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ピッキングアウト  作者: もぶ
悩みと奮起と阿修羅蜘蛛
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徒に徒を拾いて獣道 その2


 徒花(あだばな)という言葉がある。

 意味としては「咲いても実ることのない花」であり、そこから「実を結ばず終わり、報われないこと」というなんというか悲しい気持ちになる言葉である。


 高校生としては馴染み深いというべきか「|徒然なるままに《暇ですることがないので》」から始まるお話があるように「徒」という字にはなかなかマイナスな意味があるんだなぁ、と。


「生徒指導室、初めて入ったわー」


「あ、うん。普通は入らないよ」


 放課後、担任に呼び出された俺と高城はゲンコツこそ無かったものの反省文を書かされた。解放後、何故かシュークリームを持った家庭科部員に捕まった高城を見捨てて教室に鞄を取りに戻った俺は、アンニュイな那智さんを放っておけなかったので愚痴ってみた。席が近いので普通に自分の椅子に座る。

 いやー、生徒、生命を(無駄)にしないように指導すると考えれば生徒指導室もなかなかアツい名前じゃないか。何言ってんだろうか。疲れてんのかな。


「呼ばれたのはお昼の放送が理由なの?」


「そだよ。他に悪いことはしてないからね」


「へー???」


 なんか納得してなさそうな声音だな。なんで???


「なんであんなこと言ったの?」


 うーん、もはや質問コーナーは何を言ったかもあんまり覚えていないが。シュークリームは柔らかいのがいいです。

 ここで当事者である那智さんに事情を話すのは悪手だろう。まぁクラスメイトなので巻き込み事故は既に起こしている気もするのだが、それでも全部の理由は語れない。知ったことを忘れるのは人間には難しいからな。知らなくていいことは教えてはならないのだ。


「うーん、せっかく1位取れそうなのに相手がやる気なかったら、なんか詰まらないじゃん?」


「・・・・・・なんか変わったね?」


 変わったかなぁ。昔はこんな感じだったんだけど。爺ちゃんに何度も模擬戦を挑んだのは懐かしい記憶だ。初めの頃はヒーローショーとかの真似をしたかっただけなんだけど、途中から戦闘が目的になってたんだよなー。あれは絶対に爺ちゃんの熱を子供ながらに感じていたんだろう。

 熱は伝播するものだし、自分から熱を生み出すのもまた一興だ。巻き込んで熱中させることにも趣きというやつがあるんだ。


「ゲームでもそうだったけど、最近生き生きしてるよね」


「あれ? ゲームで会ったっけ?」


「あれ? 第一回イベントの映像が公式サイトで・・・、あ、観てない感じですかな?」


「観てないですね」


 さっき第二回イベントの確認したのに。そんな映像載ってたかな? 不都合な真実は知らなくて良いよね、知らなくて良いことは聞かなくていいのだ。()ざる()かざる、人に言わざるだ。未視聴&知らんぷりしよ。

 多分俺じゃないよ、鳥人間になったことナイヨ。


「記憶装起だっけ、あれってどんな感じ? 強い?」


 む、観た感想ではなく使用感を聞かれるとは。なんだかんだ面倒事を抱えていてもプレイしているゲームの情報となれば気にもなるか。流石に答えてあげなきゃな。


「手で持つ装備が全部使えなくなるから職業(ジョブ)によっては宝の持ち腐れになるかもしれないけど蹴撃スキルがあればかなり強いかな。魔法は普通に使えるけど滑空中に詠唱するのは多分難しい」


 姿勢制御しながら詠唱続けられる人なら魔法も選択肢に入るだろうか。いやでも、加速した勢いのまま蹴るほうが威力高いよなー。そもそも純魔の職業でイッテントッパを倒すのは難しいか。あの速度のモンスターに詠唱なんて間に合わないって。


「アクセサリー? だよね、ピアスみたいだったし。無人島にいるんだっけ。強いモンスターの素材で作ったの?」


「あれはメモリアークっていう、なんだっけ、頂点捕食者って言ってたかな。マップで一番強いモンスターから落ちるメモリーっていうアイテムで作ったアクセサリーだね」


「頂点捕食者? それってボス・・・じゃないか、誰も持ってないし」


「フィールドボスってリスポンっていうか固定エンカでしょ? 多分だけど頂点捕食者はリスポンしないしランダムエンカだよ。2体しか知らないけど。確か二つ名があるし」


 歴戦竜ことドラゴンが1体目なわけでイッテントッパが凄い霞んでしまうのだが。まぁイッテントッパが流鏑覚とトツゲキイカル系統の速度特化モンスターだったから霞むのも無理はない。実力だけなら猪将軍ことブレイキングボアと勝負してもイッテントッパが勝つ可能性が高いということだ。体のサイズなんてものは心臓を貫けるなら関係ない。そしてイッテントッパは多分貫けるんだろう。前回は森の中で戦えたから良かったものの、最高速度だと防具貫通とかしてきそうなんだよな。


「ランダムエンカかー。二つ名ってことは、雷蛇鷹(らいじゃよう)シデンセイソウがそうなのかな」


「ライジャヨウ?」


「あ、そっか知らないか。えっとね、雷に蛇に鷹でライジャヨウって二つ名で呼ばれているシデンセイソウってモンスターがいるんだって。ギルドで教えて貰ったんだ」


「蛇に鷹ってことはヒュドライーグルみたいな奴の? あー、その特徴を持ちつつ強化されたモンスターなら、それっぽいかも」


 未だ姿しか知らないヒュドライーグルは紫の蛇が巻き付いたような鷹だったのだが。知らない間に進化してたんだなー。シデンセイソウ、紫電清霜なら意味合い的には綺麗で整ってそう。案外美しいモンスターになったんじゃないか?


「冒険者ギルドの図書館の資料によると、紫電を走らせ全てを貫く金色の嘴とかって」


「紫電清霜じゃなくて聖なる槍で聖槍なのかな?」


 まぁ四字熟語で名前付けてるんだったらそうなるか。ってなるとヴリスラグナことドラゴンは考えた人が違うのか、出生から違うのか。


「うーん、一応まだ倒されてないモンスターなのに反応が薄いね。同じゲームで遊んでるはずなのに」


「そりゃあ無人島でサバイバルしてるから。最初のボスだって話のブレイクベアすら知らないし。こっちのトレンドは阿修羅蜘蛛だし」


「阿修羅蜘蛛?」


「腕が4本足が4本で顔だけ1つの人間オンリーケンタウロスみたいな。あ、そんで頭はゼリーで出来てる」


「うわ・・・」


 嫌そうな顔だ。うーん、まぁ倫理観と生理的に無理な見た目ではあるよ。


「どんなモンスターなの? あ、見た目はもういいけど」


「攻撃手段としては右腕2本は殴打主体の近接型だけど物理的な攻撃を無効にする能力持ち。左腕2本は掴み技主体だけど腕の太さが右より細いからそれだけじゃない気がしてる、ちなみに左腕でも普通に殴ってくる。

 そんでゼリー頭の奥の眼球が光るとこっちの身体が硬直させられるしそこから両腕4本で死ぬまで殴られる」


 なんとも言えない顔をした那智さんを見るとアスランチュラくんの無理ゲー感が伝わるというものだ。いやまぁ倒すんですけど。


「右が物理攻撃無効なら左は魔法攻撃無効なのかな」


「どうだろ、魔力を飛ばす銃は持ってるけど魔法攻撃手段はソニックスラッシュだけなんだよね」


「あ、そこは一緒なんだ。魔法覚えるためには習得系クエスト以外だと魔法使い系統のジョブにならないと自然習得できないんだよね」


「習得系クエストかー。無人島支店とかないかな」


「人がいないから無人島なんじゃ?」


 いわゆる練習して認められてスキル・魔法を覚えるクエストのことだな。俺が竜呼吸法を習得した経緯を鑑みれば好感度と親愛度も関わってくる気がしている。

 誰もいないんじゃ俺には縁がないのか。モンスターから教われってことか? まぁスキルはそれでいけそうなのが何とも。


「あ、そうだ。スキル見せてよ」


「・・・どう見せれば?」


「公式サイトにログイン機能付いたんだけど、それをすると自分のステータスも見れるんだよ。今度のイベントでスキルオーブが発表されたでしょ? 多分だけど掲示板でスキルの話がしやすいようにじゃないかな」


「必要かなー、それ」


「使いこなしてるつもりでもスキルがどういう成長したか、とかは覚えてないでしょ? 合成したスキルだと特に。スキルオーブは合成後のスキルは出ないけど、取得したスキル同士は合成できるみたい」


「なるほど、需要をよく調べている会社だ」


 なるほど、そう言われると納得だ。掲示板機能はゲーム内でも戦闘中以外なら使えるんだったかな確か。んで、スキルオーブ実装に伴って欲しいスキルをあげる掲示板が出ていると。見せてもらったが既に3スレ目だった。こういうの途中参加しづらいと思うのは俺だけですかね。


「で、ログインね。はいはい、名前とあー、本体のIDか。まぁ基本だよね。っと、はい出たよ」


「どれどれー? あー、見事に知らない名前ばっかり。スラッシュ系統すっきりしてるね?」


「リバーススラッシュって、切り返しとダダ被りしてたし。チャージスラッシュも溜めてらんないからレベル50になったときに選定で削ったんだよ」


「でも切り返し無いけど」


「切り返しは二刀流と合わせて剣舞になった。

 似たとこだと片手剣と木剣術で剣術になったね」


「剣術・・・あれ? 剣術が成長スキル扱いになってる」


「え、何か変?」


「私も剣術スキルあるんだけど・・・ほらこれ、レベル表記無しの完成スキルになってるでしょ?」


 那智さんが見せてくれたスマホを見ると確かに剣術Lv.ーの記載があった。成長スキルのほうがいいのか完成スキルのほうが良いのかは俺には分からない。というか、分かったところで無人島住民には関係ない気がするが。


「完成スキルじゃダメなの?」


「完成スキルってそれ以上成長しないってことだし、簡単に言うと打ち止めなんだよね。でもこんなに序盤で完成するスキルっておかしいと思わない?」


「言われてみると・・・そんな気がしないこともないね」


 俺はスキルの成長早すぎたからそういうものかと思ってた。


「ほらここ、壁蹴りはLv.MAX表記あるけどシンカーがレベル表記無しになってる。でもシンカーにはExtraの表記があって壁蹴りには無い。ってことは明確に区別されてるってこと!」


 おお、那智さんがちょっと元気になっている。考察って楽しいよね分かるよ。


「那智さん理論だと壁蹴りもシンカーもまだ成長するってことかな」


「多分だけど。んー、こういうのはどうかな?

 まず、Extraは成長あるいは進化の条件を達成したけど経験値が足りない。

 レベルMAXは条件未達成。レベル表記無しは完成してしまったスキルで、合成しないと変化しない、みたいな。

 後は段階的なレベル上限の開放が関わってるとか」


 今考えた、というよりも考えてあってその答え合わせがした

い。そんなワクワクとドキドキを混ぜたような、それでいて自信満々な那智さんはとても活き活きしていた。うん、俺の知ってる那智さんだな。


「条件達成で開放はあるかも。でもその推理だと完成スキルは未完成なスキルにならない?」


「んー、というよりもプレイヤーの動き方なんじゃないかな。モーションアシストをONにしてる人でも心が拒否してしまうと発作が起きる恐れがあるって聞いたことあるの」


「あー、暗闇恐怖症(ニクトフォビア)とか先端恐怖症(アイヒモフォビア)の人の事件だ。特にRPGだとパリィスキルで先端恐怖症の人に起きやすいって聞いた」


 VRゲームが主流になった結果として浮き彫りになったのが心的外傷、いわゆるトラウマを刺激してしまう恐れがあるということだ。更に踏み込めば先端恐怖症の人が槍なんかをパリィ出来ますか→ゲームだから出来ます(モーションアシスト)じゃ心への負担だけじゃなく心臓そのものに負荷がかかってしまうって話だ。健康な人がするゲーム、と言っても何処に恐怖対象(きっかけ)があるかなんて自覚症状がなけりゃ何か起きてからじゃないと分からない。

 一部では克服や緩和の為のリハビリとして開発・臨床試験がされてもいるが。人間ってただじゃ転ばないんだな。毒を薬に変える感じが正しく人類史。


「普通に詳しい・・・」


「いやいや、覚えているのと思い出すのは違うから」


 テストとか正に。


「つまり、ゲームがシステム的にプレイヤーの可能性を判断してるって感じ?」


「私の予想だけどね。例えば完成スキルも合成したらその先のスキルになるかもしれないじゃん。スキル習得って基本的に行動が先な訳だし」


「なるほどね。ってなると俺の蹴倒強化(しゅうとうきょうか)とかそれっぽい。蹴撃スキルの組み合わせで凄い蹴り技になる、とかじゃなく蹴りの威力上昇になったし。足技主体じゃないからこうなったのかな」


「あー、初期スキル取得してないとスキル合成しても上位スキルになりにくいとか、弱くなりやすいみたいなのは考察メインの掲示板で見たことある」


「・・・まさかその埋め合わせで今回のスキルオーブ実装?」


「初期スキル習得にスキルポイント割くの勿体ない気がするもんねー。でも流石にそれだけじゃなくて、プレイヤー間の格差を減らす為とかだと思うよ」


「そんなに差があるの?」


「POP、いわゆる篩に掛けられて残った人たちはイベント以外だと厳しいでしょ? イベント参加できない人もいるらしいけど。でも1件もそういう人達からクレーム来てないらしいよ。流石、原石だね」


「原石?」


「棚橋くんと、後リージェスさんとセーベルガーさん。1回目のイベントでしっかり活躍してたじゃない? だから他の篩に掛かって出られない人達にもそういう凄い人がいるんじゃないかって。だから原石って呼ばれてるの」


 へー、そうなのか。でもあのイベントは運営の罠に嵌って推理しなかった人が多過ぎただけだと思うよ。

 俺の場合は集金・金策したところで使う場所がないから物欲が無かった。リージェスとセーベルさんは隣国(ドミナディ含め)に良い印象が無かったらしいし。全部の国を怪しんでたんだろう。

 有利だったのは間違いなく普通のプレイヤーだったはずだ。いやまぁ俺が(フラムが)リバイアサンを呼び出したようなもんだし乱入しづらくて様子見した人も多かったろうけど。一人で(強化しまくってたとはいえ)勝てるようになってたのもそもそもシナリオでそうなってた訳で。


 ていうか禄にゲーム楽しめてないと思うけどクレーム入れてないんだ、皆偉いなぁ。俺? アークファウンが誰かに倒されてそれに参加出来なかったとしたらクレームいれるかな。流石に許さん。


「私は普通にリセットしちゃったからなー。まー他にも色々あったんだけど。うーん、やっぱりオンリーワンを羨ましいと思っちゃうときもあるよ」


 そう話す那智さんの顔は物憂げで。静謐が似合うのは見目麗しい美少女の利権特権ではあるが、残念ながら見たい顔じゃねぇんだよな。


「周りが強いモンスターだけだとオンリーワンも大変だよ。獲物は独り占め出来るけど」


 少し大袈裟に。道化のように。演じるように阿呆を騙る。


「ふふ、何それ。やっぱり楽しんでるじゃん」


 その顔を歪めよう。何の憂いもないくらい、晴れやかな顔にしてやろう。


「阿修羅蜘蛛倒したら、完成した武器見せてあげるよ」


「いや、それはいい。絶対キモイ」


 はっはっは。過去の苦悩も憂いも全部置いていけ。俺に出来るのはちょっと周りを巻き込んで、お祭り騒ぎを更に煽って、過ぎたことを忘れさせるぐらいなもんだ。一人じゃ出来ないなら頭数を揃えて空気を読ませれば良いんだよ。

 火種は作った、後は煽いで大きくするだけ。


「那智さんの羨むオンリーワンなのに?」


「人型モンスターの武器は1個だとして(オンリーワン)も作っちゃダメだと思う」


 こういう馬鹿な話をする、それがいいんじゃないか。ゲームを楽しんでるんだから。

 人間考えなきゃいけないこともあるだろうし、やらなきゃいけないこともあるだろうけど、折角寄り道(趣味)してるんだ、出来ることなら楽しみたいよな。


 自分の考察を語る那智さんは楽しそうだった。それを見てしまったからこそ、ほっとけない。


 無駄かもしれない、無用かもしれない、余計なお世話かもしれない。これは思い浮かんだ策をただ捨てるくらいならいっちょやってやろうと言うそれだけの話だ。

 スタイリッシュではないし草むらを掻き分けるような、出たとこ勝負みたいな泥臭さもある。でも問題ない。タイムリミットが追加されただけだからな。


「倒せたら真っ先に教えてあげるよ。那智さんに」


「まぁ、うん、お話しは楽しみだけど。武器は作らないでね」


「それはセーベルさん次第」


「絶対ドン引きすると思う」


 過去視スキル持ってるから普通に観ることになるだろうしなぁ。セーベルさんに送るの、もしかしてテロかな?

 普通の話を何も考えずに出来るように。俺にやれることを精一杯やってやろうじゃないか。現実(こっち)でもゲーム(あっち)でも、な。


 




徒競走が漢字だけ見ると「無駄な競争」みたいになる日本語の不思議。

徒を拾う、とは徒歩のこと。徒走(かちはしり)は足で走ること。徒走を競うってコトですかね。

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