ゲイルムーヴ・ドリームライフ その9
スライムが現れる。ぷるんと体表を揺らす目を持たない原生生物がこちらを見・る・。俺は視線に構わず木の棒を振り抜く。
スライムが倒れる。
《第一レベル上限に達しています。経験値がストックされます》
1匹目。ドロップは1個目の『水魔妖の庇護膜』。
「経験値がストックされるようになってる……」
スライムが現れる。ぷるんと体表を揺らす目を持たない原生生物がこちらを見る。俺は視線に構わず木の棒を振り抜く。
スライムが倒れる。
《第一レベル上限に達しています。経験値がストックされます》
今、45匹。ドロップは45個目の『水魔妖の庇護膜』。
「まぁ、レアドロップらしいからな」
スライムが現れる。ぷるんと体表を揺らす目を持たない原生生物がこちらを見・る・。俺は視線に構わず木の棒を振り抜く。
スライムが倒れる。
《第一レベル上限に達しています。経験値がストックされます》
今、116匹。ドロップは116個目の『水魔妖の庇護膜』。
「そろそろ辛くなってきた」
スライムが現れる。ぷるんと体表を揺らす目を持たない原生生物がこちらを見・る・。俺は視線に構わず木の棒を振り抜く。
スライムが倒れる。
《第一レベル上限に達しています。経験値がストックされます》
今、302匹。ドロップは302個目の『水魔妖の庇護膜』。
「待て、ドロップしないとかじゃなくてスライムが多すぎるだろ」
スライムが現れる。ぷるんと体表を揺らす目を持たない原生生物がこちらを見・る・。俺は視線に構わず木の棒を振り抜く。
スライムが倒れる。
《第一レベル上限に達しています。経験値がストックされます》
今、399匹。ドロップは1個目の『水魔妖の淡雪』。
水魔妖の淡雪
スライムの中でも魔力が高く、その貯蔵量も高いモンスターの中で生じる氷属性の魔力の結晶。積もらぬ雪が解けるが如く、儚く消える命がある。
「アイテム説明で情緒的にぶん殴るのやめて? 可哀想になるからやめてね?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
水曜日一日費やしても狙いの「水魔妖の魔核」だっけ? スライムの魔核は一切でなかった。で、フレンド登録していたセーベルさんから『武器と防具完成したよ!』との連絡が入ったので一時中断して工房に向かう。ちなみに工房の名前は【ワーフガンド鍛工技場】という長い名前だった。
私服という名のTシャツで街を歩くなか、声をかけられた。
「そこのおにーさん! おいしいものに興味ない?」
「む?」
おいしいもの? 興味あります。
声をかけてきたのは何て言うかこう……和風居酒屋とかでしか着ないような藍染めの着物を着た……茶髪の若い女性。うん、見た目が居酒屋のバイトじゃん……。
「この【兎の香草焼き】はお酒との相性バツグン! さいっこーのおつまみだよ!」
いや発言も居酒屋じゃねぇか!! 指差した屋台にも「立ち飲み居酒屋 居待ち月」って書いてあるし!!
「自分未成年なんで……」
「おいしーものに年齢なんて関係ナッシング! ほらほら味見どーぞ! ちっちゃい従魔ちゃんもどーぞ!」
「もぐっ!?」
「みゃぐ~!」
弾力のある力強い歯応えにハーブだろう強い風味が含まれていて確かに美味しい。だけどこう、刺激が足りないような気がするし、ハーブでは誤魔化せない臭さがあるな。それに焼いているものを外気に触れる広間で屋台のように売るからには仕方ないのだろうが……少し乾き気味だな。
「むー?」
「フラム、どう思う?」
「みゃうみゃう」
首を振るフラム。そうなんだよな、ちょっと物足りないよな。それにしても随分と舌が肥えてしまったようだ。一人で野生に帰れる?
「お姉さん、焼く前のウサギ肉って残ってますか?」
「え?」
「ちょっとアレンジしたいんですけどいいですか?」
「え? 待って、いいけどフレンドにならないと泥棒になっちゃうから!」
「あ、そうですね」
はいフレンドになって……よし、じゃあキッチンというか屋台を借りてと。香蒜茸や紅辛子椎茸を使うのは素材の力に頼りすぎているから……よし、この間買った素材を使おう。
ちなみに包丁も買った。無人島じゃ使うような獲物はモンスター以外のタコとか魚くらいだけど。
「まずはウサギ肉を……ブロック肉なんだな。拳大に分けてからそれぞれに切り込みを入れていく。塩とハーブを混ぜておいたものに、料理酒あるの? いいね……これを回しかけてよく揉み込む」
「みゃう」
「やっぱり血が出てきたな……」
これ、【サバイバル料理人】の効果なのか血抜きをすることを思い付いたんだよな。それからは毎回こうして血抜きから始めている。猪肉もこれをやった方が★が増えるのだよ。
「水で洗って。串に指して置いておこう」
とりあえず10本作った。このまま火を消した焼き鳥用の鉄久だっけ? のついたコンロに置いておく。水と一緒に残った血も落ちるでしょ。
次はタレだな。塩も好きだけど外の屋台で焼くならタレのようなコーティングが欲しい。乾いちゃうからね。でもせっかくなので塩ダレにしよう……なんか思い付いちゃった。
「長ネギを大きくぶつ切りにしておいて、しょうゆはまだ無いんだよな?」
仕方ない……買っておいたナンプラーとみりんを混ぜてそこに料理酒を足す。混ぜたボウルにネギを投入して漬けておく。
すりおろしたニンニクにレモンの汁を混ぜて、更に胡麻油の代わりに【焼き薬草種の油】を適量混ぜる。このシードリップオイルは生だとオリーブオイル、焼いたものは胡麻油のような匂いなんだよ。使うのは初めてだけど。ちょっと値段が高いけど。クワガタくんの素材は色んなものに化けているなぁ。しみじみ。
さて、塩ダレが出来上がったので焼いていこう。まずは串に刺して血抜きしていたウサギ肉を一口サイズに切りなおして、漬けておいたネギと交互に指す。ウサギ肉3に対しネギが2になる。ねぎまは肉が主役、というよりはネギの方が少ないし高価なので。
「てなわけで焼きます。全部並べてまずは片面を焼いていきます。焦げ目が付いたくらいで裏返して……」
「うんうん」
「塩タレをハケで一列に塗っていく。楽なのは串ごとディップするように浸ける方法です。今回はネギの味付けを変えているので横一列ずつ塗っていきます」
「なるほどなるほど」
「裏も焼けてきたらさらにタレを塗って、また裏返しにして焼き目がついたら完成!」
「みゅぅ~!!」
パチパチと手(翼のついているほう)を叩くフラム。器用だね。
【ウサギ肉のねぎま焼き】 食品:★7
野性味溢れるウサギ肉は丁寧な下処理と塩だれによってそれだけでも旨味が際立つ。さらに焼けた魚醤の香ばしさとネギの香りがウサギ肉と調和する逸品。
効果:【敏捷値1.5倍】
お、★7とはなかなか。レアアイテム無しでこれは結構高いのでは?
「さて、味見。いただきます」
フラムは串から外したやつを。ネギも食べなさい! おいしいから!(多分)
「みゃ~……はむ!」
「わ、わたしも!」
ふむ。さっきまでの肉と比べると臭みも殆どない。少し残った血抜きの時のハーブの香りがまたいいアクセントになっている。魚醤に漬けたネギも焼いたことで香ばしくて塩ダレのウサギ肉を飽きさせない。魚醤が濃いほうがお酒には合うのかな? そもそも飲めないけど。
「みゃう~!」
「お、おいしい! 何これ!? ほんとに同じ素材なの!?」
フラムは気に入ったみたい。お姉さんには驚いてもらえて何より。まあ、これでも? サバイバル料理人ですし? 威張れるのか? この称号……。
「このレシピはご自由にお使いください。塩ダレだけ、魚醤だけとかのほうが作るのは楽だと思いますので……それでは~」
「あ、え!? あ、ありがとうございましたー!」
居酒屋バイト風のお姉さん、確か名前は……ガトーショコライトさんに別れを告げてワーフガンドさんとセーベルさんが待つ工房へ向かう。
うん、料理したから少しだけ気分が落ち着いた。スライムはしばらく見たくないなー。
まだ魔核出てないから明日もやるんですけど!




