第39話:Sacrifice
「言語!道断である!」
マルベリーは大声で叫ぶ。
「我が主ヒガン様に適合できない魔力タンクなぞ不要!」
目隠しをし、
手枷をつけられて順番に並んでいる人間の首を落とす。
兜の下の顔はソレが当たり前かの如く真顔だ。
「道断!道断っ!道っ……断っ!」
次々と首をはねられていく人々。
それを退屈そうに見ていたスミレが話しかける。
「あのー、あんまり殺されると、
ウチの努力が無駄になるからやめてほしいねんけど。」
「黙れ不埒者!
この程度の魔力しか持たない軟弱者なぞ、
最初から居ないと同じよ!」
男女子供無差別に斬り殺されていく。
部屋はむせ返るほどの血の匂いで充満していた。
「しっかしまぁ……せっかく手に入れた魔転草も、
元がおらんと役に立たへんとはなぁ。」
スミレが退屈そうに欠伸をする。
「ふぅ……。うむ、貴様らは適合しそうだな。
我が主の糧と成れる事、光栄に思うが良い。」
剣をタオルで拭き鞘に納めたマルベリーは、
残った数人を連れて行く。
「……あーあ、この部屋誰が掃除すんねん。知らんでー。」
スミレは立ち上がって、血だらけの部屋を後にした。
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スミレが大広間に戻ると、
ヒガンの前に魔転草を飲まされた人間が順に並んでいた。
魔転草は少量の使用であれば、
魔力を受け渡すだけの普通の草だが……。
ヒガンが先頭の人間に手を触れると……。
「あぁ……あぁアァァあアぁァ……。」
魔力が吸われる度にどんどん肌が乾燥し、
骨と皮だけになり、ミイラのように干上がっていく。
全身の細胞を魔力として変換し、
最初に触れた人間へと魔力を渡す。
これが魔転草を過剰摂取した者の末路だ。
並んでいた人々を全て吸い尽くした頃。
『飢え……渇き……。』
人のものとは思えぬ声でヒガンは呟く。
『……世界……樹は求める……、
我の身体は……混ざり落ち……かけている。』
ヒガンは『声』を発する。
「も……う……すぐ……だ……。」
そして口を閉じる。
『まもなく……願いは……成就する……。』
スミレはその言葉を聞き笑い、
マルベリーは跪いて頭を垂れていた。
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「〜♪」
陽気な口笛を吹きながら世界樹内を歩く男。
マネーティア。
「貴方っが〜♪眠るまっで〜♪」
脇目も振らずにノリノリで歌を歌っている。
「私も眠らない〜わ〜♪」
敵に囲まれながら。
「んんん〜♪んーはっ!」
掛け声と共に雷で周りを黒焦げにする。
「ハハ!雑魚狩りってのはいいなぁ!
さて、次の相手は誰かな〜♪」
そう言いながら、今の状況に酷い違和感を覚えていた。
「モンスターの数が随分と多いな〜、あ〜らよっと。」
自分が向かっている正面からモンスターが次々と、
押し寄せてきている。
否、これは押し寄せてきているのではない。
何かから逃げてきていたのだ。
「おー、これはこれは……。」
黒いモヤに包まれた人影。
「これがボスが言ってた噂の……。」
モヤに包まれた人物が指をマネーティアへと向ける。
その指先から光線が発射された。
その指先を凝視していたマネーティアは、
間一髪で光線を躱す。
「おっと、怖い怖い。
意志のない攻撃って奴は殺意がなくて避けづれぇな~。」
「@££{-["+∆¶µΗ∃!!!!!」
モヤが何かを叫ぶとモヤの周りがキラキラと輝き始める。
「てめ……チッ……。」
マネーティアは舌打ちしながら水の魔法で周りを覆う。
瞬間。
何もない空間で連鎖爆発が発生した。
その爆風に飲まれたマネーティアは無事……、
とまではいかなかった。所々に傷が出来ている。
「今度、兄弟んとこに文句付けねぇといけねぇなぁ……。
お前の頭が徘徊老人してるってな!」
マネーティアは防御に使っていた水魔法を飛沫へ変えた。
あの影の視覚を奪う為だ。
(俺を指さしてたっつ〜ことは……。
目が見えてるって事だよなぁ。)
「幾ら戦いが好きだからって人形の相手はゴメンだぜ。
撤退撤退!あばよバケモン!」
破裂させた水魔法の勢いを借り、
マネーティアは大きくバックステップしようとする。
その時だった。
水飛沫の中から黒い手が伸びてくる。
「……ハッ!面白え!」
マネーティアは後ろに下がりながら、
水を飛沫に変えた反対の手で雷魔法の杭を作り上げる。
「精神弱者は引っ込んでろっ……よっ!」
その杭を黒い腕ごと地面に突き刺す。
「∌∞⊇ε%>≡ΓΑ≫+!!!」
「ハッハ~!今まで歌ってた歌詞も言葉も全部詠唱にした。
激長スペルだぜ〜?そう簡単には……。」
ビシッ……。
雷の杭にヒビが入る。
「ゲッ……。」
流石のマネーティアもこの状況には少しビビり始める。
亀裂から黒い煙が噴き出し始める。
「コイツ……、星呪いで俺の【固有】を呪いやがったのか!?」
その様子を見たマネーティアがとった判断は、
振り返らずに駆け出すことだった。
「ここで死ぬなんてまっぴらゴメンだ、
帰って手首を風呂につけるか、
大人しく側近の依代にでもなってるんだな。」
世界樹の地形の入り組んでいる方へと走り、
咆哮にビビりながらマネーティアは何とか逃げ切った。
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少し前の世界樹2層。
世界樹にはもう一人の男がいた。
間東解斗だ。
「……相変わらず荒れていますね……。」
世界樹の内壁は爆発痕により大きく抉られており、
モンスターも殆ど居なかった。
(この爆発痕は……やはり夕凪茜のものと見て、
まず間違い無いでしょう。)
そう思いながら焦げ目のある壁に手を触れる。
そのまま冷たい木の壁をなぞりながら世界樹を進む。
世界樹への調査も数ヶ月目、
いい加減陸澤の思惑に解斗も気付いていた。
(十中八九、厄介払いでしょう。)
心の中でそう呟きながらも世界樹の中を歩く。
「しかし、
ここまで歩いて何もないというのも妙な話です。」
見立てでは5層はあるはずなのに、
上へと登る道が見つからない。
(困りましたね、
いい加減帰りたい所ではあるのですが……。)
解斗は出張してから数日で魔電災に巻き込まれ、
交通網の麻痺により自宅に帰れずにいた。
ホテルの近くで戦闘・救助活動をしたことにより、
地元の人々に大きく感謝された。
おかげで今泊まっているところの代金は無料になった。
色々便宜は図ってもらっている…のだが。
「マモルさん達はどうなっているのでしょうかね……。」
ため息をつきながら、壁へと寄りかかる。
陸澤からのメッセージは、
「こちらは何も問題ない、調査を続行なさい。」
としか言われず、だからと言ってやることも無く……。
世界樹とホテルを行ったり来たりしていた。
と、その時。
寄りかかった背中に違和感がある。
後ろを振り返り見てみると、
壁と同じ色で塗られた鉄の板が。
あきらかな人工物である出っ張りがそこにはあった。
「……おや、これは……。
当たりですかね?」
躊躇いもなくそのボタンを押すと、
突如として足元が抜ける。
「なるほど、外れでしたか。はぁ、つれぇ……フフフ……。」
下らないことを言った解斗は重力に従い、
下へと落ちていったのであった。




