開拓者と狩りの本質
俺はこの森で食べられる魔物を見たことがある。大半はドラゴンの為に料理をした魔物なので捌き方まで分かる。
中でも昼行性……昼でも活動していそうな魔物はブレイキングボアだ。分かりやすく言うとデカイ猪だ。
俺の《鑑定》では死体とはいえ名前は分からなかったので恐らくレベルが高いかレア度が高いんだろう。だがしかし作った料理には【ブレイキングボアのフィレステーキ】という名前が出たのだ。他のは全て【猪のステーキ】だったのになぁ……。ところでフィレってフランス語じゃなかった?
とてつもなくデカイ猪だったがドラゴン夫妻はモグモグと食べ進め2メートルはあろうかという牙は奥さんが食べていた。あれ、食えるのか……? 象牙を食べる文化は地球にもないと思うんだが……。
まぁそんな憐れな猪だが、今大事なのはデカイ、肉だということだ。そして普通の猪は夜にも活動するのだがドラゴンが狩ってきた時間が昼頃だったんだよな。つまり猪は昼に出現するモンスターということだ。
「ブレイキングボア……どう考えても破壊音がしたらそっちにいるんだろうな」
聴力と視力を駆使して、いざや行かん。
狩りの本質、それすなわち《食べたい》。
「あの時は調理したのにお預けくらったんだ。今度は絶対食べてやる」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バゴォン!! ドドン……
「えぇ……」
木の枝から下を見ると、樹齢数千年レベルの巨木が倒されていた。まぁこの島なら明日には再生しそうだけども。それはさておきミシミシとかバキバキではなく破裂音だった。衝撃を余すことなく巨木に伝えたのか根が大地から飛び出すことも、折られた木が自分に倒れてくることもなく粉砕していた。なんていうか……破壊式の達磨落とし?
「ブルォォオン!」
やりきった、という顔をしているのは巨大なイノシシ。白髪混じりの体毛だが顔付近は銀に近い白だ。これまた巨大な二本の牙の回りには白い髭。その牙は反り返っているが長さは二メートルはあるだろう。老将とでも言うべき貫禄がある。
相変わらずこの島のモンスターは巨大化した現存生物ってニュアンスだな。カマキリしかりザリガニしかりナマズ含めて。カブトムシくらいだぞ、あり得ない無機質な甲殻してたの。
余談だが以前「こんなのいた」とスクショを送ってきた高城の画像はヒュドライーグルとかいう体毛の代わりに無数の蛇が生えている気持ち悪いモンスターだった。当然のように有毒らしく出現率は低いもののドロップ素材がエリアボスに有効なアイテムの素材になるらしい。ゲームしてるな……。異種返しにこんなのいる、と調理前のブレイキングボアの写真を送ったっけな。
その時の写真をメニューから取り出して(スクショが写真として取り出せる。なんかかっこいい)見比べてみると……どうやら一回り以上大きそうだ。牙もこっちのほうが立派だしな。
倒れた木をバキバキ言わせながら食べ始めたブレイキングボア、長いので猪将軍を見据え……作戦を練る。
「カウンターしかないな」
作戦会議、終了。
「生憎使える武器がこれしかなくてな、だが原始よりも性能は上だろうぜ」
足場にしていた枝から飛び降り、両の手に握り締めた木の棒を振りかぶってー!
「《ヘビィスラッシュ》、《クロノススラッシュ》!」
将軍の右目目掛けて振り下ろした。硬い手応え。
「ブルァ」
《クロノススラッシュ》を使った方、右手に握っていた木の枝をビギナーズボトムスの腰に差してアイテムボックスから別の棒を取り出す。こうすることで右手で違うスキルを使えるのさ。
片目を潰し……さっきの感触、違和感、そして悪寒、やべっ!?
「うっそだろオイ!?」
硬い手応え、何より鳴き声に余裕がある、その違和感に気付いた俺は咄嗟に跳躍し、木をスキルを使って蹴った。その直後、大地がひび割れた。
「ブルォォオ!」
将軍はその牙を使いひび割れた大地の破片を俺目掛けてぶん投げた! なめんなオラァ!
「《プロテクション》!」
踏ん張れない空中でカウンター系のスキルを使っても効果は薄い、ここはプロテクションでダメージを消しつつ着地を図る! 巨大な破片を防ぎながら俺は勢いに任せて諸とも飛ばされる。後ろを確認して《ジャッスル》を発動。破片を押し出し返して体制を整え大木の幹に《アンカーフッド》で着地する。効果はすぐに切れるが第二陣の破片は飛んでこなかったのでそのまま無事に地面に着地できた。
将軍は傷1つない両目で真っ直ぐ俺を見詰めている。
格下を見る目じゃない。その目には侮りも油断もない。獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすと言うが……猪も同じらしいな。
威厳と威風に溢れる将軍だが……まぁ、更に上を行くドラゴンの師匠がいたもんでね。
「知ってるか将軍。猪ってのはヰの肉って意味なんだぜ? あんたは俺に食われるんだよ」
「ブルォォオン!」
え、待って前足を振り上げてるけど一瞬魔力が見えたよ? まさかスキル使うんですか?
ドシィ! という轟音と共に地面が隆起して俺のほうにーって!?
「お前ブレイキングってそんな地形ごとなのか!?」
これは後で知ったことなのだが、こいつの名前は破壊の王猪だった。破壊と王、どちらも名に冠するとは侮れん奴だったということだろう。
だがまぁ、知っていたからと言って行動が変わるわけではない。先に述べたように狩りの本質とは『食欲』である。目の前に肉があるのだ……いつだって行動は変わらない。
隆起する大地を目隠しに俺は起動していた《ウェイクアンカー》で上がったスピードを駆使して大きく旋回し将軍の横へ。
「前肢重点! 狙うは膝! 大体胴体の付け根あたり! 《ヘビィスラッシュ》! 《クロノススラッシュ》!」
大したダメージは与えられていないだろう。今度は左手の木の枝を腰に差してまた木の棒を取り出す。うーん、蛮族っぽいけどこれ一番強いんだよなぁ……。まぁ発動できればではあるけど。
ここでスキルの使用方法について話をしよう。ピッキングアウトではスキルの認証は次の3つだ。
1つ目、音声認証。これが一番ポピュラーと言っていい。魔法の詠唱もこれに当たる。音声認証の利点としては……失敗がないところか。例え言い間違えたり噛んだとしても成功するのは《脳波》を読み取っているからだ。デメリットは口を塞がれると使えないというゲーム的には仕方ない要素だな。このゲームでも【沈黙】という状態異常があるらしいがこれは音声認証を封じる状態異常だ。
2つ目は俺もよく使っているが思考認証だ。このスキルを使う! と思い浮かべることでスキルを発動する……隠密性は素晴らしいがデメリットは難しいところだ。正直取り立てのスキルをとか連続してスキルを発動する場合はミスしやすい。まぁ簡単なところだとアイテムボックスからアイテムを取り出したり、だな。アイテムボックスを開くまでなら大抵の人ができる。その後アイテムを選択するのは手の操作が必要だけど俺はそのあたり木の棒だけは一番上にしてあるから省略しやすいのだ。
そして3つ目は動作認証だ。これが難しい。俺も偶然に《カウンターバッシュ》を発動したことがあるが……スキルが増えていくにつれて出来なくなってきた。なんせスラッシュ系統はほぼ同じ条件だからだ。切り上げで発動できる《切り返し》だって他のスラッシュ系統が《武器種:剣・短剣・双剣で切りつける》だからうまくいかない。今の俺が動作認証で発動できるのは《クロノススラッシュ》の解放の方と、後は……
「どうした将軍! 《随分とノロマだな!》」
《咆哮》くらいだ。そもそも挑発的な大声を出すという条件のスキルがこれしかないからな。混線しないで済む。
さぁてまた向かい合うように対峙した将軍と俺だが……今回は先手を貰う! 俺の目の高さに膝(尺骨だっけ)があるのが悪いんだよ! 迫って右へ、奴の左足を……!?
「ブルォォオン!」
大音量の鳴き声によって俺の体はフリーズしてしまった。その隙に奴は五歩の後退。そして頭を下げ……突進してきた!
巨大な牙で掬い上げるのかそれとも突き刺すのかは分からないがサイズ含めてブルドーザーそのものだ。普通に怖いが……比べる対象が悪いのか、このゲームで俺の心を絶望させたいなら火属性が足りないぜ?
「《アンカーフッド》《アドバンス》そして……《ジャストカウンター》!!」
ガギィン!! グググググ……。
将軍、お前が《ジャストカウンター》のダメージ受けておいてびくともしないのはいいとして、押し込んでくるのか!? 位置を固定する《アンカーフッド》が押された!? んな、今までのどのモンスターもできなかったことをそんな簡単にやってくんのか!?
やばい、スキルが切れたら吹き飛ばされる。どうするどうする、ああもうこれしか思い付かない!
俺は《アンカーフッド》の効果が切れる前に姿勢を整え、効果終了と共に握り締めた木の棒を起点に大ジャンプ!
「跳び箱なんて久し振りだ!」
なんとか背を転がるようにして将軍をやり過ごしたが着地は腹からだったのでダメージを受けた。うーん、この猪将軍強くない? シンプルにパワーそしてパワーって感じだ。かっこいいぞそういうの。
「ふぅ……木の棒と……スキル……なんとかなるか? いや何とかしてみせよう」
三度向かい合う。将軍は闘牛とかでしか見ないような足を上げるあの動き……さてはまた突進するつもりだな?
来いよ。
「ブルルォォオン!」
迫る巨躯と鋭利な牙も、恐れる道理はなく。俺は二本の木の棒を前方に投げて備える。
腰に手を回して二本の得物を握りスキルを解放する!
まずは右、経過時間によって威力の上がる《クロノススラッシュ》を目という部位に受けた将軍は大きく首を振った。高速走行中にそんな動きをしたらどうなるか、現代人なら分かるだろう? クラッシュするぞ。
だがさすが将軍、減速こそしたが健脚を活かして突き進もうとする……が、ならばその健脚を潰すまで。
左手で《クロノススラッシュ》を解放する。
「ブルォォ!?」
左の尺骨に大きなダメージか入る。イメージは肘を強く打った時にしびれる感じだ。痺れずとも踏ん張ろうとした足にダメージを受けたら、誰だって倒れそうになる。
余裕がなくなった将軍は四つの脚を駆使して止まろうとするが、踏ん張る力が出ない脚があっては上手くいかない。そして後ろ脚が投げていた木の棒を踏む段階で、
「《コフィン》」
木の棒を守るように魔力の水晶が形成された。踏むことになったのは偶然だが、突然脚を置く高さが変わったら殆どの生物は体勢を崩す。そこに追撃!
「《スタッグソーホイップ》!」
首を脚で挟んで投げ飛ばすスキルではあるが、どうやら長い牙でも対応してくれるようだ。スキルに割り込んで《空踏み》を発動し、更に勢いを付ける。将軍の重さ故に投げ飛ばすことは出来なかったが大きく重心をずらすことには成功した。
ドドォン!
「ブルォォ!?」
大ダメージを与えた左脚を上に横転した将軍。四足の動物は起き上がるときに地面に付いている脚は使えない。猫や犬ならできるかもしれないが、将軍は巨体の猪だ。しなやかさが足りない。ま、起き上がれないモンスターをどうするかなんて、後は分かるだろう?
俺は横倒しになった将軍に飛び乗る。
「《スキリングアップ》、足場固定するために《アンカーフッド》。《アドバンス》、《贖罪の剣》っと」
古来より大きな獲物は穴に落とすか横に倒してフルぼっこだ。マンモス狙いの原始の狩りってそんな感じだしな。でも槍が無いし原始人よりも……。
その後、ひたすら剣技スキルを行使(酷使)して将軍がポリゴンになるまで斬り付け続けた。森の開拓者の最期は開拓者による死へ一直線な一方通行の暴力だったわけだ。
「さらばだ、将軍」
レアドロップ残してくれよー!




