ゲイルムーヴ・ドリームライフ その14
「また会いましょう、ショコさん」
「はい、師匠! フラムちゃんもまたね!」
翌日、広場でログインした俺は居合わせたガトーショコライトさんに挨拶してから工房に向かった。「ショコさん」呼びになったのは彼女にそう言われたからなのだが……何となくガトーショコライトさんの本名が透けて見えるな。良いのか?
ちなみにフラムが返事をしなかったのは俺の肩に捕まりながらショコさんに貰ったウサギジャーキーを食べているからだ。気に入ったのか大量購入をせびられた。誰だ、この子にジェスチャーを教えたのは。腕を広げて「いーっぱい!」の後に手を口に当てて「もぐもぐ!」に続けて首を傾げて「ダメ?」ってされた。可愛かったので購入しました。ついでにパトロン登録もした。
パトロン登録をすることで出来ることは2つ。素材&資金を直接会わずに送ること、完成したモノを直接会わずに送ること、の2つだ。素材の方は討伐者でなくても良いが、完成したモノを送るときは生産者自身でないといけない。まぁ一次加工品(俺の持っているものだと真珠粉や胡椒狼の骨椒とか)は無理だ。プレイヤー間でのアイテムのトレードは直接会う以外には出来ないゲームなので、これでも破格らしい。
完成品はパトロン登録された素材提供者にのみ届けられるが1つの素材でアイテム加工が終わる訳ではないのでそこはプレイヤー間の話し合い必須な印象だ。まぁモンスターの素材を捌けるのはそれだけでありがたいのだが。当然のことながら戦闘中は出来ない使用になっていた。
そんなことを考えながら屋根から屋根へ空を移動する。うーん、見た目が鳥人間で空を移動し始めたら本当に鳥さんですね。お? 手を振ってる子供たちがいる。いえーい。
「おじゃましまーす」
「あ、おかえり、ゼノンくん」
「戻ったか、ゼノン。お前、一体何したんだ?」
迎えてくれたセーベルさんと呆れ顔のワーフガンドさん。え? なんか悪いことしたっけ。怒られることをしたような覚えは……あ!
「バーベキューってもしかして許可取らないとまずかったですか? 公共の広場で無断で火を使っちゃったのはやっぱりダメだったんですか?」
「そうじゃねぇよ。スタンピードだっつう騒ぎの後にリバイアサンまで出てきたって阿鼻叫喚になったと思ったら一人で倒した化け物がいる、っつって大騒ぎだ。その化け物が屋根を走ってるってのも聞こえて来たが?」
うーん、それ全部俺が原因ですね。フルコンボだドン。もう1回やっとく?
「化け物呼びはこの装備作ったセーベルさんにも原因はありますね」
「あー、そうだね。シルエットは鳥人間だからね」
「いや行動に問題があるだろ。普通人間は屋根を足場にしねぇのよ」
でも鳶職っぽいズボン履いてますしセーフセーフ。さてさて取り敢えず「大海竜」関連のアイテムをセーベルさんに渡して何か作ってもらおうっと。
「セーベルさん、これお土産です」
ドサドサドサ!
「……机に乗りきらないですね」
「ああ、うん。大丈夫だよ。これ何? ヒレとかあるし魚のアイテムかな」
「オールド・リバイアサンのヒレとか鱗です」
「何ぃ!?」
「みゃぁ!」
大声を上げたワーフガンドさんに対し抗議する声を上げるフラム。フラムはびっくりすることを嫌うみたいなんだよな。大丈夫大丈夫、ほらジャーキー。
「みゅぐみゅぐ~!」
ジャーキー便利だな。これからフラムの機嫌が悪くなったらこれ使おっと。
「おい聞き間違いじゃなきゃ今、オールド・リバイアサンっつったか?」
「はい、そうですよ。あれ? リバイアサンが出たって知ってましたよね?」
「俺はリバイアサンが出たと聞いたけどよ、それがオールド・リバイアサンだとは聞いてないんだよ」
「何か違うんですか?」
オールドか通常か、普通に考えれば通常のリバイアサンが成長したらオールド・リバイアサンに進化するのでは? くらいの印象なのだがどうやら違うらしい。それは思いっきり呆れ顔をこっちに向けてくるワーフガンドさんを見れば明らかだ。そんな顔されてもなぁ……。
「オールド・リバイアサンは通常のリバイアサンとは違ってかなり深い海にしか生息していない。大体深海調査の為のゴーレムだってこないだ発表されたばかりで、どうやってオールド・リバイアサンを避けるルートで進むかの事前調査も漸く話し合いの段階に入った所だ。
それを討伐しただと? まさか本当に一人でか?」
「あ、はい」
誰も手伝ってくれなかったので……。ああ、いや、手伝って貰おうにも『空踏み』と『壁蹴り』持っている人か『アンカーフッド』持ってる人以外は遠距離攻撃ぐらいしか届かないような所で戦ってたから仕方ないんだけどね。
「なんつう……まぁお前さんが度胸があるのは分かってたがよ……しかもこの素材に付いた切り傷といい、接近戦かよ」
そんなこと言われても。そもそもフラムが招いたようなものだしな。尻拭い的な感覚だ。でも切り傷? 使ってたのは霊木剣だけどあれで傷なんて付いたかな? あれ打撃に近くない? 切れ味のパラメーターとかあったらランク最下位だろ。木剣だぞ?
オールド・リバイアサンは敵としてはブレイキングボアが一番近いだろうか。攻撃が単調で属性攻撃も少なく取り敢えず殴れば勝てそうっていう。どうしようもない、っていう圧倒的な強さを感じなかった。周りのモンスターを使えば簡単に倒せるギミック付きだったしな。
俺が焦がれたドラゴンのような攻撃を続けながら選択肢を狭めて来る、あるいはアークファウンのような広範囲攻撃で当たれば死ぬ、そういう理不尽が無いと物足りない。島に戻ったらカブトムシに挑もう。ああいう当たったら即死とかのほうが攻略し甲斐がある。
「ところで深海調査? のゴーレムってなんですか?」
気になったので聞いてみる。この世界も海底に油田でもあるんだろうか。
「コンテストに参加すると、他の人の出品も見ることが出来てね。ガルウィンド王国の技師が製作したっていう深海調査ゴーレムが鍛冶技術部門に登録されてたんだよ」
「へー。ガルウィンド王国なんてあるんですね」
「ここリソーストレイトを挟んで西に聖剣国グイネヴィア、東に侵略国家ドミナディ、そして北にガルウィンド王国、南がスティーラ女皇国があるんだ。
ガルウィンド王国側の海には凄く深い溝、いわゆる海溝があるらしくて、その調査用に海底の水圧に耐えられるゴーレムを開発していたんだって。それを今回のコンテストで盛大に発表したのは資金を集めたいからだそうだよ」
なるほど? 検査にでも海溝に派遣してみたら深海に棲むオールド・リバイアサンが邪魔になって、じゃあ調査ルートを探ろうかと思ったけど製造できた分だと時間が掛かり過ぎるから厳しくなったとか? へー……。
あれ? でもオールド・リバイアサンはグイネヴィア側の海岸で出現したんだよな? なんかおかしくないか?
少し考え事を始めた俺を置いてワーフガンドさんが俺の武器を取りに行ってくれたので暫し待機。その深海調査ゴーレムに対するセーベルさんの長話をBGMに思考を続ける。なんか後1つパーツがあれば全部繋がりそうなんだけどな……。
ん? フレンドメッセージ?
「ちょっとすいません。メールが来たみたいです」
セーベルさんに断りを入れてメッセージを確認する。高城から?
『From:バースライト
件名:ドミナディの無実証明成功
PVで侵略してたから怪しいけど、どうせ無実の証拠ぐらい用意していると踏んで調査してみたら少し前にリソーストレイトからの輸入量は変えずに両隣の国からの輸入量増やしてた。それにドミナディ方面の住人に聞いたけど侵略のスタンスになってからは橋を渡る馬車は見てないらしい。そこら辺をお偉いさんに話したら「ドミナディは今回の盗掘には関与していないか……」だってさ。
絶対怪しいよな? そもそも輸入量変えてないのは侵略する予定だったからだろうし。まぁ絶対プレイヤーに友好的じゃないドミナディの住民権手に入るのは今回くらいだと思うし狙いは完璧だったかな』
「いや絶対怪しいだろ……」
橋の中心まで軍隊動かして侵略しといて「盗掘してません」は無いだろ……。それとも証明できたくらいだし侵略してからでいいやって考えて本当にしてなかったとか? 怪しいわ。
「どうしたの?」
「あー、バースライトからです。何でもドミナディの盗掘疑惑で無罪を主張して説得できたそうです」
セーベルさんも怪訝な顔を浮かべた。分かります、相手は侵略国だからね。
「どうやって?」
「あんまり詳しくは書いてないですけど……両隣の国からの輸入量を増やしているからとかなんとか。わざわざ盗掘する必要が無いとか、警戒されている橋を渡ろうにも難しいからとか、そういう弁明の余地が残されていたらしいです」
「なるほど……」
「そいつぁおかしいな」
と、ワーフガンドさんが戻ってきた。手には銀色の鞘に入った柄の黒い長剣と鞘を着ける帯。多分ドラゴンの素材で作った剣なのだろう。さぁ受け取りを……。
「ドミナディの両隣ってことはガルウィンドとスティーラだろ? あそこはこの島よりも鉱山資源は少ない。だからこそうちからも買い取ってるんだ。それを輸入量を上げる? すぐに無理が祟って鉱山が枯れちまうぞ?」
そんなこと言われてもなぁ……。大体地理に詳しくないし。あー、でも輸出量を増やすための深海調査なのかな? レアメタルとかありそうだよね、深海って。
ん? 橋を使わなくても輸出出来そうだな。それこそ調査用ゴーレム使って海底を運ばせれば船より目立たずに資源を……まさか!?
「セーベルさん!」
「うわ! 何?」
「深海調査用ゴーレムって生産者なら全員知ってる情報ですか!?」
俺の剣幕に押されながらもただ事じゃないと思ったのかセーベルさんは頭を回転させる。
「えーっと、聞きたいのはプレイヤーが知ってるかだよね? うん、多分だけど少なくともコンテストに応募した生産職の人達と、資金が足りているパトロン希望者なら出品物は全部見られるからね」
「ワーフガンドさん! オールド・リバイアサンがガルウィンド王国側の海に棲んでるってのは有名ですか!?」
「あ? ああ、有名だな。そもそもお伽噺の世界の魔物だったオールド・リバイアサンがいたってんで噂になったからな。この島の住民なら皆聞いてるんじゃねえか?」
うわ、うわ、繋がりやがった! でも本当にそんなこと……。でもオールド・リバイアサンの素材に付いた切り傷が多分証拠だ!
「ワーフガンドさん、オールド・リバイアサンの素材に傷があるって言ってましたけど、俺の武器と比較して見てもらえませんか?」
「あ? まぁいいけどよ……ん? お前さん、使ったのは例の霊木剣ヤドリギだよな? それだけか? 他の武器は?」
「使ってません。傷と刃が合わないんですね?」
「ああ。こいつは木剣で付く傷じゃない。鋭利な剣で斬られた傷だ。一人で戦ったっつうなら間違いない。これは別の時に受けた傷だろう。だが古くは無い。まだ少しも回復してないからな」
その話を聞いて全部繋がった気がする。このイベントはコンテスト開催で終わりじゃねぇ! 開かれたコンテストを無事に終わらせるイベントだったんだ!
そして俺よりも早く答えに辿り着けるのは恐らく只一人……!
「セーベルさん、リージェスは今どこにいますか!?」
「コンテスト頑張れよって言い残して今朝どっか行っちゃったよ。多分また町の皆に話をしにいったんじゃないかな」
朝の時点でリージェスがまだ答えに辿り着いて無かったとしたら最後のピースはグイネヴィア側の海岸で手に入るだろう。さっきすれ違ってないってことは……合流できるか怪しくなって来たな。
「どうしたの?」
「訳は後で。出かけて来ます!」
「おいゼノン! これ!」
ワーフガンドさんが持っていた剣と帯を乱暴にふんだくる。メニュー欄からすぐに装備する。お辞儀とお礼をしてすぐに出なくては。
「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」
「おい! そいつは……」
何か言いたそうだったワーフガンドさんに背を向けて俺は工房を飛び出した。急がないと間に合わなくなる。なんせこのイベントのコンテスト開催は今日だからな!
大丈夫、間に合うさ。リージェスと合流さえ出来れば一番ネックな移動という点がクリア出来る! 頼む、リージェス、早まらないでくれ……!
「みゃう!」
俺の肩に掴まったフラムが腰に装備した剣を尻尾で叩いた。その剣はお前の父親の形見で……約束を果たす剣だよ。
竜血剣【ヴリスラグナ】 武器種:剣 評価:★10+
生半可な刃では竜を傷付けることはない。竜を断つ刃には竜の血と言えど錆び付かせることすらできない。しかし未熟なる剣が竜を討ったなら。それは竜の血に染まる剣となり、強さへの自負を得る。
歴戦の名を冠する竜の末路であり、死して尚紡がれる常在戦場の物語。この刃を握る者、幾千を斬り、万物を断ち、巨億を討ち果たせ。さすれば開花の前兆が見えるだろう。歴戦の名への道は遠い。
効果:攻撃力+359
敵の討伐時に経験値を取得。
スロットに専用のメモリアークを挿すことで【記憶装帰】状態に移行する。




