敵vs敵
うさぎさんは華麗に俺をスルーしていった。眼中に無いとはこのことか。いや別にいいんだけどさ。ところでさっきのジャッカルくんっておいしいの?
フクロウは自分よりもだいぶ小さい鳥に心臓をくり抜かれ、うさぎは自分よりも大きいジャッカルを頭から踊り食い。現場はカオスです。
さて、次のコーナーに参りたいと思います!
題して突撃! 隣のドラゴンさん!
「ガルルル……」
バギゴキ……バリボリ。
「ジャッカルくんおいしい? 2匹食ってるけど……そんなに?」
何度目か忘れたけどドラゴンに遭遇。ただし今回は俺が先に見つけた。あえて正面に立つ。まぁ食事中だしな。あれ?
「ん? 背中に3匹背負ってるじゃん。お持ち帰り?」
「グルルルル……」
「まぁ待てって。食事の邪魔するほど落ちぶれてない」
ビギナーズソードをアイテムボックスにしまう。話が通じるかは分からないけど、古今東西に津々浦々に、素手以上に交戦を避ける方法はない。
「ジャッカル食い終わるまで待つよ。メインディッシュになりたいんでね」
「…………」
バキバキゴキバキ。
「にしても骨ごと食べるの流行ってるのかな……」
うさぎとドラゴンは実は近縁種なんですか?
ドラゴンは食事を終えたのか俺を無視して森の奥へと歩いていく。それは逃げたわけでもなく、まるで俺についてこいと言うように堂々とした歩き方で。
「デリバリーでも始めたのか?」
「…………」
無視ですか。いやデリバリーに反応されても困るんだけどさ。とりあえず付いていくか。
いつもの俺に襲いかかってきた時にする動きじゃない。足音は隠さず、木々も茂みも関係ないと言わんばかりに歩みを止めない。貫禄すら感じる堂々としたその歩みは「俺こそが王だと」語るようで……。
やっぱかっこいいな、このドラゴン。
夜の闇で限られた月明かりを反射する黒々とした鱗は深い森の中でも存在感を放つ。よく見ると体表はゴツゴツとしていて筋肉質だ。イグアナのような体躯を長い四肢で支えている。体長と同じ長さの尻尾も筋肉の塊のようにゴツい。ってか尻尾の幅と俺が同じサイズかよ……。
何より近くで見たことで分かったことがある。それはドラゴンの体に刻まれた無数の傷跡。生々しいということもない、なんせ全て塞がっている。ただし傷跡だと分かる程度には完治に至っていない。
あまりにも深い傷だったのか、それともそれだけ闘い続けて来たのか。俺には知るよしも無いが、このドラゴンには歴史がある。
「グルルルル」
「おっと」
よーく観察していたところで急にドラゴンが止まった。目的地に着いたということだろうか。
ドラゴンの前方には洞穴というには大きすぎる洞窟。壁は入り口から白くなって溶けているような……これは見たことがある。昔お爺ちゃんと言ったっけ。
「鍾乳洞……お前の家か?」
「ガァァァ」
俺にした返事じゃない、洞窟に向かっての呼び掛け。すると洞窟の奥から「ガァァァ」と同じような声が。そして重そうな足音が響く。
暫くして洞窟から出てきたのは黒い体を白い縁取りの鱗で覆ったようなドラゴン。大きな翼に長い首、そして四つ足。王道な西洋のドラゴンだった。
「ガァァァ」
黒いドラゴンは西洋のドラゴンに背負っていたジャッカル三匹を差し出す。献上、というよりも獲ってきたと言うような気軽さだ。立場は黒いドラゴンのほうが上なのか?
「グルル!」
西洋ドラゴンは顔を黒いドラゴンに擦り付ける。感謝の気持ち、というには距離が近いな。なるほど、夫婦とか? にしても黒いドラゴンが尻に敷かれているようには思えない。
こういうとき参考にするのは他の動物の生態だ。エネミーで生態系を作るってことは繁殖もある程度は現実同様起きる。ポップで補うとプレイヤーの数次第ではエネミーの供給が過多になるし、何より生態系が崩れやすい。問題が起きやすいのはスタート地点近くのマップだな。最初はプレイヤーが多いのに段々減っていくから。後から続くプレイヤーはモンスターとの遭遇率がはね上がってしまう。
その為、モンスターにはリアルな生態系同様の繁殖行動と種の調整が設定されていることが多い。種の調整というのは出産率の変化だな。細かいことは知らないけど。
余談だが、これはテイマーやサモナーなんかのモンスター好きには特に好まれる仕様だ。生まれたてのモンスターは可愛くてなつきやすい。そして掛け合わせ次第では新たなモンスターが生まれる……なんていうマッドなことも出来る。いつぞや話題になったネコ型のモンスターとネズミ型のモンスターを掛け合わせた手乗りネコはめちゃくちゃ可愛かった。
閑話休題。まぁ所謂餌の調達は異性の気を引く、子供への餌、あるいは身重の雌に栄養を、ってとこだろう。
「奥さん、妊娠中なのか。優先するわけだ」
餌を運んでいた理由に関しては分かった。
にしても、解せないな。
「なんで俺を連れてきた? 確かにお前からしたら雑魚だけど、それにしたって棲み家と奥さんを見せる必要はないだろう?」
「ガァ」
言葉が分かったのか俺の疑問を察したのか、ドラゴンは少し移動し、俺と少し離れた位置で向き合う。丁度洞窟の入り口にいる奥さんと俺とドラゴンで三角形になるような場所取りだ。
「グルルー!」
奥さんはジャッカルを齧りながら俺とドラゴンを見る。ん? 期待したような眼差しだ。まさか?
「奥さんに見せ付けるために俺を呼んだのか?」
「ガァァ」
確かに、わざわざ餌を運ぶくらいだ、もう産卵が近いとか、安定期前みたいな時期なんだろう。暇潰しにはなるだろうな。だからってお前、それはちょっと勝手過ぎないか?
「まぁ、いいか。そんだけ俺を信頼しているってことだろ」
隙を晒して弱みを見せつけて尚、敵対をやめることはない。このドラゴンは俺を餌ではなく対戦相手として見てくれている。とても気分がいい。
ああ、じゃあお言葉に甘えようか。
武器を取り出す。今回はビギナーズソードとビギナーズガンの二刀流だ。ビギナーズガンは魔力を3消費して弾を撃つ。正しくは装備時に魔力を消費して弾丸をセットする。俺の魔力は今20あるから計6発込められるな。
「このロードの動き面倒じゃない? カッコいいけど」
剣を地面に突き刺してやっているから、ちょっと滑稽だけど。まぁいいだろう? 隙を晒しても襲ってくる様子もない。神聖な決闘に無粋な真似はしないってことだ。
左手に銃を、右手には剣を。
「オッケー、準備はできたぜ」
「ガァ」
「グルルゥ」
なんだろ。ドラゴン語分からないけどなんとなく分かった。『合図を』『はーい』みたいなやりとりだ。
ドラゴンが俺を見据える。同様に俺もドラゴンを見る。四つ足に力を込めた体制。若干右足が下がっている。動き出しは……構え、体重の掛け方から……右前足が最初、いや、左前足が五本の指で握るように地面に力を掛けている。ってことは、
「グルルー…………ガウ!!」
「ガァァ!」
やっぱりな!
「飛び掛かって来ると思ったぜ!」
飛び掛かってきたドラゴンの右前足の爪を左前に移動することで回避と同時に攻撃に移る。上にある土手っ腹にスラッシュ、切り返して二連打、迫る後ろ足をあえて少しのジャンプ、剣を構えてカウンターバッシュ!
「ガァ!?」
「はっはー! 膝を強打するのは痛いだろ!」
お前はイグアナ同様、後ろ足は人間と同じ構造だもんな! 分からない人は馬と比べて見てくれ。
カウンターバッシュは相殺して押し返すスキル、俺が空中だろうと無問題! ドラゴンは体を変に伸ばす形になった、急なことに的確に対応できるやつはいない、俺は着地と同時に体を左に倒して不格好だが側転、ドラゴンから距離を取る。
「グォォ……」
横顔は痛がってるとかじゃないな、空気を吸い込むような音、ドラゴンの大技と言ったらそれだよな!
それへの対抗策として銃を選んだんだ!
息を大きく吸うなら上を向くんだろうがこれは戦闘、下を向いた呼吸、瞬発力がありそうだが文明は更に先を行く! 目に向かって発砲!
「ォォ……」
気にも止めないか、だが目は閉じたな! 生物特有の反射! いいねいいねそこまで再現してるなんて神ゲーか!? レビューは★5を付けてやるぜ!
俺はドラゴンの後方へ走り出していた。どうせ狙いを定めてくるだろうが振り向き様に射程を合わせるのはそう簡単なことじゃない。ましてや衝撃に備えた反射だぞ? 自分の意思じゃないわけだ、寸分違わぬ攻撃なんて無理だろう? 無理だといいなー!
「よっ! とう!」
「ガァァァ!!」
振り向き様の火炎放射は俺が踏み台にした木を焼き壊した。焼き壊すってなんだろう、でもブレスが当たった部分が無くなってるんだけど。焼失の概念なの?
「スラッーッシュ!!」
壁蹴りからの頭への振り下ろし、ブレスが凪ぎ払いのタイプだったらあっさり死んでたね。よかった直線のタイプで。
手応えはまぁガキン! って感じだけど鱗よりは効くだろ、そして着地から上に切り返し! 当たったのは首だぜ! ガキンって音したけど!
「ガルルル……」
「はぁ、はぁ……。レベルが違ったらもうちょい有効だったんかな」
傷ひとつ付かないとかじゃないんだよな……手応えがない。でもまぁいいだろ。試すことこそ俺の武器。かわして回避して立ち回れ。やりたいことはシンプルだ。
「ガァァァ!」
右前足の振り下ろし、何度目だ、だが待っていた。ガンを手放す。
「カウンターバッシュ!」
スキルの光に包まれたビギナーズソードを両手で握る。狙うは爪だ!
ギィン!
「1発で成功、剣先カウンターバッシュ!」
「グォォ」
「爪は割れないか、まぁそうだろうな」
今俺が何をしたかというと、振り下ろされる爪に向かってのカウンターバッシュだ。ただし剣の先を使って。
できるかは半信半疑だったし、正反対に構えられたのは偶然だ。ただまぁ成功したのなら色々できそうだ。
なんでカウンターバッシュを剣先でできると思ったのかと言うと、木の棒が発端だったりする。なんせあれに剣の面とか無くね? 何処もかしこもスラッシュができる刃扱いだもんな。剣の刃部分でカウンターバッシュができているということは、正反対の向きの攻撃なら剣先でもカウンターバッシュは発動するのではないかという……賭けだ。成功はしたが仕様変更が怖いなぁ!!
仰け反るドラゴンに対して俺は足元のガンを回収。そのまま顎を2回撃つ。効果なさそう、バックステップで距離を取る。
「グォォォォォ……」
またブレスか? いやなんか嫌な予感、これはあれか! 地面を揺らす技!
「間に合え!」
木に向かって走る! この場合空中への回避が必要になる。おぉぉぉ!! 間に合え、
「ジャンプ、から」
ドドン!!
壁蹴りの前に放たれたせいで揺れた木を蹴ってしまった! 軸がぶれる。
「へぶっ!」
手を付けたけど地面に腹を打った。変な息が出る。そしてまだ揺れてるんだけど!! 動けない、
「ガァァァ!」
ドラゴンは雄叫びを上げると大きく空へとジャンプした。そしてそのまま空を駆けるように蹴って空へ。そして体をしならせ前転のように回転しながら……俺のほうへ。
それは尾を使った叩きつけ。そしてこの間俺は学んだんだ。重力によってダメージは加算されることを。スキルを使ってのジャンプであれば着地ダメージも減ると。
となればこれは威力を重視した一撃。ドラゴンにとっても自傷覚悟の決め技。
「カウンターバッシュ!」
ガンは仕舞う。面を向けて上に向かって構える。はやい、すぐ来る、正反対の……いけ、ここ!!
「よ、ぐぉえ!?」
カウンターバッシュは成功はしたもののそもそも大重量が上から来たら結果はそうなるわな。俺はそのまま潰された。
「ガッガッガ!」
お前絶対それ笑い声だろ。覚えてやがれ。
《レベル差が離れ過ぎています。デスペナルティはありません》
今の闘いで経験値無いとか、ゲームって残酷ね。どう考えても序盤の雑魚敵より経験してるだろ。




