活火激発、歴戦の竜と異種な輩#5
手には眼球を切り裂いた手応え、だが《クロノススラッシュ》はダメージ判定が特殊だ。始祖鳥にダメージは無いだろう。
そしてこのままだと俺は海に落ちて落下死するだろう。それとも海上で魚に食われる?
始祖鳥も自分の火球を暴発させられたダメージで海に落ちそうだ。《マズルカウンター》いいな、判定はシビアだが有用じゃないか。今後とも狙っていこう。
さてさて、《シンカー》が切れたことで軽くなった。浮遊感が俺を苛む。このまま落ちてたまるか、俺はシンプルに夜の海が怖いぞ! そこにいるモンスター含めてな。
スキルのリキャストが終われば……お!? 《空踏み》が終わってる! 元々《壁蹴り》はリキャストが短いタイプだったがそれより早く《空踏み》のリキャストが終わっていた。虚空を蹴ってドラゴンのいる方へ跳ねる!
すると《空踏み》のリキャストがぐんぐんと進んでいく! これはまさか《リブート》!? 役に立っているのか分からなかったリキャストを早めるスキルが発動しているというのか!? なんてこった3秒でリキャストが済んだぞ! ありがとう《リブート》!!
これが本当にスキルのお陰なのかは分からないし、真実を知る由も無いが、今はそんなことどうだっていい! 待ってろ地上、今駆け降りる!
ところで、こんだけ高いと着地ダメージでかくない??
「チャンスは一瞬、こう、なんか棒高跳びみたいな動きで……」
リキャストが終わればすぐに《空踏み》をしつつ、取り出したるはビギナーズスティック。筋力値にプラスをしたこの状態ならイケるはず……スティック、しならないんだっけ、いや待て待て衝撃の分散、目的はあくまで減速……。
ちなみに、海上付近でスピードを落とすと海棲モンスターに狙われて死ぬのでは? という前提で行動している。杞憂かもしれないが、試す気にはならないし、そんな余裕は今はない。
さぁ、後10メートルくらいだ、行くぞスティック!
ズザァ!
「おっ、らぁ!」
棒高跳びのイメージで砂浜に突き刺したスティックを支えに体を折り、筋力で強引に下半身を持ち上げ「く」の字の姿勢に。僅かに上を向いたが背中から落ち、
「《アンカーフッド》!!」
る前に足を無理矢理下に向けてスキルを起動。地面に固定される特性で反動を消しつつ着地。ジンジン来る……そして見た目は変則的なブリッジだ……。ダサいね。
まぁ、見た目はそもそもボロボロで野蛮人だけど。服としてのビギナーズセット一式はもうその中のズボンしか残っていない……。幸いドラゴンの渾身のブレス? は火属性じゃなかったようだ。《名無しの草履》はさっき始祖鳥蹴ったからヤバいかと思ったが燃焼状態にはなっていなかった。良かった……。
何はともあれ無事着地、そして帰還だ。クエスト達成って感じだ。なぁ?
「どうだドラゴン。一太刀入れてきたぜ」
「グラァ……」
随分とお疲れのようだ。まぁ始祖鳥が大ダメージ受けてたっぽいし全身全霊の技だったんだな。その後すぐ炎を吐こうとしてた始祖鳥はさすがレイドボスだな。体力がおかしい。
さて、振り返ってみると水平線で朝日のように輝く炎の塊が見える。あの質量が海に落ちたら津波が起こりそうだったが……海を蒸発させてないか? 白い蒸気が遠目でも分かるぞ。
「化け物かあいつ。この後はどうする?」
「ガァ……」
「剣を? ビギナーズソードのことか? っていうか何で今さ、ら?」
何が起きたのか、一瞬、思考が止まった。
俺の持っている剣に、ドラゴンが噛み付いた。ただそれだけで。
《経験値を獲得……Loading》
《称号【大器晩成】を確認。取得経験値が半分になります》
《プレイヤー:ゼノンのレベルが35になりました》
《レベルが第一上限に達しました》
《第一レベル上限に最速で到達。称号【足早の挑戦者】を獲得しました》
《称号【足早の挑戦者】の獲得に伴い、スキル【ランナーズハイ】を獲得しました》
《ステータスポイント4を獲得。
称号【大器晩成】を確認。スキルポイント4を獲得》
ドラゴンの命が尽きた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
輝く水晶で仄かに照らされた洞窟で、鼓動が1つ、また1つと「その時」が待ち遠しいと言わんばかりに早鐘を打つ。
目覚めの時は近い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
・謝罪会見の質問タイム曰く、レベルが低いからダメージが出せない、ということはない。
・質問タイム曰く、このゲームでは鱗に弾かれたとしてもダメージは発生している。レベルが離れていても同じ仕様。
頭に過ったのはこのゲームの仕様、皮肉にも俺が聞いた質問の答え。剣の刃に噛み付くという行為は当たり前だがダメージ判定がある。1だろうと、疲弊したドラゴンの命が0になったのなら、それは死という結果をもたらす。
「なん、なんだよお前……、おいドラゴン! なんで!」
上手く言葉が出てこない。なんで、どうして、違う、死ぬな、違う、自分で自分が分からなくなる感情の中で冷静な自分がいる。
諦めるのか! ふざけるな! こんな終わり方望んでない! そんな怒りの言葉を必死に抑え込む。
俺しかいないんだ! ドラゴンに残された時間はもう無い、怒りも悲しみも困惑も後にしろ!
もう間違えてはいけない。奥さんの思いを俺は目先の怒りで読み違えた。敵討ちよりも子供の幸せを望んでいた奥さんの気持ちを俺が蔑ろにしたんだ。
目の前の、ドラゴンの思いをきちんと図れ。それが今、俺がやらなきゃいけないことなんだ。
奥さんと同様、薄らぎ消え行くドラゴンの顔は……笑っていた。優しい笑みだ。
「ガァ……グラァ……」
「っ!?」
『お前は、強くなれ』。
そう言われた気がした。
「なるよ。強くなる、今は無理でも、あの始祖鳥野郎は俺が倒す。絶対、勝ってみせる!」
答える言葉は飾らない。ありのままの俺で。振り絞るように伝えていく。
「卵のことも、絶対守るから! ちゃんと大きくなるまで面倒も見るから……っ!」
涙が溢れる。なんでだろうな。最初からずっと、倒す気満々で、絶対に倒すって決意して。こんな、こんな……。
こんな幕引きでいいのか? なぁ、強者としての威風を纏っていたドラゴンはどうしたんだよ!
「グラァ……グラ」
そんな優しい眼をするなよ……! もっとギラついた眼をしていてくれよ。俺が憧れた、お前のままでいてくれよ。
ポリゴンとなって消え始めていくドラゴンに言われるがまま、俺はスキル《弔息吹》を発動する。ドラゴンのエネルギーが俺に集まり、体に吸収されていく。これで、いいのかよ……。満足なのかよ、もっとあるだろ、あいつをぶっ倒せとか、言ってくれよ……。
「グラァァァア……」
『あれは果てではない』ってどういうことだよ……。
消えて、薄れて……もう会えなくなる。俺の……友達の最期は……父親のような優しい笑顔だった。
残された俺は……涙を拭う。
何泣いてんだ。俺はプレイヤーなんだぞ? 死が終わりじゃないのなら、託されるしかない。
立ち尽くす俺に世界の声が聞こえた。
《歴戦竜は頂への歩みを止めた》
《果て無き挑戦は命と共に潰えた》
《ここに新たなる竜覇が目覚める》
《称号【竜覇】を獲得しました》
《称号【ジャイアントキリング・ハイリターン】を獲得しました》
《称号【竜血を浴びた者】を獲得しました》
《称号【竜宮洞の支配者】を譲渡されました》
《アイテムを獲得……Loading
歴戦竜の臥竜指×10を入手しました。
歴戦竜の獰猛牙×7を入手しました。
歴戦竜の金剛鱗×14を入手しました。
歴戦竜の黒閃尾×1を入手しました。
歴戦竜の臥竜眼×1を入手しました。
歴戦竜のメモリー×1を入手しました》
歴戦竜……ハッ、そんな名前だったのかよ。
なぁドラゴン。俺はお前と最高の喧嘩がしたかった。それを奥さんと、生まれてくる子供に見せてさ。何回も何回も挑んで……何十回負けても立ち上がって……何百回も食らい付く……そんな俺をお前に見せたかったんだ。
どうやっても戻らない時間を悔やまない人間はいないだろう。俺だって人間だ。夢も目標も、楽しかった日々ももう終わった。終わってしまった。
でも託されたんだ。守るものも変わってない。ああ、大丈夫だ。俺は戦うよ、ドラゴン。
敵がいる。未だ明けない夜を照らす……炎の始祖が。
いつの間にか曇天は消え失せ、月と星が俺を見下ろしている。暗闇に光る星よりも煌々と輝く炎翼の始祖鳥が俺を視界に納めた。そして遥か上空から一直線に降りてくる!
歴戦竜が死んだからか? ターゲットは俺に移ったようだな。
「装備不可、こんなところで来るか」
いつの間にか、強く握りしめていたはずのビギナーズソードは消えていた。地面に突き刺さっていたビギナーズスティックも消えている。所有権を持っているのが俺だからなのか、それとも不正利用を防止するためかは分からないが、紛失するよりはいいか。
さぁ、俺は2本の《木の棒》を取り出し装備する。燃え上がる始祖鳥は次の一撃を嘴を使った突撃に決めたのかその巨体が俺に迫る。
「ルァァァア!!!!」
でけぇ声だな、黙らせてやる。
「《カウンターバッシュ》!!」
ズドッ!! バシュゥゥゥ……
木の棒と侮るなかれ。竜の爪すら弾いた力だ、巨体だろうがなんだろうが片手で跳ね返すぜ。
折れた木の棒を投げ捨て、改めてもう一本を両手で握りしめる。
目を見張る始祖鳥。その体から発せられる高熱が俺を焼くが流石にダメージ判定は無い。そして一歩引いた始祖鳥は……両翼で体を覆う。
「初見の行動……一か八か……《大山猫の眼》」
魔力を見る眼を強化するスキルを発動し攻撃に備える。膨れ上がる赤い魔力を見た瞬間、スキルを発動する!
「《ランパート》!!」
そして両手で握った木の棒からスキルの光が放たれ半透明な青い盾を形成する。解き放たれた無数の火花を盾が受け止める。木の棒がミシミシと音を立てる。武器の耐久値を参照してるのか? 盾の向こうでは魔力は収まりつつある、もう少し耐えてくれ……!
スキルの光が途絶えたがなんとか火花は消え去っていた。あんな殺意含んだ花火あるか? 次は何をするのかと始祖鳥を見ると……は?
「おいおい……、第三形態があるのかよ」
目の前にいたのは、
「クロキリュウ、イナイ。オマエハ、ナンダ?」
羽根で作ったような服を着た、赤い髪の青年だった。
「ワレガモトメルノハ、猛者ノミ。オ前ノヨウナ木っ端ニ、用は無イ」
「急に喋るとか……お前こそ何なんだよ、まずは自己紹介でもしたらどうだ? 名前があるんならなぁ!」
酷く聞き取りづらい声は段々と流暢になっていく。喉でも焼けてたのか? いやまぁ、心当たりはあるけど。
そしてここに来て第三形態が人型だと? レイドボスだろう? 的を小さくするな。そして小さくなる系のボスはスピードが上がるのがお約束じゃないか……! 勘弁してくれねぇかな、こっち木の棒しかないんですけど!!
心は始祖鳥人間への敵意でグツグツと煮えくり返り、脳は戦闘方法の思考でぐるぐると回転しているが、正直冷静な俺は『無理ゲー』と叫びたがっている。
鳥型、というのは意外と攻撃手段が限られているのだ。つつく、翼で殴る、足で蹴る、体当たりくらいにはな。ゲームなら風を起こす、羽根を飛ばす、後は各種の属性系くらいだ。多いくないかって? 人間に比べたら少ないだろう?
人型モンスターの場合、ただ腕を使った技でも殴る、叩く、掴む、突くに加えて殴るにもストレートやジャブ、アッパーなんかも増える。手数が多すぎて完璧な対処が難しくなるんだ。そして人型モンスターは掌から炎を出したりする……絶対するだろこいつ。
さぁ、長考するために名前を聞いたが……奴の返答は?
「我が、名……アークファウン」
名前あるのか。あー、多分今の俺はにやけ顔だろうな。奥さんとドラゴンの仇とは言え、新しい目標がこんなにもはっきりすると……ワクワクする。
目標に先立たれて、振り出しに戻ったように見える。でも違う。偉大なる師匠のお陰で、今の俺は1からのリスタートだ!
「アークファウン、黒い竜は強かったか?」
「我を穿つ一撃、実に見事。褒美に我が原初の火で焼き付くす」
「そうか。残念だがそれは無理だ。ドラゴンは俺が殺したからな」
「何?」
随分人間味溢れる表情するじゃねぇか。いつか吠え面かかせてやる。
「俺の名はゼノン。歴戦竜の友にして仇を討つ者。だがその仇である貴殿は強大、未だ若輩たる俺では敵う筈もなく。
故に、」
決意と共に俺は右手でスキル《クロノススラッシュ》を解放し、左手で謎の骨を海に向かって投げた。
ズシャァァァァア!!!!
「がぁっ!?!?」
ハッ! 随分と痛そうに哭くじゃないか。
奴の顔から盛大にダメージエフェクトが爆発するように発生した。《クロノススラッシュ》は時間を空ければ空けるほどダメージを倍増させるスキルだ。デメリットはスキルリキャストのゲージが倍増のタイマー代わりになるし、溜めれば溜めるほど次のスキルリキャストが伸びるという使用。強いけど目の前のこいつみたいな一撃で倒せない相手には使いづらいわ。
アークファウンが踞りながら顔を上げてこちらを見る。一瞬目があったが……視力を失ったのか左の眼窩は煙を上げながらも黒く変色している。色男が台無しだぜ!
スキル《宣戦賦刻》は相手に癒えない傷を作るスキルだ。癒えないと言ってもスキル発動後のダメージが大きければ大きいほど、癒えるまでに時間が掛かるという話なのだが。
「ぐっ、貴、様ぁ……!」
「今宵はいつかの為の宣戦布告。貴殿の命は俺が奪います」
わざとらしく勿体ぶった言い方をする。左手を胸に当て、右手を後ろに回す敬礼を添えて。帽子でも被ってれば洒落になるかもしれないが、今回は上半身裸だ。これがほんとの一張羅ってか。
まぁただの時間稼ぎなんですけど。お? そろそろ来るかな?
「それでは。これにて失礼」
「待て!」
怒りに任せて炎でも放つかと思ったが、どうやら痛みが酷いようだ。両腕を炎の翼に変え、襲いかかろうとしているみたいだが、遅い。
出番だぜ。
「フルルァァァァア!!!」
炎熱を気に止めることもなく、海底から現れたザリガニが人型の始祖鳥を踏み潰した。
その手には謎の骨。うーん、気分はマジシャンだ。やっぱ人間、頭使わなきゃ。
「対ドラゴン用の秘策だったんだけどな」
待ち望んだいつかは来なかった。まぁ安心しろ。今度の「いつか」は俺の手で成すからよ。




