見劣り姫は次兄の心配をする1
先日の恋話以降、ヘラがあまり話を聞いてくれなくなったので、気晴らしに訓練場にやってきた。
今日は聞き込みをお休みして、イライアスの勇姿を堪能する予定だ。
服装も、動きやすいワンピースではなく、王女らしいものにした。
ただし髪型はいつもと同じ。両サイドの高い位置で結んでもらい、毛先をくるりと巻いてもらっている。いわゆるツインテールというものだ。お母様譲りのふわふわとした髪が顔の両脇で存在感を出しているが、不思議と私には合っている。
「あら? お姿が見えないわ。この時間は訓練場にいるはずなのだけれど……私の調べ方が甘かったのかしら」
高い場所にある観客席からイライアスの姿を探す。だがイライアスの姿は見当たらない。どうしたというのだろうか。
「いえ、十分なくらいです」
すかさずヘラが口を挟んできた。
イライアスのルーティンを軽く調べただけなので、爪が甘かったかと思ったが、そうでもないようだ。
「ならどうしていないのかしら。ちょっと探ってみるわね」
情報収集は忍ぶことが多いため、ドレスはちょっと邪魔だが仕方がない。
人に触れないよう注意を払い、情報を収集する。
その結果、イライアスはお父様に呼ばれていたことがわかった。
イライアスがいないならこのまま帰ろうか。そんな考えが頭を過る。
でもすぐに『あと少ししたら帰ってくるかもしれない』と思い直し、観客席で待ってみることにした。
観客席に戻る道すがら、訓練場に向かう兄の後ろ姿が目に入った。
短めのハニーブロンドにしっかりとした体格。
間違いない。次兄ランドルフ――ランディ兄様だ。
ランディ兄様は騎士のため、訓練場で鍛錬をするのだろう。
兄の姿を見て嬉しくなり、声をかけようと口を開く。だが。
「ラ……」
私が声をかけるよりも早く、ランディ兄様が一瞬だけこちらを見た。けれど私の存在に気づかなかったようで、すぐに前を向く。
その様子と表情に違和感を抱いた。
……どこか元気がない?
いつもはつらつとしているランディ兄様が、今日はなんとなく静かに見える。
何かがおかしい。
このまま放っておいてはだめな気がして、淑女として見苦しくない程度の速度であとを追う。
「ランディ兄様」
距離が縮まったところでそっと声をかける。
私の声が聞こえたのか、ランディ兄様が護衛とともに立ち止まり、ゆっくりとこちらに振り返った。
「……リア? こんなところでどうしたんだ?」
やっぱりそうだわ。いつも兄様から感じる力強さが、今日はみじんも感じられない。私を見る青い瞳も、どこか弱々しい。
いったい何があったのだろう。
疑問でいっぱいだが、とりあえず笑みを浮かべて質問に答える。
「見学に参りましたの。そうしたらランディ兄様を見つけて、嬉しくなって声をかけたのですわ。ランディ兄様はこれから鍛錬をなさいますの?」
「ああ。少し、体を動かしに来た」
「そうでしたのね。でも、どこかお加減が悪いのではないですか? 休んでいた方がよいのでは?」
「え?」
私の言葉が意外だったのか、ランディ兄様は目を見開いた。
「そ、んなことはないぞ? 体は至って好調だ」
声を上ずらせたランディ兄様が両手をぎゅっと握り、肩のあたりまで持ち上げる。
元気アピールをしているのだろうけれど、ちょっと無理がある。
「『体は』? 心は違うのですか?」
「いやいやいやいや、たんなる言い間違いだ!」
ますます怪しい。
ランディ兄様の慌てぶりは『疑ってください』と言っているようなもの。本人は否定していたが、精神的な面で負担があるのだと思う。話してもらえればいいのだけれど……。
ちらっとランディお兄様を窺う。直後に目が合い、すっと逸らされた。……これは無理ね。
ランディ兄様は嘘が苦手だし、言動はあけすけだ。物事はだいたい『ま、いっか』と軽く流す。
でも、れっきとした王子なので、秘匿する時は徹底的に秘匿する。
とはいえ、些細な悩みだったら包み隠さず私に話してくれたはず。
でもランディ兄様はごまかした。兄様が抱えているのは、かなり深刻な悩みとみて間違いない。
追及することも考えたけれど、先ほどの態度を見る限り無理そうだ。
違う角度から探ればいいと方針を変え、この場はランディ兄様のごまかしに追従することにした。
「まあ、そうなのですか? ならよいのですけれど……」
「心配かけて悪かったな。それじゃ俺は行くから、リアは護衛たちの言うことを聞いていい子にしているんだぞ?」
「ランディ兄様。あまりわたくしを子供扱いしないでください。わたくしももう十二です」
「あれ? そうだった? ごめん、ごめん」
ランディ兄様が私の頭に手を載せてぐりぐりと撫でてくる。まったくわかっていない。
「もう、兄様!」
「はは。それじゃな、リア!」
「兄様、頑張ってくださいね」
「ああ……」
ランディ兄様はくるりと向きを変えると、護衛とともに去っていった。
持っていた扇子で口元を隠すと、小さくなる兄様の後ろ姿を見ながら、自身の護衛に尋ねる。
「メイナード。あなたから見て、ランディ兄様の様子は普通だった?」
「いいえ。ランドルフ殿下はお心を煩わされているように思いました」
「そう、ありがとう。ヘラ」
「はい、姫様」
やはり正面を向いたまま、侍女のヘラに声をかける。
「兄様の悩みはかなり深刻なものだと思うの。だとしたら、私一人でこの件を調べあげるのは難しいわ。悔しいけれど、あなたたちの手を借りたいの。王子の一大事であれば問題ないわよね?」
「その理由でしたら動けます。なんなりとお申し付けください」
「ではフィスに連絡して、兄様のお心を煩わせる原因を調べてきてちょうだい。確実に、できるだけ早く」
「かしこまりました。第二王子殿下の周りを調べるとなりますと、殿下のお側に控える者に気づかれるおそれがございます。いかがなさいますか?」
ヘラの話を聞いて考えたのは一瞬。即座に返答する。
「知られてもかまわないわ。訊かれたら私の指示だと言いなさい。ただ、何もないに越したことはないから、できるだけ見つからないようにして」
「そのように申し付けておきます。私はお側を離れますが、くれぐれもマクシェーン卿から離れませんよう」
言うやいなや、ヘラが姿を消した。
あまり間を置かずにきびすを返す。
「部屋に戻ります」
「お待ちにならないのですか?」
「ええ。ランディ兄様が心配で見学に集中できないもの」
イライアスを一目見たい気持ちはあるけれど、兄様を心配しながら見たくはない。
メイナードを従えて部屋に戻る。この日はそのままおとなしく過ごした。
【お知らせ】
投稿から1週間が経ちました。
だいぶ急ぎ足で投稿してしまったので、これから一日一回の更新にしたいと思います。
それとは別件ですが、第一話を改稿いたします。
ストーリーに変更はございません。ご安心ください。
変更しましたらあとがきにてお知らせいたします。
どうぞよろしくお願いいたします!




