夜と朝の狭間に
ログインしました。
今は午前4時。潰されたので早々にログアウトした。諸々済ませた後に宿題をやっていたのだが……寝てしまっていたようだ。
ベッドに入って寝ることもできたが折角なのでピッキングアウトにログイン。うーん、薄暗い。
にしても潰されるのは考えてなかったな。というかカウンターバッシュまで読まれてたのか……。ドラゴンのAIは優秀なのかな。
「さて、ログインしたはいいが……ドラゴンのほうに行くのもなぁ……」
負けたのついさっきだし、また会うのも少しなぁ……って感じだ。敵と見なされたからこそ、代わり映えしない挑戦には忌避感がある。朝なら海目指すけどまだ薄暗いし……別の方狙うか?
「んー……ん? 洞窟があるってことは……山があるのか?」
なるほど山か……いいかもな。まぁ森の中にいるんだから少しの傾斜じゃ分からないかもしれないけど。探索するのが俺の仕事……だっけ?
「よっし、山登りだ!」
武装は……スティックで。これ1メートルくらいあるんだよな。振り回してみる……ロールっていう棒を握らないやつ、からの掴んでエーリアル。背中に回した手でキャッチしてロールしながら前面に。うん、いい手応え。バトントワリングだっけ。まぁホウキで真似事してたから出来るってだけで経験も何も無いけど。
さて。右手に持って……ダッシュ、ジャンプ、壁蹴り! うーん、便利だけどなんかこう……文明を捨てている感が……装備は銃のほうが良かったかな……。
「でもまぁお試しに、っと」
しばらくして手頃な木を発見、壁蹴りで方向を調整しその木の方へ。太い枝に向かってスティックを振るい、勢いのまま体を曲げて足を回す。一息ついて左手をスティックから外して枝にかけて……よじ登る……。これ別にスティックじゃなくてよかったんじゃ? ここまではダガーで良かったかな……。
うん、《壁蹴り》のリキャストが終わった。よし、やろう。
枝を走って……ジャンプして体を横にして、木を蹴る! おおめっちゃ怖い! 重力も合わさって結構なスピードで吹っ飛ぶ体をなんとか立て直して地面に接近、ここでスティックを地面に思いっきり叩き付ける! これでスティックがしなれば……あれ?
「手がジンジンする……だけか。ダメだったかー」
棒を叩き付けてそのまま前に飛ぶ、みたいな動きをしたかったんだけど……。多分ビギナーズ武器種が耐久値無しだからかな? 一切しなることがない。それはそれで問題だなぁ……。まぁいいや。次にしよう。
取り出したるはツインダガー。これスラッシュ対応してないんだよなぁ……。なんででしょうね。
「よっ、はっ」
ダガーを逆手に持って木に突き刺して腕の力とたまにある枝に足を掛けて登る。から……のっ!
「いい高さ、レッツゴー!」
壁蹴り! 目指すはいい感じの枝! ダガーを突き刺す……ぐぉ、なかなかの衝撃。
「うーん、上から見てもモンスターはいないか」
がさがさ
「嫌な予感、でもリキャスト終わったんだよ、ごめんな」
体を仰け反らせて勢いをつけて曲げる、ふぐぉぉ、がんばれ俺の腹筋。勢いに乗ってダガーを引き抜き天地逆さに枝を両足で蹴る。
おお! 真下にならなかったのは偶然だな。少し前方に飛べたことで膝を着きながら次の枝へ。木と木の感覚が狭くなってきたのか。そして振り返ると……さっきの枝にはデカイ蜘蛛が。
「シャ!」
蜘蛛が俺に向けて糸を吐き出して来たが俺は冷静に右手を前に出し掌を下に向け、アイテムボックスから落ち葉を30枚取り出す。すると落ち葉は重力に従って下に落ちる。
「落ち葉ガード……有効なことがあるとは」
射出された糸は落ち葉に阻まれて、俺に当たりこそしたがその粘着力を保てなかった。ドンマイ!
枝に向かって糸を飛ばされても困るし……さっさと……ん? ダガーをしまって装備を木の棒に変更。蜘蛛は糸を切り離して……諦めてはなさそうだな。
「シャ!」
再び俺に向かって放たれた糸に対し木の棒をクロスして受け止める。かなりの粘着性だが俺にまで絡むことはなかった。さて、両手に持った木の棒をぐるぐると回して……!
「シャ!?」
おらこっち来いよ、どうだー? んー?
まぁ糸を自分で切り離すだろうけど。うん、予想通り。そしてそれを待っていた。
すかさず糸が絡まった木の棒をそのままぶん回して適当な木にくっつかせる。さすがの粘着力だな。
そして俺は体を投げ出して枝を蹴る! 前に飛ぶが糸のおかげで少しずつ右側へと……うむ、斜めだけどターザン気分だ。ありがとな蜘蛛くん。
勢いの無くなる前に木の棒を手放す。そのままダガーを取り出して木の幹に着地! 膝がぁ!?
「いてててて……」
勢いを殺せなかったか……結構揺らしてしまったな。
ブブブブブ……
ん? 嫌な音。これは聞いたことあるわ。虫の羽音だ。
木の葉を巻き上げてそいつは現れた。
「キィィォォォォォオオ!!」
「うわマジ!? ノコギリクワガタじゃん!」
艶やかな琥珀色とでもいうべき輝きを放つクワガタは紅い目で俺を睨んでいるようで……サイズ感がおかしいね? アゴだけで3メートルはあるね?
クワガタは停まっている木に衝撃を受けると脚を縮める習性があるから、昆虫採集の時は木を蹴ってみるといいぞ! 今回は偶然ですが!
「いや落ちたわけじゃないんだから許して?」
ダメ? そっかぁ……。逃げよう。
ダガーを収納してそのまま下へ……虫は真下には飛べないんだよ。まぁ俺は落ちてるんだけど。
「それにしても好戦的というか短気というか。殺伐としてんね、ここら辺は」
時間帯なのかそれとも山エリアに入ったということなのか。随分とまぁ危険地帯だこと。
膝を曲げた状態で少し伸ばす。木の幹に当たったことで《壁蹴り》扱いとなった、ブレーキがわりの小ジャンプだな。地面に手を着いて跳び前転の要領で着地。決まったぜ……。
さて、あんまり高いところだと蜘蛛とクワガタに追撃されそうだからな。ここからは歩くか。
というか気付かなかったけどここら辺の木、デカイな。樹齢何百年?
地面も凹凸が多い。これ木の根だな? 歩きにくいってことは走るのも難しいな。とりあえず色々やり過ぎて方角とかも分からないんだよな……。
ドシン!
何かが落ちた音。
振り向く。
大きなクワガタがこっち見てる。
「いやそんな怒ることしてないよね!?」
うわぁこっち来たぁ!!
俺はダガーをしまって急いでビギナーズソードを取り出す。そして近くの木に向かって剣を構える!
「《スラッシュ》からの切り返し! 駄目か、微々たるものじゃん!」
俺の狙いは樹液を出すこと。クワガタがいるならここら辺には樹液が出る木があるはず。樹液は木に傷をつけると出ることがある(但し深い傷が必要)。それでクワガタの気を引けないかなと思ったのだが……無理そうですね。
「ギィォォォォオ!」
なんかノコギリ状のアゴが琥珀色から半透明に……。どう考えても木が邪魔だし俺との距離も結構ある、それなのに攻撃であろう予備動作をとる。嫌な予感しかしないな、スティック!
バギィン! ドサ、ジャギィン!
「ギィォォォォ!?」
ミシミシミシ……ドドォン!
「危なかった……」
何が起きたか。結末は分かりやすい。クワガタは一瞬で距離を詰めて顎で木ごと俺を仕留めようとした。木は豆腐でも切っているかのようにすんなりと顎を通して、刃はそのまま俺を挟み斬ろうと迫り……高速であったにも関わらず耐久値無しのスティックに阻まれ、傷つけることすら叶わず根本から2本とも折れた。一本は地面に落ち、もう一本は木に刺さった。
咄嗟にスティックを横にして構えたけど、正解だった。奇跡的に俺は無事だ。
それにしてもなんつう技だ。数十メートルを一瞬で駆け抜けた? 通った場所にある木は全て倒れてる。全部伐ったってのか? あの速さで?
昆虫が巨大化しなかった理由として考えられているのは自重を支えられなくなるから……というのが主流だったと記憶しているが、さすがゲーム。スキルや魔法によって瞬間速度を上げるクワガタとはな……。とはいえ結果は顎は折れて見るも無惨な雄の誕生だ……。
苦しんでる間に顎2つ貰っとくね? さすがゲーム、三メートルのアイテムが2本入っても軽い軽い。
ドシン
「は?」
目の前に巨大な蒼いカブトムシが。いやいやお前どこから来た? 完全に上から飛んで来たよな? どうやって?
この角含めると10メートルはあろうかという巨体をどう持ち上げたんだ、そして羽音が一切しなかったのは何故だ。まさかこのカブトムシ……魔法で飛んでいた?
蒼い甲殻、感情の見えない白い眼、特徴的な角はオーソドックスな日本のカブトムシタイプだが……なんか筒みたいになってない? まさか……あ、なんかエネルギー集めてそう。青く光ってる。
その照準はクワガタに向いているが……俺もその直線上にいるな。マジか。
「…………」
シュウシュウという音だけが聞こえる。このカブトムシ、クワガタと違って無口だな……。
ガガガ!
後ろの四本脚を背中側に回して固定したのか大きな音が。お前……どう見てもアンカーだろそれ!
急いで射程から離れる、右に向かって全速力でダッシュ!
だが、どうやらそれが気に食わなかったらしい。
「…………」
カブトムシはエネルギーを放出のために集めたと俺は思ったし、そのはずだった。が、敵の逃走を前にそれを中断し、自身の活性化にシフトしやがった。取り込まれたエネルギーはカブトムシの甲殻に機械のような回路を刻む。
だがここでクワガタが痛みから復活、カブトムシに向き合う。そして折れて根元しかない顎を光らせ、高速でカブトムシに接近し、切る……ことはできなかった。その前にカブトムシが技を使ったからだ。
「…………」
カブトムシが六つの脚を全て地面に突き刺す。そして前翅を広げ回路が光る。それは予兆、迸る魔力は電気となって森に放たれる!
ピシャァン!!
放電じゃない、その電気の束は俺とクワガタにだけ向いている。電流が集まってクワガタを襲う、ついでに俺にも。
「追尾型ぁ!? ビァガガガ!?」
最後まで喋らなかったなこのカブトムシ。
《レベル差が離れ過ぎています。デスペナルティはありません》
顎折ったのに俺に経験値はなかった。そりゃあ顎が折れていようとメートル越えのクワガタと俺とじゃ、体力が少ない俺のほうが先に死ぬよね。
蒼雷大兜
紺碧に輝く装甲を持った純魔なカブトムシ。その装甲は圧倒的な強度もさることながら、魔力を走らせる回路を持つため希少価値が高い。砲刀角から放たれる蒼雷砲は射程にいる生物全てを焼き付くす。全身に魔力を走らせることで増幅した電気を放出する蒼雷波は生物の電荷に引き寄せられるためかわすことはできない。
樹液を好むがかなりの少食。身体に魔力を走らせるだけで必要なカロリーを維持している。
しかし、木が伐採された場合には自ら赴き周囲のモンスターを排除して樹液を堪能する。巨体過ぎて木に停まって樹液を吸うことができなくなったため、数少ない食事の機会を邪魔されたくないのだ。




