ゲイルムーヴ・ドリームライフ その5
仕事の忙しさを言い訳にしてしまいました。申し訳ございません。
イベントについても進展しますので暫しお待ちを。
お互いを餌として自分は釣竿、そんなこんなで罠を張ることにした俺たちは距離を取った。不自然に見られないように会話を続けつつ距離を広げていく。
「歩くの遅くね?」
「この服が重いんだよ。そして敏捷値はほぼ上げてない」
「マジ? 敏捷値いくつ?」
「えーっと……あ、そうか。一回上げたから15」
「思ってたより低いな。軽戦士ビルドだとレベル15時点で最低20は欲しいのに。あんな動きできてんの?」
「動きって言われても。強いて言えばお爺ちゃんとのチャンバラをずっとやってたからかな」
「何それ」
「お互いに同じ武器を持って円から出てはいけないルールでチャンバラしてたんだよ。一度も勝てたこと無いけど」
幼稚園くらいのときからずーっと。昔はお爺ちゃんのことを侍だと思っていたが、実際に指導を受けたこともない我流だそうだ。ちなみに若かりし頃に剣道の大会で優勝した時のトロフィーはお爺ちゃん家の専用の部屋に飾ってある。その周りには合気道に柔道に空手にジークンドーにテニスにバスケに……たくさん置いてある。
ボディービル大会の盾とスポーツクライミングのトロフィーだけ玄関にあるのはお爺ちゃんが自信を持って誇れる物だかららしい。
「敏捷が低くても次に何をするかの思考と判断が早ければ、同じステータスでも動きが違ってくるだろ? そういうこった」
「なるほどね」
お爺ちゃんは自己流で奥義を編み出している。奥義と言っていたのはお爺ちゃんと同じくらいの年齢の有段者のお爺様方だが。中でも驟雨は凄まじいと。自分の動きを一度も止めない、流れるような体捌きは若いときよりも洗練されているとかなんとか……。
お爺ちゃんはすげぇ! で良いのかな。たぶん。現実の戦闘職の考えることはよく分からないので……。
「……! 来たよ」
「オッケー……っと【ランパート】!」
バシュゥン!
咄嗟の判断で俺はアークライトを守った。
背後から近付くもう一人の男に……とかやろうとしたら《大山猫の眼》が魔力を捉えたからだ。おかけで後ろへの対応が遅れてしまった。
ガキィン!
あれ?
「なっ! 属性付与の剣だぞ!?」
「そういえばこの服、防御力100越えてるわ」
「嘘だろ今の相場40くらいだよ。後、ガードサンキューな」
「へー、そうなんだ」
適当に作った装備が現状の武器を完全に上回っている……。この感覚、これが優越感……??
「そういえばキーロくんじゃん、闇討ちは夜にやるもんだぜ?」
「っ! うるさい!」
ゲームだからこそネームが表示される。そのネームで正体はバレているわけだが……。襲撃者は知り合いだった。
そんな、襲われるような心当たりは……あるな。大勢の前で晒し者にしちゃったからなぁ……。今思うともう少しやり方があったかなと……瞬殺してあげるべきだったのかなと……少し罪悪感。
だからと言って俺が悪い訳ではない。スキルを見せて欲しいと言われたから見せたわけで、勝ち負けは二の次だろう? 恨まれても困る。
「お前が! ショーガさんをバカにした! こけにした! その舐めた態度が許せねぇんだよ!」
尚食いかかるキーロ。その剣の切っ先は乱雑で一切練習していないものだと分かる。まぁ弓術士だったからだろうが。魔術付与の剣ということはお値段はそれなりに高いだろう。宝の持ち腐れだな。
後でアークライトに聞いた話だが、遠距離からのPK行為はより罪状値が増えるらしい。未遂だろうとそれは同じだと。……その理屈で言うとお前に対する狙撃はそのギルトが上がることを厭わない狙撃というわけだが。何したんだおめーは。
「ん?」
何だ? 表示されているキーロの名前が白から黄色に……そして赤く色付いていく。え? 赤ってPKしないとならないんじゃ? まさか俺は知らないうちに死んでいた!?
そんなわけあるか。
剣を振りかぶるキーロの懐に体を横に向けた低姿勢で踏み込む。まるで馬跳びのような姿勢だが……続きがあるのだ。右腕を曲げて肘でキーロを持ち上げるように上半身を捻りながらジャンプ。すると前進していたキーロは重心が前にあるのでその勢いのまま頭から落下する。俺はというと空中で横向きに回転し、その頭目掛けて回し蹴りを決める!
これぞお爺ちゃん直伝(見せてもらっただけ)! ゲームの世界でしか許されない禁じ手!
「巴落月!」
「ぐぶぉえ!」
決まったぜ。
「何それヤバ……」
「お爺ちゃんがアトラクトファームでやってた技。柔道の体落としと巴投げから考えたらしいけど……現実だとほら、下手すると死んじゃうから」
「頭から落ちてるからなぁ……」
「蹴りを入れるのはあのゲームだとゴーレムのコアが頭にあるからです」
「キーロくん首折れてるよ」
嘘ぉ!? ほんとだぁ! どうしよう!? もう一回蹴る!?
「スキル無しの攻撃だといくらなんでもダメージ足りないもんな。ポーションで治るかな。それともキルしとく?」
「反対に蹴れば治るんじゃね?」
「やめて……あやまるから……やめて……」
脅した訳じゃないよ、ただ治そうとしてるだけで。
流石のキーロくんも首を折られている状態では威勢を保てなかったらしく、急にしおらしくなってしまった。まぁマジの致死体験だからね。仕方ないね……。
頭から落ちるのってかなり怖いんだよね。
さて、ネームが急に赤くなったことも含めて冷静に話し合いをしたいのだけど……折れた首、どうしたもんか。
その時。
ドゥルン! ドゥルルルルン!!
「え?」
聞き間違いか。バイクのエンジン音が聞こえた。
「ふみゅ?」
キキィー!!
剣と魔法の世界で聞こえるはずのないタイヤが地面を擦る音。タイヤを横滑りさせて停止したものは……バイクそのもので。
「おう手前ら、そのくらいにしときな」
黒光りに夕日を反射する暴走フォームとも言うべきその自動二輪に乗っている男が俺達に声を掛けてきた。
呆気に取られながらも俺は立ち上がり、その男と向かい合う。
「あ? お前確か……」
バイクに詳しくは無いが、先の尖った三段シートに書かれた「喧嘩上等」の文字と、4つのリプレイスマフラーに彫られた「愛」「羅」「武」「勇」の文字の我が身道を行く意匠。
目の前の男は黒文字で「爆走」と書かれた赤いTシャツに着崩した改造学ラン。ゴツい銀のチェーンを首に巻いていて、その輝く金髪は戦闘髪型に整えられている。
古くから伝わる、いわゆる不良だった。
「「…………」」
睨み合う不良と俺。メンチを切るという状況にお互い動きを止める。周りにいた通行人すらも足を止めてじっと俺達を見詰めている。沈黙によって声がなくなった世界でバイクのドドドドというエンジンの音だけが響いている。
静寂を破ったのはバースライトだった。
「原始人と不良、時代遅れが二人に……」
「「これが最先端ファッションだ!!」」
見事にハモった。仲良くなれそうな気がする。
罪状値について
通常ネームは白い文字で表示されています。しかし罪状値によっては黄色、赤になります。教会での懺悔を行えば下げることができますし、どこかの国に仕えて戦果を挙げることでも回復できます。
言い換えるなら罪状値はその国で犯罪をした、という一つの指標です。
黄色:窃盗・無銭飲食・詐欺行為
赤:プレイヤーキル・NPCへの暴行
黒:NPCの殺害
尚、NPCにネームは見えませんが、罪状値の高いプレイヤーを怪しみ、避けるようになります。




