ゲイルムーヴ・ドリームライフ その12
「美味しそうなのがいない!?」
「みゃう……」
戦闘開始から30分、倒したモンスターは100を越えたと思うが、その中で食材アイテムは貴重品だった。大半がヒレとか鱗だ。捨てたい。
直線軌道で突進してくるテングウオっぽい『一角魚』に手を狙って飛び掛かるカワハギに似た『シーサイドスティーラー』にどう見てもデッドウェイトな巨大鋏の豪腕を振り回す『チェリストクラブ』は食べられそうなモンスター達だが、流石ゲームと言うべきなのかどう見てもゲテモノなのも何種類か見た。なんだよ『シーゴブリン』って、見た目溶け始めたブヨブヨな緑人間だったんだけどフツーにホラーだぞこの野郎、触りたくないのですぐにラピッドスラッシュで倒した。遠距離技が欲しい。
初イベントだからか第一レベル上限に達したアタッカーだからなのか、出てくるモンスターがほぼ瞬殺なのは物足りないのだが、こういうキモいのが相手だと助かる。
気になったのは状態異常モンスターの数だ。『ドレッドテンタクル』とかいう独特な触手を持ったイソギンチャクは当たったら毒状態になるし、『オーガマンタ』は見ると恐怖状態になるらしい、ソースは他のモンスターだ。必殺の魚シュート(ウィンドアンカーで掴んでモンスターを投げること)によって他のとかち合わせてたら動かなくなったモンスターが出たのだ。今はクラゲを見付けたら率先してシュートしている。お、麻痺った。便利!
フラムは俺の背中に捕まりながらちょくちょく火の呼気で止めを指しに行っている。名前無視してウツボみたいな顔した『シーコブラ』に果敢に噛みついてもいた。そいつ2メートルはあったよ? でかくない?
それにしても俺とフラムしか戦っていない。見物しているプレイヤーはたくさんいるのに。皆して見ているだけだ。住民を避難させてくれたプレイヤーには感謝だが。
何人か肉串片手に酒飲みながら見てるのは何なんだほんと……。
一人と一匹で維持し続けた戦線に大きな変化が起きたのは開始から30分を過ぎた頃だった。
それは柱のように巨大な水飛沫を上げながら姿を現した。自身が柱のような巨大、いや長大なモンスター。
《スタンピード・ジェネレイダー【オールド・リバイアサン】が出現しました!》
《スタンピード・ジェネレイダーを討伐して騒ぎを静めよう!!》
「グゴガァァァァア!!」
「おおー! 見ろフラム! シードラゴン的なの出てきたぞ!」
「みゃうー!」
渦を巻き上げて出てきたのはウミヘビのような長い体を持った30メートル級のモンスター。怪しく光る蛇の鱗は蒼く滑らか三対六枚の大きなヒレがある。しかし頭部は反対に飾り気はない。丸く鋼のように硬質な輝きを見せているそののっぺりとした顔付きはどこかで見たことがあるような……。
「なんだっけ、ダンクル、ティンクル? ああ、ダンクルオステウス! 始祖鳥が巨大化したと思ったら今度はダンクルオステウスが竜みたいになるなんてな!」
古代の海の頂点に立っていたとされる巨大魚ダンクルオステウス、その頭部を持った大海竜となれば強そうだぜ! そもそもダンクルオステウスの頭以外の化石は残りにくいらしいしこの見た目も案外的を射てるのかもな!
「フラム、一回海から離れておいてくれるか? ちょっとあれと遊んでくるから」
「みぅ」
「あっちのお姉さんたちの方に行っててくれ、な?」
「ふむぅ……」
あからさまにご機嫌斜め。不満そうな顔をするフラムだがこればっかりは譲れない。一人で勝てると言えない相手にフラムを連れていく余裕はない。そもそもこの服、猪装備と違ってフラムが掴まるような取っ掛かりが少ないし。
俺が譲らない態度を取っているのを察したのか、フラムは翼を使ってパタパタと海岸から離れて広場に向かった。あのお姉さんたちはさっきフラムをかわいいと言ってた人たちなので、きっとフラムを守ってくれるに違いない。
「さてと。リバイアサンは食えるらしいぞ。お前も食えるかな?」
世界の終末にリバイアサンは食べ物として食卓に並ぶらしい。最後にして豪華な意味の晩餐なのか終末を前に食べ物が尽きたのか、神話ってのはどうしてこう食べ物がビッグスケールなんだろうな。
蛇のように鎌首をもたげているダンクルオステウスシーサーペント、あるいはダンクルオステウスリバイアサンがその口を閉じる。ここから繰り出されるのは何度目かになる噛み付き攻撃だ。曲げた首(どこからが首かは知らないが硬質な鎧部分の付け根辺り)を引いた後に繰り出す空気ごと飲み込むような大技だ。俺ぐらいなら瞬殺だろう。でも予備動作が分かりやすい上に、俺に対して不向きだ。だから回避も容易い。
この噛み付き攻撃、食らったら一溜まりもなさそうだけど当たらなければどうということはない。そして口の中の確認も済んでいる。牙が無数に生えているということもなく、本物へのリスペクトがある口をしている。交合力も含めてなんだろう。
何故当たらないのか、それは《咆哮》による挑発で俺を狙いに来ることと、狙われている俺が空中を蹴っているからだ。装備の軽さも合わさって、身軽とはこの事だろう。重力も合わせて上下左右に移動できるのでまぁまぁ無敵だ。
「ん? なんか背中に火傷っぽい爛れた傷がある……もしかしてフラムのウィッシュスターが当たったのか?」
なるほど、海に落ちたのは失敗ではなく、強敵が海にいたから……とか? それはそれで便利なスキルだな、敵を狙えないという問題はありそうだけど。
おっとその眼の青い魔力、見えてんぜ!
「水の柱を乱立させるやつだな! 問題点を教えてやるぜ! お前自身に当たらないように立てているならそこが安全地帯ってことだろうが!!」
空を蹴って右上のヒレの根本を足で掴む。ウィンドアンカーが優秀すぎる。そして三対あるヒレも長さとしなやかさが足りないのかヒレにしがみつく俺を落とすことが出来ない。俺はその間に掴んだヒレを霊木剣ヤドリギ二刀流のスラッシュの連打でダメージを稼ぐ。
水の柱が消え、振り払おうとする動きに変えたのを確認してから俺は帯電する。こうすると麻痺にも似た行動阻害を起こすようだ。といっても一瞬のことなので過信は禁物、青い鱗相手に『壁蹴り』を使って海岸に戻る。
水の柱を乱立する行動後、海岸には様々なモンスターが打ち上げられている。中にはクラゲ、イソギンチャク、ハリセンボンのような刺々したモンスターまでいる。ということは……お分かりですね?
「敵の行動で攻撃手段が増える……少しイージーなボスっぽいな」
まぁ、ジェネレイダー? 引き起こす者? ならフラムのせいという訳でも無いんだろうし、予兆としてスライムの大量発生があったんだからイベントのシナリオ通りなんだろう。となれば少しイージーでも……ん? なんか違和感があるな。
とりあえず野球のようにかっ飛ばしたり、ゴルフのように吹っ飛ばしたり、サッカーのように蹴り飛ばしてオールド・リバイアサンに魚介系モンスターを当てていく。頭に当てても全然効いてないな。
「なんだ……? 違和感の正体は……不慮の事故とはいえ予定より出現は間違いなく早まってるはず……」
フラムのウィッシュスターが当たったからこのリバイアサンが出てきたのは間違いなさそうだけど……んー? そもそもスタンピードはプレイヤー一人の力で起こせるものなのか? 早まるとしておかしくないか? まだプレイヤーは海に対して無力なんだぜ? サーフィンとかは出来るみたいだけどそれはあくまで攻撃ではないわけだし。あーダメだ、取っ散らかってきた。そもそもの始まりから見詰め直そう。
もし仮に、スライムの大量発生を俺以外が発見したとしたら?
「普通なら武器素材にならないって話だし、まぁ売るよな。売るとしたらギルドになるはず」
俺もクワガタ素材はギルドで売ったからな。各種素材にならないモンスタードロップを売るとしたらギルドになるだろう。
おっと三対六枚全部のヒレが光った。新しい行動だけど海岸にいる俺に対しての行動なら遠距離系か? おお! 水の柱を鞭のように振り回してくるのか、相変わらず安全地帯がお前の懐だな、ジャンプからの「空踏み」で飛び込む!
「ギルドならスライムの大量発生がスタンピードの予兆だって当然知ってるはずだよな、なんせ鍛治師のワーフガンドさんも知ってるくらいだし。モンスターの専門家が知らない訳がない」
となると調査の依頼とかが始まるんだろう。それこそイベント限定のミッションなんてのはよくあるフラグだ。そこでプレイヤーのスライム討伐数の合計とかでトリガーになる?
今度は土手っ腹を両足で鷲掴みにして「アンカーフッド」発動、リバイアサンに体を固定して思いきり剣を打ち付ける。剣というより太鼓を叩くバチのように乱打すると流石に耐久回復効果のあるヤドリギでも耐久値が削られてしまった。代わりにダメージ倍率は高かったが。でも姿勢がキツいな、なんせ重力無視して横向きに立ってるし。
「俺以外にもプレイヤーが何人かいた訳だしスライム討伐が合計500とかか、旨味のないスライムの討伐数なら。プレイヤーの人数からしたら少ないか? いや、レッドネーム化を解決したりコンテスト参加するためにアイテム作ったりしてるし……。そもそも収監されてるプレイヤーもいるんだっけ。
ならギルドで依頼を受けるようなプレイヤーは少ない……いや、レッドネーム化しないよう採掘作業を避けるならパトロン目指すプレイヤーの資金繰りはギルド依頼になるのか」
おー、なんか繋がってきた。三段くらい飛ばしている気がするがこのスタンピードがイベントシナリオだとするとこの流れがしっくり来る。
つまりこのイベントは、
①このイベント『ゲイルムーヴ・ドリームライフ』は生産職向けのパトロン探し兼コンテストである。
②プレイヤーがパトロンになるためには潤沢な資金か素材の融通が必要になる。
③舞台である海峡国リソーストレイトは鉱石採掘が盛んだが、無断の採掘行為は新しい法令によってレッドネーム化し、捕まれば収監されて強制労働させられる。(採掘に従事することになるが四方四国の無実を証明すると条件達成で全て自分の物になる)
④プレイヤー(戦闘職)が③で需要と供給の崩れたことで生じた鉱石価格の上昇後に資金繰りをするとなると、モンスターを狩るか、違法行為となった採掘をバレないように進めるかのほぼ二択。(元々鉱石アイテムを大量に所持している場合を除く)
⑤スライムの大量発生から一連のスタンピードへ。
ということか。うわぁ、何がやべえってプレイヤーが一致団結とか絶対しないだろってことがヤベー。だって生産職は①のコンテストが目的だし、他のプレイヤーだって②のパトロンに興味がなければ参加する必要がない。パトロンだって旨味以外に義務が生じるもんな。そういうのが嫌だってヤツもいるだろう。
「帯電、からの離脱、おお、砂浜に向かっての噛み付き攻撃は初めてだなカウンターバッシュ得意なんだよオラァ!」
③と④もヤベー、なんせ密掘行為している国を突き止めれば恩赦どころか釈放一転大金持ちになれる訳だ。バレないように採掘するのも同じだし、鉱石アイテム大量に所持していたプレイヤーは逆に好景気でウハウハしながら有利な交渉でアイテム不足のプレイヤーのパトロンにもなれる。不足したままのほうが儲かるし妨害密告くらいならやらないわけがない。
自然と⑤に辿り着くプレイヤーは真っ当なプレイヤーだ。しかし旨味が少ないこと少ないこと……。スライム素材は安値だし、スタンピードが起きてるってことは解決したところでモンスター素材が値上がりするとは思えない。ギルドからの心証は良くなるが……それが役に立つのは今のイベントに間に合うのだろうか。ワンチャン、四方四国の情報ぐらいは貰えるのかな。それで無実を証明するとか?
「かくも人の世とは儘ならないものだ……。ああ、だからゲイルムーヴ? 風が吹けば桶屋が儲かる、なら疾風が過ぎ去ったらどうなるのってことか? 誰かしらは夢のような人生になるってか。
おっと、仰け反り硬直初めてだな、これチャンス? ダンクルオステウスって丸飲みするせいで棘のある魚に弱かったんだってな」
ほーら美味しそうなハリセンボンだぞー? ちなみに『ミルニードルクレイドル』って名前のモンスターだぞ、クレイドルって幼年期みたいな意味無かったっけな。子供なのかな? それとも揺り籠のほうかな? 鑑定スキルによると小さな体にも千の針が眠っているらしい。お前さんの腹の中で起きてくれるといいな!
「三匹いたからたんとお食べ、ほーら丸飲み丸飲み」
2匹投げ込んだところで硬直が解除されたのかこっちを睨み付けるリバイアサン。しかし取った行動は俺に対する噛み付きだ。それは……おねだりと捉えてよろしいか?
よく見ると円らな瞳をしているミルニードルクレイドルを前方に投げ、リバイアサンの口に入ったのを確認して……俺は「アンカーフッド」と「シンカー」そして「硬化」を発動して対の霊木剣ヤドリギを構える。
「ジャストカウンター!!」
ガキィィィィン!!
「ギィアァァ!?」
両手から放たれたジャストカウンターによる上顎を抑え付けるような一撃が決まり、特徴である顎へのダメージはリバイアサンを大きく弾き、尚且つ硬直を引き起こした。留まってくれたのはただの幸運なのだが、まぁその巨体を後ろに下がるほどでは無かったということだろう。止めと行こう。
「戦記降臨!」
戦記降臨、近くのモンスターを戦闘状態にするフクロウ狩りのお供になっていたスキルだが……相手はリバイアサンではない。名前からして寝ているかもしれない子供、リバイアサンの中にいる三匹の子供に向けて「バトルの時間ですよ」と、起こす為のモーニングコール。
「さぁ目覚めの時間だ。《起きろ!!》」
挑発効果のある「咆哮」によって目覚めた三匹のミルニードルクレイドル達。しかしそこは慣れ親しんだ海中でもなく、塩対応で打ち上げられた砂浜でもない。オールド・リバイアサンの体の中だ。
以下に巨体と言えど魚故に丸飲みしか出来なかったオールド・リバイアサンの体内で三匹の刺が突き刺さり……。
《スタンピード・ジェネレイダー【オールド・リバイアサン】が討伐されました》
《スタンピード……解決。
参加人数1/100人。想定人数以下での解決を確認。
特別報酬として『オールド・リバイアサンの古代硬顎が与えられます》
《オールド・リバイアサンの古代硬顎×1
大海竜の大鰭×6
大海竜の逆鱗×3
大海竜の背鰭×2
大海竜の大トロ×10
大海竜の中トロ×20
大海竜の白身肉×30
大海竜の鱗×30 を入手しました》
なんとも呆気ない幕切れだった。まぁ1回目のイベントって考えるとこんなもんかな?
「とりあえず食べ物たくさんありがとう、いただきます」
食物連鎖の頂点に、俺は立つ。
『風が吹けば桶屋が儲かる』とは
ある事象の発生によって全く関係のないと思われる場所等に影響が及ぶことの例え。一見すると無関係な2つの事柄が間に多くの事象を挟むと関連しているということ。
風が吹いて桶屋が儲かるのなら、疾風が運ぶのは夢のような日々かもしれない。




