人知れず最前線、威風にはためく大旆を掲げて #5
鋼鉄の侵略者達は破壊し尽くされ海岸には機械兵だったがらくたが散らばる。侵略者から解放された、と捉えれば歓喜の声を上げてもおかしくはない。しかし周囲の人間達は目の前の惨状を引き起こした一匹の人ならざる者に恐怖していた。
それが人であれば恐怖よりも安堵が勝っただろう。だがしかし、そこに立つのは人型の異形。目は黄金に輝き、顎下は猛禽を思わせる嘴に覆われている。人ならば腕が生えているはずの場所には一対の翼。そして足は梟のような鋭い鉤爪の付いた脚。
人ならざる者が襲来し鋼の兵隊を破壊し尽くした事実は、事実として被害0の侵略者よりも人々の目には恐ろしく写った。
ある者達を除いて。
「鳥の兄ちゃん?」
「鳥の兄ちゃん!」
「みゅ!」
小さな子供たちが燃えた破片が散らばる海岸に向かう。一人の腕には小さなドラゴンが抱えられていた。
「危ないからあんまり近付くなよー、破片とかいっぱいあるからな」
小さなドラゴンは鳥の背に飛び乗り、それを確認すると鳥は空を飛ぶためにあるはずの翼を使うことなく空を飛んでいった。
その翼は手を振る子供たちに向けて振られていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、聞いた話によるとスキルを通した攻撃を慣性ごと無効にするって? 条件はとりあえず格下で特殊なスキルは有効っぽいと。普通に強いなー、さすが名前の付いた敵キャラだ。さっきのゴーレムとは大違いだ。いや硬かったけど製作陣の配慮というものが見え隠れしていた印象だった。
さーて、空の移動もそろそろ終わり、リージェスに合図代わりにメールをして、さぁさぁ下降(自然落下)からの翼を広げて滑空、そしてアイテムボックスを弄りながら参戦!!
「待たせたな!」
「待たせたな!」
「な、」
「《空前絶後》!!」
突然の声、そして大量の木の葉を撒き散らしヨシアキの目を眩ませた乱入者は素早くヨシアキの背後を取ってがら空きの背を蹴り抜く。
そして受け身も取れずにこっちへと吹っ飛んできたヨシアキの顔面を事前に発動しておいたスキルで強化された右腕でぶん殴る。
「ぐはっ!?」
被ダメで解除は嘘じゃなかったみてーだな! 助かったぜゼノン! メールで伝えていた甲斐があったな。
俺は自分で思っていたほど独り善がりじゃなかった。何でも背負いこむほど責任感が強すぎることもなかった。コンテスト会場で何が起ころうと、セーベルがいるなら大丈夫だってな。あいつは俺よりも人を頼れる兄弟子だ。コンテストの結果いかんでは不壊不朽になるゴーレムも、そもそも一位にならなきゃいけないんだろ?
なら無理な話だ。人を害するカラクリなんかより、人を思う気持ちが勝るに決まってる。
「俺の仲間が頼りになる英雄で残念だったな」
本当に。ここにゼノンがいるってことはゴーレムは全滅させた、ゴーレムが壊せたってことはコンテストは無事セーベルが勝ったってことだろう。頼りになる英雄が二人もいたんだ。そりゃ勝てなきゃ嘘ってもんだよなぁ!
「合わせろゼノン! 《王魂覇気衝》!!!」
さぁこっからはクライマックスだ! 全力で終わらせる!
「それ猪のオーラ飛ばすヤツじゃなかったか!?」
お前もなんか強いスキル持ってんだろ、クロスボンバーと行こうぜ!
目眩ましこと大量の落ち葉、そしてスキルである《空前絶後》と超高速の《空踏み》連続起動急カーブ空中軌道による最高のパフォーマンスにより漢服仮面を強襲した直後、
「合わせろゼノン! 王魂覇気衝!!」
「それ猪のオーラ飛ばすヤツじゃなかったか!?」
人使いの荒いリージェスの放った一言で俺を休ませないことが判明した。ふざけんな! あんな高威力の技なんて持ってねぇぞ!? おい、そんな余裕もなさそうじゃねーかどうしよう取り敢えずリキャスト入った《空前絶後》は無理だからアクセサリーをステータス画面で外して人に戻る! そしてアイテムボックスの一番上にあった剣を取り出して剣技スキルを強める《贖罪の剣》、ステータス強化の《アドバンス》、うわもうすぐじゃん覚悟を決めろ《アンカーフッド》、なんで鞘に入ってんだ、足だけ《硬化》して重心安定させて居合いのごとく抜刀の《ヘヴィースラッシュ》!!
「オラァ!」
急遽重ねがけしたスキル達の力か、はたまた戦闘中維持し続けた《竜呼吸法》によるステータスの上昇が素のゼノンというキャラクターと隠し職業に就いたリージェスの奥義と同等の火力をもたらしたのか。
或いは咄嗟に掴んだ剣の成せる技だったのか、俺には分からない。
しかしながら、敵諸とも向かってくる猪の王威を俺は確かにその剣と剣技で両断した。
猪の形を保てなくなったオーラの塊は膨れ上がり爆発し、両断されて真っ二つになった敵だったモノは爆風に巻き込まれ俺の後ろへと吹き飛んでいった。綺麗に左右に別れて飛んでいきました。芸術点高いな。
俺の手に握られた黒い剣がドクンと脈打った。気のせいかもしれないが……まぁ、素材の持ち主を思えばそれぐらいはするだろう。一撃で真っ二つになるような相手がこいつを満足させられるはずがない。
「相変わらずだな、ドラゴン」
黒き刃と変わり果てて尚、その戦意に陰りは無い。
さて、これで終わらないみたいだな。
「くくくく……」
ぶった斬ったのにポリゴンにならないなーとは思っていたけども。まさか笑いながら起き上がるとは。いやお前下半身無いからな? そんな余裕そうな笑い方していいのか?
リージェスと並び立ち、漢服男を睨む。あ、人に戻ったから靴が不安定だ。さっきまでのジャストフィットはどこに……。
「まさか、この私がここまで追い詰められるとは……」
視界の端っこで溶かして固めた鉄みたいなのに封じられてるサメ人間を見るに、結構一方的だったのでは? リージェスのほうもそこまで疲弊して無さそうだけど? おーん?
「強がるなって。お前は負けたんだ」
どう見ても致命傷だぞ? 胴だけに。
「ゼノン、警戒しとけ。あれで死なねえなら人間じゃないんだろうよ」
見るとリージェスはバイクと合体した腕に魔力を溜め続けているようだ。なるほどね、イベントシーンのように見える今の現状、追い詰められた相手が取る行動と言えば特攻か自爆か逃走だ。それに備えろってことか。
と言っても竜呼吸法は続けてるし鳥人間辞めたからってそこまで問題はないかな。
「いつでも動けるって。ところでリージェス、あそこのサメ人間も止めを刺しておいたほうがいいとかある?」
あれについては情報共有してないよね? リージェスから貰ったメールに書いてあったかな……。
「いや、あれはサモンをさせないようにあのまま放置を……あん?」
説明しようとしたリージェスだったが何かに違和感があったようで、途中で怪訝そうな顔になっていた。
そしてそれを見て腕で体を起こしていた漢服男は愉快そうに笑った。
「おかしいと思わなかったのか? もうとっくに5分など過ぎているぞ?」
「っ! ゼノンはバハルシャードに止めを指せ! あいつ、何か仕込んでやがるぞ!」
え、そういう感じ!? マジかよ間に合うか!?
素早く移動して剣を構えて袈裟斬りにしようと振りかぶる。同時にリージェスは漢服男目指して肥大化した拳で殴りかかろうと動いた。しかし、
「うおっ!?」
止めを刺そうと勢いよくスキル込みで振り下ろした剣は何の手応えも無くすり抜けた。そのまま霞のように消えてしまった。さっきまで押さえ付けていたはずの溶けた鉄すら消え失せていた。これは、最初から幻だったのか!?
バキィィン!!!
大きな音に振り返ると、リージェスの拳は謎の巨大な貝の魔物に阻まれていた。貝の魔物は殻を破壊されたことで命尽きたのかポリゴンになって消えていくが……やつはきちんと仕事を果たしていた。
漢服男の上半身、その下に大きな魔方陣が作られていた。
「言葉に騙されたな、若者よ。また機会があれば相見えよう」
「テメェ!!」
詳しくはわからないがサメ人間を囮として時間を稼ごうとしてたのか!? デカイ貝の魔物、幻を出せるとなれば蜃あたりだろうか。そりゃリージェスもスキル無効の敵を前に無力化した敵を意識し続けるとか出来ないだろうよ。隙を見て召喚した上で幻を展開させてたってことか!
でもまぁ、逃走を選んだのが間違いだったな。自爆もなんとかできたんだが……とりあえずチェックメイトだ。
「《戦記降臨》!!」
《咆哮》と共に俺のスタミナが消費される。しかしそれによって得られる恩恵は飛んで逃げてしまうフクロウを連戦して連勝できるくらいブッ飛んだスキルだ。
そう、このスキルは逃走行動を否定する。
「なにっ!?」
魔方陣は機能を停止しガラスのようにひび割れて消えた、そして漢服男の体は地に落ちた。漢服男は俺を睨む。うむ、スキルの発動と《咆哮》での挑発、同時発動出来てたみたいだな。
「貴様ァ!! 消し飛べ! 《ファイヤーボム》!」
「《コフィン》!」
投げ付けられた札を《コフィン》で包む。魔力によって空中で覆われた札は爆発したが、《コフィン》が割れて消えただけで何の被害もない。避けるほうが良かったんだが……こういうのは余裕綽々に対処されたほうが腹立つだろ?
「なんなんだお前は!? 私をコケにしているのか……!」
そんなことないけどな、強いて言えば俺はお前のことをよく知らない。そもそも名前も危うい。漢服男は漢服男だ、その顔半分の仮面だけは嫌いじゃないぜ。
とりあえず、言いたいことはそれだけか?
「それが遺言で良いのか?」
「あぁ!?」
スキルによる挑発、態度と片手間の防御による挑発、苛立ちってのは目を眩ませるし視野を狭くする。忘れてないか? さっきまで戦っていた相手のことを。
「主人公は俺じゃない」
「ああ、止めは俺が貰うぜ」
今までフリーだったリージェスが言葉を発する。熱と魔力を込めた右の拳を正拳突きのように構えて自らを見ていない漢服男目掛けて技を放つ。
「じゃあな、二度と会うことは無いだろうよ、《王魂!加重加速突進撃》!!!!」
瞬間自らバルトフリートに変形して漢服男を超高速で轢きずっていく。そのまま猪のオーラだけが超高温の炎となって更に加速し、漢服男を貫いてドミナディに向かって走っていった。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。大山猫の眼が無きゃ見られない光景だった。速すぎて。
轢かれ、燃えて、吹き飛び、よりズタボロになった漢服男だったが……体を維持できなくなったようだ。
「ば、かな……私が、こんなところで……」
「じゃあな、名前も知らねぇ誰かさん。喧嘩を売る相手を間違えたみたいだな」
残念ながら中世世界でバイクを作るどころか自らをバイクに変えるに至った男が相手だったんだ。技術革新とかの次元じゃねぇ。ハナっから無理だったんだ、リージェスに勝つのはさ。
完全に消滅した漢服男。重要な敵キャラだった可能性もあるけど、倒せるように作ったほうが悪いってね。
「おつかれ、リージェス」
戻ってきたリージェスはバルトフリートとの合体が解けていて、体も焦げ付いててボロボロだ。奥義みたいな技だったんだろうな。本当にお疲れさん。
「ハッ、お前もな、ゼノン」
リージェスが右手を上げる。それなら俺も、と右手を上げる。掌と掌が当たるその瞬間、アナウンスが聞こえた。
《落魔ヨシアキラが消滅しました》
《第一回イベント、ゲイルムーヴ・ドリームライフの全日程が終了しました》
《イベントにおいて戦闘貢献したプレイヤーに称号『群雄割拠の時代を生きる』が与えられます》
《イベントにおいてコンテストに参加したプレイヤーに称号『鍛冶神の加護』が与えられます》
イベントの終わりを告げる声。良いところで邪魔をされたような気もするが、それでも俺とリージェスの掌には確かに、音を響かせた感触だけが残っていた。
落魔ヨシアキラは誤字じゃ無いです。
本来このイベントで倒される予定じゃないから落魔モード(黒い狐の尻尾が4本生えてお札が周囲を旋回する)にもなれなかったしヨシアキラであることも明かされずに消えていった……だけです。運営が頭を抱えてます。




