幕間6:ジエンの日記――勇者アレクスの英雄譚①
このお話は、現代日本ではない何処かの世界の話。
——アルス紀143年、暖期53日。
「ジエン!
俺たちは魔王を討伐して勇者として名を残す!」
マナサイト・アレクス、
彼が子供の頃から口癖のように言っていた言葉だ。
そこから時間が経ち……アレクスとも疎遠になり……。
そして遠くからならず者として、
悪名高いアレクスの話を聞いた。
彼の人生に俺が関わることももうないと思っていた。
あの日までは。
「ジエン!」
人の名前を呼び、家の扉をノックもせずに開ける男。
俺が知る限り一人しかいない。
「アレクス……か?」
「おう!そろそろ旅の時期だ!そうは思わねぇか!」
「思わねぇ。」
「つれねぇなぁ……。」
「そもそも悪名高いアレクス様と一緒にいたら、
俺まで何言われるか分かんねぇし。」
俺がそう言うと、アレクスは頭を掻きながら。
「あー、なんか、
悪い奴殴り倒してたら悪いやつ扱いされちまってたわ。」
「ふっ……なんだそれ。」
笑みがこぼれる。
(そういえば昔からそういうやつだったな。)
曲がったことは大嫌い。
筋を通さない奴は、
言って聞かせる前に取り敢えずぶん殴る。
俺も何回か殴られたっけな。
俺が悪かったんだけど、
ムカつくから殴り返すとそのまま殴り合いになって……。
そのたびに引き分けてた。
「魔王キングスネビュラを倒しに行こうぜ!」
コイツは……魔王を買い物感覚で倒すつもりらしい。
「いやだね。」
絶対にお断りだと思った。
――――――――――――――――――――
――アルス期144年、寒期130日。
あの日、
アレクスと殴り合いをしたのを最後に、
あいつは顔を出さなくなった。
今頃、
どっかで野垂れ死んでるんじゃないかと考えてしまう。
「くだらない考えだな……。」
最近疲れてるのかもしれないと思いながら、
外の空気を吸うために扉を開けると。
「ジエン!キングスネビュラを倒しに行くぞ!」
外のアレクスが待ち構えていた。
もう一年も経つのに今度は数人の仲間を連れて。
変な服を着ている奴らばかりだけど仲間……だよな?
アレクスが言うには
「二人だけじゃ無理だから仲間の一人くらい探してこい」
と殴りながらお前が言うからと探してきたらしい。
ため息をつきながら本を閉じる。
ここ一年、
偏屈な爺さんをずっと相手にして退屈だったんだよ。
「分かった、行きゃーいんだろ。」
そしてあらかじめ用意していた手紙を机の上において、
アレクスに付いていくことにした。
「んじゃあ勇者様?何から始める?」
俺がそう言うとアレクスは。
「無論、人助けだろ!」
それが当たり前かのようにアレクスは笑顔でそう言った。
――――――――――――――――――――
――アルス紀144年、寒期137日。
アレクス、クー、マトー、ハイネス、そして俺。
正直誰が見ても異色のパーティーだった。
アレクス曰く、
クーとマトーは「道で拾った」とのこと。
この二人は異世界から来たらしく、
向こうの世界のことをたまに話してくれる。
どちらも同じ世界から来ているようだが、
お互いはお互いのことを知らないようだった。
今の時代、転移・転生というのはあまり珍しくない。
近くの街の王は元転生者で……、
なんて話もあるくらいこの世界は転生と縁が深い。
だから最初聞いたときは「そうか」としか返さなかった。
どちらかと言うと心配なのは、
コイツらが戦えるのかどうかって所だろう。
ハイネスは……えらい美人だが、これでも戦士らしい。
どこまで行っても際どい格好で少し目のやり場に困るが、
本人に文句を言っても、
「そういうものだ、ガハハハ!」と笑われて終わり。
正直、もう少し慎みを覚えてほしい。
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――アルス紀145年、暖期53日。
アレクスが俺を誘って丁度2年。
日記を読み返したら粗雑な性格が影響してか、
かなりの間記載するのを忘れていた。
少し癖を付けないといけないな……。
パーティーは驚くほどに順調だ。
ただ、一度だけハイネスが死にかけたので、
治癒術師を仲間に引き入れることになったくらいしか、
ピンチというピンチは無かった。
ガフ・サンザインというドワーフの女治癒術師。
コイツは治癒術師の割にはあまり魔法は使わず、
神も信仰していない。
その上、口煩いと来た。
外から帰ってきたらやれ手を洗えだの……、
歯は磨けだの……。
後から聞いた話だが、
異世界の「医学」に魅せられているらしい。
こんな金無し貧乏パーティーに入ってくるなんて……、
と思っていたがどうやら異世界人が目的だったようだ。
異世界の話を聞かれたクーとマトーが困った顔で、
「資格がいるものだから詳しくは知らない」と言ったら、
ガクッと肩を落としていた。
あんなに落ち込んでいるガフを見るのは、
後にも先にもアレだけだろう。
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――マリンド紀0年(アルス紀145年)暖期150日。
アルスという国の国王がクーデターにより打ち倒され、
マリンドという国になったらしい。
だからこれからは年号がマリンド紀になる。
個人的にはどうでもいい。
そんなことより嬉しい知らせだ。
切望していた魔法使いが、
パーティーへと加入する運びとなった。
名前をユー。
ガルクラシア王国へと寄っている途中、
見つけた異世界人の魔法使い。
なんと、クーの妹とのこと。
世界の狭さを実感すると共に、
友の嬉しい出来事に俺も家族のように嬉しい限りだ。
旅路ももう半分を過ぎた。
これから魔王キングスネビュラのいる地、
スペイルス大陸へと向かう。
どうか、この旅路が良きものでありますように……。
縁起でもないか。
一度ちゃんと全員の未来を視たほうがいいかもな。
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これは、マリンド王国に残されたとされる、
『ジエンの日記』 の一端である。
『真実の勇者』マナサイト・アレクス
『暴走する悪姫』ガスタリカ・ハイネス
『探究せし神医』ガフ・サンザイン
『星詠みの賢者』シヤバイル・ジエン
『堅固たる付与』クバラ・ミサオ
『十全なる呪術』クバラ・ユウ
『世界を拓く者』マトウ・カイト
後にこの者たちは、
『救世の七英雄』と呼ばれることとなる。
そして、最悪の英雄とも。




