徒に徒を拾いて獣道 その3
下手瞑想は魔力の循環、恐らく自分の魔力で血液を一時的に凝固・放出する攻撃だった。その後の魔力回収とも言うべき回復行動は魔力なら何でも吸収できるんだろうか。魔法使い涙目だな。恐らくだが防御貫通、いや魔力への貫通なのかも? プロテクションもランパートも穴が開いてたしな。
血液での枝分かれする刺突攻撃はまず破壊可能かどうか、破壊した場合にどうなるかが知りたいな。後は魔力以外の物質を吸収するか、だな。うん。俺に突き刺さったけど死んだから参考にならない。
1個妙案が浮かんでいるけど、これは手札確認仕切ってからじゃないと勿体ないかな。人型のようでモンスターそのものな攻撃をされたわけだし、もう少し情報が欲しい。攻略サイトとかない?
「さー、ないっさー」
「それ自分で言うものじゃないから」
「あ、そうなの? まぁいいや。行くよー」
「来いやー!」
現在体育の授業中、ゲームの攻略は思考の片隅に置いておく。
相手コート、レシーブに備える片平くんを狙ってエクアドルD.Dを再現、さぁ食らうがいい!
「おらぁ!!」
バァン!
「っしゃー!」
「よっ」 「ほい」
片平くんがレシーブ、上に上げただけだがすぐに後ろに下がってチームメイトに場所を譲る。たどたどしくも二人のレシーブによって返ってきたボールをこちらも返していく。俺はすぐに助走を開始する。
「っと」
「うん、いい感じ」
相馬くんの上げたトス、ボール目掛けて
「オラァ!!」
ドバンッ!!
「怖っ!!」
「当たったら痛いだろあれ!」
「そういう作戦なんだからいいんだってば」
恨み節と怨嗟の目を向けるチームメイトに軽く謝罪していると相馬くんが話しかけてきた。
「それにしてもよくこんな作戦考えたね。リベロとセッターがいるうちだからこそ出来る作戦だけど、確かに効果がありそうだ」
反対のコートにいた片平くんがネットの網目を掴みながらこっちを睨む。ネットの網目を握りたくなるのってなんなんだろうね。皆共感してくれるよね?
「っつっても希望論じゃねーか? 上手く行けばそりゃ、棚橋の負担は減るだろうけど」
「まぁ、高い守備力があれば負けないのがバレーだから。それは侑斗が一番分かってるでしょ」
「そりゃあそうだけどよ」
俺の作戦というのは、俺が殴り他が守る、簡単に言えば分業作戦だ。決してレシーブから逃げたわけではない。分業、適材適所、いい言葉だね!
「エクアドルD.Dは連発出来ない、なら誰に使うかって言ったらレシーブが出来ない相手じゃない。レシーブが出来る奴、運動神経が良かったり、バレーボール経験者をあえて狙う。
そんな奴が取れないサーブってなったら誰だってビビる。ビビった奴はこっち来るなって思考になるでしょ。そんな奴は普通のサーブで充分怖いだろうし禄にレシーブ出来ない。本来なら叱責したり励ましたり出来るだろうチームメイトがいたとしても、アイツが取れないのに俺なんかじゃ無理だって空気にしちゃえば取り敢えず沈黙するってわけ」
「鬼か」
「悪魔だろ」
「こいつホントに嫌がらせ止めようとしている側の人間か?」
「発想がスポーツマンじゃなくて軍師なんだよね」
「十字架!!」
「なんでドラキュラチョイスやねん」
腕をピンと横に伸ばして宣った鳥栖くんにツッコむ。彼は結構無口なのだが、何故かピンポイントでボケてくるタイプの人間だ。寡黙だが無愛想というわけではなくかなり表情に出すのでコミュニケーションは一方通行にならない特殊な男である。ちなみに将棋部。
まぁ性格が悪い作戦ではあるよね。ただリベロでレシーブの上手い片平くんがいてセッターの相馬くんがいればこっちのチームは攻撃に繋げられる可能性が高い。どうせほぼ素人で未経験なんだから攻める、策に嵌める、弱らせるほうが勝利の芽が出るというもの。
「にしても例のクラスも困惑してるな」
「ここにいるのはよりにもよって勝利宣言されたバレーボールの選手だしね。今の棚橋くんのサーブとスパイクを見て冷静になったんじゃない?」
ふむ。それはそれで困る・・・しかし、今は先生方も1箇所で一塊を見ているわけにもいかない自由練習の時間だ。体育は2クラス合同だからな。まーそうでもなきゃ嫌がらせや陰口をさきしーさんが目にすることも無かったのかもしれない。
件の3組、どうやらテニスを選んだらしい秋本某さんとサッカーを選択(さきしーさんが誘導した)した那智さんが絡むことは無い、と言いたい所だが、わざわざテニスコートから離れてグラウンドまで来て陰口に勤しんでいたということなのでその執念たるや恐ろしいものがある。
3人で来てたってことなので取り巻きもテニス選んだんだろうけど、残り1人が不憫でならない。確かテニスに選べるのって4人ですよね?
後で聞いたらうちのクラスと普通に練習してた。その子はあの3人が嫌いらしい。さもありなん。
「やや! なんだなんだ、だらけきっているじゃないか!」
ドドン! という効果音と共に登場したのは今回の要石こと杉山修作くんだ。え、その赤い鉢巻、私物?
「全く秋本くんたちといい、球技大会の練習という名目とはいえ今は授業の時間だ! しっかりと学び、しっかり体を動かしたまえ! 心身を鍛えるんだ!」
お、聞くまでもなくもう釘を刺してくれたようだ。ありがたい。
杉山くんは確か野球だったかな。バレーボール選択のクラスメイトに反論されているな。
「そういう杉山はなんでここにいるんだよ」
「野球のほうは一時休憩を取っている。千本ノックというのは難しいな! 流石に千本は20分では終わらなかった!! 三百本ノックくらいか!?」
「「「あぁ・・・」」」
シンプルにスパルタじゃないか。
「時間効率は悪いが、取ろうという意識、取って投げるという動作の練習にはうってつけなのでな! キャッチボールするだけよりも遥かに実践的だ! 最後の試合形式までは休みにした。なので俺は走るついでに各地を回っているわけだ!」
ただ熱いだけでなく本人がストイックだし、雑なようでしっかり効率重視な辺りが杉山くんの良いところだ。自分がいると休まらない、とかまで考えていることだろう。ちなみに学力も好成績だし先生方にも信頼されている。うーん、ハイスペック。まぁ同級生からは暑苦しいという評価が主なんだけども。
「恐らくだが棚橋くんの実力に勝てないと思ってしまったんだろう? なに、体育の授業が被っているクラス同士は初戦では当たらないようになっている。他のクラスに勝てばいいのだ。と、言いたいところだが・・・」
お、杉山くんが俺を見た。
「言うは易し、行うは難しだ。棚橋くんの実力を測りもせずクラスメイトに発破を掛けるのは忍びない。棚橋くん、一球でいいんだが、付き合ってくれないかい?」
「おー、良いよ。そういうことなら協力は惜しまないよ」
「ありがとう」
流れを見ていた相馬くんが俺に近付き、耳打ちする。
「いいの? 杉山くんのこれが上手く行っても行かなくても、面倒だと思うけど」
これ、というのは発破を掛ける発言のことだとは思うが、ぶっちゃけ問題はない。そもそも杉山くんを熱し続ければとりあえず周りも巻き込めるし、既にワンミッション(秋本某さんの妨害)をクリアしてくれたのが大きい。
それに一番良い結果は3組全体を球技大会に意欲的にさせることだ。
「杉山くんの言う通り、初戦で当たらないチームだから点数計算はほぼ無意味なんだよね、3組は。このままだとバレーチームの熱が冷めちゃいそうだし。杉山くんだけじゃなく、クラス全体を加熱しないといけないんだよ」
「杉山くんが失敗したら?」
「そこはほら、杉山くんだから」
運動神経も抜群だし、そもそもメンタル強者だ。それに静かに反対のコートに入って構えを取る杉山くんの目は、既に燃えている。敵意でも殺意でもない、至極純粋な戦意をこちらに向ける。
そんな男を相手にしておいて、手加減します本気出しませんなんてダサい真似が出来るかよ!
「さぁ・・・、よっ!」
前方に高いサーブトス、妥協の無い助走、勢いを殺さず、されど力強い踏み切りでジャンプする。ボール目掛けて腕を円を描くが如く思い切り振り抜く!
ズドッ!
良い手応え。センターで構えていた杉山くんからは少し逸れた軌道、ボールは猛烈な速度でコートに着弾するかに思えた、しかし、
「おおっ!?」
パァン!!
瞬時に動いてレシーブの構えに入った杉山くんの両腕がボールを捉えて、
トン、テンテンテン・・・
山なりに打ち上がったボールは緩やかに、けれどしっかりとネットを超えて。こちらのコートに落ちてきた。
「いやはや! 凄まじいサーブだな!!」
「「「「返せてるじゃねぇか!!」」」」
さもありなん。総ツッコミだった。
一発勝負で動きを鈍らせないメンタルの格の違いと一切ビビらない覚悟とあり得ないくらいの反射神経を見せつけた男はそのままクラスメイトを鼓舞して「時間だ! すまない!」と言って野球をしているグラウンドのほうに走って行った。
ポジション的にサーブレシーブをすることの多い現役リベロの片平くんがその後の練習で一番対抗意識を燃やしていたのが、ちょっと面白かった。




