第41話:小さくも大きい優しさ
黒鉄林檎は木々を掻き分けて進んでいた。
枷はただ魔法を使えないようにするだけではなかった。
今回の鬼ごっこ専用に改造されているのか、
魔力を流し込むと人のいる方角を示してくれる。
これはあくまで鬼ごっこ。
かくれんぼにはしないという配慮だろうか。
そうして進んだ先にいたのは……。
「やっぱり一番楽そうなのは貴方ね、丞。」
「ありゃ、もう来たのか、早いなー。」
今回の一ノ瀬には大切なものが無かった。
水着一枚で放流されている関係で、
いつもの我が子達が。
「さて、日頃の恨み晴らさせて……貰うわよ!」
地面を蹴って林檎は駆け出す。
「やだなぁ……最初に捕まるなんて勘弁だね!」
一ノ瀬は雷の魔力を鞭のようにしならせて放つ。
雷の光の速さと鞭の瞬発的加速力が林檎を襲う。
「ちょっ……と!死ぬわ!こんなの喰らったら!」
「これで林檎が死ぬとは思ってないから……
振ってるんだ……よっ!」
一ノ瀬は右へ左へ雷の鞭を振る。
そこから放たれる雷の波紋は地面や木を抉っていく。
林檎は手を前に出して、イメージを作る。
しかし、イメージは霧散し枷が一ノ瀬のいる方角を示す。
(癖で魔力を使おうとしちゃうわ……、嫌な制約ね。)
心の中で悪態をつく林檎だが、状況は悪くなかった。
林檎は眼が良い。
一ノ瀬が単純な攻撃をしているのもあるのだが、
速度の早い攻撃を躱しつつ、枷で雷を防ぐ。
「あっ!大事なサンプルが!
電気でおかしくなったらどうすんの!」
機械を粗末にしたことにより憤慨する一ノ瀬に向かって、
大きく駆けだす林檎。
「死ぬよりマシよ!ハッ!」
タッチをしようと手を伸ばす。
一ノ瀬はその手を紙一重で躱した。
「へへ……まだ捕まらな……ウェッ……。」
しかし……。
「う……、魔力酔い……か!」
バランスを崩す。
「最近ガジェットで遊びすぎたわね。
もう少し外に……出ることをおすすめするわ!」
林檎が一ノ瀬をタッチした瞬間、
右手から「ビーッ」という電子音が鳴る。
枷が地面へと落下し、草の上に転がっていった。
「あ。」
項垂れる一ノ瀬。
「しっかし……どういう技術なのかしらコレ。」
「ソレを調べるのが僕の役目〜、さ、バラすぞ〜!」
項垂れていたのも束の間、
一瞬で切り替えた彼は枷を持って来た道へ歩いていく。
「丞!ちょっと!」
フロンテラのマイペース担当、一ノ瀬丞。
一ノ瀬だけは魔電災を過敏に捉えてはいなかった。
彼なりの配慮なのか、本当に気にしていないのか。
「いや……あんたにはそのままでいて欲しいわ。」
林檎は枷に魔力を込めて次の逃亡者を探すのであった。
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「はっや!まって……ス、いや……待てって!」
我妻は瀬羽と神楽を追いかけていた。
というか瀬羽に関しては神楽を抱きかかえながら、
後ろ向きに走っているのに追いつけない。
我妻でさえ思わず素が出てしまうほどの速度だ。
神楽は魔法での妨害を行ってこない。
彼女自身が戦闘は得意ではないのだろう。
「もう、それは……ゼェ……メダリスト級……なんスよ……!」
後ろ向きに走られ早10分。最初は執事がバテるだろうと、
予想していた我妻は悪い意味で期待を裏切られた。
「丸ノ内財閥の執事たるもの、
このくらいは出来なければ長の名は頂けません。」
瀬羽は会話をしても全く息切れしていない。
我妻は一度止まることを選択した。
「おや?終わりですか?」
「や〜い、根性なし〜。」
(言わせておけばっス……!)
言い返す元気もなく、呼吸を整えることに専念する。
(冷静に……クールになるっス。
このまま持久戦に持ち込んでも無理っスから……。)
「う〜ん、我妻君はご飯抜きかな?」
「気づかないんスか?」
我妻が口を開くと瀬羽が少し険しい顔をする。
辺りを気にしているようだ。
(警戒している今なら!)
「林檎さん!今っス!」
そう声を上げて石を草むらに投擲する。
石はガサッと草木を揺らす。
瀬羽の意識が一瞬だけ石へ、そして周りへ。
その一瞬を我妻は取りたかった。
「ターッチ!」
その手は瀬羽には当たらなかった。
だが、神楽には触れた。
「しまっ……!」
「おお〜、やるねぇ~。」
我妻の枷が一つ、電子音を鳴らしながら右腕から落ちる。
それを見て瀬羽の手からスルリと降りる神楽。
「申し訳ありません、神楽様。」
頭を下げている為、表情は分からない。
そんな瀬羽に神楽は声を掛ける。
「瀬羽、走って。」
「仰せのままに。」
瞬間瀬羽はふっとその場から消えた。
「瀬羽さんもスか!?」
「当たり前〜。この場の全員って言ったはずだよ?」
(やられたっス……。)
「しかし、あんな手に引っかかるなんて……。
瀬羽さんって案外抜けてるんスね?」
我妻がそういうと神楽は「まさか」という顔をする。
「まぁ多分僕の疲労を考慮して、
超合理的判断で僕だけを触らせたんだろうね。」
「……えぇ~。」
我妻は言うも言われぬ表情をする。
「さ、本番頑張ってね〜。」
そう言うと神楽は別の執事に担がれていった。
「さすがにあの執事はノーカンすよね……?」
我妻は先へと進んだ。
――――――――――――――――
鬼ごっこ開始から一時間。
胡桃は年老いた執事と遊んでいた。
「おじーちゃん!こっちこっち!」
「ほほ、胡桃様。あまり駆けると……おや?」
執事が辺りを見渡す。
「おやおや、胡桃様?
どうやらいらっしゃったみたいですよ。」
老年執事がそう言うと茂みから林檎が顔を出す。
「神楽ちゃんに伝えて貰えるかしら?
この島、絶対に整備が必要だわ。」
「ふぅむ。
これでも虫一匹すら許していない島なのですがね……。」
「いや、気のせいかと思ったけどホントにそうなのね……。
そこは評価してるけど……。」
「こーらー!」
しばらく無視された胡桃がふくれっ面で林檎を見ている。
「あら、ごめんなさいねクルミちゃん。」
「いいよ!だけど……。」
「だけど……?」
「くるみだって、戦えるんだから!」
凄い電磁波が胡桃を中心に渦と成り廻り始める。
「クルミちゃん!?」
林檎は動揺して止めようとする。
「神楽ちゃんと一ノ瀬のおにーちゃんには、
きょかもらってるからね!」
「……あぁ、なるほど。
これも織り込み済みなの……やるわね。」
「いくよ、りんごちゃん!」
胡桃がそういうと白い砂浜から黒い粉が現れる。
それはまるで、イルカのような形をしていた。
「神楽ちゃんから『手を抜いたら駄目』
っていわれてるからね!
くるみのとっくんのせいか、だよ!」
そしてその黒い粉で出来たイルカは流動的に、
林檎へと突進していく。
「……まさか……、砂鉄っ!?」
林檎は砂鉄に気付いてから直ぐに回避行動を行う。
右、左……一ノ瀬と同じで動作は単純だが、
一つ違う所があった。
(継続して追ってくるから……隙が……ない!)
回避行動の度にどんどん砂鉄の量が増え、
砂鉄イルカのサイズは1.5倍程になっていた。
胡桃の魔力が尽きる様子はない。
(マズイわね……、このままだと……!)
そう思った時、林檎は砂浜に足を取られる。
(アタシったら、こんな凡ミスを……!)
砂鉄が林檎を捉える、はずだった。
目を閉じていた林檎がゆっくりと眼を開く。
(……来ない?)
胡桃が手を止めて砂鉄を下ろして、林檎に近付く。
転んだ林檎に目線を合わせて、胡桃はしゃがみ込む。
「林檎ちゃん!だいじょうぶ?けが、してない?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう。」
(そっか、この子は。)
「止めてくれたのね。鬼ごっこは良かったの?」
「ママがとめてくれたの、
ママはあらしがおきてるとき、こまったとき。
いまもいっしょにいてくれるから。」
「あらしはまもるためにつかいなさいって。」
林檎は少し思案するが、言葉を紡ぐ。
「ありがとう、もう丞は捕まえてあるから戻るといいわ。
一緒に遊んでおいでなさい。タッチしてもいいかしら?」
「うん!おにーちゃんのとこ、いってくるね。」
林檎が胡桃の頭を撫でると、左手の枷が外れる。
「これ、持ってくと喜ばれるわよ。」
「ほんと!?」
老年の執事が連絡を入れている。
「神楽様からご連絡が……残りは4人だそうです。」
「4人……多くないかしら?」
「はい、瀬羽、雫様、御来様、そしてゲストが一人。
次のタッチで両足が外れる予定で御座います。」
(……ゲスト?)
「それとコチラをお渡しするよう、
神楽様より仰せつかっております。」
執事は何処からか箱を取り出し林檎の眼の前で開く。
それは林檎の愛用するリボルバーだった。
それを見た林檎はため息を付く。
「本気でやれってことね、
何処まで織り込んでいるのかしら神楽ちゃん。」
「神楽様の思慮深さは、
執事共には到底理解能わぬもので御座います。」
そう言うと執事は胡桃を抱きかかえる。
「わっ!」
「それではご武運を。」
そう言うと執事の足元にワープゲートが開き、
そのまま消えていった。
「……今のでなんとなくだけれど。」
「神楽ちゃんが親元を離れた理由、分かった気がしたわ。」
強化鬼ごっこ終了まで、残り4人。




