第34話:Continue
空原操はベッドに横たわっていた。
突拍子のないジエンの話を聞かされて、
整理する時間が欲しかった。
実際の所、どこまで彼の話を信じるのがいいのか。
フロンテラの仲間たちはどうなったのか。
これから俺はどうしたらいいのか。
……そういう所も少しずつ考え直す必要があると、
そう思ったのだ。
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————フロンテラ本部。
医療室に集まったメンバー。
我妻陽。
冷泉雫。
丸ノ内神楽。
黒鉄林檎。
一ノ瀬丞。
山本宗次郎。
こうやって集まることが少ないメンバーだが、
気が付けば半分近くを欠いている状態だ。
今は天国御来の治療をしながら話し合いをしている。
重い空気の中、神楽が口を開く。
「とりあえず、
今確認が取れているメンバーはこれだけ……だね。」
いつも部屋で寝ているだけの神楽はそこに居ない。
真剣な面持ちで御来を見つめていた。
「症状に心当たりはないけど、
恐らく『スミレ』の仕業だよね。」
神楽がそう聞くと、雫は頷く。
「腐食みたいな魔力がずっと天国さんを侵食してるッス。
再生の炎で相殺してるっスけど……。」
「我妻くん、君の代償的には平気なのかな?」
山本がそう聞くと、我妻は頷く。
「俺自身が茜さんの言う、
『目覚めし者』になっているのは間違いないっす。
だから代償もそんなにキツいって訳じゃないっス。」
「代償自体はあるってことなんだよね?」
山本はズイと我妻の前に身体を出す。
その眼の圧に我妻はすぐに負ける。
「……無いって言ったら嘘になるっス。
シャチョーは俺の固有の代償、知ってるっすよね?」
「あぁ、もちろん覚えているよ。
確か『火傷』だろう?
使えば使うほど、火傷痕が酷くなるんだったね。」
「今も代償自体は変わって無いっスけど、
再生の炎は自分の火傷も中和してるっス。」
雫が自身の口に手をあてて一瞬思考する。
「……それって……、火傷の痛みはどうなるの?」
我妻は答えない。
そして、その場のみんなも止めようとはしなかった。
御来が死ぬかもしれない、
そんな状況の中「無理するな」と誰も声を出せないのだ。
「少しだけ、痛みがあるだけで大丈夫っスよ!
みんなそんな深刻な顔しないで欲しいっス!」
御来へと向ける炎は一定の輝きを保っており、
腹部に空いた穴をゆっくりと修復している。
痛みで汗が流れ本人の炎で蒸発させている事に、
神楽は気付いていたが……。
「とりあえず!今は我妻君に任せるしかないけど、
決して自分が死んでもとか思わない事。いいね?」
分かった上で一切触れずに言葉纏めると我妻は頷く。
(とんでもない痛みなんだろうけど、
今は耐えて貰うしかない……ごめんね、我妻君。)
ここが正念場なのだ、暗い言葉など掛けられない。
こんな時に、茜の顔が脳裏をよぎる。
(茜だったら……。)
そんな思いを振り払い、皆の顔を見る。
「とりあえず、
ボク達がいま一番共有しなければいけない内容が……。」
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————世界樹??層
「とりあえず現状共有、
各地にバラまいた養分生成器は、
十全に機能したぜ、パーフェクトってやつだ、ハハ。」
器用に椅子の背もたれに座りながら報告する男。
瘦せ型で中くらいの背丈、
ボロボロの茶色マントと黒のランニングトップス。
そして斜めにキャップを被る、
何もかも不釣り合いにみえるその男。
それは『マネーティア』だった。
「記号型ヴィスターは順調、
雑魚は肥料へ、使えるヤツは固有が強まった。」
「計画の第一段階としちゃ、
かなり十分な成果と言えるだろう。
各都市機能も壊滅的、カタストロフィーだな。ハハ。」
そしてわざとっぽく肩を竦める。
「ただ、フロンテラの餓鬼共は逃しちまった、
ハハ、わりぃな。」
いま、この場所にいるのは7人。
『マネーティア』
『スミレ』
『マリー』
そして後の4人は……。
ダンッ!と机を叩く音が響き渡る。
「マネーティア!貴様!
『ヒガン』様の前で良くも抜け抜けと!
逃がしたのは貴様であろう!?」
緑色の甲冑をした男が剣に手を伸ばし、
今にもマネーティアに斬りかかろうとしている。
「『マルベリー』……、
まぁまぁ、そうカッカするもんやないで。」
『スミレ』がそう口を出すと、
マルベリーの今度の矛先はスミレへ。
「スミレ!貴様!
貴様という軟弱者が居るのでさえ我は許せぬ!
貴様ら揃ってブロッサムの面汚しであろう!
平服し、首を……。」
《マ、ルベ、リー。》
もはや、その声は人の声では無かった。
耳を塞いでも聞こえてくるであろう言葉に、
マルベリーは戦慄する。
《そこ、まで、だ。》
マルベリーはすぐに剣をしまい、
ヒガンの方へと身体を向け頭を垂れる。
黒のローブを深くかぶり、
男性か女性かも分からない。それがヒガンの姿だった。
「出過ぎた真似を。」
《続け、ろ。》
マネーティアは、冷や汗をかきながら声を出す。
「はッ……。」
(これだよ……、これがヒガン様の怖い所だぜ……。)
「……全国区にまだヴィスターをばら撒いただけで、
養分としての期待値が高ま……。」
「ちょっといいかな。」
「今度はなんだよ、アァ!?」
明らかに不機嫌になるマネーティア。
そんな事は露知らずか、
静かに暗闇の中で話を聞いており、顔を出した人物。
陸澤黒松である。
「とりあえず、
これ以上世界樹養分製造の為のキットは必要なのかね?」
「不要。」
そして凛とした声でその声に答える『マリー』。
「承知した、であればここから先の会議に私は不要だな。」
陸澤はそのまま闇に溶けて消えようとする。
しかし、身体が半分まで浸かった所で動かなくなる。
「なっ……!?」
明らかな動揺を見せる陸澤の前で、
また声にならない声が響く。
《待て。》
《これ、だけは、聞いて、いけ。》
《リン、クは途絶、えた。》
5人がざわつく。
落ち着いているのは、
ヒガン本人と横に控えている白装束の女だけだった。
「確かに、殺したのはウチやけど……。
想定より早いんちゃいます?」
スミレが立ち上がる。
「……ちゅーことは、やっぱ薬がないとあきまへんな。
こんなちんたらと会議の真似事なんぞ、
ウチはクソ食らえですわ。
もう自由にやらせてもらいまっせ大将。」
ヒガンはそれを聞き入れ大きく頷く。
《賢者、が、動いている》
「……さいでっか。」
《警戒、し、ろ》
「ま、ウチは自分の仕事を最後まで責任持ちますわ……。
ほな、お先。」
その場からスミレは立ち去る。
「『クロマツ』、
[おいたは程々に]とヒガン様はお考えです。」
顔が見えない白装束の女が喋り始める。
「[私を利用するなら、もっと上手くやりなさい。
あまり温いと殺してしまいますよ。]との事です。
ヒガン様に感謝を。」
「……畏まりました、『ヒガン』様、『ユリ』様。
この度の慈悲に感謝いたします。」
苦い顔で拘束されていた陸澤は椅子へと下ろされた。
パンッと乾いた手の叩く音が鳴る。
「スミレの言った通り、
会議の真似事はもういいでしょう。」
そのままユリと呼ばれた女性は、話を続ける。
「各自、成すべき事を成してください。全ては……。」
「「「「Blossomの為に。」」」」
「……為に。」
小さいマリーの声を最後に、その面々は散っていった。




