七十七話 ランス、偽装する
バカなフリをしてきた。
そう、生まれた時からだ。
そうでないと生き残ることが出来なかった。
ガンスの長男ランスは、とんでもないバカで無能だと幼少の頃から街で噂になる。
魔法の才能もなく、頭も悪い。
ガレア家はガンス一代で終わるだろう。
ずっとそう言われて蔑まされてきた。
すべては計画通りだった。
少しでも、ほんの少しでも僕の能力がバレたら転生子と疑われてしまう。
それは、無敵の能力を持つ、ガンスを敵に回すことになる。
だから、あえて無能のフリをして生きてきた。
「儂はそろそろ引退しようと思う。この街のすべてはお前のものだ、ランス」
ガンスが僕に街を任せる気などないことはすぐにわかった。
都合のいい、生贄として僕を街の代表にしたのだ。
自分が裏からすべてを支配し、何かあれば僕の首を差し出すつもりだろう。
ガンスにとって、僕はただの捨て駒に過ぎなかった。
「今日からこの女がお前の嫁だ。大切に扱い、早く子を成すがいい」
妻のシンシアをガンスが連れて来た時も同じだった。
彼女は、僕の為に用意されたものではない。
父ガンスの子供を産むために、連れて来られたのだ。
「よろしくお願いします、ランス様」
人形のように綺麗なシンシアは、良き妻のフリをする。
偽装家族が出来上がり、二年後、シンシアが一人目の子供を妊娠した。
僕が転生子だったからだろうか。
そんな予感はあった。
「お、奥様っ、この子っ、泣かずに笑いましたよっ」
僕の弟は、同じように転生子だった。
シンシアは、自分の子供が転生子として産まれ、捨てられたことで、少しずつ壊れていった。
それでも、ギリギリのところで正気を保っていたが、二人目を妊娠した時に、完全にぶっ壊れる。
それでも表面上は、普通に振る舞っていたので、近くにいる僕以外は、シンシアがイカレていることに気がついていなかった。
「ランスっ、部屋にいるシンシアが偽物だったぞっ、貴様、一緒にいて気がつかなかったのかっ!」
ガンスが怒声とともに僕の部屋にやって来る。
表情を緩め、いつものアホ顔になってから振り向いた。
「す、すいません、父さんっ。僕、全然、気がつかなかったよっ。だってどう見てもシンシアだったんだもんっ。そんなのわからないよっ!」
「……貴様は本当にっ、クソの役にも立たぬっ!」
すぐにドアを閉めて、ガンスは、シンシアの追跡を再開する。
ガンスが巻き戻せる時間には、制限がある。
シンシアを発見することは容易ではないだろう。
子供が産まれるまで逃げ延びれば、今度は赤ん坊を助けられるかもしれない。
再びシンシアから転生子が生まれたならば、ガンスを仕留めるための手駒になる。
「そろそろ、本当の世代交代ですよ、お父さん」
もうすぐだ。もうすぐ僕のすべてを見せてやる。
あと少しだけ我慢してやろう。
おそらく僕だけがガンスを倒すことができる。
この時間を進める能力で。




