第29話:慣れた連携と『詰み』
空原操と冷泉雫は、ヴィスターに囲まれていた。
立体記号型のヴィスター複数体が操達へ光を溜め始める。
「アースウォール!」
星型ヴィスターと自分との間に壁を作る。
訓練の成果が出ているのか、
操自身が驚くほどに早く壁を形成していた。
「ウォーターフォール。」
雫がそう言うと柔らかな水が流れ、
球体となり、立方体型ヴィスターを包み込む。
しかし、溜めている光は止まらない。
「雫さん!閉じ込めるだけじゃ……!」
雫は水に触れて小さく呟く。
「アイスシャード。」
小さく、それでいて鋭い氷の刃が水の流れに乗り、
ヴィスターを切り刻む。
(すごい……無駄のない魔法だ……。)
魔力を節約しながら、被害を最小限にするように動く。
山本に言われていた【固有魔法】に頼らないという事を、
しっかりと実演していた。
切り刻まれたヴィスターは、
裂傷箇所から白い火花を散らしながら粒子化していく。
その見事な手際に見とれていたら、
熱線で生成した岩壁が焼き切られそうになっていた。
(げ……見てる場合じゃないな……。)
情報を集めた操は星型のヴィスターに向き直る。
(見た目の割りには刃が通る、ならこれだな。)
盾型になっていた誘導棒のボタンを押し、
再度変形させる。
「改造誘導棒、『鉾』初実践と行きますか。」
そう言うと操は鉾を構えながら岩壁から飛び出した。
ヴィスターは丁度エネルギーを切らしたのか、
一瞬だけ操を追った熱線は途切れている。
「【変幻する鋼魔】……!」
声に反応するかのように、
鉾型の誘導棒に光沢が走り硬度が増す。
その動作を意にも介せず、
ヴィスターは再度光を収束させた。
「加速する、エアステップ!」
操は風を足に纏い、脱兎の如く駆け出す。
全身に重力を感じながら高く跳ね上がった。
「喰らえッ!」
鉾は光ごと斬り裂く。
星型のヴィスターは光の粒子となった。
「よっし!いっちょ上がり。」
と、言っている間に雫は2体目の丸型も倒していた。
恥ずかしかったのでちょっとだけ声を小さくした。
(雫さんは自分自身が弱い認識みたいだけど、
やっぱ俺より強そうだよなぁ。)
手際の良さ等を加味しても雫さんが弱いとは思えない。
そんなことを考えているうちに雫の方の音が静かになる。
「空原くん、終わった?」
こちらを見ながらゆっくりと歩いてくる雫。
「終わりました。
一旦、近くにはヴィスターは居なさそうですね。」
雫は頷いて同意する。
「まだ一ノ瀬さんが暴れてる。
あのままだと林檎さん、倒れちゃうかも。」
雫がそう呟く。
「……ビル群が更地になるのが先かも知れないっすね。」
丞は依然反対の方角で大暴れしていた。
「どちらにしろ許容は出来ない。
空原くんは御来さんと一緒に…。」
言い切る前に声が聞こえる。
「おねぇちゃん!」
雫の足に抱きついてくる子供が一人。
さっき助けた親子の娘さんだ。
「……ど、どうしたの?」
あまり慣れていないことに動揺している雫。
あの様子だと子供は得意じゃ無さそうだ。
「まま、げんきになったら、おいしゃさまたおれて……!
まま、まだうごけないからだれかよんでって!」
「御来さんが倒れた……!?」
操がそう呟いた瞬間、
雫は子供を抱きかかえる。
「どっちから来たか教えてくれる?」
「わわっ……!わかった、えっとね……。あっち!」
女の子が指差した方向へ雫は全力で駆け出す。
「空原君、林檎さんへ連絡を。
私は先に御来さんの所へ行く!」
「了解です。」
操が無線の準備をしている間に、
雫の姿は見えなくなっていく。
方角は覚えておかなくては……。
そう思いながら無線機に指を掛けたその時。
「あかんわ~。
自分、一人になる事のリスク考えたことないやろ。」
この声は……。
「……『スミレ』か!?」
「ご名答!フロンテラの『空原操』クン。
いやはや、2回目ましてやな?」
紫色のパンクな服装の女性がビルの陰から出てくる。
「失敗やったなぁ、
そのまま雫チャンについてったら良かったのに。」
「どういう意味だ。」
気は抜かない、魔力も体力もまだ余裕はある。
「まんまの意味や、
付いてったらここで死ぬことも無かったやろに。」
『スミレ』は伸びをして、
あくびをしながら操の事を見つめていた。
「負けるつもりはないぞ。」
(挑発か……時間稼ぎか……?
どちらにしろ、俺のやることは1つだ。)
鉾を構えなおす操。
「あー、ちゃうちゃう。
残念やけどもう『詰み』なんよ。」
「ハッ!!」
操は『スミレ』へと思いきり斬りかかった。
胸部を斬られて鮮血が噴き出す、十分な手応え。
「ガハッ……!?」
喋ろうとする『スミレ』だが、
口から血が溢れ出して声にならない。
そのまま前のめりになり、その場に膝を突く。
「……初めて人を斬った、
悪人に対して掛ける情けは持ち合わせてないんでな。」
「アホか、
ウチにとっちゃアンタらがただの敵やっちゅーに。」
「なっ!?」
しゃがみ込んでいた『スミレ』が立ち上がっていた。
それどころか、傷1つない。
「……【固有魔法】か!」
操がそう言った瞬間、『スミレ』は眼を閉じていた。
「気付いても遅いで、【故意返信】!」
眼を閉じたままスミレが腕を振る。
「第2局も『勝ち確』やな。」
空原操は胸部を思い切り斬り裂かれた。




