転機 前編
夜、ログインしました。
あの爪から繰り出される不可視の斬撃は強烈だが、爪に魔力を込めて動かさなければ発動しない。そう思うと瞬間的に発動よりはコンマ数秒だが猶予があるだけ温情だ。範囲は縦幅は分からないが横には1、2cmの極めて狭い範囲だ。2発まとめて《カウンターバッシュ》ができれば対処可能だ。(机上の空論)
尻尾の空中回転叩き落としは高火力だが行動が分かりやすいためまだありがたい。地震のような揺らす技からの派生だとしたらより対応しやすい。ただ、ザリガニみたいに泡の放射なんかの遠距離と使い分けされると厳しいな。揺れからのブレスは無理、本気で無理。叩き落としはいざとなれば《壁蹴り》で斜めに跳んでどうにかしよう。(力業の暴論)
普通の右前足の攻撃はもう慣れたというか、普通に《カウンターバッシュ》を合わせられるので問題ない。まぁ連打されるとリキャスト間に合わないからきついけど。後ろに跳んでかわすこともできるし余裕だろう。(楽観視)
まぁまぁ厄介なのは前足を軸に回転して凪ぎ払ってくる尻尾の攻撃だな。そもそも範囲攻撃に近いし。いや《壁蹴り》でどうにか上に逃げるしかないんだよな……。もう一個は剣を盾として使用して勢いに乗って離れるパターン。追撃に弱いし勢いで吹っ飛ぶからなー、ちょっと難しいか。(謎の自信)
噛み付きも余裕だ。いやまだ試してないけどさ、耐久値無しビギナーズ武器を噛み砕けるんですかという話なんですよ。ええ。スティックをつっかえ棒にしちゃえばいいんじゃないかなってね。(その前もその後も省みない考察)
炎吐息? 無理。(圧倒的結論)
以上が連日ドラゴンと戦った俺の感想です。
砂上の楼閣? 砂の上だろうと机の上だろうと、楼閣を築く、空論を描くことに価値があるのさ。崩れるかどうかは結果論。それがいつか価値を持つことになる。長い時間の果てに大地が回り、空は回らなくなったようにな。
と言ってもゴールデンウィーク4日かけてほぼ進展無しだ。夜は飯を作るのが日課になってしまった。
そういえば称号について。
【料理界の期待の新人】
料理人NPCに対して会話にボーナス。
取得条件:料理回数3回以下で評価★10獲得する
報酬:スキルポイント3を獲得
【サバイバル料理人】
料理中にモンスターが寄り付きやすくなる。
取得条件:敵対モンスターが近くにいる状態で調理を開始する
報酬:スキルポイント2を獲得
【一流の料理人】
料理人NPCに対して会話にボーナス。
取得条件:料理で評価★10を獲得する
報酬:スキルポイント5を獲得
てな感じ。料理人NPCとは? どこで会えるんですか? 無人島店とかある?
フレーバーテキストはなし。効果だけ書いてある簡素な文章だ。スキルポイントは嬉しいけど。
これでスキルポイントは前回の残りの2を合わせて12、確か戦闘スキルがあったなーと確認してみた。
で、今見たら解放されてた戦闘スキルがこちら。
【戦闘】
・ダブルスラッシュ スキルポイント3
・リブート スキルポイント1
・息吹 スキルポイント1
・アッド スキルポイント2
・ヘヴィスラッシュ スキルポイント3
・プロテクション スキルポイント2
・スイング スキルポイント1
・アンカーフッド スキルポイント3
以上。ダブルスラッシュは前と同じ。ヘヴィスラッシュは威力重点のスラッシュ、但し魔力を3消費するところを見るにスラッシュとは別派生のスキルなんだろう。
アッドは次の攻撃の威力を上げるスキル。スイングは打撃斬撃の威力を上げるらしい。ほぼ同じやん……。
これ多分、武器を多種使ったからか初期スキルの派生が増えてるんだな……。でもジョブは剣闘士だから銃のスキルは相性が悪いからまだ出ないと。習熟度か使用回数が関係してそうだな。
候補はこちら。
《リブート》
スキルのリキャストタイムが縮むことがある。
《息吹》
整った呼吸をすることで敏捷値、攻撃力を上げる。持久力も減りにくくなる。
《プロテクション》
衝撃に対して武器を用いた防御を行う。相手へのダメージは発生しない。
《アンカーフッド》
足を踏みしめて攻撃に耐える。
なんとこの4つ、全部取っても7ポイントしか使わないんですよね。ただそれなりに癖が強い気がする。リブートは確率だしどれぐらい縮むのかも分からない。アンカーフッドもあくまで強化されるのは人間の足だからなぁ……それでドラゴンの攻撃に耐えられるのか? というか耐えるのはどういう判定なんだ?
息吹もどういうのか分からないし。まぁプロテクションは木の棒でも発動するなら評価を上げる可能性もあるけど。
まぁ何事もやってみなきゃな!
というわけでスキルを獲得して今のステータス……は変わらないからスキルだけ。
スキルポイント0
【生産スキル】
加工Lv.1
鑑定Lv-
投擲Lv-
【戦闘スキル】
スラッシュLv.1 on
ヘヴィスラッシュLv.1 on New!
カウンターバッシュLv.1 on
プロテクションLv.1 on New!
切り返しLv- on
片手剣Lv.1 on
木の棒Lv- on
戦線復帰Lv- on
壁蹴りLv.1 on
アッドLv.1 on New!
息吹Lv.1 on New!
リブートLv.1 on New!
アンカーフッドLv.1 on New!
スキルポイント全部注ぎ込んでしまった。まぁいいか。ヘヴィスラッシュは魔力が消費されるけど20あれば6回も撃てちゃうんだぜ? 切り返しで消費なしで撃てたりしないかなぁ……。
ちなみにダブルスラッシュは切り返しした時の隙が大きすぎる気がしたからやめた。4回も攻撃できるか? というね。
アッドは攻撃の威力を上げる、なので銃撃も? と思ったので選びました。でも倍になってもこの島じゃ変わらないと思う。
そんじゃまぁ、今は夜なのでいつものようにドラゴンを探しますか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヤバいな……。何がヤバいって《息吹》だよ。これ、まさかのパッシブでもアクティブでもない。マニュアルだ。
オートにもならないスキルとかそんな、どうしろと!?
深い呼吸をひたすら続ける感じだ。これ武術でやるやつじゃない? それをやれと? ド素人に?
まぁゲームだし、現実では無いから……と言いたいところだけど心臓は共有しているんですよ……。
「ドラゴーン、ちょっと試したいから相手してー」
気軽に家にお邪魔する仲になったものだ……。というより、夜にモンスターとの遭遇率が減った気がする。毎日のように料理してるからか? 食いすぎなのか?
「グルルルル」
ん? なんか何時もより殺気だってるな。……あ、もしかして?
「奥さんが出産するのか? それだと戦ってる場合じゃないな」
ドラゴンの生態とか知らないけどまぁそんなところだろ? 動物って出産が近付くと気が荒くなったりするらしいし。雄は縄張りに近付くものを排除しようとするだろう。
「んじゃあ……待つか」
無事に産まれるといいな。そういえば卵生なの? というか奥さんは西洋のドラゴンだけどお前に似たらどうなるの?
木の棒を取り出す。そんで地面に絵を描く。
「お前はこう……恐竜っぽい顔に長い脚、長い尾……って感じだからほぼ脚長のイグアナだけど……奥さんは四足に一対の翼の首の長い西洋ドラゴンだもんな。産まれてくる子はどんな感じなんだろうな」
「…………」
無視された。まぁいいけど。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「クルルゥ!」
四種類目、二足歩行のミニティラノサウルスを描いていたところで奥さんの声が響く。どうやら洞窟から出ようとしてるみたいだ。産後なのに大丈夫?
「ガァ」
ドラゴンが奥さんにすり寄る。こいつ案外愛妻家だよな。
「クルゥ」
奥さんに疲れは見えないけど……。休んだ方がいいんじゃない? ドラゴンも今日は戦闘って感じじゃないな。甲斐甲斐しく世話をしそうな雰囲気だ。
その時だった。
バサッ!
上から鳥が羽ばたくような大きな音が聞こえた。それにつられて空を見上げる。ドラゴンたちも同じ動きをした。それがミスだったんだろう。
「なんだ? 羽根が……。とりあえずガン二丁装備。撃ってみるか」
俺は純粋に脅威は無いと思った。ドラゴンが2匹いるのに何を恐れることがあるのか。だからこそドラゴンたちは放置してスキル目当てでガンを取り出した。羽根が大きすぎて俺の目に入る、なんて事も無いからだ。
だがドラゴンには違った。
「ガァ!?」
「ギィァ!?」
「え?」
ドラゴンはその赤い眼を瞑って首を何度も振っている。奥さんは眼を閉じて前足で眼を押さえている。対応は違うがどちらも眼を開けられないという状態は一緒だった。
「マジか、状態異常? なんだ、目潰し、今の羽根か!?」
敵は鳥、この島で鳥と言えばフクロウと小鳥、でもどっちの羽根よりも大きい。フクロウですら3メートルが標準体型だ。明らかに今降ってきている羽根はどちらよりも大きい。
だがフクロウの羽根に似ているような……。
ブワッ!
「あ?」
風が吹いた。おい待て。上から風が降りることなんて今まで無かった、そしてその風は明らかに洞窟の中に向かって吹いていった。不自然、
「ドラゴン! 敵が洞窟に入った! 逃がすな、せめて入り口を塞いでくれ!」
「グッ、ガァ!」
ダメか、方向を認識できてない!
ドラゴンに気付かれない高レベルの隠密を捨ててまで音を出したのはそれ以上に強力な目潰しをする為か!
辛うじて奥さんが洞窟に近い、対応してくれ……!
「キィァァァァァァァァア」
「ギャウ!?」
耳障りな甲高い音が洞窟から響く。その音を聞いた奥さんは大きく仰け反る。なんだ、ダメージって感じじゃなかった。状態異常か?
洞窟から出てきた敵の正体が月明かりに照らされて暴かれる。闇に潜む黒い羽毛、鋭い嘴、襟には白い鬣のようなものがある。見たこと無い、だが見覚えはある!
「フクロウ!? 違う、でかい! 上位種か!?」
ドラゴンとはいかないが奥さんと胴体だけ見ても同じサイズだ。翼を広げた姿は小鳥に串刺しにされるような小物とは違う。堂々たる力強さを感じた。一人で遭遇したら圧倒されていただろう。
目の前を通りすぎるフクロウがその足に卵を掴んでなければな!
「やばい、起きろドラゴン! 卵泥棒だ!」
ドラゴンは目を開けられない。長時間の状態異常、これが意味するのは泥棒フクロウはドラゴンと対等なモンスターということだ。
フクロウは食べたんじゃない、盗んでいった。自分の食事じゃない、巣に持ち帰って雛にやるんだろう。それだけならこれも生態系、俺が関わることじゃない。
だが幾度となく戦った相手、料理を馳走した相手、仲良くなった夫婦の卵を目の前で誘拐されて『自然の摂理』で片付けるほど世捨て人じゃないんだよ!
どうする、空を飛ぶ敵に対して俺に何ができる? ここで見ている? それだけは無い!
一か八かもやらなきゃ零のままだ!
「ドラゴン、尻尾で俺を吹っ飛ばせ!」
「ガァ!?」
「俺を信じろ!!」
「……!」
ドラゴンが尻尾の強打を構える。俺はそれに対しジャンプして高さを調整、
「今だ!」
「……ガァ!!」
振り回される尻尾、俺は足を合わせ踏み場として角度を調整して空を飛ぶ!
凄いGを肌に感じる、逆バンジーみたいな速度だ、だが今の俺に恐怖は無い。あるのは1つ。使命だけ!
フクロウに追い付いたが少し上だった、このままだと接触すら出来ずにかわされて落ちるだけだ。だが俺の今の装備は遠距離対応! その銃弾で狙うは翼、その羽だ!
鳥の翼に於いて重要なのは風切羽、その中でも飛行中であれば狙うべきは初列風切、人間で言えば手のひらに相当する部位だ。
その羽根の特徴は風を受けること。羽ばたく時には推進力を得る、滑空時には揚力を生み出す場所。
そして一般的に鳥ってのはひたすら羽ばたくようなことはしない。狙いは滑空する瞬間、高い揚力を維持する為に上に仰け反る翼の一番端の羽根!! 今、引き金を弾く!
「……」
「ダメージ無し、だが立て直したな」
大当たり、ダメージは少なくとも衝撃はある。揚力の変化。ゲームにおける怯みにも似た、空を飛ぶ生物には生命線でもある姿勢の制御を余儀なくされたフクロウはスピードを落とした。そして俺はなんとか上からフクロウにしがみつくことに成功した。
これ下手にダメージ与えると卵を掴んでいる足が開く可能性があるな。握り潰されてもアウトか。どうする……。
フクロウは足を進行方向とは逆に伸ばしている。とりあえすなんとか移動して卵に触れる。収納、と念じてみてもアイテムボックスに入らないのはアイテム扱いじゃないからなのか?
はてさて……どうするか。
夜雀呑梟
呑梟の亜種。呑梟は大きな身体を持ち、隠密に特化する種族ではあるが夜雀呑梟は状態異常(混乱、視力低下)や目へのダメージによって姿を視認させないという性質を持つ。その多くが安全な巣で雛を育てるために獲物を生け捕りにする。生け捕りにされた獲物は全て高カロリーで魔力も豊富。栄養価を認識する眼を持つのではないかと言われている。




