第35話:FulL
————キィ……バタン。
世界樹B5層のセーフルーム。
扉が開く音が聞こえる。
おそらくジエンが帰ってきたのだろう。
「空原君、起きていますか?」
眠っていたわけではない、
少し目を瞑っていただけだった俺はすぐに返事をした。
「はい。」
数日前にジエンさんから今の状況を聞かせてもらった。
日本国内のこと。Blossomの存在。フロンテラの現状。
どうやって調べたのかと思うくらいの内容だった。
「いくつか、質問させてください。」
ジエンが椅子に腰掛けると、
腕を組みながら下を向いていた。
長い髪が垂れ下がり、表情は伺えない。
「空原君、君は『フジバヤシ・ゲン』
という名前に聞き覚えはありますか?」
彼が一体何を聞きたいかは分からないが、
ここで嘘をつく必要はないだろう。
「いえ、覚えはありません。」
断言する。初めて聞く名前だった。
その言葉を聞いて彼はか細い声で、
「そうですか……。」と零していた。
「次に―――という名前に聞き覚えは?」
聞き取れなかった。
日本語であるはずのその名前、
モヤが掛かったかのように脳が処理を拒む。
頭痛。
返事をしようと思ったが、
彼は片手を前に出して先に喋り始める。
「……大丈夫、答えなくて平気です。」
頭の痛みに添えた手を下ろし、深呼吸をする。
気が付けばジエンはこちらを向いていた。
「最後の質問にしましょう。」
そういうとジエンは立ち上がり、俺へと手を伸ばす。
「あなたは、これからどうしたいですか?」
「お、れは……。」
一度敗れた主人公がやらなきゃいけないこと。
……答えは一つか。
気合を入れ直すために顔を叩く。
「救う為に強くなりたい。次は、誰にも負けたくない。」
伸ばされた手を腕ごと掴んで立ち上がった。
——
そこから、ジエンと修行することとなった。
「試しに一度、
そこの壁に向かって何か魔法を放ってみてください。」
ジエンの言葉に頷き、
俺は岩を生成して風で放つ魔法を使ってみる。
「はっ!」
射出された岩は壁にめり込んだ。
普段と同じくらいの魔力を込めて放ったはずなのに、
その威力は比にならないほどに高まっていた。
これは……。
「【目覚めし者】!?」
「違います。」
即答だった。
「貴方が言う【目覚めし者】はそもそも、
【固有魔法】に作用するものですからね。」
「……じゃあなんでこんなに威力が上がったんですか?」
……いけない、
少しムッとした声が出てしまった気がする。
いろいろ要因を想像したが、心当たりがない。
切り替わったような感覚がそれだったのだろうか。
「そうですね……。
今はまだ詳しく説明はできないですが……。
端的に言えばそれが本来のあなたの魔力です。」
「本来の魔力……。」
「そうです。そういえばなんですが、
いきなり慣れない魔力を一気に消費した時に、
起こる目眩についてはご存知ですか?」
知るわけがなかった。
そして俺は吐いた。
――――――――
数分後、
少し落ち着きを取り戻した俺は改めて魔法の構えをとる。
「今度は、絞って……。」
出力する魔力を減らす。
今まで最大出力で打っていた魔法を
まさか絞らないといけないことになるとは思わなかった。
やり方が分からない。
撃つたびに嘔吐しながらも、
なんとか元の出力に戻そうと努力する。
心なしか粉砕音が少しずつ小さくなった気がする頃、
ジエンから話しかけられる。
「……あまりやりすぎるのも毒ですし、
一旦休憩にしましょうか。」
そう言うと彼はセーフルームへと足を向けた。
自分もついていこうと立ち上がろうとしたその時、
大きな地鳴りが発生した。
「なんだ!?」
俺は身構えたが、ジエンは我関せずと歩いていく。
「まあ、敵陣の真下というか、
敵の中みたいなものですし、そんなものでしょう。」
「何を言って……。」
「Blossomは世界樹が拠点ですからね。」
……。
「アンタはなんで大事な事を毎回後に言うんだよ!」
「わぁ懐かしい、
久しぶりにそんなこと言われた気がします。」
こいつの悪癖は、根っからかよ……。
誰だか知らんが、
同じ目にあったやつはご愁傷さまだな……。
そう思いながら俺はセーフルームの中へ戻って行った。




