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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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葛藤【イライアス】

 誰かの足音が聞こえ、我に返る。

 人の気配に気づかないくらいには思い耽っていたようだ。ゆっくりだった歩調を元に戻す。


 あれから十年が経った。

 今もなお、私は殿下の護衛騎士になるべく剣の腕を磨いている。

 あの日以来王女殿下には会えていなかったから、先日訓練場に訪れた殿下を見て、夢かと思った。

 愛らしさはそのままに、成長した姿を見られて、思わず笑みがこぼれたくらいだ。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、少しも行かないうちにある人物が目の前に現れた。


「話は終わったかい?」


 金色に輝く短めのまっすぐな髪は、右側の手前だけ三つ編みにしている。

 碧眼と称される青い瞳は、あのお方や陛下と同じ色。

 見紛うことなく王族で、見知った顔だ。すぐに頭を下げる。


「これは王太子殿下。陛下のお話でしたら、先ほど終わりました」

「そっか。婚約の話をされたかい? ああ、気にしなくていいよ。人払いはしてあるから」


 一瞬身構えたが、王太子殿下の言葉で緊張を解く。

 先ほどお会いした陛下と同じ口調のせいで、嫌でも上の立場だと思い知らされる。

 だが、彼は私の友人だ。安心していい。……たぶん。


「はい。ご存じだったのですね」

「うん。なんとなくね。それで? 君は話を受けたの?」

「もちろんです。第三王女殿下専属の筆頭護衛騎士になれる唯一の方法ですから。ただ、双方のために条件は付け足させていただきましたが」

「ふぅん? 筆頭のためだけかい?」

「と、おっしゃいますと?」


 わけがわからず首を傾げる。


「十年だよ? 子供の頃に夢を抱いて頑張ってきたのはわかるが、普通は途中で『なんでそこまで必死なのか』と思うだろう?」

「思いませんよ? それに、誰だって夢のために努力するものでは?」

「普通は現実に直面して夢半ばで諦めるんだよ。だが君はまったく諦める様子がない。それどころか最短で夢を叶えようと暴走する始末」


 言いながら王太子殿下は額に片手を当てて、大袈裟に首を横に振る。まるで私が問題児だと言わんばかりの反応ではないか。失礼だな。

 そうは思っても、口には出さずに王太子殿下を見続ける。王太子殿下は、再び口を開いた。


「先日だって、君を排除したいと衛士たちがあれこれと画策したらしいじゃないか。それを跳ね除けて優勝するとか、ほんと怖すぎるわ。ああ、画策したやつらは僻地に飛ばされたから安心していい」


 言われて思い返してみる。確かに先日、私に手合いを申し込んできた衛士たちの様子がおかしかった。

 最後はどこからかナイフを投げ入れられて話がうやむやになったが、あれがそうだったのかもしれない。


 ……そういえばあの時、グロリアーナ殿下がいらした気がするのだが。


 手合いを申し込まれる直前のこと。ふと観客席を見上げたら、ワンピース姿の第三王女殿下がメイナード殿たちとともに端の席にいた。

 しかし、ナイフが投げ込まれたあと、観客席を見た時にはすでに殿下の姿はなかった。

 あれは見間違いだったのか。それともメイナード殿がナイフを? いや、まさか……。


 一つの可能性を消去していると、王太子殿下が私の顔を見てにやりと笑った。


「さっきの話に戻るけど、君はあえて現実から目を逸らしているのかな? それとも、本当に気づいていない? 狙っているのは筆頭護衛の座だけじゃないでしょ?」

「はい? 私はただ第三王女殿下の専属筆頭護衛騎士になりたいだけですが、なぜそのようにお思いに?」

「だってねえ、二十二歳(その歳)になってもまだ妹の護衛に就きたいとか、相当だよ? そこまで一途なの、もう恋でしょ? さすが公爵家だよね。一途すぎて笑っちゃうよ」

「…………え? は?」


 私の中で、人生二度目の激しい衝撃が走る。

 もしかして私は殿下に執着している?


 確かに、第三王女殿下の護衛騎士になりたいと、十年もの間脇目も振らずに頑張ってきた。

 王太子殿下の言葉を借りればそれも相当なことだが、公爵家の気質を考えれば何もおかしなことはない。


 なにせレイリー公爵家の人間は一途な者が多い。

 兄は領地を治めることに一途だし、父と祖父は母と祖母に一途だ。

 自分も第三王女殿下をお護りしたいと強く願った。周囲も殿下をお護りすることに一途だと言っていた。だから、自分は何に対して一途なのか、疑いもしなかった。

 だが、王太子殿下は私の一途さを恋だと言う。たちまちわからなくなった。


 そもそも、今の私は第三王女殿下をどう思っているのか。

 ここ最近、何度も目にした王女殿下に、妹のような可愛らしさを感じていたのは認める。微笑ましいとも。

 とはいえ、恋愛感情はいっさいなかった。自分ではそう思っている。

 もし仮にあったとしても、せいぜい庇護欲だけだ。

 だがこの感情が庇護欲ならば、王太子殿下の言葉に『恋ではない』と即答したはず。それなのに、自分は今も否定していない。それはなぜだ?


 考えるけれどわからない。

 ただ、代わりに気づいたことがある。


 私は最近、頻繁に王女殿下に近づくための言動をとっているのだ。

 しかも気づいたら近づいていた、というのが恐ろしい。


 一つ挙げるなら先日の御前試合だ。

 優勝時、王族に挨拶に伺う行為は百歩譲ってありえなくはない。

 しかし、今まで接点がほぼなかった第三王女殿下に話しかける必要はなかったはずだ。


 護衛に就きたいから声をかけた? それは一理ある。

 だが、自分はこうも思っていないか? 自分が最初に王女殿下を見つけたのだと誇示したい。私だけが王女殿下をお護りたいし、殿下も私にだけ護られてほしい、と。

 だから、王女殿下が扇子を閉じて笑みを浮かべられた時、煩わしいことが起きないよう殿下を隠した。そのつもりだ。

 間違っても疚しい感情はない。そう思いたいのに、洗脳するかのように王太子殿下の言葉が頭にこだまする。

 もしかして、本当に恋なのだろうか? いや、違う。違うと思いたい……。十歳も年下の少女に恋など、ありていに言って、ただの変態ではないか。


 第三王女殿下をあらゆるものからお護りしたい。その思いに嘘はない。

 繰り返すが、そのために私は剣技を磨いてきたのだ。

 その夢がもうすぐ叶い、私は第三王女殿下と婚約する。

 陛下に言い包められたのもある。だが、本当に倫理的に問題なら、婚約の話をされた時にもっと強く陛下に断りを入れていたはずだ。

 だが、自分は軽く断っただけで結局は受け入れている。

 それはつまり、遠からず王女殿下を想っているからではないだろうか? 


 …………変態だ。


 あれこれ考えた結果、激しく項垂れた。


「百面相しているところ悪いが、そろそろ移動しようか」

「……護衛を連れていらっしゃらないようなので、お部屋までお供いたします」

「うん、そうしてくれるとありがたい。まあ、あれだ。おおいに悩むといい」


 王太子殿下の言葉どおり、私は長い間倫理観と執着の狭間で悩み、苦しんだ。

 のちに、あの言葉は呪詛だったのでは? と、思ったのは言うまでもない。

【お知らせ】

以前お知らせしましたが、本日タイトルに副題をつけました。

副題は、

~好きな人のために暗器を習得しましたが、『有効に』活用しますのでどうぞご安心を~

です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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