第13話 出会いと別れは朝に
月曜日、朝。ログインしました。
海岸線が朝日に照らされてキラキラと輝いている……いい景色だ。絶景かな絶景かな。
またシャチっぽいのが跳び跳ねてるけど。あれはブリーチングといって体を海面に叩きつける行動らしいね。
「待ってたぜゼノン。おはよう」
「おはようございます、ジンギスさん」
休みなのに早起きさせてしまって申し訳ない。俺が最後みたいだ。他の四人にも頭を下げる。皆さんアバターはどこかダンディーなおじさん達だ。アバターは。
全員髭生やしてるのに全員違うやつだ。オールドダッチ? みたいな髭の人もいる。
「へー、若そうなのにこの島に残るのか」
「いい根性してるなー」
ジンギスさんの話によると俺がこの島に残ることには皆さん好意的らしい。ところで……。
「やっぱりここ、島なんですか?」
「ん? あー、森から来たって話だっけか」
答えてくれたのはヤキスキニクさん。恰幅の良いカーネル髭のおじさんだ。奥さんがロシア人だからこの名前にしたらしい。いや名前はただの食いしん坊なんだが?
「俺が遠洋まで泳いだ結果、両端を確認した。海岸結構歩いてからもう一回泳いだけどそこでも両端を確認できた。
十中八九、島だろうよ」
「そんなに遠くまで泳いだのに無事だったんですか?」
「俺は元水泳部だからな。まぁどっちもシャチに食われたが」
ヤキスキニクさん、シャチの犠牲者だったのか……。そしてその情報によって泳いで脱出もできないことが判明しました……。
「とりあえずゼノン。昨日チラッとアクセサリー系素材が欲しいって言ってたからよ、いくつか絞っといたぜ」
「ありがとうございます!」
ジンギスさんは随分友好的に接してくれるけど……いいんだろうか、そこまでしてもらって。
「気にしないでくれ、どうせキャラリメイクで消えるものだからな」
「そうそう」
皆さんうんうんと頷いている。本当にありがたいな。何かお礼がしたいんだけど。リアルマネートレードはマナー違反だし、そもそもお金ないしな……。
「何かお返しができればいいんですが……」
「そんなのいらない、と言いたいところだが……そうだな、条件ってことにしようか」
「条件ですか?」
そう区切ると5人はそれぞれの武器を取り出す。皆さんの表情はどこかワクワクしているような高揚感があって。それでも誠実で真剣な眼差しで。
代表してジンギスさんが口を開く。
「俺たちの武器も付けてやる。だからまたこのゲームで会おう!」
「っ!」
それは激励であり、約束。今しがた泳いでの脱出が不可能と分かった島に残る俺。離れているであろう初期地点からリスタートする5人。同じゲームで会うとなると無理難題だ。それをやろうと言う。
諦めるなって言いたいのかもしれない。この島では無理でもピッキングアウトを辞めるなよっていう励ましかもしれない。でも多分違う。
面白いことをやろうと5人は言っているんだ。
「はい! ありがたく使わせていただきます!」
《プレイヤー名:ジンギスから『ビギナーズスティック』が譲渡されました》
《プレイヤー名:ヤキスキニクから『ビギナーズハンドアックス』が譲渡されました》
《プレイヤー名:サムギョップルから『ビギナーズツインダガー』が譲渡されました》
《プレイヤー名:づけづけカルビから『ビギナーズガン』が譲渡されました》
《プレイヤー名:すぺありぶから『ビギナーズガン』が譲渡されました》
表情といい行動といい今すごくダンディズム溢れているのにアカウント名が!!
皆さん名前で遊びすぎじゃない!? 偶然5人とも食べ物(肉)関連の名前だったとでも!?
その後5人のパーティの名前を俺が考えたり、漂着物を貰ったりした。最後はヤキスキニクさんたち四人とフレンドコードを交換してログアウトを見送った。
「ありがたく使わせていただきます。『ランチメニュー』の皆さん」
さて、整理もしたいけど一旦ログアウト。学校の時間だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
登校しました。
いやはや、ランチメニューって名前にしてしまったけど大丈夫だろうか? 本当に使われたりしないよね?
「高城、ピッキングアウトでパーティの名前って付けられるのか?」
「挨拶より先になんだよいきなり。おはよう、確か無理だったはず」
「おはよう。そっか……じゃあ無理かな」
登校中に買ったペットボトルのお茶を飲む。今回は普通のお茶だ。ごくごく……ふぅ。やっぱり苦すぎても喉は潤わないんだよな。
しかしそうなるとランチメニューの皆さんとの思い出は俺のなかでひっそりと……。
「パーティっていえばランチメニュー? とかいう名前が肉料理関連のパーティがスターテイルに現れたって掲示板で話題になってたな」
「ぶっ!? ごほっ、ごほっ!」
「どうした? 吹き出して。口の中にお茶なくてよかったな」
「な、パーティの名前は付けられないんじゃないのか?」
「いや、五人組のおっさんたちが『俺たちはチーム・ランチメニュー! 愉快な仲間を募集中だ!』ってギルドで叫んでたんだってよ」
何してんのおっさんたち……!! もうちょいダンディズムを勉強してきてくれ……!!
「おはよー! 二人ともゲームは順調かね?」
「にゃ、那智さん! おはよう!」
「にゃちさんおはよう」
高城がキッ! と俺を睨む。いや弄らないのも誰かに悪い気がするし……。誰かは知らないけど。
「棚橋くん、金曜日はありがとね。おかげで初日からログインできたよ!」
「金曜日……?」
はて?
「え? もしかして忘れてる?」
「金曜日は犬に噛まれて、鯰に食われて……ドラゴンにやられたな」
「お前それゲームの記憶だろ。いやほんとにゲームの記憶なのか?」
「聞いて驚け。遂に今朝、今いる場所が島ということが判明した」
「ほんとに同じゲームしてるのか不安になってくるからやめろ」
同じゲームなんだよ! 俺もジンギスさんたちに会うまでは不安だったけど。
「島かー、いいなー。私は幽霊がたくさんいる舞台みたいなところだったよ」
「「なにそれ」」
「なんか幽霊が満足しないと出られないダンジョン? みたいになってるらしくて。戦闘もできないんだよね」
「幽霊を満足ってどうやって?」
高城の疑問に俺も頷く。
「初ログインの時に台本が渡されたんだよ。それを邪魔したり驚かせてくる幽霊を無視して演じきらないといけないみたい」
「「RPGじゃないじゃん……」」
俺、絶対嫌だそんなの。
「ま、昨日の会見の後すぐにリメイクしちゃったからもう関係ないけどね! 今の私は双剣使いの軽戦士なのだ!」
その向けられたVサインに俺は何を返せばいいんだい?
「高城くんとは後で合流するとして、棚橋くんもリメイクして一緒にパーティ組もうよ!」
「リメイクか……」
高城にはもう言ったけど、那智さんには言ってなかったっけ。というかこのキラキラした目を向けられて俺は断るのか……。
まぁ、答えは俺の中で燃え続けているが。
「俺はリメイクはしないよ」
「なんで? だって噛まれて食べられてやられちゃったんでしょ? レベル1じゃ勝てないんじゃない?」
そう言われてもなぁ。これは理屈とかルールじゃ止められない感情のお話なんだよね。
Q. 負けたから諦めましょう
A.また戦えるから負けてないです。
Q.レベル差が離れすぎています。勝てない相手です。
A.負けイベでもないのに勝てないなんてありえない。
男のプライド、とかじゃないんだ。今俺を支えるモチベーションはただ1つ。あのドラゴンを倒したい。ただそれだけ。
食われた、踏み潰された、尻尾で凪ぎ払われた。そのすべては俺の経験でありこれからも増えるであろう俺の選択。
ゲームであるからこそ分岐して、ゲームだからこそパターンがそこにある。行動のルーティーンが絶対に存在する。それを探る。そして最善を選ぶ。
回避が続く攻撃パターンを見付ける。その為に何度でも挑戦する。覚えることが格上であるドラゴンに対する弱者の抗い方だ。
「折角のゲームなんだ。諦めるより挑戦したい」
その結果がどうであれ、な。
寄り道をしようと思えばできそうな道を見付けてしまったが、俺はレベル1でドラゴンを倒すという最初の目標を諦めるつもりはない。
寄り道を選んだら後で俺は後悔するだろう。一度きりのチャンスを不意にする馬鹿になりたくない。
願わくば艱難辛苦の先の栄光を。
例えそれが手段を選ばない虚構であったとしても。
舗装された道を行くよりはずっと楽しいはずだから。
「……なんか、棚橋くん、顔変わった?」
「何で?」
会話の流れぶった切ってきたな那智さん……。
「分かる。こいつ、普段の眠たそうな目じゃなくなってるからね」
普段から睡眠は大事にしてるんですけど。
ハッ! カテキン? カテキンが増えたお茶を飲んだから? たった2日で効果が!?
「カテキン効果か……」
「「そうじゃない」」
二人して呆れられた。解せぬ。
カテキンにはこう……そういう人を変える力があるかもしれないだろ! エピガロカテキンガレートは凄いんだぞ?
ま、いいや。那智さんに顔を覚えられていなかったくらいに聞き流しておこう。とりあえずのコミュニケーションは無事クリアということで。
これで何の後腐れもなくソロでゲームができるな!




