第28話:純粋少年と始まる悪意
一ノ瀬丞は上機嫌だった。
「あっはは!『雷+焦熱=集束機』!」
不自然な形をしたヴィスター達を相手に、
雷の魔力の籠った爆弾を投げつけている。
さらにとてつもない加速と跳躍も行う。
これも雷の魔力を最大限注入した靴だからこその芸当だ。
「これは茜さんの【固有魔法】を参考にし、
僕なりのアレンジを加えた現状の最高火力さ!」
そして、とんでもない威力で建物も破壊している。
「ちょっと!ペースが速いわよ!丞!」
黒鉄林檎はリボルバーではなくハンドガンで、
壊した建物に早撃ちを行っていく。
その弾は蜘蛛の巣状に拡散し、
壊れかけの建物を支えている。
一見凸凹コンビだが、独壇場の丞に縁の下の林檎。
息自体は意外と合っているようだ。
「いやいや、操くんの固有からの着想。
おかげでこんな防止装置も開発できて……。
いやはや、感無量だね!」
「丞!聞いてんの!?まだ避難しきってないのよ!?
このままだとアタシ過労死するわよ!?」
林檎の受難は続く。
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「だから……。
天国さんと黒鉄さんも苦い顔をしてたのか……。」
遅れて出動した雫と操のペア。
黒鉄達とは別方向で救助活動を開始している。
かなりの距離離れている二人から見ても、
丞のヴィスター殲滅は随分派手にやっている。
「あれでは……、
ヴィスターの行動パターンは取れてなさそうだね。」
雫は丞達を分析しながら、正面の状況に目を向けている。
「雫さん!」
操が大声を出す。
「分かってる。」
二人共が見ている状況も楽観できるものでは無かった。
子供を庇った母親が、
球体型のヴィスターに襲われ、倒れていた。
「ママぁ!おきてぇ!ママぁ!うあああ……!」
泣きじゃくる3歳くらいの女の子。
球体は無慈悲に白い光を溜め始める。
(間に合うか?いや、俺一人じゃ無理だけど……!)
「雫さん、この糸を掴んで!」
正面に硬くした誘導棒を投げ、雫に糸を流す。
雫は無言で頷いて、糸をがっちりと掴んだ。
誘導棒は途中まで回転しながら飛ぶだけだったが、
突如として回転を止め地面に突き刺さる。
弓への変形とはまた別の形、
これも丞の改造によって追加された機能の一つ。
「誘導棒・支柱モード!巻き取れ!【変幻する鋼魔】!」
糸が物凄い勢いでアンカーに吸い込まれていく。
雫は途中まで糸の速度に合わせて駆けていたが、
速度がさらに加速していくと判断した瞬間。
「滑れ、氷の板よ。」
魔力で水を足元に構築し、凍らせる。
彼女の元素傾倒は水。
氷魔法は魔力があまり適応せず苦手な部類となる。
但し、それは魔力で氷の即時生成が不得手という意味。
操の指ライターのように、
あくまで凍らせるだけなら彼女にもできる。
御来や山本のような氷に傾倒している人間には無い発想。
「すぅ……。」
氷の板に乗りながら大きく息を吸い込む。
【時迷い】の使用準備に入ったのだ。
「糸は折り返しで僕に繋がってます!
誘導棒の底を2回叩けば盾状になるので、
引いていい時は2回鳴らしてください!」
彼女は頷く。そして母子を見つめる。
操は【変幻する鋼魔】を巻き取る速度を加速させた。
約300m。
雫は10秒もせずに母子の元へたどり着く。
(【時迷い】……!)
球体ヴィスター本体の時が止まり、光の収束が停止する。
ザッ、ザッ。
雫からの無線の合図。ホワイトノイズ2回。
喋れない彼女の為に、
コミュニケーションが取れるよう合図が決まっている。
ただ、初実践でやる連携なので改めて伝えておいた。
2回は肯定、3回は否定、そして4回は分からない。
そして5回は『とにかく逃げろ』と言ったように。
そして今回はちゃんと2回の音が鳴っているので……。
「OKの合図!」
確信を持って操は糸を引く。
アンカーだった誘導棒は盾に変化して、
親子を乗せて操へと引き寄せられる。
重みはしっかり1.5人分ある。
血液の消費もまだ問題ない。
操は糸を引きながら無線を飛ばす。
『天国さん、負傷者です!
ヴィスターに直接やられています!』
『分かったわ、
コッチは一段落だからそっちの方に向かう。状況は?』
『雫さんが今1体……、
後続が来てるので間もなく3体以上と接敵します。』
『……、余裕は無さそうね。
そこに負傷者を寝かせて雫に合流。』
『了解。
小さい子がいるので無線を一機置いておきます。
あとはその子と会話してあげて欲しいです。』
「ママ!ままぁ!うぅぁああ!」
娘を庇った時に転倒したのか母親の額から血が流れ、
脈はあれど意識はない。
泣きじゃくる女の子。
『きこえる?
ママはいま少し疲れて寝んねしてるだけだからね。
いまおいしゃさんがいくからね!』
普段とは違い優しい声音で話す御来。
無線の使い方が分からない子にも、聞こえてると信じて。
「うああ!うぅん……!まま、ままぁ……。」
御来の言葉を聞きながら、
女の子は少しずつ落ち着きを取り戻す。
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そして、そんな戦場の裏では……。
「ほっ……と。なんや『マリー』。来とったんかいな。」
長身紫髪、パンクな服装。
デスターのスミレが遠いビルの屋上に顔を出す。
「首尾。」
マリーと呼ばれた女性が小さく呟く。
橙と黒のドレスを纏った、落ち着いた女性。
「んー、フロンテラの着が思ったより早かったなぁ~。
発芽より先に駆除が始まってもうたわ。」
「不熟。」
そう言うとスミレが両手を上げる。
「堪忍してや、遅いのは分かってんねん。
ウチも言い訳したい訳じゃないんよ。」
マリーはスミレの顔も見ずに会話を続ける。
「……次項?」
「ほい、釣りがまさかここまで上手く行くと思っとらんかったんやけど……。」
「偶然やけど、フィードバックの対象に一人取れとるで。」
「重畳。」
マリーは屋上の柵へとゆっくりと歩く。
「支援?」
ようやくスミレの方を向く。
スミレが頷き笑う。
「姐さんの手伝いがあったら百人力やな。」
グシャッ。
マリーは傘を金色に染めてスミレの腹部を貫く。
「カハッ……!姐さんの……効くわぁ……。」
「撤収。」
マリーは屋上から飛び降りた。
「ホンマ……タチ悪いわ……、マリーの闇魔法……。」
「【故意返信】……。
ふぅ、スッキリしたわ~。」
「こういうのはヒーラーを潰すのが、RPGの鉄則やんな?」
スミレは楽しそうに、屋上の扉を閉めた。




