活火激発、歴戦の竜と異種な輩#6
即座に砂浜の方向へ海沿いを走る。後ろには人型のまま腕だけを炎翼にし、両翼の炎でザリガニを焼き始めたアークファウン。ところでお前、服どうなってんの? 鱗? 羽毛?
俺が逃走したのを視認したアークファウンは翼を腕に戻しいわゆる忍者走りの格好で追い掛けてくる。腕振って走るのは無理か、人型になったとはいえ元は始祖鳥だもんな。
「逃げるな!」
「俺が強くなるまで待ってくれって」
さて、目印として地面に刺した木の棒を回収し、そのまま直進!
ヒュンヒュン! 風を切る音。来たか!
「《アンカーフッド》、《プロテクション》! そんで《ジャッスル》!」
俺に向かって飛んできたソイツらをスキル【ジャッスル】でアークファウンに更に勢いを付けて返す。手裏剣ライナー!
「くぁ!?」
「そこはもう安全地帯じゃないんだぜ!」
シュドドドド!!
「ぐ、なぁ!?」
仮名シュリケンヒトデ達がアークファウンに襲い掛かる。偶然だが左目を潰しておいて良かった。死角側に海があるおかげかクリーンヒットしてるじゃないか。ダメージはそこまで出て無いかもしれないが、衝撃は消えないからな。
そして確かこの辺りに……あった! 目印!
【アンカーフッド】を発動したことで条件を満たしたスキル【ウェイクアンカー】を起動、森に入って大ジャンプ! 落とし穴を跨いで数歩、再び【アンカーフッド】!
「小癪なぁ!」
バグン!
トラップホールフィッシュくん、レイドボスの味はどう?
ジュゥゥゥゥゥ……
あ、痛そう。珍妙で愉快なバーベキューだがヘイトかどんどん貯まっていくのを感じる。
「はっはっは! この森でどんだけ準備したと思ってる! ドラゴン攻略の基本はトレインなんだよ!」
何の因果か、雑魚以下の俺がはるか格上を倒そうと準備したあれこれをドラゴン無き今解放している。
俺の手で倒す、決意を新たにしたとしても、歩いた道は消えちゃいない! 使わない予定だったへそくりだ、存分に食らえ。
討伐は無理だろう。『今』は諦める。だが俺がドラゴンに何度もしていたことをまた繰り返している。
すなわち観察と次の動きを把握すること。貴重なレイドボスの戦闘データだ、丸裸にする気概で行かなきゃよ。次を『最期』にしてやるためにもな。
俺の眼が赤い魔力を捉えた。全力で後ろ飛び。
「貴様、我を侮辱しているのか!」
解き放たれた無数の燃える羽根、炎始祖鳥モードで何度か見たな、人型でも当然できるのな。だが発生タイミングが掴めればスピードが増していようと【ランパート】が間に合う。
「いやいや、最上級の対応だぜ」
そのまま木の棒を投げ付けるとアークファウンは回避もせずに体で受け止める。【ウェイクアンカー】は既に発動している。そのままアークファウンの左側を通り抜けようとしたが……おおっと、流石に対応してくるか。
一か八か、俺は【アンカーフッド】を起動する。
目の前を炎が走る。炎熱が肌を焼くが俺にダメージはない。分の悪い賭けだったがどうやら勝ったみたいだ。
小型化するボスモンスターというのは大抵威力の底上げと集中攻撃が目的だ。それ以外で一体多を求められるボスモンスターが小型化しても利点は生まれない。小型化&分身するボスは除くけど。
「小細工を!」
アークファウンは俺が物理的にはあり得ない止まり方をしたことでスキルを使ったことを理解したようだ。まぁおちょくってるように思うだろうが、お前が強すぎて逃げの一手しかないんだよ!
そう、俺がしているのは逃げ。臆病風に吹かれた? いやいや、遥か格上と戦う負けイベみたいな状態で、逃げ切るは実質勝ちみたいなもんだろう?
ただ戦うだけじゃ間違いなく負ける。ジャイアントキリングは実力差がしっかり分かった上で起きるものだ。
死ぬまで殴れば勝てる、と言いたいところだが、生憎今の俺にそんな技量は無い。そしてリスポン連打のゾンビ戦法も多分無理だ。今はヘイトを稼げているが、こいつは俺に興味無さそうだったしすぐ帰るだろう。
「仕切り直しさせてくれっての!」
タイムリミットは……後7分。
【ウェイクアンカー】起動、加速した動きのままアークファウンの後ろに回り、背中を蹴り付ける。
「効かん!」
うるせぇ、蹴っても平気なことを確認したんだよ!
こういうボスモンスターは的を小さくする代わりに弱点が目立つようになるか、効果的な小型アイテムが存在していて弱体化したこの状態だと発動できるか、近距離戦闘で優位を取れる、という幾つかのデメリットを抱えている(はず)。
俺が予想しているのは3つ目だ。なんせここまで超巨大飛行状態、超巨大燃焼飛行状態を見せたレイドボスだが、こんなの近接戦闘職は涙目だ。というかバランス悪くね? もう1つぐらい形態ありそうだな。
そう、ゲームバランス。ゲームバランスというファクターがお前を縛る! 縛っているはず! 俺の友達殺しておいて「無敵なのはゲームの仕様です」で通すかよ!
何も成さないままで終わってたまるか。俺の安い命、諦めてもらうぞクソったれ。
「実験に付き合えレイドボス!」
背を蹴った右足、勢いをそのままに左足で顔の側面を蹴り抜く。手応えはほぼ人間大だな、これで質量そのままだったら啖呵切ったまま焼かれてたな。
振り返るアークファウンに対し、俺は【シンカー】を起動、急激に重さを増した足で地面に着地、左足が延びて右足が畳まれた変な姿勢になったがそのまま仰け反り、奴が右手から放とうとした熱線を【大山猫の眼】で把握した俺は木の棒で【マズルカウンター】!
「ぐっ!?」
微ダメ!? まぁ距離を取れるくらいには怯んでくれたならオッケー!
己の炎で焼いた手を見つめるアークファウン。隙だらけではあるが……【シンカー】と【マズルカウンター】のスキルリキャストがまだだ。この2つは不意打ちに使いやすいスキルだからな、万全を期すほうがいい。
「何なんだ貴様!」
「だから言っただろ? 将来あんたを倒す男だってよ!」
駆け出す。奴は左腕を炎翼に変えての一振りで俺を狙う。【アンカーフッド】で留まり、タイミングをずらして無防備になった奴の左肩を足場に【壁蹴り】で上へ、【空踏み】を利用して前転、そのまま【シンカー】で無理矢理落ちて踵落とし!
「がっ!」
スキルを使った変則ムーンサルト、飛び退いた俺はすぐさま両腕に木の棒を構えスキル【二刀流】の効果で異なるスキルを起動する。右手は【クロノススラッシュ】、左手は【ヘヴィスラッシュ】だ。
正面から左手の木の棒で上に向かって【ヘヴィスラッシュ】そして【切り返し】で無理矢理の2連撃、本命【クロノススラッシュ】を奴の顔面に食らわす!
奴が振り回す腕を胸の正面に構えた左手の棒で【プロテクション】、切り返しは腕の位置を無理矢理変える使い方もあるのさ。炎翼になってたら死んでたかもしれないが気にするな。そして左の木の棒は折れた。すぐに飛び退いて奴を見据える。
ここで【クロノススラッシュ】のデメリットが響く。というか当然ではあるんだが、右手の木の棒は【クロノススラッシュ】のスキルを発動している状態だ。ダメージを解放するまでは他のスキルを使えない。発動媒体の武器が壊れた場合どうなるのかは分からないが……。
ちなみに装備解除はできた。手放したりも自由自在だ。発動するには装備しないといけないけど。ビギナーズソードの場合はシステム上のおまけだったのか右手で発動できたけど例外だろう。装備不可になったのは偶然だしドラゴンが死んでの戦闘終了扱いも始祖鳥が離れてたからだろうしな。
そして木の棒は【木の棒】×数でアイテムボックスに入っているので、今は不安でしまえない。狙った木の棒は取り出せないんだよこれ。確定で取り出せるならしまうけど。
「雑魚が……我は炎の祖であるぞ!」
炎のそ? 始祖ってこと? 炎の祖って……いや考えても意味は無さそうだ。俺の攻撃力が上がるわけでもあるまいし。
「なら凄いとこ見せてみろよ三下ぁ!」
【咆哮】を使った挑発。奴のヘイトをかき集める。
時刻は今……午前1時55分。タイムリミットまで……後4分30秒だ。
【アドバンス】を発動、低空姿勢で奴の足を左手に装備した木の棒で叩き付けるように【スラッシュ】、だがアークファウンは後ろに跳んでかわしやがった。そのまま【切り返し】を発動し、途中で手を離して【投擲】する! 【投擲】だけは攻撃系スキルに割り込めるんだよ! 多分武器種に槍があるからかな。
良い具合に顎にヒットしたがダメージは出てなさそうだ。次!
「鮮烈、苛烈、激烈に! テメェに立ち向かったドラゴンよりも凄ぇ所をよぉ!」
こんな人間にいいようにされて悔しくはないのか。レイドボス、でけえ始祖鳥も人型になれば雑魚に成り下がるってことか……ってあぶな!
「どうした? その敵意は飾りか?」
今、こいつがやったのはただ炎を細いビームのように右手から放った、ただそれだけのことだ。それを……。
「予備動作が、少ない……てめぇ」
「獲物の狩り方を思い出した。竜と人間では違うのだったな」
余裕ぶった表情で俺を見る……ここに来て冷静になられると厳しいな。煽りが足りないか?
まぁカスダメに気付かれたってことか。どんな攻撃でも当たれば死ぬ程度の雑魚だけどな、ただ殺されて終わると思うか?
俺は息を整えながら時間を確認。後3分切った……ここか? 一か八か……。
「人間だと? 俺は竜の夫婦に色々託されてんだぞ? 只の人間で終わるかよ」
左手に木の棒を装備してそのままぶん投げる、冷静になったってことは理性的な動きになるってことだ。奴は必要のない回避を選択した、そして炎線を放つ……がそれは好都合だ。なんせ俺自身回避に乗じて駆け出すことができるからな!
駆け出した勢いをそのままに木に向かって《壁蹴り》を発動し上へ。《空踏み》で斜め下に……奴に向かって飛ぶ!
「無駄だ!」
飛び蹴りを片手で受け止めたアークファウンだが、甘い!
「無駄かどうかはここで決まるんだよ!」
「何を……い゛っ」
ビリッとしたか? 【帯電】って言うんだぜ? というか帯電できる時点で俺は人間辞めてるのでは?
カブトムシにヘイトが向いたことから電気あるいは雷属性が弱点だと考えたが図星か? 結果拘束が緩んだ、俺は奴の頭を掴んで上体を曲げ、両足で奴の頭を挟み、挟んだまま左足で【空踏み】をして勢いを付けながら上体を曲げて……食らえ!
「変則式、フランケンシュタイナー!!」
なお帯電中。
フランケンシュタイナーはプロレス技だったか、ド派手に頭を地面に打ち付ける技だ。色々と違うような気もするがゲームの世界なんだからいいじゃないか。
俺は奴を遠心力に任せてぶん投げた。奴は切りもみ回転で地面を転がりながら吹き飛んでいった。鳥は「手を付く」ことに慣れてないもんなぁ! 確保したのは距離にして10メートル程度。ここまで稼げば……。
俺は左手で木の棒を取り出し装備して【大山猫の眼】を発動する。
「森の中で俺に勝てると思ってるのか? 人型になるなら格闘技でも学んでからにしろよ」
重ねて無礼た表情で挑発する。来い来い来い来い……。
「ふはははは、調子に乗るな。我に取って格闘など不要。我は炎の祖。鬱陶しい木々など……貴様諸とも焼失させればいい」
「へぇー、出来るならやってみろよ。知らないのか? 成木は水分を多量に含んでるんだぜ? 簡単には燃えねぇぞ」
「我が炎は恩恵。慈悲として授けてやろう。無論、貴様もまとめてな」
奴が両腕を炎の翼に変える。俺は木の棒を3本取り出して唯一残っている衣服であるビギナーズボトム(一応下に脱げないアンダーウェアもある)に侍の刀のように突き刺しておく。
魔力を視る眼で見えたのは……今にも爆発しそうな程に収束しながら膨れ上がる赤!
「死ぬがいい」
「なめんな、吐いた唾は飲み込めねぇぞ!」
それに俺、こういう余裕ぶったキャラ嫌いなんだよなー!
魔力によって気温すらも上がったのか息苦しい。爆発せんとする炎熱に俺は木の棒で備える。変な絵面だが本気だぜ。
あくまで俺は凡人よ、だがこの命だけは守り抜く。恩人に守られた命を投げ出すほど落ちた覚えもない!
爆発ではなく解放、圧縮した炎を解き放つ技だろう。だが単発の範囲攻撃への対処法なんてのは現代人である俺だからこそ、当たりを付けてるんだよ!
奴を見据えながらバック走で走り出す。
「逃げられんよ」
問題ない!! 死ぬ覚悟は既に決めた、その上で抗う! ゲームの中でチキンになってどうする!! 急いては事を仕損じるって言葉を教えてやるぜ!
奴を中心に球体のように熱が膨れ上がる、それを目視で確認した俺は左手に装備した木の棒を手放して走る、五歩目で更に一本を落とし進んだ先、また五歩の地点で木の棒を腰から抜く。
総じて稼いだ距離は30メートル程、達成感を感じている余裕もなく膨大にして高温の魔力が解放される。
迫る熱波、いや炎の壁だなこりゃ。アークファウンを中心に炎がドームのように広がる。木々は一瞬で炭になっていくが……俺の目は目印から離れない。余計な情報はシャットアウト、必要なのはタイミング!
俺は一本目の木の棒が消え去った瞬間地面にうつ伏せで寝そべる。二本目が消えた、今!
「《プロテクション》!」
効果範囲で【ランパート】に劣るが、何のためにうつ伏せになったと思う。爆発への対応は爆発物に対し足を向けて仰向けになり腕で頭を守る……らしいが、今はスキルというマストアイテムがあるんでな、タイミングを計るためにうつ伏せになって頭は【プロテクション】で守るぜ!
轟炎が駆け抜ける。だがスキルの光を纏う木の棒は鋼鉄よりも強固な壁となり……黒くボロボロに焼け焦げながらも俺を守り抜いた。
「何……?」
辺り一面を深い森から焦土へと一瞬で変えた張本人がまぁまぁ間抜けな顔をしている。ま、当たり前か。雑魚扱いした相手があの大技を受けて生きてるんだからな。
連続攻撃なら打つ手は無かったが……広範囲の連続攻撃は鬼畜仕様だからな、ボスモンスターだとしても早々持っていないだろう。
挑発がてら散々森というマップを生かした戦い方をしてよかった、うざい相手とうざいマップは合わせちゃダメだよな、分かるよ。
というか大木が倒れること無く、そして炭を通り越して灰になって焼失とかお前は溶鉱炉か何かなの?
「さて、と」
立ち上がりパンパンと砂を払う。うーむ、砂や木の枝、葉っぱまで着いてる。しかしリアルな触感だ。
だがまぁ、ここはゲームの中なんだよ。
知識は武器になり、知恵は作戦になる。知謀を持って敵を嵌めるのが我ら人類種の特権と言える。要するに……
「タイムオーバーだ」
時刻は午前2時。暗闇というには僅かながらに白んだ空を月明かりが照らす。未だ夜という時間ながら、この世界にとっては重要な時刻だ。
時計の針が分を刻む前に、奴と俺を阻む焦土と化した空間は大地から一瞬にして生い茂った木々によって埋め尽くされた。
「何!?」
「じゃあな、また会おうぜ」
何が起きたかを把握し、待ち構えていた俺はすぐさま森となった木々の隙間を駆け抜ける。スキルを多用した逃走は起きたことを理解しようとしているアークファウンの隙を付いて大きく距離を離すことに成功した。
なんてことはない。ちょっとした小技だ。きっかけはザリガニくんの森林伐採、そしてカブトムシは巨木を伐採するか倒すことで出現すると理解した時に確信した。
この森は再生している。
所謂、マップのリセットだ。この『ピッキングアウト』というゲームでは午前2時にリセットされる。素材系オブジェクトに限るらしいが森や巨大な岩もリセットするものに含まれている。始まりの街で噴水を壊すと夜中に修復(ドワーフらしきNPC達が早業でやる)しているらしい。壊すなよ。
リアリティーというところでは問題があるだろうが、ゲームだからこそバランスの落とし所があるのだ。犯人がレイドボスだから怪しいところではあったのだが、さすがにイベントでもない癖に森林破壊だけします、は許されなかったようだ。
この森は早送りではなくスキップしているレベルで森になるのが早い。目隠しになると踏んでいた。急成長がこの森の特性だとすると精霊とか神様とか、何かいるのかもしれないが詳しくは知らん。今はどうでもいい。
待ちに待った世界からの助け舟であったが、「隙有り!」なんて真似は今はできないので、俺はこのまま逃げ切るぜ。
これが例えどんなネームドだろうと、お前らには無理なことがあるんだよアークファウン。




