一球に力を込めて……?
「だから、レシーブの構えはこう!」
「こう?」
「腕を振るのがレシーブじゃないからな? 分かってるか?」
「頭では」
「お前が頭で考えるより先に行動するタイプなのは皆分かってんだよ……」
よせやい照れるぜ。
今は体育の時間。なんだかんだ1日が終われば1日が来るというわけで、それなりに日が経過していた。それでもアスランチュラには負け続けている。今5連敗? 猩々が居場所を探して教えてくれるんだけど倒せってことかな? ありがたいけどなかなかプレッシャーだぜ。
まぁ、雑魚側が何をカッコつける必要があるのだ、レベルを上げてスキルを増やして勝てばいいんだ。……と言いたいところだが、昨日は道中にヘルペッパージャッカルくんにやられたところで寝ることにした。幸いなのかレベルの差が縮まっていない証明なのか、ヘルペッパージャッカルにやられてもデスペナルティはなかった。あいつ火吹くんだね。知らなかったよ。
ゲームの話はログインしてからにしよう。今は頭より体を動かさないとな。現在俺だけバレー部二人と練習中だ。残りの3人は既にこの指導を卒業していた。
俺にボールを出しているのが背は低めの熱血漢こと片平くん。それを眺めているのが糸目クール系相馬くんだ。
「行くぞー、よっ」
「ふっ!」
ポスッとネットにぶつかるバレーボール。
「もう一回」
「ふっ!」
あらぬ方向に飛んでいくバレーボール。
「もう一回」
「ふっ!」
何故か後ろに飛ぶバレーボール。
「本当に運動神経良いのか? もう一回」
「ふっ!」
勢いよくネットにぶつかるバレーボール。
「下手くそぉ!」
「初心者なんですがぁー!?」
なんだこのバレーボールとかいう競技は! ド初心者に気軽にやらせる競技じゃねぇーだろ!? アンダーハンドでレシーブするの難し過ぎないか!?
「初めのうちは両手で無理に取ろうとしないほうがいいよ。腕だけで取る訳じゃなくて、腕の出し方とか角度とか落下地点に身体を入れる反応と移動が必要だから結構難しいし」
「いーや! 初心者は片手でレシーブなんて出来ねぇよ、腕の構え方そのままボールを打ち上げたほうがまだシンプルだろうぜ」
現役バレー部が違う意見出してくるのやめて。相馬くんが言う落下地点に身体を入れるというのが難しいのは分かるし、片平くんの言う片手でまともなレシーブなんて出来ないというのも分かる。……俺レシーブしないほうがいいんでない?
俺とバレー部以外のメンツはと言うと……うん、俺よりはレシーブ上手いね。ラリーは続いてないけど。コントロールは無理だよなー。テニスとかと違って自分の身体だけでボールをコントロールするというのが慣れない。
一人サッカー部が足でレシーブしてたが相手コートにシュート決めるゲームじゃねーんだ、セパタクローあたりからやり直せ。ちなみにセパタクローのセパは蹴るという意味だ。セ・パがついても野球とは真逆だね。
「これ体育の時間だけで練習足りる?」
「下手くそがそれを言うな」
「フツーに傷つくからやめよう? な?」
片平くんこんなに毒舌キャラだったん? 友達おる?
「大丈夫だよ。相手が経験者だと厳しいけど、現役バレー部は6人中2人しか参加出来ないから。どこも穴だらけだよ」
相馬くんも相馬くんでちょっと腹黒そうなんだが? 糸目だし。優しそうだけど裏がありそうな声なんだよね。
「心折れかけてるからサーブとかやっていい?」
「どんな理由だよ……じゃあ俺のいるとこ狙ってみ」
「佑斗、それは難しいと思うよ……?」
もっと言ってやれ相馬くん。ただまぁ、サーブ、サーブだろ? テレビで何度か見たことあるし、イメージはちゃんとあるんだよ。レシーブと違って自分で打ちにいくというのも良い。さーて、確かテレビで外国人選手がやってたのは……。
「バレーボールでドリブルすんなー」
「多分ルーティーンじゃないかな、エクアドル出身のキルチネル選手があんな感じだよ」
そうそう、キルチネル選手だ。エクアドルっていう国名がカッコいいし、サーブが強烈で「エクアドルD・D」とか言われてた。確かスペイン語で赤道直下って意味の言葉から名付けられたらしい。カッケー。
「ふぅ……よっ」
トスを上げて、走って前方、ジャンプして上へ、力強くボールを打つ!
バン! ズバン!!
「うおっ!?」
「入った?」
「入ってない、けど……」
マジ? 手応えあったんだけどなー。どこだろ。ジャンプってよりはサーブトスかな。ちょっと低かったとか?
「おい棚橋! なんだよ今のサーブ! 素人が打つサーブじゃねーぞ!?」
「え? まぁプロの真似したからね」
「ジャンプサーブって難しいんだけど……。しかもエクアドルD・Dでしょ、真似したの。殆ど出来てたよ?」
「入ってないから出来てないでしょ」
ボールをもうちょい高く投げていいな、多分届くと思う。さて、もう一本。
ぺたんぺたん、そーれっ!
バン! ズドン!!
「入った?」
「入った、よ」
マジ? やりゃできるね、俺。
「何当然みたいな顔してんだ棚橋! 威力だけなら現役プロのサーブだぞ!? 俺らでも出来ねーよ!?」
それは前に向かって飛ぶのに慣れてないからだよ。俺はゲームの中ではひたすらジャンプで移動してるからその辺慣れが違う。全体重込めて腕を振り切れば相当な威力が出るさ。問題はボールを打つ腕も着地する足も痛いことだけど。じんじんするね。
だがしかしこの空気を使わない手はない。
「ひたすらサーブの練習だけしてちゃダメ?」
「おい待てレシーブから逃げるな」
ちっ、ダメか。
「ずっと決められるならいいんだけどね……。疲れるでしょ、流石に」
確かに。ジャンプとかずっと全力だからね。3本も打てば上手く行かなくなると思う。でもそこは軟打とか混ぜて「さっきのは偶然ですよー」感を出せばいいのでは? な? ヘビーなサーバーとして生きていきたい。何よりレシーブから逃げたい。
「んじゃまたレシーブな」
「へーい」
弱点を減らす、大事なことだと思うしバレーボールでレシーブ出来ないことが致命的なのは分かる。サッカーのボールを蹴る、とかと違ってすぐ相手の点になるからな。
だからってそう簡単に返せるわけじゃないんだがー!?
「下手くそ!!」
「うっせーもう1回来いやぁ!」
打ち返したらぁ!!
「棚橋くん、レシーブは相手コートを狙うものじゃないよ」
そうでした。どうもテニスみたいな感覚になっちゃうな。エースを狙うわけじゃないのね。ナンバーワンのほうね。つまりはアタック? やっぱり攻撃じゃねぇかやったるぜオラァ!
「せやぁ!」
ひゅー…………とんとんとん。
「上に打ち上げたな」
「ふっ、成長しただろ?」
「「全然」」
バレーボールって難しいね。
「みゃう」
「よっ、」
「みゃう!」
「せやっ!」
「みゃうー!」
うん、そこそこ楽しい。
今現在、フラムと一緒に竜宮洞の前の広場でコフィンで作った多角な立方体でバレーボールの練習をしている。驚いたことにコフィンは三角形から十面体までなら自在に作ることができた。いつもは範囲指定で発動していたけど、ある程度は応用できるようだ。サイズは一メートルが限界だった。
アンダーハンドパス、オーバーハンドパスは慣れてきた。レシーブができるか、と聞かれると怪しいが。いや勢いとかボールの弾力とかが全然違うので。
イメージトレーニングという言葉があるのだからフルダイブVRで練習をすれば実質ハイクオリティーイメージトレーニングということだ。アシュランチュラを狙いにいきたいが現状あれに勝てるモンスターは巨大カブトムシくらいだから数日会わずとも死ぬことはないだろう、急ぐ必要はない。ザリガニもいい線行くかもしれないが、カブトムシもザリガニも俺がアクションをしない限り出現しないからな。横取りされることはまずないだろう。どっちが横取りするかは……まぁアスランチュラが優勢、としか。
それにしても、いつの間にかフラムが空中を自在に、そして素早く飛べるようになっていたのも驚きだ。レベルは上がっていないんだけどなー。
「よっし、フラム。一丁レベルアップ目指してみるか」
「フム?」
目標はそうだな……一番楽なのはもしかしてヒトデなのだろうか? いや、待てよ?
「今の俺なら、落とし穴に歯向かえるかもな」
決めた、トラップホールフィッシュことナマズくんが今日の夜ご飯だ。『突撃お前が晩ごはん』のお時間だぜ!




