本気よ?」


 お小言を言われようが謹慎されようが私は諦めない。

 そんな私の覚悟が伝わったのか、たっぷり間を置いたあと、ヘラが「かしこまりました」とつぶやいた。

 あまりにも小さなその声は、ヘラが本当に仕方なく承諾したのだとわかるものだった。


「私がここに残るのであれば、フィスをお連れください」

「そうね。フィスもいいけれど、レミにするわ。彼女の腕もすごいと思うの。レミ、レミ!」


 レミは、複数いる私の侍女の一人だ。少し前に暗部の者だと判明している。


 レミの名を呼ぶと、少ししてレミがやってきた。急いできたようで、少し髪が乱れている。


「姫様の前ですよ。身だしなみを整えなさい」


 見かねたヘラに注意されて、レミがぺろりと舌を出す。言うまでもなく説教が延びた。

 ヘラのお小言が下火になった頃合いを見て、レミに話しかける。


「レミ、これから軍の証拠品保管庫に入るわ。サポートをお願い」

「え? 殿下が行かれるのですか?」

「ええ。私が実物を見ないといけないの。ああ、別に盗もうとしているわけではないから安心して」

「承知いたしました。では以後、エーレとお呼びいたします」


 とたんにレミが真顔になって綺麗な姿勢でお辞儀をする。

 まるで別人だ。暗部の仕事の方が彼女の性に合っているのかもしれない。まあ、周囲が妥協を許さなかっただけかもしれないけれど。


「よろしくね。さて。そうと決まったらさっそく準備よ。ヘラ、服を持ってきて」


 まさかドレスで忍び込むわけにもいかない。いつ機会が訪れてもいいように、暗部用の服を用意していた。

 子供の私に合わせて作った服で、隠密に事が運べるように黒無地かつ簡素な作りとなっている。


 ヘラが一礼して部屋を去ると、少しして衣装一式を持って戻ってきた。

 ゆったりしたその服に袖を通し、投げナイフなどの武器を隠し持つ。

 武器をすべて服に収めたら、ローブを羽織る。

 ボタンを留めてフードを被り、最後に仮面を手に取った。少し前に注文した特製の仮面だ。


「ほんと、可愛くできたわよね。私にぴったりの仮面だわ!」


 思い描いていたとおりの仮面に、にんまりとする。

 このまま延々と眺めていたい気分だが、保管庫には明るいうちに忍び込まないと意味がない。

 すぐに仮面をつけて、面脇にあるリボンでしっかりとフードに固定させる。これでフードが外れることも、仮面がずれることもない。


「エーレ、ハンカチは持ちましたか? おやつも大事ですよ」


 最終確認する中、レミが私のローブのポケットに飴を突っ込んできた。

 ヘラが何も言わないので戸惑いながら礼を言う。


「静かな場所ではお腹の音一つでも命取りになりますからね。ただし、甘い匂いを漂わせるのも考え物ですよ。食べる場所は考慮してくださいね」

「わかったわ。ヘラ、廊下で待機しているメイナードに説明してきてちょうだい。きっと反対するでしょうけれど、私は引かないわよ」

「かしこまりました。姫様のご意思も含めて説明してまいります。力不足の際はどうかご助力を賜りたく」

「いいわ。よろしくね」


 一例をして部屋を出るヘラ見ながら、いったんソファーに腰を下ろす。

 しばらくしてヘラがメイナードを伴って戻ってきた。


「姫様、やはり無理でした。どうかご説明をお願いいたします」

「姫様、私は反対です。一国の姫君がなぜそのような危険なまねをなさるのです」


 部屋に入るやいなや、メイナードが眉間に深い皺を寄せて言う。

 メイナードの性格上、こうなると思っていた。当然答えも考えている。


「私が実際に目にしなければならないからよ。別に物を盗もうとしているわけではないわ。ちゃんと『気配隠し』を使うから安心して」

「しかしあの技は完璧ではありません」

「知っているわ。私はフィスほど気配を隠せていないもの。影が消えるわけでもないしね」

「あの、エーレはすでにフィス並みですよ?」

「え?」


 突然脇から口を挟まれ、驚いて顔を向ける。

 声の主はレミだ。彼女は、不思議そうに私を見ている。


「ご自身では実感しにくいと思いますが、ここ最近のエーレはきちんと『消えて』いますよ」

「そうなの? 知らなかったわ……」


 意外な事実を知らされて、少しだけ困惑する。

 フィスが気づかないくらい綺麗に姿を隠すから、私はまだまだだと思っていた。でも違うのね……。ならメイナードの言葉はどうして? ちらっとメイナードを見る。

 直後、私の視線にレミが気づいたらしく、口を開いた。


「マクシェーン殿はエーレを見続けているから、わからないのかもしれないですね」

「そこだけ聞くと、片想いの青年みたいね。で、説得力が減ったけれど、メイナードはどうする?」


 メイナードの目を見てにっこりと微笑む。

 メイナードは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「もちろん反対ですよ。今から陛下にご報告したいくらいには。ただ、その間に行かれてしまっては意味がないですからね。私も行きます」

「そう。あなたの意思はわかったわ。でも『気配隠し』ができなければ連れていかないわよ?」


 場所が場所なだけに堂々と行くのは難しい。最低でも『気配隠し』の習得が必須だ。

 そう告げれば、メイナードの顔がいっそう曇った。


「神経を使いすぎる自分が恨めしいです」


 メイナードは『気配隠し』を習得していない。毎夜特訓しているみたいだが、進展はないようだ。護衛騎士という職業が足を引っ張るとは意外だったわ。


「決まりね。保管庫に忍び込むのは私とレミ。ヘラたちはここで待っていてちょうだい」

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