戦後処理とまた課題
竜の夫妻を看取り、始祖鳥から逃げ切った翌日。というかログアウトした時には当然日付を跨いでいたので寝て起きただけなのだが。ゲームとはいえ色々ありすぎて疲れ果てた俺はログアウト直後に寝てしまっていたようだ。
睡眠が浅かったのか疲れは残ったままだ。時計時計……10時24分。うーん、なんとも言えない時間だ。一先ず部屋を出て、階段を降りて一階へ。
とりあえずシャワー浴びて……ダイニングキッチンと呼ばれる場所のテーブルに置かれたラップに包まれた何かはブランチにしましょう。午前10時以前だとブレックファースト側の存在らしい。
このfastは断食という意味らしく、断食を破る食事が語源なんだとか。中学生の時に先生に質問したら答えてくれた。何の話だっけ?
ゴールデンウィークも残すところ2日。随分短くなったものだ。……延長、延長、え・ん・ちょ・う! いや延長され過ぎても良いことはないな。長くて良いものというのは少ない、具体的には……なんだろうね? でも長すぎる流し素麺は麺が延びるし、長すぎる鹿の角は骨粗鬆症に……何の話だっけ?
いかん、集中力が……脳みそを使い果たした人間というのはこうもポンコツになるのだろうか。泡立たねえな、これシャンプーじゃないの? ……リンスじゃん。
「エナドリとかあったっけ……」
シャワーの後に着替えてから、ラップに包まれたハムエッグをレンジ温めの刑にしつつ冷蔵庫を物色する。うーん、閑散としてますな。おや? これは……。
「カテキン1.5倍茶……。未開封、じゃあ貰いっと」
ごくごく……苦ぁ……。でもなんか目ぇ覚めた気がする。それにしてもテーブルにハムエッグしか無いんだけど米は? パンは? 残りはコーンフレークしか無いんだけど!? 冷蔵庫に牛乳は無いんですよ!? お茶フレークしろとでも!?
俺は温まりつつあるハムエッグに待ったをかけ、五百円玉を握りしめて近くのコンビニに向かった。
「あ、辛唐チキン1つ」
違うんだハムエッグ、疲れた脳みそが勝手に!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
おおらかなハムエッグはチキンという裏切りをしたとて味は変わらなかった。コーンフレークは牛乳と出会い俺の腹を満たした。……数分後、帰宅した母上が買ってきた牛乳は見なかったことにする。
「あんたにドローン配達で最速便来てたわよ。何頼んだの?」
「……いや何も」
「思春期ね~」
残念ながらガチで何も知らんのよな。
そして昼飯を作れという指令が下ったので届いたものの確認は後回し。牛乳を多目に使ったカルボナーラ風のパスタを作ろう。朝食と八割材料が被ったことになるな。ゲーム内ではサバイバル料理人の称号を持つ俺だが、生憎ここは一般家庭だ。男子高校生の料理スキルはそこまで高くない。
まず安いベーコンを油を敷かずにフライパンに並べて弱火で焼く。油を拭き取るのがコツだが今は油も欲しいので小皿にスプーンで入れておく。カリカリになったらキッチンペーパーの上に。
フライパンに取り除いておいたベーコンの油と少量のバターを入れてすりおろしたニンニク少々と牛乳も加え弱火に。先に茹でておいたパスタ(七分のモノは五分茹でて火を止める。同時進行は無理だから)の茹で汁を少しフライパンに入れる。
ソースが煮立ったらパスタを深皿に盛り付けて……ソースをかける。そしてパスタと一緒に茹でて半熟になった卵を乗せて、カリカリベーコンを添えて、ブラックペッパーをかけて粉チーズを振って……できあがり!
カルボナーラ風スープスパの完成! (牛乳を消費するために作ったので味は食べてみないと分からない)
「案外おいしい」
「順調に作ってたけどさ。人に食べさせるなら完成前に味見しなさいよ」
ごもっともで。
「で、届いたのはCDだったわ」
うおぃ。
「開けたのね」
「差出人の名義を見たからね。柚子ちゃんからだったわ。懐かしいわね~。まだ赤ん坊だった頃に何回か会ったなー。確か今は歌手になったんだっけ。あ! そのCDね? 今時わざわざCDでリリースするなんてお爺ちゃん孝行なんだから」
ゆうこ……? 誰?
随分と気に入っていたので母さんにCDを預けてゲームの世界に戻ろう。幸いうちにはCDも再生できるオーディオがあるからね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時刻は13時。ログインしました。
新たな主を冷たく(気温が低い)迎える竜宮洞には俺と卵だけが存在し閑散としている。エネミーが寝込みを襲うことは無さそうだな。
さて……。
「なんかステータスポイントもスキルポイントも増えてるな」
多分称号ゲットしたお陰だろう。えーっと? 計算めんどくさい。そして称号を確認するのもなんだかなぁ……って感じだ。何せあの時は望んでいないのに強制でゲットしたものなので…。
【竜覇】は本当に達成した時に効果を見よう。今は封印だ封印。とりあえず他のは見ておくか。
【ジャイアントキリング・ハイリターン】
レベルが30以上高い相手を倒すとステータスポイントを獲得できる。
取得条件:近接戦闘によって遥か格上を倒す。
報酬:ステータスポイント+5
【竜血を浴びた者】
レベルアップ時に追加でステータスポイントを獲得できる。
取得条件:近接戦闘によって竜種を倒す。
報酬:スキルポイント10を獲得。
【竜宮洞の支配者】
マップ《竜宮洞》の管理権限を得る。譲渡可能。
取得条件:---
報酬:無し
「人権じゃん……」
ゲームにおいて人権とは『何で持ってないの?』と言われ兼ねない程取ることが大前提のアイテムやキャラクターを指す。破格の性能を誇るが故に持つ者と持たざる者を明確に線引きする代物。まぁそんなにゲームやってないから悪い思い出は無いんだけど。
だがどう考えてもジャイアントキリング・ハイリターンと竜血を浴びた者は人権と言われるものだ。どっちも序盤で手に入っちゃいけないものだな。まぁ運営がこの島に送り込んだんだから想定内だろう。知らんこっちゃねぇ。存分に悪用しよう。
さて……ステ振りを……ん?
【大義蛮睛】
種族を越え志を共にし、敵対をも越えた。例えそれが野蛮な関係であったとしても、宿敵を友と呼んでも良いではないか。孤島の王者への誓いは盟友の瞳に映された。
効果:UN-KNOWN
取得条件:称号【大器晩成】を所持している。
報酬:無し
「なんだこれ……」
いつの間に手に入れてたんだ? ログを見てもどこにも載ってない。称号【大器晩成】は消えているが……勝手に変化したってことか? にしても通知無しって……。
「ま、いっか」
恩恵が大きい【大器晩成】を失ったのはでかいが、内容自体は嫌いじゃない。なのでオールオッケーだ。
「そんなことよりステ振りだ。ステータスポイントが14とスキルポイントが53か」
スキルを何か取得していればドラゴンをサポートできていたのだろうか……。
うるせぇ、後悔なんぞ捨て置け。そもそも魔法使いじゃねぇ俺にサポートも何もねぇわ。せいぜいアークファウンに一撃叩き込めていたくらいだろう。
そう考えると取っときゃ良かったかな……。
ま、新しいのも含めて候補は絞ろう。
「ステータスは第一上限とやらのせいで暫く据え置きだろうしこの島じゃ大して変わらない攻守よりは対応力が上がるスピードだな。拠点が出来たんだから逃げる足は重要だ。
スキルポイント……装備不可が付いた以上、棒技・銃技・斧技系統は取るだけ無駄だ。【瞬間装填】は強そうだけど使えないんじゃ意味がない……いやカッコ良いなぁ……」
そんなこんなで候補はこちら、と。お? 卵が揺れている。暖めた方がいいのかな。胡座をかいて組んだ足に乗せる。お前も見るか?
《瞬間装填》 スキルポイント5
多く魔力を消費することで弾丸の装填を一瞬で終わらせる。
《クリティカルタイム》 スキルポイント5
打撃の瞬間に発動すると威力が上がる。
《戦記降臨》 スキルポイント5
スタミナを消費することで強制戦闘状態になる。
《贖罪の剣》 スキルポイント5
発動後の戦闘で剣技の威力が上昇する。
《スキリングアップ》 スキルポイント15
発動後スキル獲得率上昇、スキルポイント消費量の減少。
《スタッグソーホイップ》 スキルポイント5
相手の首を足で挟んで遠心力を利用して投げ飛ばす。
「ちょっと待てスキリングアップ取ろう」
これも人権だろ。多分条件は……スキルの連続発動かレベル上限到達かな。レベル上限到達が怪しいな。レベルが上がるってことはスキルポイントも獲得しづらくなるわけだし。
早速取得して即発動。うむ。ポイントが半額に。小数点は切り捨てにならないのか。まぁ3でも安いか。全部取って計30ポイント。
残り23ポイントを……戦闘以外のスキルにしよう。《裁縫》と《革加工》取っておくか。上半身裸だし。これでスキルポイント残り20か。取っておこう。
まとめると……
職業:剣闘士
所持金:2000マネー
装備:【ビギナーズボトム】
武器:【ビギナーズソード】
アクセサリー
顔:なし
胴:なし
腕:なし
足:【名無しの草履】
体力 106/106
魔力 28/28
筋力値 35
耐久値 25
知力値 3
敏捷値 13(+2)
器用値 5
持久力 10
運 5
スキルポイント20
【生産スキル】
加工Lv.6
鑑定Lv―
投擲Lv―
料理Lv.MAX
生存戦略Lv.3
┣真水作り
┣有毒調理
┣革加工
┣裁縫
┗火起こし
【戦闘スキル】
スラッシュLv.20 on
┣ラピッドスラッシュ
┣チャージスラッシュ
┗リバーススラッシュ
ヘヴィスラッシュLv.8 on
┗ソニックスラッシュ
カウンターバッシュLv.MAX on
┣ジャストカウンター
┣マズルカウンター
┗ジャッスル
プロテクションLv.20 on
┣ランパート
┗コフィン New!
切り返しLv- on
クロノススラッシュLv.――【Extra】
片手剣Lv.――【Extra】 on
二刀流Lv― on
棒術Lv.4 on
木の棒Lv――【Extra】 on
戦線復帰Lv- on
壁蹴りLv.MAX on
空踏みLv.――【Extra】 on
アドバンス Lv.7 on
リブートLv.――【Extra】 on
アンカーフッドLv.――【Extra】 on
┗ウェイクアンカー
ランナーズハイ New!
スキリングアップ New!
クリティカルタイム New!
瞬間装填 New!
贖罪の剣 New!
戦記降臨 New!
スタッグソーホイップ New!
宣戦賦刻Lv- on
シンカーLv.3 on
大山猫の眼
竜呼吸法
《竜の吐息》
《弔息吹》
《咆哮》
歴戦竜技
《帯電》
《硬化》New!
《叢雲》New!
《臥竜の一撃》New!
というわけだ。歴戦竜技とやらで人間を辞め始めているが一番の壊れは《コフィン》のほうだ。
「《コフィン》」
青いバリアが俺の膝で眠る卵を包む。これなら多少離れても守れそうだな。卵を持ち歩いたりはしないけど生まれたら連れ歩くことにはなるだろうしな。
一式装備の恩恵が消えたが……まぁ、服は作ってみせるさ。
さて、ステータスを確認したことでこれから一番の課題が発覚した。
ドラゴン、そして巨大な始祖鳥とカブトムシなんかの大きすぎるやつらと戦闘し、犬やナマズや小鳥を討伐したことで勘違いしそうになるが、ここはレベル35で戦い続けられるような島ではない。ましてやドロップアイテムの獲得の傾向を見るにこの問題は非常に深刻だ。
ドラゴンに子供の面倒は見ると約束した以上、俺だけの問題でもないのだ。
簡単に言うと、
「食べ物がない」
この世界だからこそ顕著な問題だ。なんせこの世界では空腹値が0になると死ぬのだから。
高レベルモンスターの溢れる島で、武器や防具の素材になるものがドロップするのは当然だろう。というか食材アイテムが大量にドロップしてもゲーム的に困るが。今は食料が欲しい。
キノコや魚、タコなんかは食べられるのだが……問題は空腹値があまり回復しないことだ。この間タコを一匹茹でて食べてみたが5%しか回復しなかった。恐らくはモンスターの食材アイテムの価値を高める為の設定だろうが……シビア過ぎる。食べ続けないといけないようなもんだ。今ある分もすぐに尽きてしまう。なら獲ればいいって? サバイバルゲームしたいわけじゃないんだ。
幸い検討自体は付いている。実際に調理したフクロウや以前角の生えた兎が食べていたジャッカルのようなモンスターも食材アイテムになりそうではある。
が、ここでまた問題がある。
「ジャッカルはあれ一回。フクロウは結構見てはいるけど一度も倒せていない」
遭遇率と逃走率がこれまたシビアなのだ。特に飛べるフクロウは厳しい。あいつら許さんほんと……。
食客が増えるであろう将来を思うと、食べられるモンスターを討伐することは急務だ。
少し億劫になったが、有効期限が切れていないコフィンの中でのんびりくつろぐ卵を眺めると、やるしかないかと思う自分がいた。
「昼だからフクロウはいないけど、獲物を探しにいきますか」
卵を砂の溜まった定位置に置く。生まれるこの子が食いしん坊じゃないといいなー、とのんきなことを考えながら俺は竜宮洞を後にした。




