ゲイルムーヴ・ドリームライフ その7
今年は更新頑張ります。
頭を下げたリージェスに思うところがないわけではない。PVを見たときには確か兄弟子はプレイヤーだった。けど、師匠はNPCだ。
その師匠にも力を貸して欲しいと頭を下げるリージェスと俺は恐らく根っこが似ている。ゲームだからと割り切りつつ、NPCだからと割り切らない。同じ考え方をしているプレイヤーは大勢いるだろうけど、これだけでもリージェスを信用しても良いと思える。
それぐらい大事なことだ。
「力を貸すってどうやって?」
「アイテムを売って欲しい」
アイテム……? あー、なるほど、そういうことね。完全に理解した。
と俺が何かを言う前にバースライトが答えを出した。
「猪なんかの素材が高レアリティだから、ですね」
「おう、多少の魔金属を使うことにはなるがまず間違いなく安く良いものが作れるだろうからな」
なるほど、素材か……武器素材になりそうなクワガタの顎はさっき売っちゃったけどまぁ犬とか鳥なら結構あるし大丈夫かな。
フラムが『肉はだめです』という顔で俺を庇うように二足で立ちながらリージェスを見ているが、サイズが小さすぎて気付かれてないよ。後、二足で立つの辛いでしょプルプルしてるじゃん。
「オッケー。そういうことなら力になれると思う」
「ありがとう、恩に着るぜ!」
そんなこんなで、リージェスの間借りしているという工房にGO!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「師匠、無理ですよぉ……スライムで武器なんて……」
「バカ野郎! お前が『普通のモンスター素材じゃ勝てないんです』とか抜かしたんだろうが! 大体お前程の腕なら普通の素材で優勝できるって言ってるだろ!」
「無理ですよぉ……大体なんでスライムってこう柔らかい素材しか無いんですか……」
「そういうモンスターだからだろうが!」
「プニプニ……何でこう使い勝手の悪い素材が武器素材になってるんですか……」
「いいか? スライムってのは脆弱で貧弱だがコアだけは守ることができている。それがこの【水魔妖の庇護膜】による空気浸透を防ぐ……」
「あれ? リージェス帰ってたんだ」
「何ぃ!? リージェスだと!? てめぇどこほっつき歩いてんだ! まだ借金の返済終わってねぇだろ!」
何この場面……。髭面の色黒筋肉質おっさんと気弱そうな青年が言い争いをしていて……。喜怒哀楽というかテンションも含めて話題転換が激しい。さすがに状況理解に苦しむな。よし、そこへの疑問は飛ばそう。聞き逃さなかったところに食い付くとしよう。
「リージェス借金あるの?」
「マギアゾートの無断使用が借金したことになってんだよ」
マギアゾート? うーん、聞いたことあるような無いような。
「たな……んん! ゼノン、PVでバイクに使った素材のことだよ」
「なるほどなるほど?」
そんな名前でしたっけ。もう一度見直したほうがいいかな、これ。後てめぇこの世界に早く慣れろ。俺は慣れるまでお前の名前は呼ばん。顔が一緒だと慣れるまで時間掛かりそうだなぁ……。
何分私、文明から遠い無人島から出てきたもので、時世には弱いのです。かといって置いていかれるのは癪なのでどうにか会話のマウントポジションを取りに行きたい。戦闘も会話も一緒、上を取った方が経験上有利になる。引っくり返したければ度肝を抜かせるしかない。
会話ならほら、この通り。
「これで武器を作って欲しい」
近くに作業台があったのでそこに置くことにした。取り出したるは食用以外の梟素材各種に『夜雀吞梟』素材と取り敢えず同じ鳥と言うことで『流鏑覚』の素材と……なんだっけこれ。あー、そうそう『イッテントッパ』の素ざ、い?
腕を掴まれた。
「お前さんのこれ……メモリーじゃねぇか」
「メモリー……?」
メモリーってなんか聞いたことがあるな。英語の授業とかじゃなくこのゲームで。イッテントッパのやつじゃあ無いんだけど……ああ、そういえば。
その前に確認しとかないとな。腕を振りほど……けない!? なんつう怪力だ、筋肉質おっさん。めっちゃ筋肉質なんだけど。
「メモリーってなんです?」
そう聞いたのは俺ではない。俺は今どうやってこの腕を解放するかしか考えてないからな。思いっきりガンつけてるのにおっさんは俺の手に握られた【千鳥駆のメモリー】をガン見しているので気付かれてもいない。このメモリーとやらの見た目は半透明な翠色の羽根だ。綺麗ではあるけどガラス工芸としてお土産屋さんで売られてそう、って印象ですね。
「メモリーってのは記憶よ」
……そのまんまでは?
「名を持つモンスターが落とす唯一の素材でな。ただの武器素材と違って、モンスター固有の特殊なスキルを発現させやすい。が、メモリーを落とすようなモンスターはその環境でかなり上位のモンスターのはずだが……どうやって手に入れた?
それにお前さん、……何者だ?」
そういえば自己紹介がまだでしたね。これは失礼。腕を振り切って! ちょっと跡付いてるんだけど……。
「俺はゼノンです。こっちはフラム」
「みゅ!」
「あ、俺はバースライトです」
「おう、俺はワーフガンド。こっちは弟子のセーベルだ」
「名前はセーベルガーです。よろしく」
「師匠、ゼノンはコンテストの助っ人だぜ。この素材を使えば軽く優勝できるだろ?」
晴れやかな笑顔でワーフガンドさんに近付いていくリージェスだったが……ワーフガンドさんはその拳を固く握り締めているし、その拳は震えている。危機感。
「バカ野郎がぁ!!」
ゴッ! パァァン!
轟音、そして爆音とも言うべき踏み込みと振り抜きによって、リージェスは頬を殴られ吹っ飛んでいった。
「3人くらいまとめて殺れそう」
「フラム、頭にしがみつくのやめて。震えのせいで変な感じにシェイクされてるから」
「ぴぅ…………」
怖がる気持ちは分かるけど。大丈夫、多分こっちには飛んでこないよ。来ないと信じなきゃ会話できねえわ……。
「リージェス、おめえさんの気持ちは嬉しいけどな、どの道こんな素材見せられたらコンテストどころじゃねぇよ」
「リージェス聞こえてるんですかね……」
思わず敬語になってしまった。まぁ見るからに年上だしいいか。そしてリージェスは壊れた煉瓦の中で微動だにしていないのだが……まぁポリゴンになってないし大丈夫かな。あ、フラムが瓦礫から出ているリージェスの渦巻いた前髪に触りに行った。ずっと気になっていたのだろうか。
「メモリーって武器素材になるんですか?」
「いや、アクセサリー素材になる。が、その歴史が長ければ長いほど、つまり記憶される生きざまが多いほうがより強力なものが作れる。それには過去視のスキルと確かな実力がいるが……俺なら問題なく作れるぜ」
ニカッ! って感じの笑みを浮かべるワーフガンドさん。武器職人的って見た目だけど作れるんだな。頼りにしても良さそうなんだが……じゃあこっちも出来るんですかねと悪い顔になってしまうなあ。会話の主導権は俺が貰うぜ。
俺はアイテムボックスから大事なものを取り出して見せ付ける。それは俺の記憶に焼き付いたあの姿が彫られた一枚の板。
「なら、こいつでそのアクセサリーを作ってもらえませんか?」
アイテムの名は『歴戦竜のメモリー』。俺の胸に刺さった2つの杭、その内の1つだ。もう一個は奥さんのことだけど、アイテムを遺してくれなかった。でもこれなら一緒にアークファウンと戦える。
「なん、だそいつは……」
「フロッピーディスクみたいだ。へー、ちょっと触ってもいい?」
手を伸ばしたくてウズウズしているセーベルガーさんに頷きで返事をする。フロッピーディスク? って何だろう。
それを聞く前にセーベルガーさんが歴戦竜のメモリーに触れる。その瞬間、その目に火花が散った。何それ!?
「痛っ!?」
「大丈夫ですか!?」
目から火花が飛び散るって何!? 怖い! 目が光るって物理的な意味じゃないでしょ!?
頭を押さえながらセーベルガーさんは辛そうに言葉を漏らす。
「何これ……ドラゴンと、炎の鳥、赤い、ドラゴン……?」
「バースライト、これどういう状況だと思う?」
「バグじゃないと思うけど……こんな情報は聞いてないね」
もう一人のプレイヤーであるリージェスはまだ復活しないのでバースライトに振ってみたがやはり知らないようだ。うーん、目から火花が出たら誰だって運営に問い合わせるよなぁ……。そうでないとすると……。
その答えはいつの間にかメモリーを俺から奪っていたワーフガンドさんからもたらされた。このおっさん何者? 動きが全部速くない?
「こいつは尋常じゃあない記憶の量だ。こんなもん触れただけで並みの鍛冶師なら頭がパンクするぜ……。
喜べセーベル。お前さんも過去視のスキルを手に入れたってことだ」
お? 過去視のスキル? さっきメモリーを使ってアクセサリー作るには必要みたいなこと行ってたよね? ならセーベルガーさんも作れるようになるってことかな。
ワーフガンドさんが真剣な顔で俺を見た。
「なぁお前さん。ゼノンって言ったか」
「はい」
「このドラゴンを……歴戦竜のメモリーで見せられたんだけどよ、このドラゴンを倒した剣があるな?」
「倒したわけじゃないです」
あれはドラゴンの自殺だ。俺は何もしていない。何か思惑があったのか、それともアークファウンに倒されるのを嫌ったのかは分からないが……。俺は倒してない。それだけは譲れない。
俺が若干語気を強めたのを察したのか、ワーフガンドさんは頭を下げた。
「すまん。言い方が悪かったな。
折り入って相談があるんだ」
「相談?」
「ああ。俺にその剣と、このドラゴンの素材を鍛えさせちゃくれねぇか」
ワーフガンド氏曰く、生半可な刃では竜を傷付けることはない。だがしかし、竜を断つ刃には竜の血と言えどその刃を錆び付かせることすらできない。しかし未熟なる剣が竜を討ったなら。それは竜の血に染まる剣となるだろう。竜を討ち竜の血に染まる剣は最上級の業物となる、という言い伝えが鍛冶師の中であるそうで。そしてそれを鍛えるのが自分の夢なんだと。
竜と剣のパラドックスというらしい。竜を斬る為には業物の剣が必要だけど、業物の剣は竜の血に負けることが無い。竜の血に染まるような剣ではそもそも竜を斬れないし、ただ竜の血で染めても錆びるだけで意味はない……と。
「つまり、ビギナーズソードと歴戦竜の素材で新しい剣を造るってことですか?」
「いいや違う。その剣を鍛えるんだ。分かりやすく言えば、強化するってことだよ」
ほう? ビギナーズウェポンはもう装備出来ないからどうしたもんかと思ってたけど、なるほど強化、その手があったか。
……他の武器たちも強化して下さいって言ったら流石に図々しいかな?
問題があるんだ、とワーフガンドさんが前置きをして話を続ける。
「ただ今すぐとは言えない。その強化をする炉はあるが火が弱過ぎる」
「火? そうなんですか?」
「ああ、原初の火でもなきゃドラゴンの素材なんてとてもじゃないが手の打ちようがない」
原初の火? ん? なんか聞いたことあるような……無いような。原初、始まり、最初……開祖……祖? 祖の火? 違うな、炎の祖だ。
「あの、それってこれですか?」
俺はアイテムボックスから、未だに燃え尽きていないビギナーズプレートアーマーを取り出して見せる。これ持つところ間違えると俺に火が移るんだよね。
「お? お? おおおお?!?!?!!」
大興奮と混乱で触れて確認しようとしてるけど待ってワーフガンドさん! 死んじゃうから! 待って! マジで! こんなんでNPCキルしたくないから!! あーもう、【コフィン】!
その後、原初の火への興奮を落ち着かせるワーフガンドさんと頭痛に苦しんでいたセーベルガーさんと瓦礫に埋まっていたリージェス、全員の会話が成り立つまで10分は掛かったのだった。




