活火激発、歴戦の竜と異種な輩#4
幾千を斬り、万物を断ち、巨億を討ち果たせ。さすれば歴戦の兆候を見る。強さの垓は未だ遠く見えず。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ドラゴンの目的は卵を守ること。なら良い手がある。
始祖鳥は獲物の脅威を判断していると俺は決め打ちしている。そうじゃなきゃクワガタを無視しておいてカブトムシを攻撃しようとした(未遂だけど)理由が分からない。フクロウは知らん、火の粉で勝手に死ぬなんて迷惑な。
海に奴を誘き寄せて落とす。シャチくぅん、出番だ。 落とすのは俺たちがやるからさ。
視界はもう晴れている。出来るか出来ないか、そんなことはどうでもいい。
俺が憧れたドラゴンは、強い相手に立ち向かう。守ることが目的だとしても、その通過点に勝利があってこそなのだと、そんな後ろ姿を見ておいて何に恐怖してんだ。ダメで元々、スキル目的でカブトムシ殺したんだろ? このままじゃ無駄死にじゃねぇか。あいつも浮かばれない。
「炎の形は元の姿と変わらない。炎の奥には実体がありそうなんだが……」
空を飛ぶ炎の始祖鳥……炎で構成された肉体に硬質な鱗がちらほらと見える。肩や脚、下から見上げると腹にもあることが分かる。部分的なプレートアーマーみたいな感じだ。あれをつかんで投げられないもんかね。
「ん?」
実体……そういえば眼はどうなっている?
「それだぁー!!!」
思わず大声が出てしまった。だがそれくらい大きな見落としだった。そうだよ、目は炎になっていなかった、そしてビギナーズ武器なら例え炎だろうと耐久が下がることは無い!
俺はスキルを見渡し……ゆっくり見ている余裕はない、ドラゴンの体力は無限じゃない、攻撃技っぽいのだけ重点的に確認する……! ……あんまりないじゃないか!!
《クロノススラッシュ》、当ててから……経過時間でダメージが……??? なるほど、使いどころが難しいつよつよ技か! えー?
「すまんドラゴン、役に立ちそうもねぇ」
ドラゴンは何も答えない。というか『戦闘で役に立つ気でいたのか?』くらいの雰囲気を漂わせている。気持ちは分かるけど! 俺だっててんとう虫が拳握りしめて『やってやりましょう!』とか言ったらどの攻撃力で言ってるんだ、ってなるけど!!
「ガァ」
まぁ見てろ、そう言わんばかりにドラゴンは四肢に力を込める。黄色いオーラがドラゴンを包み……いや、魔力か? え? まさか……。
ピッ! ガガガガガガガ!!!
一瞬の閃光、そして頭上からの轟音。遥か上空からの落雷が始祖鳥を貫いてドラゴンに降り注いだ。そのドラゴンの匿われている俺に分かったのはドラゴンが雷のエネルギーを魔力に転換していくその様子だけ……。そして火の粉が止んだことだった。
なんだ今の。雷を引き寄せた? そして雷を魔力に転換した? 火の粉が止んだことを含めると攻撃だったってことか? 落雷を引き寄せて攻撃&強化の技とかお前……。
ポツリポツリと地面が濡れていく。どうやら雨雲まで引き寄せたらしい。このドラゴンは……どこまで力を隠していたんだ?
見るからに筋力を上げたドラゴンが空を見上げる。ただの強化で終わるはずがない。強くなる雨を端から蒸発させているのか、空にいる始祖鳥からは白い蒸気が上がる。そしてその首を下に向けドラゴンを睨む。
その視線を嬉々として受け、空に駆け出すドラゴン。雷光を纏った爪で始祖鳥の甲殻を殴り付け……いや、掴んだ! そして腕力と虚空を踏みしめる足の力で強引に始祖鳥の姿勢を崩す! そしてノーガードの腹目掛けて尻尾を使った強打を叩き込んだ!
大きな音を立て墜落した始祖鳥に対しドラゴンは更に魔力を溜める。始祖鳥の頭上に位置取ったドラゴンは下に向かい空を蹴る。そして二本の前腕を始祖鳥の心臓部に向け……唸りを上げる落雷と共に墜ちた!!
「ギィァァァァア!?!?」
ピッ! ガゴォォォォオオオン!!
光よりも遅く、だが確かに届いて振動を伝える大地と空気。凄まじい威力に始祖鳥は苦しみを叫ぶ。
「グラァァァア!!!」
燃える始祖鳥の上で、その炎を気にも止めず君臨し、雄叫びを上げるドラゴン。
「なんだよあれ……めちゃくちゃかっこいいじゃねぇか」
敗北への恐怖が、消えていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
始祖鳥が炎の塊を吐けば。
---ドラゴンは鱗を焦がしながら拳で打ち返し、
始祖鳥が空を飛べば。
---ドラゴンは足で空を駆け身を焼いてでも地に落とし、
始祖鳥が怒りの咆哮を上げれば。
-ー-ドラゴンは嬉々として雄叫びを上げる。
己が魂がある、ただそれだけで戦いは続くのだと。四肢が焦げ、鱗が焼け爛れ、その命すら燃え付きようという奮迅の戦闘の中。ドラゴンは楽しそうに笑う。
始祖鳥が巨体を活かした踏みつけをすれば、
ーーードラゴンは金剛と化した鱗を逆立たせ迎え撃ち、
始祖鳥が両翼を振って挟撃すれば、
ーーードラゴンは両前足を軸にした大回転で尾を使って凪ぎ払う。
一進一退に見える戦闘はその実、ドラゴンを疲弊させている。無理もない。レベル差、覆せない体格差、そしてゲームだからこその体力の差が始祖鳥とドラゴンにはある。
だがそれでも、希望はあった。
「海が近い、もうすぐそこだぞドラゴン!」
ドラゴンの追い風となる大荒れの天候は海という舞台を派手に飾り付けている。後は始祖鳥を沈める……沈むかなぁあのサイズ。少なくとも近くに落とすじゃ無理だろう。吹き飛ばしてでも遠くへ……その為には何をすればいい……?
「何か、俺にできることを……!」
強くなった雨は始祖鳥の炎を多少弱めているだろうが……。雨で弱体、となると俺たちはいつか雨を降らせることになる。雨乞いの魔法がないと突破できない、そんなボスはいないだろう。それこそレイドボスにするな。絶対に!
幸い空は雨模様、始祖鳥が雲を晴らすことができないというよりも、ドラゴンがさせていないというほうが的確か。
ドラゴンは始祖鳥を地に落とし続けている。これは自分の射程を維持し続けて戦闘を優位に進めているということだ。いや、本当にそうか? そんな土俵を気にするタイプとは思えない。ドラゴンの狙い……まさか!
ドラゴンの尻尾の強打を胸に受け、大きく仰け反った始祖鳥はそのまま距離を取り、ドラゴンに背を向けて飛び立つ。射程の有利を取りに来たのか、ドラゴンの見えない攻撃を受けながらも距離を離そうと翼を広げる始祖鳥。対するドラゴンは……笑っている。
ドラゴンが前足を広げ後ろ足だけで立ち上がる。そして左腕を前に、右腕を肩から引いて……抉るように振り上げる!。上半身の回転は大気を震わせ、風を作る。風はすぐに大きくなり、渦となり、竜巻となって空に逃げた始祖鳥を捕らえる!
「ギィァァァア!?」
竜巻に捕らわれた始祖鳥は逃げられない。上空からは雷が降り注ぎ、下から巻き上げられた海水が炎を蝕む。自己強化の為の雷を攻撃の手段としても活用し、自分が呼んだ雨を巻き込む竜巻で始祖鳥を削る。どこまで計算してるんだ、こいつ……。自然を操った上で弱点を突く……戦い慣れってレベルじゃないぞ? ホントにただのモンスターかよ。
「まさか、執拗に落としてたのはこのための布石か……? 空に逃げることに意識を向けさせたのか?」
だとしたらとんでもない。俺の憧れたドラゴンは思考を読むAIってことだ。いやまあ、俺と会話できてたけど……。
「ガァ」
そのドラゴンが俺に近付いてきた。どうやら竜巻は細かい操作は要らないらしい。そして俺を見つめる。ん? 俺の手元か。……忘れてたけどミサンガ付けてた。で、そのミサンガを見ているわけだ。
「ガア……」
「なんだよ。まさか俺に死ねと?」
「ガァ」
頷かれました。はい?
「ガァァァ。グラァ」
顎で始祖鳥を指すドラゴン。撃ち落とすのを手伝えってか? でもあんな高いところ(の竜巻の中)にいる始祖鳥にどう近付けばいいんだ? ……まさか、ってかそのまさかか?
「お前のブレスを食らって一緒に吹き飛ばされろとか言わないよな?」
「グラァ!」
頷きを返された!! 分かってるなら話は早い! みたいに言いやがって!
そして何で会話できてるんだろうな! というか意志疎通だけども、何故か分かってしまう。これは称号とかが関係してるのか?
「そもそも行けるのか? 天誓花のミサンガ……と、スキル【戦線復帰】……いや、不安なんて要らねぇよな」
俺以上に俺を使おうとしてくれているドラゴンに対し、死ぬのが怖いです、なんてゲームって分かってる人間が言うのはバカらしいよな。
「いいぜ、乗ってやる。そんでお前が思う以上に結果を出してやるよ」
ドラゴンはただ嬉しそうに俺を見る。目が合う。その目に写る俺は……イケてるかい?
「さて、とりあえず剣を装備してと。空踏みしたほうが角度の調整ができるか? 体装備は……そもそも上半身裸か。まだ燃えてるんだよな……」
装備しようとしても《燃焼状態です。装備はできまさん》って表示される。これ本来は焼失してるやつだ。でもビギナーズ装備だから消えないと。そして着れないと。どんどんサバイバルになっていく。
「まぁ軽いからよく飛ぶだろ。タイミングどうする?」
「ガァ」
空を見上げ、その先の竜巻を睨むドラゴン。俺も見てみるが……なんか赤い魔力が光ってる。
「あれ……そろそろ出てきそうだな」
「グラァ!」
「もうかよ! ちと待ってくれ、『アドバンス』!」
うわすご! 青と薄緑の色が波のようにドラゴンに吸い込まれていく。これ多分大気そのものと風か? どんどん魔力に変換されていってるのか……。そしてドラゴンの黒い図体が白く光る……魔力量が凄まじい。膨大な魔力を集めて……解き放とうとしている。
今にも死にそうなほどボロボロで、今までのどの姿よりも醜いが……それでも王の権威が溢れるような……精悍な眼をしている。
いいね、貴重な体験だ。自分から死に飛び込むなんて滅多にできないぜ! しかもその後攻撃しようとしているだなんて、死神もびっくりだ!
『アドバンス』によって強化された筋力を使ってドラゴンに背を向けて駆け出す! そして地を蹴りジャンプ! 『空踏み』で更にジャンプ! 来い!!
「俺は期待に応える男だ!!」
「グラァァァァァァア!!!!」
天を衝く雄叫び。俺は僅かに映った極光と、熱に押し出される感覚と共に死んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ルルァァァ!!」
降雷と竜巻に捕らわれていた不死鳥は、己の熱量を解き放つことで風と雨の牢獄から抜け出した。直後、
ゴッパァァァァァア!!
遠方より放たれた極光が心臓を貫いた。
「ギィァァァァア!?」
炎の化身たる己よりも煌々と輝く光の束は竜の顎を象る。始祖鳥を貫いた極光はその先、雷を纏う天蓋すらも貫き、星々に届かんというほどに勢いを持っていた。
スキル【臥竜の霊咆】。全魔力を消費する奥義にして歴戦竜のみに与えられた絶技。残存体力が必ず1になるというデメリットを持つが、その威力は使用したスキルの数×戦闘時間という、戦闘時間が長ければ長いほど、スキルの数が多ければ多いほど強くなる技だ。
さすがの始祖鳥と言えども一撃に込められた殺意が今までとは比べ物にならない。堪らず体勢を崩す……が、しかし始祖鳥はレイドボス。それも一万人以上を相手にするべく産み出された個体。たかが一匹のドラゴンに敗北することはない。
不届きなる獲物を睨み付けようと体勢を整え階下を見下ろし、御返しと言わんばかりに火炎を口腔に溜め、解き放とうと構えた。
故に気付かなかった。
「『マズルカウンター』!!!」
一人の人間が上空から落ちてきた。
その人間は虚空を蹴って始祖鳥の口に飛び込み、その火炎に向かってスキルの光が輝く剣を振り抜いた。
「ルギァァァァァ!?」
口に溜め込まれた炎は押し返され、喉を焼く爆発が起きた。口腔を焼かれて無事な生物は少なく、それは炎を纏えども始祖鳥も同じだった。大きく仰け反る始祖鳥に対し、人間は爆風によって更に空へと打ち上げられた。
その人間の目に怯えは無く。
ただ斬るべき相手のみを見据えている。
「『アドバンス』、『シンカー』」
剣を握る手に震えは無く。
確固たる意思が刃を研ぎ澄ます。
「『空踏み』、『壁蹴り』『宣戦賦刻』!!」
筋力値と敏捷値に補正を掛け、脚を重くし姿勢を維持して虚空を踏み締め前へ。開いた口の端を蹴って更に加速し、目前に迫る。
「『クロノススラッシュ』!!」
因縁を刻む一撃が、時を越える剣技と共に始祖鳥の左目を切り裂いた。




