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ピッキングアウト  作者: もぶ
威風の一角と造形の街
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ゲイルムーブ・ドリームライフ その4


 対人戦というのも楽しいものだ。でも相手が正攻法ばかりだとつまらないな。対モンスターのほうが意外性があって飽きない。何よりモンスターは仲間を思うことはあっても、死んだ仲間を引き摺ることは無いのだと……俺は身に染みて分かっている。そしてそれがこの世界で生き残り、前を見据えることに繋がると知っている。復讐も恐怖も、己を縛る鎖にしかならない。


「そんな怖い顔するなって。あんなもんだろ」


「……何が?」


「不満が顔に出てるんだよ。たなは、じゃなかったゼノンくんさぁ。誰にでもできることがあったとして、それをやったことが無い人間でも『できる』と断定するか? しないだろ?

 キーロって奴も同じだよ。ゼノンの最善をアップデートしながら尽くすってのも……まぁ俺も恐らく同じことをする。でも、出来ない奴も思い付かない奴もいる。それがゲームの中にいるってことだよ」


 ゲームだからこそ、()()()()()()()()()()()


 頭では分かっているんだが……。


 煮え切らなければきっぱりと区別することもできない俺の頭の中とは正反対の、晴れやかな笑い声が聞こえてきた。


「はっはっは! だせぇなぁサンドウ! 真っ二つじゃねぇか!」


「うるさいな。人間って斬れるんだな。このゲームは欠損無しだと思ってた」


「あの合体技はなんだ? ディーなんたらってやつ。まだ公表してないだろ」


「あれはパーティコンボさ。実はビートアップからコンボが始まってる」


「マジか。うちも魔法職入れるかな」


 学生であろうキーロ含め、俺やアークライト(高城)も大人たちのただの会話に置いていかれている。

 

 足元に寄ってきた、ジンギスさんとヤキスキニクさんから何をそんなに貰って食べたのか分からないがお腹の膨れたフラムを肩に乗せる。重い。


「ふみゅ!」


 怒られた。


「ゼノン、お疲れさん! やっぱ若いと動きが違うな!」


 サンドウさんが朗らかに笑いながら近付いて来た。若いとって……あ、そうだった! 白面(しろおもて)着けたままだ! ってなんでそれで若いと断定されてるんだ……?


「ゼノン、お前PVの時に仮面着けてなかったよ」


「なるほど、それでか」


 ん? なんか違和感。


「ちなみに俺がお前の心情を見抜いてるのは目線と顔の向きな。イライラしてると相手を見た後に首ごと目を背けるんだ、お前」


 何それ……そんな自覚ないわ。


「よく俺の相談に乗ってるときにやってんだよ!」


「あ、それはなんかやってる気がする」


 はよ告れってな。ため息とセットだわ。


「にしても俺たちの武器、まだ持っててくれてたんだな。ドラゴン相手に役に立ったか?」


「あ、はい。結構使ってましたよ」


 役に立ったかで言うと難しいところだ。ダメージ見えないし。基本弾かれるか気にもされないかだったし。


「色々スキル使ってたけどよ、ショーガ、どうだったんだ?」


「外れよりの当たりってところだよ、ヤキスキニク。そもそも戦い方が違いすぎたな。剣スキルもカウンターメインっぽいし。

 リブートが新しく生えたから即座に取ったよ。さっきのクロノススラッシュ?は……それらしいのはないな。条件未達成か?」


「あれはダメージ倍率が気になる」


「自分の身で確かめたらどうだ?」


「ヤキスキニクで試してみるか。切り落としで提供してもらおう」


「あっはっは! やなこった!」


 ヤキスキニクさん、ショーガさん、サンドウさんは目的であるスキルの話に花を咲かせている。……遠慮の無いやり取りのようだ。


 それに……、


「意外か?」


「え?」


 ジンギスさんが俺の隣に並ぶ。横並びで立っていると自然と話している三人を見るような形になる。


「若い奴等みたいに一番に貪欲ってわけじゃないが、自分なりの楽しみ方ってものを知ってるつもりだ。年下に負けようが、ぶった斬られようが、それもゲームなら()()()だ。

 オンリーワンになれる世界なんて、そうそう無いんだ。視野を広く持つといい。な!」


 そう言って俺とバースライトの背をバシッと叩いたジンギスさんと変わって、ショーガさんが声をかけてきた。


「サンキュー、なかなかの暴れっぷりで嬉しかったぜ。リブートとかいう人権スキルもゲットできたしな」


「あ、いえ……」


 こう、爽やかに握手を求めてきたショーガさんとか、豪快に笑いながらも情報を聞き出しているヤキスキニクさんとか、寡黙ながら答えているサンドウさんとか、俺たちを否定しないまでも違う生き方を見せ付けるジンギスさんを見てると……自分が小さく見えてくるな。隣を見ると同じようにバースライトも居心地が悪そうだ。


「なんとなく、生き急いでるのかと思ってました。チームレッドグースは」


 レッドグース? 赤いガチョウ……ショーガさんたちのことかな? 


「まあな。俺も攻略組として、他のゲームを渡ってきたから生き急いでるで間違いないよ。ただ、このゲームは少し特別でな」


「特別?」


「そこのジンギスとサンドウ、それと俺はこのゲームの会社の株主なんだよ。と言っても微々たる量だけどな。

 まぁ、昔の縁もあって、この世界を楽しむって決めてるんだ」


 株主? 昔の縁? どういうことだろう。


「楽しみ方は色々だが、専らバトルと攻略をメインにしようって決めてたんだ。あいつらの狙いが何にせよ、売れるゲームってのは新規が入りやすいゲームじゃないといけない。

 俺はまぁ、その為に尽力してるわけさ」


「なるほど……」


 話の中で何か分かったのか、アークライトは納得したような顔をしている。うーん、俺にはさっぱりだ。生き急ぐというよりは後ろに招きたい的な攻略姿勢らしいが。


 と、どうやら納得していないのがいるっぽい。さっきから睨み付けてくる視線が1つ。キーロのものだ。

 苦虫を噛み潰したような顔と言うべき不満げな顔だが、言葉を口にする勇気は無いのか俺に突っ掛かることも無いままショーガさんたちとは別れることになった。


「そんじゃ、まぁまたどこかで会おう。俺たちはこのイベントをクリアするつもりだから、すぐに会うかもしれないけどな」


「ええ、またいつか」


「俺たちも行くぞ。ギルドの集会があるんでな。また会えて嬉しかったぜ、ゼノン」


「じゃあな、ちびちゃん」


「ふみゅぅ! もぐもぐ……」


「あんまり餌付けしないでください」


 太ったらどうするんですか。


 大人達と別れた後、時間が押しているが当初の予定である洋服を買いに行きたい俺と、那智さん他パーティーメンバーと合流させたいバースライト。目的は違うように見えるが、なんだかんだ用意周到な男高城が中身なだけあって、バースライトはパーティーメンバーにNPCショップを物色させていたらしい。


「コンテストの名目でパトロン募集するわけだから、品質が高いとか値段が安いとか、そういうアイテムがありそうだろ? そういうのは早めに見つけておきたいし」


「そういえばそんな話だったっけ」


「ふみゅ」


「調べた結果、いくつかパトロンにならないか話が出たらしい。条件は毎月定額の出資。代わりに格安でアイテムの融通をしてもらえる、と。

 こいつはギルド単位で契約した方がお得だろうな。パーティーや個人だと毎月定額ってのが思ったより難しいゲームなんだよ、これ」


 バースライト曰く、素材アイテムの売買相場が変動するのが金策の難しさに直結しているらしい。金額固定しているゲームも多いそうだが、このピッキングアウトでは相場が流動的でNPC需要やギルドでの販売の状況で変わるらしい。


「へー、面倒だな」


「その分、何気ないアイテムも高くなる可能性があるけどな。ヒュドライーグルだって最初は格安だったし……っと」


 バースライトが振り向こうとしたのを手で止める。気付いたか……。


「……知り合いか?」


「無人島に住んでる野蛮人に知り合いがいると思うか?」


「いや、いたじゃん。ランチメニューのジンギスさんとか」


「それは確かに。でも影から狙うような知り合いはいないかなぁ」


 後方15メートルくらいを保ちながら、さっきから付いてきている誰かがいる。間違いなく目線を固定しているのがVRシステムで丸分かりだ。

 深淵を覗くとき、深淵もまた此方を見ているとはニーチェの言葉だったか。あれは直前に『怪物と戦うとき、自らも怪物にならぬよう、心せよ』みたいな文があって、ミイラ取りがミイラになる、と似た意味になるらしい。まぁそんなことは置いておくが、VRシステムとは写し鏡のようなものだ。


 『誰かを見る』という行為に対し、見ている対象に『誰かに見られている』という現象を与える。現実の世界ではただの高校生である俺たちすら『視線に気づく』ことが出来るようになる。これが意味するところは……。


「なんか、尾行している人が気の毒になってくるな」


「分かるけど。こういうのもレベルが上がってくればスキルでなんとかなるんじゃないかな。職業に暗殺者があったし」


 バレバレな暗殺者の可能性もあるのか……可哀想。いや、待てよ?


「んで、どうする? 話しかける?」


「いや……なんか怪しくなってきたな。これ、後ろの人はわざと見つかってるんじゃないか?」


「ん? どういうことだ?」


 職業に暗殺者があるゲームだとすれば、尾行がバレるなんていうのは死活問題だ。上から覗き込む忍者がすぐにバレて槍で突かれる、なんてことになったら堪らない。どう考えても不遇職になってしまう。

 となると、スキルかジョブかでVRシステムをやり過ごすことが出来てもおかしくないだろう。というかそれぐらいはしていると思う。つまりは、だ。


「見つかり役は囮で、俺達も気付かないような本命がいるんじゃないか?」


「なるほど? 一理あるかも」


「人はこれを野犬の群れ作戦と言う」  


「いや言わないだろ。どういうこと?」


「俺のいる島ではリーダーが武器を見張る役をしている野犬の群れがいるんだ。ちなみに骨を投げると喜んで食い付く」


「大丈夫かそのリーダー。ん? 骨を投げると食い付く……」


 お? バースライトも気付いたな。


「投げてみるか? 骨を」


「食い付きが良いといいな」


「どうだろうな、案外ハイエナが多いかもしれないし」


 簡単に作戦を決めた俺たちの顔は、それはもう悪い顔だったと思う。フラムは途中で飽きたのか襟元で寝ていた。狙われているのはフラムの可能性もあったんだけど、お構い無しなのだろうか。大物な予感がするな。





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