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女武官明蘭~龍の眠る国で~  作者: ヒトミ


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23/26

龍を隠すなら龍の中

後宮を出て飛龍宮に辿り着く頃には、ほとんど陽が落ちていた。


登りかけている月の光が、人気(ひとけ)のまばらな宮を照らしていた。


翔貴は誰に止められることなく、皇帝の私室へと歩みを進める。


けれど私室が近付くにつれ、足取りは重く、握り締めた拳には力が籠って行くようだった。


私室前には誰も控えていない。


無防備に見えて、その実、どこからのものか分からない視線の圧が向けられてくる。


文官でも武官でもない。大方(おおかた)、子飼いの影護衛だろう。


翔貴は姿勢を正し、ゆっくりと深呼吸した後、目前の扉を叩いた。


「……? 父上?」


しばらく待っても中からの反応が無く、翔貴は首を傾げた。


もう一度ノックしようとした時、部屋の内側に人の気配が移動し、ゆっくりと扉が開く。


影の者が開けてくれたらしい。


皇帝の私室に一歩踏み入れた時には、すでに人の気配は何処かへと移動した後だった。


室内は明るく、窓際にある机の上には飲みかけの梅茶と、描きかけの絵が置かれていた。


今の今まで、部屋の主はここに居たのだろう。


絵は半開きの窓からの風で、心許なさげに煽られていた。


翔貴は机に近寄り、絵が飛ばされないよう窓を閉めた。


その流れで、まじまじと絵を見詰める。


色の違う六匹の龍が描かれ、隅には文字が。


「……龍を隠すなら龍の中?」


父上は相変わらず絵が上手い。


文字の内容を呟きながらも、翔貴はその絵に魅入っていた。


「隠す……謎かけ?」


皇帝は翔貴によくこんな謎かけをしてくる。


字はまだ乾ききっていない。


部屋の主は、龍の中に隠れたようだ。


もしかしたら、逃げたのかもしれない。


翔貴は軽い衝撃を感じ、一時呆然とした後、部屋の奥の隠し通路へと歩き出した。


皇帝が居るであろう、龍の中、歴代皇帝の墓所に向かうために。


◆◆◆


有事には隠し通路を使って、皇帝は難を逃れる。


飛龍宮から皇帝墓、そこから更に人気の無い山奥や、逆に近くの村へと行くことができる。


松明(たいまつ)を持って暗い通路を進む。


枝別れしている道の壁には、神話を題材にした謎かけが描かれている。


翔貴はそんな道を迷い無く進み、皇帝墓まで辿り着いた。


広い洞窟には、多くの墓石とその奥に小さな泉がある。


泉から流れる川が墓石の周りを囲うように、洞窟の外へと二方向に流れている。


空を見上げると、洞窟の隙間から夜空が見え、月の光が射し込んできていた。


翔貴は松明の火を消して、通路と洞窟の狭間の壁に立て掛けた。


洞窟に向き直ると、墓石の中で一番真新しい、先代皇帝墓の手前に、皇帝が静かに立ってこちらを見つめているのが目に映った。


途端に一つ心臓が跳ねたが、深呼吸して両手を握り締め、皇帝の方へ一歩ずつ歩みを進めた。


彼の目前で立ち止まり、視線を合わせると、歳を感じさせない口許がゆっくりと開かれる。


「……息子と語らうのに、回りくどいと思ったかい?」

「ええ。てっきり、何もかも捨てて、逃げたのかと……」


本当にこの人は何を考えているのか分からない。


誰にも聞かれたくないなら、もっと分かりやすい伝達をしてくれ。


内心苛立ちながら、言葉を紡いで目を見開く。


「……父上。知っていて、動かなかったんですか?」


辺りに静寂が満ちる。川のせせらぎだけが、洞窟内に木霊している。


皇帝の澄んだ目に、一瞬の陰が揺らぐ。


「……緑の若龍……水龍の姫……。太陽に絡まった梅。……すべて、梅の陰謀だったのだろうか……」


唐突な謎かけに、翔貴はギリっと奥歯を噛み締めた。


「自身の中に籠るの、辞めて頂きたい!」


皇帝の目から陰が抜けた。


「分からないか? 私が動けば梅が動く」


梅……その名を持つのは。


「お祖母様」


柴一族が動く。だが、すでに彼らは翔貴に牙を向けている。


父の様子を窺うと、彼の口角が薄らと上がった。


「……とうに覚悟はできています」


翔貴は父の目を真っ直ぐに見て、低い声で言葉を紡いだ。


すると彼はスっと表情を消し、翔貴から視線を逸らして俯いた。


「幼龍が巣立つのは、瞬く間か……明日の朝議(ちょうぎ)で処断する。守りたい者は自身の手で守り抜きなさい」


翔貴は詰めていた息をゆっくりと吐き出した。


肩の力が抜けそうになるが、空を見上げて気を引き締める。


龍の形をした月の陰影。勝負は明日(あす)、朝議の場だ。

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