第7話
戦闘描写に苦戦した今日この頃です。
ガキィンという音が鳴ると同時に、つばぜり合いの状態になる流零と幽香。互いの力がぶつかった際の衝撃波で周りの草木が揺れる。
「やるじゃない。私の本気の一撃を止めるなんて」
「だてに鍛えてねえのさ。それよりその傘、随分と丈夫にできてんじゃねえか?」
「特別な素材で作られてるのよ」
「へっ、そうかよ!」
言葉を言い終わるのと同時に力を込めて押し切ろうとする流零。幽香は流零の力がまだ大きく膨れ上がることに驚き、それが表情にも少し現れる。
このままではまずいと感じた幽香はわざと力を抜く。すると流零は前のめりに、幽香はのけ反る態勢になる。ここで幽香は流零の腹部に思い切りの蹴りを叩き込み、流零を吹っ飛ばす。
流零は吹っ飛ばされながらも空中で態勢を立て直して、着地する。
「やるじゃねえか幽香。久しぶりに燃えてきやがったぜ」
「それは私も同じよ。こんなに戦いがいのある相手は本当に久しぶりだもの」
嬉々とした表情で語る二人。どうやら似た者同士のようである。
「お楽しみはこれからだぜ!うおおおおおお!!」
「そのとおりね。さあ、来なさい!」
再び激突する二人。今度は互いの武器が何度もぶつかり合い、激闘が繰り広げられる。
流零が煌龍で斬りかかれば幽香はそれを傘で防ぎ、蹴りを繰り出す。
蹴りが来れば流零はそれを腕で防ぎ、足を掴むとそのまま横に投げ飛ばす。
このように戦いが続いていくと、幽香は次第にあることに気付き始める。
(私の攻撃が見切られてきている!?)
そう、幽香に蹴られたあたりから流零の動きが良くなってきているのだ。
当初は互角かと思われたが今では幽香の攻撃は簡単に防がれ、流零の攻撃はどんどん幽香にダメージを与えているのだ。
そして遂に幽香は地面に膝をついてしまう。
「どうした?もう終わりか?」
「ハァ……ハァ……馬鹿にしないで欲しいわね」
息を乱しながら傘を杖代わりにして立ち上がる幽香。その様子からすると限界が近いようである。
「私にだって妖怪としての意地が……誇りがあるの。だから……このまま終わるつもりはないわ!」
傷付いた体でまだ戦おうとする幽香は、杖代わりにしていた傘に妖力を集めて流零に向ける。
傘の先端に膨大な妖力が収束されていくのを黙って見ている流零。彼はこれが幽香の最後の力を振り絞った一撃であると感じていた。
「これが私の全力よ!!」
叫びと共に放たれる大きな妖力の光。流零は煌龍に自分の龍の力を込めて構える。
「上等だ!俺も真っ向勝負で行かせてもらうぜ!!」
迫る光へと流零は煌龍を振り下ろし、蒼白く輝く衝撃波を放つ。
ぶつかり合った二つの力は少しの間拮抗するものの、すぐに幽香の力が押され始めていく。
「くぅっ!……ああああああ!!」
押し切られた幽香はそのまま攻撃を食らってしまい、力尽きたのか仰向けに倒れた。
勝利を悟った流零は煌龍を鞘に収めて立ち去ろうとする。
「どうして……とどめを刺さないの?」
「なんだ?気絶してなかったのかよ」
苦しそうに上体を起こして話し掛けてくる幽香に流零はぶっきらぼうな口調で答える。
「なんで殺さないかって?そうだな、しいて言うならお前とはまた戦ってみたいからだな」
「そ……それだけ?」
「それだけだ」
あまりにも単純な理由に思わずポカンとする幽香。だが表情をすぐに戻すと今度は急に笑いだす。
「何笑ってんだよ」
「フフッ、ごめんなさい。貴方の答えがあまりに単純だったからつい。それに、私にそんなこと言ったのは貴方が初めてなのよ」
今まで幽香と戦った者は皆死ぬか二度と戦いたくないと言う者ばかりであった。そんな中で自分とまた戦ってみたいと言う流零の言葉は、とても嬉しいものだった。
「そうかい、じゃあ連れが待ってるからそろそろ行くぜ」
「ちょっと待って、なんだか足にうまく力が入らなくて立てないの。手伝ってくれないかしら」
「ったく、しょうがねえな」
流零は帰ろうとしたところをまた引き止められて少し苛立ちながらも、幽香の元へ行き肩を貸そうとする。すると流零の肩を借りた幽香は、いきなり流零の頬に口付けした。
「なななな、何しやがんだいきなり!?」
「私と戦ってくれたお礼よ。それとも、嫌だったかしら」
「べ、別に嫌じゃねえ「流零ぇぇぇぇぇぇ!!」」
突然のことに顔を真っ赤にする流零に良く知っている声が聞こえてくる。声のする方を見ると、そこにいたのは藍だった。どうやら今のを見られたようで、かなりご立腹の様子だ。
「遅いから探してみれば、私が一人で寂しく待ってる間に知らない女とイチャつくとはいい身分だなあ!」
「お、落ち着け藍!今事情を話す!」
「問答無用!!」
「おわっ!?」
言葉も聞かずに鬼の形相で妖力弾を撃ってくる藍から逃げ回る流零。
「幽香!またな!……おっと!?」
「待てぇぇぇぇ!!流零ぇぇぇぇぇぇ!!」
流零は短く伝えると藍の妖力弾を避けつつ走り去り、藍もそれを追いかけて行った。一人残された幽香は流零の走り去った方向を静かに見ていた。
「またな……か、本当に面白い人ね。強いくせにちょっと口付けされたぐらいで顔真っ赤にしちゃうなんて、可愛いんだから」
他に誰もいない空間で微笑みながらしゃべる幽香の元へ花畑から心地よい風が吹いてくる。
「貴方のこと、好きになっちゃったかもしれないわ」
幽香の一人言はただ風の中に消えていくのだった。
ちなみに流零がこの後藍の機嫌を直すのに苦労したのは言うまでもない。