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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫は独自に兄の事件を調べる2

「殿下、ただいま戻りました」


 声をかけられて静かに顔を向けると、ヘラの隣にフィスがいた。すぐに気持ちを立て直す。


「フィス、報告を」

「はい。男爵令嬢はお菓子作りが趣味で、事件の前日も男爵邸の厨房でクッキーを作っておりました。いつもは家族に振舞うようですが、この日は失敗したからと誰の目にも触れさせなかったようです」

「! それって……。でも、それも状況証拠でしかないわ。限りなく黒に近いのに手が出せない。ほかにはないの?」


 縋るようにフィスを見る。

 けれどフィスは軽く目を伏せて、ゆっくりと頭を振った。


「どれも証拠や証言になるようなものではございません」

「このまま泣き寝入りをしろと言うの? あんまりだわ」


 悔しくてならない。ランディ兄様があんなに苦しんでいるのに、男爵令嬢は証拠を隠滅して逃げおおせている。

 顔もわからないけれど、男爵令嬢のしたり顔を想像したら腹立たしくてならなかった。


 私の兄を傷つけておいて、一人のうのうとしているなんて許せない。彼女に一矢報いることはできないかしら。

 ふつふつとした怒りをなんとか抑え込み、あれこれと考えを巡らせる。


 そうして時間をたっぷり費やして、ある考えにたどりついた。


「そうだわ! 証拠がないなら自供させればいいのよ!」

「はい?」


 ヘラとフィスの声が重なる。

 この娘は何を言っているのか、と言わんばかりの表情だ。


「姫様、いったい何をなさるおつもりですか?」


 ヘラが頬を引きつらせながら尋ねてきたので、安心させるようににこりと笑いかける。


「言葉のとおりよ。軍が証拠不十分で犯人を検挙できないなら、私が検挙できるように令嬢から供述を引きだすわ。『目には目を、異常行動には異常行動を』!」

「き、危険ですのでおやめください!」


 フィスが慌てた様子で止めにきた。

 だが聞き入れる気はない。危険なのは百も承知。身の安全をしっかりと図ったうえで行動すればいい。


「心配してくれるのは嬉しいわ。でもやめるつもりはないわよ。あなたたちや護衛たちには頑張ってもらうけれど、私財から褒賞も出すから安心してね」

「褒賞などどうでもよいのです! 姫様は、御身が尊いことをご理解ください」

「尊い? 私は兄様や姉様たちに比べたら普通よ?」


 ヘラったら何を言い出すのかしら? と不思議に思いながら言うと、ヘラに「こんな普通はありません」と返された。

 おかしいわね。私は至って普通なのだけれど。


 それはともかく、自分よりも感情を露わにしているヘラたちを見ていたら、気持ちがわずかに落ち着いた。

 慌てているヘラたちをなだめて、話を続ける。


「まあ、とりあえず自分がやったことをやり返されたら、少しはやられた側の気持ちがわかるのではないかしら。そうねえ、その手の事件を取り扱ってきた騎士たちなら、犯人が取りそうな行動をいろいろと知っているかもしれないわね。ぜひ聞いてみましょう。やるなら相手の気持ちをくじくつもりで徹底的にやりましょう!」


 意気込んで右の拳を突き上げる。

 ヘラが「ああぁ……姫様がまたもや奇行に走られた……」と頭を抱えて嘆くが無視だ。説教の兆候が見られたら、『休みのはずのヘラがなぜ仕事をしているのか』とでも言えばいい。確実に話が逸れるはずだ。




 その後もしつこく引き止められたが、当初の考えを貫いた。

 今はヘラと護衛騎士を従えて訓練場に向かっている。

 ヘラには休むよう伝えたけれど、「今日はマクシェーン卿がいないので姫様のことが心配で」と引き下がらず、説得は諦めた。どうせ命令してもこっそりついてくるだろうから仕方がない。


 訓練場に着き、軽く辺りを見回す。いつもとは違って観客席に続く通路が封鎖されていた。

 そういえば、当面の間関係者以外立ち入り禁止になったのだったか。と、フィスの言葉を思い出す。

 差し入れも受け付けないらしく、どこにも部外者の姿は見当たらない。あえて言えば私たちくらいだ。


 この状態が続いたら、イライアスの姿を拝むのも難しくなる。

 接点もないから、一目見たいのならイライアスが通る場所で待ち構えるしかない。

 でもそんなはしたないまねができるはずもなく、改めて私たちの距離の遠さを思い知った。

 会えないと思うと、よけいに会いたくなるから本当に困る。


 ひそかに落ち込んでいると、一人の騎士がこちらにやってきた。彼が私たちの対応をしてくれるらしい。

 先触れの際にあらかじめ用件を伝えておいたため、煩わしい手続きはいっさいなかった。


 副騎士隊長だと言う騎士に連れられて別室に行き、彼の話を聞く。

 話が一区切りしたところで、知りたいことを騎士に尋ねていく。

 あまりにも私がぐいぐい質問したせいで、最後の方は騎士がたじたじになっていた。まあ、おかげで私は有益な情報を仕入れることができたけれどもね。


 部屋に戻り、騎士からの情報を参考に策を練る。

 最初は運要素が強いため、綿密な計画でなくていい。だが場所は絶対に城下でなくてはならない。

 私が城下に行くにはお父様の許可が必要だ。まだまだ仕事をする気のヘラを捕まえて、頼みごとをする。


「ヘラ。お父様にお話があるの。手紙をしたためるから渡してきてちょうだい」

「かしこまりました」


 手紙を書いて渡すと、ヘラが部屋を出ていった。

 戻ってくるまで三十分くらいの余裕がある。その間に、別の計画を立てることにした。

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