第27話:緊張感と問題児(?)
一ノ瀬丞は、ハイエースを運転していた。
普段であれば、
夕凪達也や黒鉄林檎が運転を担当しているのだが……。
夕凪茜の変貌以来、達也は姿を見せていない。
そして林檎は、
編成の隊長役の準備があるので、今回は丞の運転。
今走っているのは東京と千葉の境目くらいだろうか。
「ううううううん、長距離運転って暇だな~~~。」
信号待ちの間に背筋を伸ばす。
魔道具制作は楽しいのに、どうも運転は嫌いだ。
この間にアイデアをいっぱい考えればいいけれど……。
「熱中し過ぎても事故るからね!(2敗)」
事故の後、めちゃ怒られたんだけどね、なんでだろうね。
「まぁでも、もうそろそろで着くもんねー。」
そう言って目的地に近づいた時、
丞はハザードを炊いて車を路肩に寄せる。
「……ん、ちょっとマズそうかな。」
丞はその先を見つめながら、無線機のスイッチを入れる。
空が曇天で灰色に染まっていることは良いとして……。
「んーと、林檎ちゃん?聞こえる?」
無線機を起動したままなのか、
黒鉄林檎はすぐに応答する。
『丞、もう着いたの?』
「ん、うん。一応眼前って感じなんだけどさ。」
『何か問題かしら?』
「……数が多いかもね。」
丞が車から降り、扉を閉める。
「あちゃ~……すごいよコレ。」
要領を得ない丞に、
少しだけイラっとした林檎が具体性を求める。
『……えっと、丞。
見えているヴィスターはどれくらい要るのかしら。』
「……目視で100だね。空だけじゃなく、町まで灰色だ。
これ、僕も出なきゃダメっぽい。」
『はぁ……。ブリーフィング中よ。
コントロールルームにすぐに来て。』
「りょーかい。」
静かになった無線を切り、丞が頭の後ろで手を組む。
「運転より……マシか!」
そう言うとハイエースの後ろの扉を開き、
コントロールルームへと入っていった。
————————————————————
無線を切り、
事態が思ったより深刻化していた事に顔をしかめる林檎。
それを見て操は質問を投げかける。
「いまの丞さんですか?」
「えぇ、そうよ。
はぁ……二つの意味で運が悪いわね。」
林檎はそう言うと、長い髪を後ろで結い始めた。
口にはさっき持ってたリボルバーを加えている。
どうでもいい事だけれど、
結構顎の力が要りそうだなと操は思った。
「丞さんって戦えるんですか?」
雫がそう聞くと、黒鉄は肩をすくめる。
「あの子別に弱くはないわよ……。
一つだけ問題点はあるけど。」
「問題点……?」
その問題点は後に判明する。
コントロールルームには林檎・丞・御来・操・雫。
そしてベッドに横たわる神楽を含めた6人が居る。
矢継ぎ早に林檎が話し始める。
「ブリーフィングの続き。
雫、丞にも伝えたいからもう一度振り返ってもらえる?」
「はい。」
ホワイトボードを前に、
淡々と雫は話していた内容の整理を始める。
「場所は千葉の某所……。
もう到着自体はしています。」
「報告では『ヴィスター』の規模が当初の予定より、
かなり多い……という認識で大丈夫ですか?」
そう丞に問い掛ける。
「うん、
運転中の視認で言えば恐らく100体は見えてたよ~。」
軽く言う彼の声に、周りは明るい顔が出来ない。
「100、ですか。」
操も思わず口をついて出る。
それに反応するように御来が喋り始める。
「100以上、よ。
丞は目視で100って言ったけど、実際はもっと居るわ。」
訂正と共に心配を打ち消す為、声を掛けてくれる。
「今回はバックアップとして私も前線に居るわ。
だから、頑張って。」
戦えない彼女だからこそ、思う所もあるのだろう。
「続きです。
今回の『ヴィスター』は非生物の見た目をしています。」
雫はPCを操作し、
写真をホワイトボードに映す。
立方体だったり、星型だったり。
まるで灰色の大きい積み木が街を破壊しているようだ。
「弱点も硬度も不明、1体の大きさは1m前後。
今回は未知の『ヴィスター』である事が推測できます。」
「……未知……ですか。」
前回の失敗で我妻を失いかけた事もあり、
操の発する声はどこか怯えていた。
「操ちゃんが心配している事は分かるけど、
どちらにせよ、今いる面々でやるしかないわね。」
林檎がそう告げると皆が頷く。
一人を除いて。
「ここまでがおさらい。で、これからなんだけど……。」
そう言った瞬間に遮る声がする。
「とりあえず了解!行ってくるね!」
丞は話も聞かずに神楽の開いたポータルに向かう。
「ちょっと!まだ、話は……!」
林檎が叫んだ時には姿はもう見えなくなっていた。
「あの子は……!」
林檎は呆れてモノが言えないようだ。
「行かせていいんですか?」
そんな操の問いかけに答えたのは、意外にも神楽だった。
「へーきへーき、
じゃなきゃボクが行かせたりしないよ~。すぴ~。」
喋ったと思えば、そのまま寝息を立てている。
……寝ながら聞いてるのかこの人……。
「今回、アタシは丞のサポートに付くわ。
雫と操ちゃんは二人でお願いね。」
「はい。」「わかりました。」
雫の短い返事と操の丁寧な返事が重なる。
「何かあったら無線に連絡、無理しないでね。」
続けて了承をしようとした操に1つの疑問が浮かぶ。
「……って、林檎さんがサポートなんですか?」
「そうよ、だって。」
神楽がポータルを開き、足早に林檎が向かう。
そして、御来がその後の言葉を代わりに続ける。
「だって、周りの人が皆怪我しかねないのよ……。」
天国御来は頭を押さえながら、皆を見送った。




