ゲイルムーブ・ドリームライフ その1
あれから5日経って、今日がイベント開始日だ。火曜日の昼12:00から開始して月曜日の23:59まで。
「サーバー分けは無いらしい。コンテストだから分けないとは思ってたけど。昼でも結構な人数だってさ」
「ふーん」
「興味無さそうにしやがって……参加するんだろ? さすがに第一回イベントだし」
「そりゃするつもりだけど……」
そこまで熱量は無いな……。イベント説明にある『周辺国からの密漁・密入国が問題視されており……』が気になるくらいで。採掘に興味は無いんだよな。
ここで気になるのは『密入国』という単語。軽く調べただけだし馴染みの無い言葉を避けたのかもしれないが……海底鉱山なら『違法採掘者』や『密掘者』なんて言葉にならないか? 『密入国』が問題視されて違法な採掘が問題にならない……なら、恐らく採掘ではない何かを『密入国者』は狙っているのか? 考えすぎかな?
ちなみに運営にフラムを連れていけるか確認したところ、『パーティモンスターは連れていくことが可能です。しかしテイムモンスターとは異なるため、イベント中での復帰は無く、イベント終了後に復帰します。』とのこと。要約すれば死なないけど復活もしないということだろう。死なない確約ができただけありがたいな。
まぁ、イベント外の戦闘では死亡します、って書いてあったから喜べもしないんだけどな。
「せっかくだし、俺のパーティと合流しようぜ」
「え、ソロがいい……」
「棚橋……お前はまったく……」
悪いが高城、フラムがいる限り俺はソロのほうがいいと思うんだ。決して気楽な方を選んでいるわけではない。
「えー、棚橋くんも一緒にイベントやろうよ!」
不満を露にしつつも元気な声が俺に待ったをかけた。
「那智さん……」
ぐっ、『上目遣いで目をうるうるさせて懇願するような表情』は高城にしてくれ……。正直断りづらい。
「というか俺は金策と服を買わないといけないんだよ。何よりそっちが先決だ」
「猪の服あるじゃん」
「あれを普段着にできるか、お前」
「いや無理だけど」
即答するじゃん高城ぃ……。まぁ俺も嫌なんだけど。『猪王の突貫服』は服ではなく鎧みたいなものだからな……スキル付いてるし。直進行動時に補正が入る【猪突猛進】とかいうのが。うん、服じゃないよね?
「まずは服、そんで武器。誰かと行動するとしても最低限の装いってものがあるじゃないか」
「半裸で木の棒装備はなぁ……NPCからの信頼度に響くんだよな」
なにそれ。
「そうなの?」
「半裸で走り回ったバカは噂が出回ったのかアイテム売って貰えなくなったみたいなんだよ。それにろくに準備もなくクエスト受けすぎると簡単なのしか紹介されなくなるんだと。こっちは検証の結果だね」
最後の方は那智さんの方を向きながら話してたな高城。口調が変わったし。
「人間って世知辛いな……。こっちの髭の生えた猿は果物のある場所教えてくれたぞ?」
「いやそれモンスターだよな?」
「うん、翁猩々って言う奴ら。どうやら突貫服着てるとモンスターが下手に出るんだよな。襲われにくくなった。と言っても絶対じゃないけど」
翁猩々はミサンガを作る為にも狩りの対象にしてたんだけどな、レモンとバナナを教えてくれたのはありがたいから狩るのはやめておこう。犬も梟も襲ってこなくなったし、多分ブレイキングボアより弱いモンスターはその皮を着た俺に怯えてるんだろうな。猪の威を借る人間だ。
と言ってもカマキリやクワガタには効果が無いし、ナマズも無意味だった。そもそも食物ピラミッドが違うからか……? それにあいつらは武器の相性が悪いな。木の棒だと耐久が足りない。どうやら攻撃の際のスキル補正は防御系スキルの補正と違うのか直ぐ折れるんだよ。
ちなみにナマズは地上だと逃げしかしないから『戦記降臨』で阻んでも、効果切れて直ぐに逃げられた。『リブート』が発動しても間に合わなかった。
「ま、服は売ってなかったとしても、それこそお誂え向きなイベントだし。準備できたら一緒に回ろうぜ」
「そうだね! そうしよう!」
「……分かったよ」
拒否権なんて無かった。まぁ一緒にプレイするのも楽しみではあるんだけどさ。フラムがちょっと心配かな。
そもそも連れていかないのは無理なんだよな。あの島に放置は食料問題があるので不可能だし。アイテムボックス要らずの保存食を作るようにするか……?
まぁ、この二人なら心配は無いと思うけどさ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
はい、ログイン。
「みゅぐ? みゅぅ!」
「よしよし。おはようフラム」
咥えていたボール(漂着物。野球あるのこの世界……?)を放り出して飛び込んでくるフラム。見た目はどちらかというと猫っぽいのにテンションは犬っぽいんだよな。ドラゴンなんですが。
「さて……荷物は準備オッケーだけど。どうすればイベントに行けるのかな?」
「みぅ?」
「ん?」
フラムが何もない、強いて言えば苔の光で蒼く照らされた天井を見上げた。釣られて上を見たその時、
《パーティメンバーが集まりました。第一回イベント『ゲイルムーブ・ドリームライフ』に参加しますか?》
「なるほど? パーティメンバーが揃わないと参加できない……というよりはフラムが特殊な扱いなんだろうな」
パーティを組んでいる特定のメンバーが集まらないとイベントに参加できない、なんてことは無いだろう。プレイヤー同士でそんな面倒な設定をしていたらソロプレイヤーなんていなくなる。
そうではなく、恐らくだがパーティモンスター(騎馬やテイムモンスターが含まれる)がいるからだろう。テイマーには指示スキル系統というものがあって、そこには『御使い』というショップや採取に向かわせる命令があるらしいからな。イベント開始に合わせて命令したら即座にゲット! は悪用し放題だろうし。
「さて、初めての人里に……って人里か。じゃあ服は着ないといけないのか……」
『王猪の突貫服』……カテゴリーをよく見ても服である。まぁゲームって服か鎧か分からないことも多いし? 見た目はマンモスの代わりに猪で作られた原始人の服だし? というか胴体なんてでかい牙が付いた猪の頭を着ているわけで……一般的な普段着というジャンルには当てはまらない。だが着るしかない。他に持っている服は燃えてるから。焼失すらしないビギナーズ装備はすごいけど。
「みゅぅ……ぐむ」
「肩に乗ってくれ」
自分の体より巨大な牙に噛み付いたフラムを持ち上げて肩に乗せる。これはご飯ではありません。
「みゅ~う」
「さて、行きますか」
「みゅう!」
メッセージに『YES』を返して、いざ行かん『海峡公国リソーストレイト』。
どこかエレベーターで下降する時のような不思議な浮遊感を味わいながら光に包まれる一人と一匹。落ち着かないフラムの頭を撫でながら、俺自身もそわそわしている。
学校では興味無いと言ったけど、やっぱり楽しみなわけで。
「頑張りましょうかね」
第一回イベント【ゲイルムーブ・ドリームライフ】、生産活動に採掘、コンテストにパトロンだなんて文明開化の音がするぜ!




