久しぶりの感覚……と?
なんだあれ! なんだあの人間をデメニギス(検索注意)みたいな頭にして腕を四本にして足を四本にしたクソ気持ち悪い合成獣は!? 腕が多いからって右腕でガードと右腕で掴み左腕二本で乱打するとか! ぶっ倒す!!
久しぶりだこの理不尽! あーそうだよこういうのを待ってたんだ! 猪も鳥も悪くないけど手札が直球過ぎた、でもあいつは違う! 明らかな格上が圧倒的優位の中情け容赦無く無数の手札を叩きつけて来る感じ! さいっこーに楽しいな! 絶対倒す!
顔面ゼリー人間フューチャリングケンタウロスと捉えるより人間に擬態した蜘蛛として見た方が対応できるか? そもそもなんだあの腕は、霊木剣のスキル込みの一撃を受け止めてたろ。切り傷が付かないとかじゃなく、一切の反動もなく受け止めきっていた。スキルか? それとも性能かステータスか……いや、ステータスだとしても振り抜くことはできた。なら……基礎性能? あるいは腕に何か秘密があるのか?
「分からなければ挑めばいい! 探しだして再チャレンジだ!」
その為には名前をつけよう! ドラゴンはドラゴンだったけど、腕二対足二対顔面ゼリーはちょっと知らないですね! アスランチュラとかにしとく?
「猩々たち、腕四本の化け物見なかった!?」
「フォッフォッ」
「ありがとう!」
何言ってるかは分からなかったけど指差してくれてたからそっちに行けばいいんだろう。木々を蹴って空を踏んで走る。お? 梟いなかった? 擬態しやがってお前昼間は完全に木になってやがったのか今は夜だぞ起きろ! ムカついたから「ラピッドスラッシュ」を……アスランチュラ発見! 梟は生け贄に捧げる!
「《スタッグソーホイップ》!」
枝に擬態していた梟を掴み『帯電』しながら変則フランケンシュタイナーこと『スタッグソーホイップ』で梟をアスランチュラに向かって投げつける。『帯電』が便利すぎるな。これからも率先して人間を辞めていこう。
「ピィァァ!?」
「…………」
自分に向かって飛んできた梟を右上腕でガードしたアスランチュラはそのまま右下腕で梟を掴んで左両腕で乱打した。梟が可哀想だろ! 野郎許せねぇ!
その隙に素早く移動して奴の後ろへ。その後ろ両足の膝裏目掛けて『クロノススラッシュ』を『二刀流』『切り返し』合わせて4連撃叩き込んだ。多分ダメージ効率は一番高いな。問題はこの叩き込んだ武器はアイテムボックスにしまえないことだ。今度剣帯を作ってもらおう。腰のベルトに差していざ!
今はここからコンボに移行する! 何故なら!
「膝カックンが効くとはな! やっぱ人間ベースなのかクソッタレ倫理観がぁ!」
アスランチュラ作ったやつ相当ヤバい奴だな!? よく見たら前両足、右が左足で左が右足じゃねぇか!? 何言ってるか分からない! つまり背中合わせにした二人が空手の構えをしているようなイメージだ、なんだお前ケンタウロスに謝れ、結合部どうなってんだお前はー!!
「名付けてガン=カタ風コンバット!」
ディフィシフルマスケットとビートラクスを使った撃ちながら殴る二丁の最新コンバット! ちなみにビートラクスはスタンガン機能があるので殴る用、ディフィシフルマスケットは島では不要なマニーをオートで消費して撃つことが出来るので銃撃用! なんて美しい役割分担だ、人間相手だとバレやすいけどモンスター相手なら問題なし!
背後から後頭部目掛けて発砲、その後に足裏を殴打、振り返る首に合わせて回り込んで下顎を打ち抜く! そして顔を向けられる前に前足二本をビートラクスで殴って麻痺させる! ついでに虫の息だった梟に発砲! 5000マニーの弾丸だ、お前の素材で返してもらおう。
おっと!? アスランチュラが距離を取る動きをしやがった。
「後ろ足で飛ぶか、なら二本貰ったぁ!」
腰に手を回しヤドリギに触れてクロノススラッシュを起動、全体重が乗った両足に大ダメージ! 自重で沈め木偶の坊! 今度は腕を貰うぜ殴打ァ!
しかし奴は右上腕で帯電したビートラクスを受け止めた。
「ならこっちだ!」
顔に向けて構えたディフィシフルデフロットを……いや、アスランチュラはその特徴的なゼリーの奥の両目で俺を見た。それだけで、
「がっ!?」
俺の身体は硬直し、その隙を奴が見逃す筈もなく、ただひたすら死ぬまで殴られた。
はぁー? ほーん???
覚えてろよアスランチュラ、ぜってー倒す。
手に入った梟の素材を確認して、その日は終わった。
素材価値的に十万マニーでもお釣り来るな、ディフィシフルマスケットくん最強では?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
所変わって現実世界、「三千世界の鴉を殺して主と朝寝がしてみたい」とは高杉晋作だったか……諸説あるらしいけど個人的には鴉を「面倒事」と捉える解釈がしっくりくるな。
さて、サイバー世界では四つ腕四つ足顔面ゼリーことアスランチュラくんと戦った次の日、俺を待っていたのは少しだけ憂鬱な体育祭の競技決めだった。
一人一競技に絶対参加、クラス対抗リレーは全員参加ね……。いや、テニスには出ませんよ。ヘイトを買いすぎるから。
黒板に書かれたのはテニス、サッカー、バレーボール、野球の4つ。あれ? 去年は卓球もなかった?
疑問に思ったのは俺だけでは無かったようで、教壇に立つ司会兼学級委員長こと咲洲さんに質問していた。
「今年は卓球無いの?」
「卓球部が全国大会出るんだけど、卓球台が壊れたら困るから今回は無しだって。代わりにバレーボールになりました。それで人数の方も見直しになりました」
へー、そうなんだ。うちの卓球部強かったんだなー。そして信用ないねうちの生徒。まぁ数年前に壊した生徒がいたらしいけど。
ちなみに、と咲洲さんが俺の方を見た。
「危険行為は厳重に取り締まるって」
「俺がいつ危険行為をしたんですか?」
見に覚えが無い……完全に濡れ衣ですね。
いつの間にかクラスメートの俺を見る目が訝しげとか怪しげとかじゃなく、冷たいものになっていた。おいおいマイナスイオンか? 全然癒されねーぞ。
「はぁ……」
溜め息さきしーさん。
「無自覚な悪い子はほっといて、」
言い方酷くない?
「今年はサッカー6人、バレーボール6人、テニス4人、野球が9人。野球だけ男女混合で他の競技は一人ずつなら過剰になっても大丈夫みたい。但し試合中に必ず交代することになります」
へー。
「例年通り各現役部員は半数以下に抑えることと野球は男女半々にすること。説明は以上だけど何か質問はあるかしら?」
さきしーさんに対しての質問は無し、後はまぁ希望を聞きつつ……ということになったのだが。
「棚橋くんはどうしようかしら」
「テニスは? 多分あの先輩も出るだろ?」
「でも貴重な運動神経お化けだぞ? 勝率高いところの方が良いんじゃね?」
「先月のスポーツテストの記録とか当てにならないしな。どう考えても手を抜いてる記録だ」
「普段の棚橋はやる気無いからねー」
好き勝手言いよってからに……。誰がお化けだっての。最後のはただの悪口だろ。てめーだぞ高城ぃ。
と、辛辣なクラスメートの議論の中で、こういうお祭りな場面で会話に参加する那智さんの声が無いことに気付いた。ふと那智さんの席を見るとどう見ても物憂げな那智さんの顔があった。何か悩みでもあるのだろうか。体育祭か、それとも球技が嫌なのか。そんなに親しくないから分からないけど。
その那智さんの顔に、なんとなく、放置してはいけないような危うさを感じた。
何時の間にかバレーボールに決まってたんだけどこういうのって話し合いだと思うんだ。そもそもやったことないぞ? テレビで見たことはあるけどその程度ぞ?
後しれっとクラス対抗リレーはアンカーにされてた。おい良いのか陸上部!
「俺400メートル専門だから」
200メートル内包されているのご存知でない?
咲洲美海
主人公→さきしーさん
さきしーさん→棚橋くん
名字は仕事で大阪にいるときに見た地名から。
王道黒髪ロングのポニテに眼鏡をつけてキリッとした表情から男子は近寄りづらい学級委員長……なのだが呆れ顔をさせる存在がクラスに多いため段々と表情が柔らかくなっていて隠れ人気は高い。




