表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/48

守るべき存在【イライアス】

 執務室の前の廊下を、訓練場に向かって黙々と歩く。

 自分の足音だけが響く静かな廊下のせいで、ついあれこれと考えてしまう。


 ……まさか私と殿下が婚約とは。


 降って湧いたような事態に苦笑する。

 自分と殿下とでは年がかなり離れているから、婚約話を持ちかけられるとは露ほども思わなかった。


 そこまで考えて、あの日の出来事を思い出す。

 自分が殿下の護衛になりたいと願った日のことだ。

 今から十二年ほど前で、殿下が生まれてすぐだったと記憶している。


 あの日は確か家庭教師が急用で来られなくなり、授業がなくなった。

 兄は勉強で忙しく、弟は祖母と買い物で留守。

 暇を持て余した私は、母に連れられて急遽王城に上がった。

 母と王妃殿下は友人の関係であり、その日は出産後に体調を崩されていた王妃殿下へのお見舞いだった。






「よいこと、イライアス。王城では静かにね。生まれたばかりの王女殿下もいらっしゃると思うから、大声を上げたりしてはだめよ」

「はい、母上」


 王妃殿下の侍女に案内された、光がほどよく射し込むサロン。

 部屋の中央にあるソファーに座り、隣に座った母の注意を聞く。

 すると突然くすくすと笑い声が聞こえ、一人の女性が侍女らしき人とともにやってきた。

 とても華やかな人だ。きっちりと結い上げたハニーブロンドに、黄緑色の瞳が綺麗で、我々に微笑みかける姿が美しい。

 たぶんこの方が王妃殿下だ。と、当たりをつける。


 私の予想は当たり、母が立ち上がったのを見て、私もその場に立った。


「妃殿下、ごきげん麗しゅうございます。このたびは、ご出産おめでとうございます。お体の方はいかがですか?」

「ありがとう。もうすっかり体調がいいの。そろそろ公務に復帰するつもりよ。それよりキャシー。わたくしのことをもうイヴとは呼んでくれないの?」

「息子の前ですもの。初めが肝心と言うでしょう? あなたが望んでくださる限り、イヴと呼ばせていただきますわよ」

「あら、そうね。ご子息がいるのですものね」


 そこまで言うと、王妃殿下が私の顔を見てにこりと微笑んだ。直後、母が私の背中にそっと手を添える。挨拶をしろということだろう。


「お初にお目にかかります。レイリー公爵が二男、イライアス・レイリーでございます。王妃殿下にお会いでき、嬉しく存じます」


 自分も十歳だ。貴族の挨拶は弁えている。

 失礼にならないよう細心の注意を払って挨拶をすれば、王妃殿下の笑みが深まった。


「立派な挨拶をありがとう。あなたはうちの一番上の息子と同い年だったわね。あの子の予定がつかなくて今日は無理だけれど、今度紹介するわね。仲良くしてくれると嬉しいわ」

「はい。第一王子殿下にお会いできるのを心待ちにしております」

「ありがとう。さあ、座ってちょうだい。今日はあの子の代わりに末の娘を紹介するわ」


 王妃殿下が入り口の辺りに控えていた侍女に目くばせをする。すると侍女が、何かを抱いてこちらにやってきた。

 そのまま侍女が王妃殿下に抱いていたものを渡す。重量感があるようで、落とさないようにとそっと受け渡しされていた。


 座りながら王妃殿下の腕に抱かれているものを見る。

 赤ちゃんだ。弟が生まれた時のことは覚えていないから、記憶がある中では初めて見た。

 王妃殿下とは違い、空とも海とも言えない、透き通る青い瞳が私の目を釘づけにする。

 なんて綺麗なのだろう。吸い込まれそうな美しさに、目を逸らすことができない。


 その間にも母たちの会話は続けられている。


「まあ。なんて可愛らしい。うちはみな男子だから羨ましいわ。夫に頼んでみようかしら。イヴは次も望むの?」

「この子で最後にするつもりよ。生まれた子の世話を任せて回復に回せたから、十年で五人も意外といけたのだけれど、さすがに今回はこたえたわ」

「十年で五人はほんとうにすごいわよね……あら? 王女殿下はもう首が座っておられるのね。四か月でいらしたかしら」

「ええ。最近ようやく首が座るようになったのよ。抱いてみる?」

「よろしいのですか? ぜひお願いします」


 王妃殿下が母のところに来て、赤ちゃんを母に託す。

 赤ちゃんは泣きもせずに母のことを見上げていた。


「ああ、本当に可愛いわ。イライアス、グロリアーナ第三王女殿下よ」


 母が私にも見えるよう姿勢を変える。

 綺麗な金色の髪だ。ちょっと癖があるようで、ふわふわとしている。

 肌は白くてぷくぷくで、つい触ってみたくなる。


 ちらっと王妃殿下に目を向けると、王妃殿下がゆっくりとうなずいた。触れてもいいらしい。

 おずおずと手を伸ばし、そっと赤ちゃんの頬をつつく。

 思ったよりも柔らかい。ふにっとした心地よい感触に自然と笑みが浮かぶ。


 本当にちっちゃいな。そう思っていると、赤ちゃんが弟よりも小さな手でぎゅっと私の人差し指を握ってきた。

 突然のことに驚きつつ、赤ちゃんを刺激しないよう静かに手を引く。

 だがそのゆっくりとした動きが悪かったのか、今度は袖口を握られてしまった。


 どうしたものかと途方に暮れ、袖口から赤ちゃんの顔に視線を向ける。

 赤ちゃんも私を見ていたようで、目が合った。

 その瞬間、赤ちゃんは何を思ったのか、ケラケラと笑いだした。


「!」

「あら。『あやされた』と思われたのかしら。殿下はイライアスをお気に召されたのね」

「そうね。まるで本当の兄弟みたいだわ」


 母たちが笑いながら話をしている。けれど私は無言で赤ちゃんを見続けた。

 衝撃を受けたのだ。弟はもちろん可愛い。でもそれ以上にこの子が可愛くて、護ってやりたいという衝動に駆られた。

 思いは次から次へと湧いてきて、止まることを知らない。今まで欠けていたものが隙間なく埋まったような、満たされた感じだった。


「母上……」

「どうしたの、イライアス?」

「私は、この子をどんなものからも護ってあげたいです。ずっと、ずっと……」


 赤ちゃんの目を見ながら言う。許される限りこの綺麗な青色を見ていたい。


「まあ、ここで?」

「さすがレイリーの血筋ね。この場合、何に一途なのかしら?」

「旦那様は私に一途で、あの時は『君と離れたくない』だったわ。だからこの子の場合は、『殿下をお護りすること』じゃないかしら」

「なら話しは早いわね」


 母の側にいた王妃殿下が、私の隣にやってくる。

 赤ちゃんから目を離して王妃殿下に体を向けると、王妃殿下は私の両手を軽く持ち上げた。とても真剣なお顔だ。


「よく聞いてちょうだい。この子にはね、もうすでに護衛がいるの。でも、ずっとではない。あなたがこの子を護りたいと言うのであれば、あなたも専属護衛騎士になりなさい」

「専属護衛騎士、ですか?」

「ええ、そう。一握りの騎士しかなれない、栄誉ある職業よ。でもあなたは、名声が欲しいわけではないのでしょう?」


 少し難しいが、王妃殿下の言葉の意味はなんとなくわかった。

 私はこの子を護りたいのであって、名声はいらない。

 こくんとうなずけば、王妃殿下が穏やかに微笑んだ。


「専属護衛騎士になるには、毎日とてもつらくて厳しい修練を重ねなければならないわ。その間、この子には会えなくなる。それでも大丈夫?」

「はい。この子を……殿下をお護りするために、私はたくさん勉強して剣の道を極めます。その間、ほかの人に殿下の護衛をお願いするのは、本当は嫌ですが、殿下をお護りできなければ意味がありません。だから諦めます。その代わり、少しでも早く殿下の専属護衛に就けるよう精進いたします」

「ええ。あなたがこの子の護衛騎士になるのを楽しみにしているわ。夫にも言っておくから頑張ってね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ