縄のようなもの
アスランチュラの血液攻撃が回復行動も兼ねているとするならば。疲弊してきた証拠と言えるかもしれない。更に言えば、殴ってくるだけの時よりも明確な溜めがあった。すなわち妨害できる可能性があるということだ。
但し、あれが溜め時間のある通常攻撃行動だったら非常に厄介だ。3連続で放ってきたが、魔力吸収する度に威力を増して繰り返す、は勘弁だぞ。気軽に範囲攻撃するな。
トリガー行動だったらいいんだが・・・。頭への攻撃か、距離を取っていたからなのかが分からないな。あの凝固した血液針が魔力でできた壁を貫通するのは確定だが、物理的に破壊可能部位扱いなのかも気になるところだ。だって血を回収出来なかったら生物的には弱るよなぁ?
ログイン後、フラムにご飯を作る。竜宮洞から出て入口付近で調理開始だ。
竜宮洞は本来ドラゴンたちの棲家だったからか、こうして調理をしていても襲われることは無い。外に出るたび「安全エリアから外に出ました」と表示が出るので襲われる可能性はあるけどな。生態系を造るEECならではの、モンスターの生活域が設定されているんだろう。
「流石に食材アイテムが減ってきたな」
大量に肉をくれた猪将軍、返り討ちになってくれたフクロウが主な食材な訳だが、今回で終わりだ。イベントで大量にドロップしたオールドリバイアサンの肉はあの場のバーベキューでだいぶ減っていたのですぐ消えた。ナマズくんは食材落とさなかった。
野菜系は今現在生育中だ。イベントでゲットした種から育てているが小さな畑でちゃんと成長している。水だけでいいなんて楽でいいや。4日で1回収穫なのでその都度幾つかを種にして埋め直している。そもそも地産地消しかできない無人島なので収穫物の質は関係無いしな。
「よし、出来たよフラム。トルティーヤだよ」
「ふみゅ?」
「うん、待ってね。ケチャップが無いから煮詰めたトマトソースだからね。ベタベタになるからね、フォーク使おうね」
ピザのようにカットしたオムレツを掴もうとしたフラムを止める。最近は木製のフォークとスプーンを使わせている。手作りである。握れないけど装備はできるみたい。不思議だのう。
ちなみにトルティーヤはスパニッシュオムレツのこと、だっけかな。溶いた卵液に短冊切りにしたジャガイモとみじん切りした玉ねぎを入れて焼きました。うまく焼けたけど炭火(原初の威炎由来)でやるもんじゃねぇなー焦げるし。っていうか網を買わなかった俺はバカなのでは?
ついでに別皿でフクロウ肉のソテーを添えて。香蒜茸を刻んでトマトソースに加えたのでかなりマッチしている。うん、美味しい。
「よし、ちょっと行ってくる。留守番よろしく」
「みゃう!」
フラムと分かれて探すのは猩々たちだ。どうやら竜宮洞の近くに住んでいるようでちょくちょく顔を見せる。挨拶してくれるんだけど一応エネミーモンスターなんだよな。雑食のようで3体で自分よりも大きなフクロウを運んでいるのを見たことがある。火をくれって言われた(ジェスチャー)から恐らく焼いてるんだよな。でも森で焚き火の痕跡は見たことないから延焼の危険性を理解している可能性すらある。知性すごいなー。ただのエネミーか?
「あ、いた」
「フォフォ」
「こんばんは、バンダナ。大きくて強そうなモンスター知らない?」
「フォウ」
あっち? リアルタイムで場所分かるの? それプレイヤーも習得できる?
器用に指差しで教えてくれた猩々にお礼を言って別れる。彼らは俺が譲った装備品を身に着けている。これは特に効果のない服飾品で、前回のイベントでTシャツとかを買ったときにまとめ買いしたのが良かったのかおまけで色々付いていたんだよな。NPCからすれば大量購入がキーになる特殊行動の類だったんだろう。店頭にないデザインという可能性もあるが流行りとか分からない未開拓地だし人に見せることも無いから持て余してたんだよ。ってな経緯で猩々たちに譲ったものだ。
性別は謎だが今のところはバンダナ、スカーフ、マフラーの3匹をよく見かける。バンダナはパワータイプ、スカーフはスピードタイプ、マフラーはテクニックタイプな印象だ。1回だけ狩りの現場を見たが俺が倒したのよりも少し小振りなイノシシのタックルを受け止めたバンダナ、並走しながら足を狙い続けたスカーフ、落とし穴を即座に作って罠に嵌めたマフラー。見事な連携だった。絶対に俺より強い。
「さーて、アスランチュラが出るかそれともまだ見ぬ強敵か」
蛇が出るか鬼が出るか。アスランチュラに挑みたいところだけど現状あれ以上は難しい。隙を作る為にも練度を上げる必要がある。俺自身の習熟度というか計画性というか、隠し玉だけでなく奥の手と二の矢を用意したい。
一番の奥の手は【臥竜の一撃・改】だけどそもそも条件が・・・お?
「なんだ、あれ」
夜の暗闇の中、何かが動いた。よく見れば木々が何かに引っ掛かり、擦れるように揺れている。何も無い、見えない、音も無い。だがしかし確かに、何かがいる。巨大な何かが、動いている。
「調べて、いや、気付かれていないなら奇襲って手もあるが・・・」
どう考えてもデカい。そして気付かれていないというのが恐ろしい。俺の目の前に何があってどこを見ているのか、まったく分からない。気にせず動いているようだが、相手が二足歩行だったときは普通に殺されかねん。二足歩行は横に強いからな。四足と比べて。
昆虫型という可能性もあるもののゆっくり歩く虫ってあんまりいないんだよな。さすがに無いと思いたい。足音すらないのは虫っぽいが、ん?
「足跡、もないのか」
枝の擦れ方的に巨大なモンスターなのは確か。だが掻き分けるでもなく擦れるまま。巨大な質量が動いているにも関わらず足跡がない。そして近くにいる俺に気付いていない。
「恐らく、恐らくだけどこいつは・・・」
眼があった。
何も無い空間に眼だけが。浮いていた。
俺のすぐ横に爬虫類の・・・いやもう予想通りなんだが、ドッヂボールサイズの蛇の眼があった。
なるほど、何もいないのに揺れる木々は囮の役割があったのか。ぐるっと回って身体全体で囲んできたみたいだ。
「あー、会話できたりしますか?」
「シャー」
うーん、舌舐めずり。ダメそうですね。
すると巨大蛇は夜間迷彩(もっと上位のスキルかもしれないが)を解いてその白銀の鱗を見せる。そして全身の鱗がまるでハリネズミのように毛羽立ち、俺に迫った。
「うおおおおおおっ!?」
何、え、すりおろされるの!? ちょっと待ってうわ怖っ!? 【カウンター】!! 鱗1枚破壊できたけど止まらない!? あー死ぬ、多段ヒットは死ぬ、ヤバイ、
「いったたたたあたたたったたたった!?」
死因:すりおろ死
なんかこう、俺だけならともかく、周りの木々も巻き込んで切り刻まれたのをみるとすり下ろしっていうかミキサーだな。人間でスムージー作るな。蛇で酒造るぞ。
人類なら普通じゃん。怖いもの知らず過ぎるだろ人類・・・。




