ゲイルムーヴ・ドリームライフ その6
服装と髪型(俺の場合はリアルのままだけど)をバカにされて黙っている俺たちではなかったが、バースライトの言葉はまだ続いた。
ちなみに白面は試合の時から外しているのでこの男はリアルの俺に向けて言っているようなものだ。面と向かって言いやがるとはなぁ高城ぃ……。
「ただでさえ時代が遅れ気味な中世世界で更に時代に遅れることってある?」
「異議有り! 俺はレベルカンストでトップを行くプレイヤーだぞ! つまりは俺が最先端!」
「俺の愛機【羽流登賦鯉兜】は大の男三人乗せようと速度を落とさない馬力の持ち主! 文明開花のその先を行くこの声を聞けぇい!」
ドュルン、ドュルルルルン! とがなる声はここがゲームの世界ではなくどこか公道に隣接した住宅街であると錯覚させるほどに近代染みたもので……感動すら覚える。
「すげぇ! もうほとんど本物なのでは!?」
「だろう!? 拘りに拘った試作第1号機よ! にしても猪の頭を着るたぁお前ファンキーだな!」
「だろ!? お山の大将にも認められる大物を打ち倒した証なんだよ! 重さは張るが直進行動に補正が入る最先端装備だぜ!」
「マジか! いいよなぁ猪、その強靭そうな牙を俺の愛機にも付けてみたいぜ!」
「猪の骨なら余ってるよ」
「マジか買わせてくれ、いくらだ?」
「相場分かんないなぁ……」
これが大腿骨で、これが肋骨で……
骨にも効果あるのか!? 凄いなこれ……
空気抵抗軽減(大)が骨にあってもって感じじゃない?
アンデッド化したらより速くなるとか?
死んでも猪突猛進なの?
イカすじゃねぇか!
あっはっは!
「いや、なんで意気投合してんの」
バースライトが不思議そうな顔をしているが……はて、初対面というには同じぐらい破天荒なプレイヤーなもので。不思議と息があうんだよなぁ。ん? 同じ……
「「そういえば動画の」」
「「「「「「「「今さら!?」」」」」」」」
おおうっ!? なんかバースライト以外の外野からも驚きの声が聞こえた!?
「そんなこと言われてもそもそも動画は自分の所は飛ばしたしなぁ……」
「だよな。自分が映ってると思うと1回見たらいいほうだろ」
うんうん、分かるわー。俺の場合良い思い出じゃないし。
なんだろう、見た目は絶対に仲良くなれないようなヤンキースタイルなのに、凄い親しみが持てる。
「俺はゼノン、よろしく」
「俺はリージェスだ。そしてこっちが羽流登賦鯉兜」
「あ、そっか。ちなみにこの子がフラム」
「ふみゅ!」
忘れててごめんね。猪服の襟から出てきて挨拶するフラム。そしてフラムはバルトフリートに飛び乗り、てしてしと叩く。それ、挨拶?
悪乗りしたリージェスがエンジンを空吹かししたので唸りを上げたバルトフリートの挨拶に「ふみゅ!?」と驚いてフラムは慌てて襟のなかに戻っていった。バイクに驚くドラゴンとか、貴重映像では?
「ちっちゃいけど見た目はドラゴン……。あれか? 例の黒と白のドラゴンの子供か?」
「PVにどう映ってたかは分からないけど、そうだよ」
「なるほどな……。良い面をしてるな」
今のフラムが? バイクにぎょっとしただけだけど……。
と思ったが、リージェスの目はじっと俺を見ていた。そこには不快な勘繰りも、警戒心も無く、しっかりと俺を捉えていて……なんというか、真っ直ぐだ。
人間なら誰だって『見る』という行為には感情と思考が伴う。警戒や疑い、興味や好奇心なんかの嫌悪の目になるのが普通だ。
だけどリージェスにはそれが無い。今の俺を見た、それだけだ。
何て言うか……大物っぽい。俺がどんな人間だろうとも、己の道は変わらない。そういう自負を感じる。
そのリージェスが俺を高く評価している。
「動画じゃあ悲惨そうな顔から一転、滾る熱そのままっつう感じだったけどな。なるほどな。熱を外に出さないタイプか」
「あの始祖鳥に向ける熱を他所に漏らす訳無いだろう?」
因縁というよりは目標なので。
というか今はそこより大事なことなかったっけ……えーっと? ん? 首の凄い曲がった人が……誰だ! こんな酷いことしたの!
「そういえばリージェスさん」
「呼び捨てで構わねぇよ。俺なんかに丁寧にされても困っちまわぁ」
豪快な性格だな、リージェスさん。いや、リージェスか。
「じゃあ、お言葉に甘えて。それでリージェス。キーロを庇った訳をそろそろ教えてよ」
「ん? あー、そうだったそうだった。まぁ誰を庇うっつう訳じゃないんだけどな。
イベントに進展があったんだよ。それがこの……」
リージェスはキーロの頭の上、その赤く染まったプレイヤーネームを指差す。
「昼からやってた連中は軒並みレッドネームになった。このイベントはただのコンテストじゃ終わらないんだよ」
神妙、というには明るい顔で言い放ったリージェス。聞いた側としては反応に困るのだが……まぁ、聞いただけでも軒並みレッドネームってのは穏やかじゃないなぁ。
イベントに付いて、詳しく聞いておくか。
「その前に、この首折れ坊主を教会に置いてくるぜ。いいだろう?」
それは確かに。
まー正当防衛だけどね、一応責任あるし(犯人ともいうし)、俺も着いていくか。ついでに服買いにいきたいな。資産なら多少はある……ん?
そういえば初期のままじゃん! 猪の骨はリージェスが欲しそうだから取っといて、とりあえず他のアイテム売ればなんとかなるか?
待て、暫くカブトムシは倒せないから大事にしたい……これは犬、クワガタ、ナマズ、フクロウの素材を生け贄に……。
うん、話の前に普通の服着たい。というかこの格好で那智さんと顔合わせるのはさすがに避けたかったので願ったり叶ったりということでどうか一つ買い物へ……。
ん?
「どうした?」
「いや? 別に。
俺も話聞いときたいし、パーティメンバーに連絡しとくよ」
何処か遠くの方を見ていたバースライトだったが、気持ちを切り替えたのかパーティメンバーに連絡した上で付いてくるらしい。ま、いいか。
「クワガタの顎ってどこで売れば良いの? ショップ?」
「武器素材なら武器屋。服飾素材なら服屋。それ以外はギルドの方が高く買い取ってるけど……クワガタ?」
重石にされ、避雷針にされ、挙げ句売られる。クワガタたちもきっと草葉の陰から見守ってくれてるはずだ。
このケースだと悪霊の類いじゃない?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【王猪肉の回転削ぎ焼き】 食材 評価:★9
服数種のハーブで漬け込んだ薄切りの猪の肉をまとめて鉄串に刺し、回転させながら焼き上げた。削ぐようにスライスされた肉によって一口で香ばしさと旨味が口の中に広がる一品。
効果:【直進行動に加速補正(長)】【動体視力補正(大)】
【王猪肉のドネルケバブサンド】 食材 評価:★6
服数種のハーブで漬け込んだ猪の肉を焼き上げスライスし、レタスやキュウリと共にパンで挟んだ一品。
効果:【直進行動に加速補正(短)】
「マジか、こんなに下がるんだ」
リージェスが教会に首折れ坊主を連れていくと、レッドネームということを理由に癒しを断られそうになった。だがリージェスというプレイヤーはどうやらこの町リソーストレイトでは有名らしく、回りのNPCからの取りなしがあったために教会のお偉いさんまで話が届いたようだ。そのお偉い神父が条件として出したのがリージェスの同伴だった。
時間が掛かるということで俺とバースライトはギルドに行ってから近くの露店を周り色々と買い物をした。ナイトソースタッグの素材だけで20万マニー稼げた。お陰様でこうしてまともなTシャツを買い、食材を幾つか買って作りおきをアレンジすることができていた。
ありがとうクワガタ。また遊ぼうね。
「どう? 野菜はおいしい?」
「みゅぐ? みゅ……」
羽の付いた前足でがっちり掴んでかじりついていたフラムだが、どうやら野菜は好みでは無いらしい。それでも手放さない所を見ると、ケバブサンドは気に入ったようだ。
こういう細切りのキュウリは食感のアクセントに良いんだけどなぁ……。うん、おいしい。
「……すごくうまい」
「だろ?」
「え? 料理とか出来たの? お前……」
「できますけど? スキルあるし」
「いやスラッシュ系統だと思うけど、木の棒でキュウリを空中で細切りしたときはただの曲芸だったよ」
【スラッシュ】系統と【切り返し】【二刀流】と【リブート】が噛み合えば割りと空中調理は簡単だ。島では衛生管理とかほぼ出来ないから安全な場所が空中なんだよね。ちなみにフラムはこれを見るのが大好きだ。島だと主に切ってるのは生肉だけどな……。猟奇的ですわ。
「待たせたな」
「待ってたよ。これどうぞ」
「おう、丁度空腹値が下がってたところだ」
かれこれ一時間経ってるからなぁ……そんなに掛かるのか? 治療って。
ちなみに俺達が別れて待ってた理由はフラムがいるからだ。分類的にはモンスターだからか教会信者の見る目が……ね。二度と行かねぇ。『お前の格好にドン引きしてんだよ』とバースライトが言っていたが、見た目で判断するようなら尚更行かねぇ。
「うまい! 今までで一番うめぇな。何の肉だ?」
「猪」
「マジか、リアルでも食ってみるかな」
ジビエ肉はリアルでも少し遠い存在だよね。
「それでリージェスさん。キーロはどうなったんですか?」
「一応治療は済んだ。ただプレイヤーのレッドネーム化は教会でも把握してないらしくてな。他のやつらは受け入れてなかったぜ」
「他に回復手段って無いの?」
「今ある回復手段は魔術師の回復魔法とポーションくらいで、部位欠損の類いはリスポーンするしかないよ」
へー、なんとも不便な。
「おいこら犯人、聞いといて聞き流すな」
だって襲われたから防御しただけだもの。過剰かもしれないけど。
「それでリージェス、イベントに先に参加してた奴等がこうなった理由は? さっきは知ってるっぽかったけど」
「ほぼ間違いないってだけだ。俺はこの国では顔が利くんだ。じいさんばあさんから悪ガキまでな。そこで聞いたのがプレイヤーの行った場所とこの国の法整備についてだ」
「「法整備?」」
俺とバースライトの疑問にリージェスはケバブサンドを食べきってから答えた。
「その法整備の一貫として、権利の無い者が採掘を行うことを禁じるとした。そしてその罰がレッドネーム化だ。
これはプレイヤーだけじゃなくNPC、この国の住民も同様だ。結果、コンテストに参加したくとも金属も鉱物も価格が高騰しちまって手が出せないっつう事態に陥っている」
そう語った男の顔は、プレイヤーでありながらNPCのことを真剣に考えていることが分かる程に精悍な顔付きで。このリージェスという男はどこまでも真っ直ぐな目をしていて、思わず引き込まれるような独特の迫力と威圧感がある。
リージェスにあるもの、それは自分が背負う物を絶対に守り抜くと決めている覚悟だ。
「国の偉いさんには俺でも会えない。だがこのままイベントが進むとなると困るんでな。特にゼノン、お前には頼みもある」
「頼み?」
「ああ」
そういうとリージェスは停めていたバルトフリートを指差した後、俺と目を合わせて姿勢を正した。そして真剣な表情で言葉を紡いだ。
「俺の愛機を一緒に作ってくれた師匠と兄弟子を、助けてやって欲しい」
この街に愛され、このゲームでも先頭を走る威風溢れる男が、俺に向かって頭を下げた。




