陣を敷くなら背後に滝を
帰宅して飯を食い、風呂に入って宿題をした。つまり後は自由だ。ログインし、フラムにご飯を上げて卵たちを任せる。ちょくちょく暖めてくれてるんだけどこれって昆虫の卵にも効果あるのかな。
猩々たちに居場所を聞いて(言語通じるのは不思議だなぁ)いざ鎌倉。
さて。左手にビートラクス、右手にヤドリギを展開。奴の特性を鑑みるにこれが最適な近接装備だ。
「よぉ、アスランチュラ。会いたかったぜ」
脳と眼球はゼリーの中に閉じ込めているようだが人の耳は変わらず頭の側面に付いている。生きている聴覚への呼び掛けに異形と言えど俺のほうを見た。向いた、のほうが正しいんだろうか。
「巷じゃ幽霊相手にかくれんぼするイベントが始まったそうだが……残念ながら後回しだ」
面白そうなイベントだし、色々目論見があるが……俺はカッコ付けないといけないみたいだ。カッコつけるなら背水の陣、俺までモヤモヤ抱えてたら他人の悩みまで面倒見切れない。
いやー、盲点だった。後腐れなんてないと思ってた。たかがゲームのモンスターで唯一無二とはいえこの島にいるのが俺だけな以上、後回しにしていいと思っていたのは事実だ。
でも違った。
「俺なんかの話でも、他人様のモチベーションになるんでな」
俺の言葉を無視して突っ込んで来たアスランチュラに対し、俺は【土倶蛛の魅業】と【魔を識る眼】を発動、相手の四本の足と腕の挙動を見逃すことなく対応する。左上腕の掴みを右のヤドリギで跳ね上げるようにスラッシュ、右腕二本は触れると衝撃ごと受け止められてしまうから攻撃を当てないように攻めたほうがいい。掴みにきた右下腕を帯電したビートラクスでガード、痺れの効果はさすがに無効化しきれなかったらしく右下腕は止めることができた。
残っている左下腕の殴りつけを【ジャストカウンター】で防ぎ、反動を利用して一回転、アスランチュラの胴をヤドリギで斬り付ける。
【天駆ノ魅業】を使って空中バックステップで距離を取りながらビートラクスを発砲。向かってくる弾丸を奴はガードしようと右腕二本を構える。銃弾の速度に対処するのもあり得ないが、今の俺には見えている。銃弾は構えた腕を避けるように二度曲がって奴のゼリー状の顔面に着弾した。魔力を消費して弾道を変化させるビートラクスの固有能力だ。普通なら弾道すら追えない気がするが、【魔を識る眼】発動中ならイケるな。魔力消費が辛いから連発はできないが。
さぁどうした。もっと見せろお前の動きを。俺はお前を攻略する為にここに残ったんだからな。
「10日だ。イベント終了までの10日の間にお前を攻略する」
奇しくも球技大会の次の日がイベント最終日。随分ハードな日程になりそうだ。
「イベントでもなんでもない野良バトルだ、お前を語れるのは俺だけだ。
さぁ、自慢話のネタになってくれ」
人間を合成したとしか思えない奇天烈な化け物、生物としてあり得ない異形、間違いなく常軌を逸した科学者が造った被験者被害者的物語や出生があるんだろうがそんなことは知ったこっちゃねぇんだよ。
「Aaaaagaaaaaa!!」
手足過剰な人型だが既に言語は失っているのか本能的な怒りを滲ませた叫びを上げてアスランチュラが迫る。走って殴る、その動きは二足歩行の特権だが四足四腕でもできるんだな。だが威力を出す為の助走なら当然踏み込むんだよな?
「距離、歩幅、狙いは右二本の振り下ろし」
相手との距離、歩幅、速度、それを見極める。それを見切る眼があるなら意表を突くことは容易い。【トルクチェンジギア】による踏み出す一歩目の強化は地味なようで俺にはお誂え向きなスキルだった。なんせ慣れている【壁蹴り】【空踏み】と容量が同じだ。
振り下ろす右腕の絶対的安全地帯である奴の左半身を【宣戦賦刻・隙打ち】で斬りつけながら前方へ回避、立ち止まって攻撃、ではなく走って攻撃だったからこそ左腕は慣性のせいで急には動かせない。このスキルで切り付けた部位を相手は意識するとかいう分かりにくいスキルだが、恐らく相手の部位に注意が向くってことだろう。人間だって痛いと思ったら無意識にその部分を見るもんな。
ゼリー頭が怪我した場所を見た、その一瞬を狙って伸び切っていた後ろ右足を貰う。
「【硬身化】【蹴倒強化】【シンカー】」
人体の急所、大腿を蹴り抜く。俺自身の形を変えられなかった【硬化】と違って【硬身化】は動かせる。上位互換に見えるが形が変わらないのはそれはそれで使い道があるので相互互換だ。蹴りを強化する【蹴倒強化】と足を重くする【シンカー】と合わせればもはや俺の足は鈍器みたいなものだろう。いい手応え、いや足応えだ、クリティカル入ったな。
苦悶に声を震わせ、大きく怯んだアスランチュラ。俺は【帯電】し跳躍、【天駆の御業】で奴の後頭部にビートラクスの銃口を突き付け、
「【滞留電渦】!!」
電光が走る。【滞留電渦】は纏うだけだった電流を流れを作って放つスキル。どうやら自分が造った電気じゃ無くてもいいっぽいのでもうカブトムシに怯えなくて済む・・・と言いたいところだが多分ダメージ無効にはしない、あくまで相手に返すことも出来るくらいのニュアンスだ。恐らくドラゴンのやっていた自然の雷を自分の力にする技がこれを鍛えた先にあるんだろう。
膝から崩れ落ちるアスランチュラ。ご丁寧に前足から崩れたけどお前下半身は4足歩行生物トレースしてるのか? 人間の骨格なのに?
若干の猶予、ビートラクスをしまってディフィシットマスケットを取り出し1000のチャージ。1000はマニーね。なんとこの銃、現金をチャージして銃弾として撃ち出すとかいうトンデモ武器だ。無人島では金銭の使い道がないので文句などない。強いて言えば高額チャージは武器耐久を削ってしまうということ。赤スパは計画的に、だ。
ほんの少し思考を考察に向けてみよう。那智さんみたいに多角的ではないが、俺には俺にしかないオンリーワンがあるからな。それは俺が考察しないと誰もしてくれないわけで。
歴戦竜技、こいつらはスキルの中でも非常に分かりやすい効果をしている。というか全部シンプルだしその由来すら分かる。これ、倒したモンスターの持っていたスキルが手に入っているみたいなんだよな。
【帯電】はカブトムシから。これは魔力消費無しで微弱な麻痺効果を発生させる。派生した【滞留電渦】は電気を放出するようになったようだが、身体の一部に集めることも出来るので使い方次第。
【硬化】はドラゴン由来な気もするが、恐らくナイトソースタッグも関わっている気がする。身体を姿勢ごと固定するのはクワガタの高速斬撃に使われていそうだ。 派生した【硬身化】は防御力高めた状態で動けるようになった。同時に使うことも多くなりそうな良いスキルたちだ。
【叢雲】はなー。うん、魔力要らないとはいえ雨雲を作るって何。ちょっとモーションアシスト有りで試したら腕で円を描くと黒いモヤが出来た。人間サイズでやるもんじゃないな。多分ドラゴン由来。
【夜間迷彩】はフクロウからだろう。効果は名前の通りだけど暗殺者ムーブ出来るし強い。一撃で倒せない相手しかこの島にいないけど。
【渦嵐】はリバイアサンか。前に取得したリバーサルタイドが【一重の海波】になって魔力消費で火傷も治せる水を作るようになってた。【渦嵐】は竜巻を作るスキル。うん、左手でこう円を描いて・・・。叢雲とほぼ一緒。しばらく音声認証だなこの2つは。
【雷呼】、これ一番使えない。いや「弱くて使えない」じゃなく「条件難しいから使えない」んだよ、自然発生の雷を呼ぶスキルなんてどうやれっていうんだ! いや【叢雲】でやれってことかな。ほんとかよ、ドラゴン由来、規模もドラゴン用。
【強壮円環】は猪将軍由来。持久力ゲージがゼロになる度に攻撃力が上昇していく。
【疾走円環】は流鏑覚かイッテントッパからだと思うけど、持久力ゲージがゼロになる度に敏捷値が上昇していく。
円環系スキルは自動で発動するから楽だ。けど持久力ゼロになるときって強制的に動きが止まるんだよね。戦闘中に何度も出来るかっていう。それにリージェスが使った【悪狐の腕】みたいな能力上昇奪うスキルが天敵になったのが恐ろしくもある。
最後、未だ発動する機会にすら辿り着けていない【臥竜の一撃改】だ。これが一番厄介。というか使ってないのに成長するのなんでだ?
【臥竜の一撃】は改が付いたからか効果を読むことができた。その結果「全てのスキルを戦闘中に使用する」という非常に困難な使用条件を知った。普通に難しい。多用する、できるスキルはいい。自然の雷を落とす【雷呼】が現実的じゃないことが一番の問題だ。
温情なのか【戦線復帰】は含めないらしい。蘇生がほぼできないソロプレイヤーへの処置という所か。「モンスターに止めを刺したスキルをより強化する」【スキルキリングコール】と「モンスターの因子を受け継ぐ」と書かれている【弔息吹】はがっつり使用しないといけないのが厄介過ぎる。更にどんなスキルなのか具体的には分からないのが痛い。近接なの遠距離なのって話だ。
恐らく、恐らくだがドラゴンの最後に放ったブレスがそれっぽい。ただ「一撃」って名前でブレスなのは違和感があるんだよなぁ。
「おっと、立て直したか。ざっと30秒か」
30秒を自分の考察に使うのは勿体ないが、眼はじっと観察していた。
頭、間違いなく脳(ゼリーの奥に見える)を撃ち抜いたつもりでも奴の頭に銃創は無かった。魔力じゃ貫通しないのか、あんなに柔らかそうなのに。そして下手二本で合掌をした奴は魔力を活性化させている。回復するかとも思ったが、奴はそれを身体に循環させるだけだった。特殊行動、約10秒。
循環した魔力によって奴の、人間の名残のような皮膚の色がだんだんと赤く変わる。その皮膚の奥の血管が青く光り浮き彫りになる、いや、これは、俺の魔を識る眼の効果でそう見えてい、る!?
「【ランパート】!」
「Uuuuuuuuuaaaaaaaaaaa!!!」
下手二本を素早く広げた、その瞬間奴から放たれたのは枝分かれる無数の血。枝分かれ、分岐した全ての血液が針のように俺に迫る!
「なっ!?」
血液針は展開したランパートの障壁を何の陰りも、何も無いかのように容易く貫いた。咄嗟にバックステップを取って直撃そのものは回避できたが、驚くのはまだ速かったようだ。
「おいおいマジか!?」
アスランチュラはその枝分かれした血液針を様々な方向から、数秒前に俺の居た場所に集中させていた訳だ。そして奴はその赤黒い兇器をあろうことか身体に再収納した。そこは百歩譲ってやる、見た目は改造人間だろうがれっきとしたモンスターだからだ。
魔を識る眼がなくても見ることが出来ただろう、奴の行動。
「魔力を、吸収!?」
血液針が収納されるときに、周りの魔力を全て掻き集めるように、俺のランパートごと吸い込みやがった。そして眼に見えて分かるアスランチュラの魔力の膨張、
「Guaaaaaaaaaaa!!」
再び展開された血液針は先刻よりも広く速くそして多い! ここは試す、俺は俺の命を捨ててでも、結果を掴み取るその日の為にその技を見るべきだ!
「【プロテクション】!」
そして奴の血液針はあのアークファウンの炎すら防ぎきったプロテクションの障壁を貫き、軽々と俺の身体に無数の穴を作った。意識が消える前に、見えたのは・・・再度血液を吸収し、三度目の血液針を飛ばす、アスランチュラの姿だっ、た。




