第9話:約束の地とポエムの夜
神聖なサンダルを通して赤砂の感触を感じながら、タルゴムは足をひきずって歩を進めた。
その背景には、リズミカルでかすれた、どこか幽霊めいた音が漂い始めていた。木々からでも、小屋からでもない。空気そのものから響いてくる。それは古いアコースティックギターの音色だった。錆びついた弦が、重く、物悲しいスロー・ブルースを奏でている。まるで悪魔本人が砂丘の十字路に腰かけて弾いているかのように、オアシス全体にノートが響き渡る。
ヤシの木々の間から、全身緑の筋肉の塊のような二メートル半の巨大なオークが現れた。完璧に仕立てられた真っ白なリネンのローブを纏い、ウミガメの甲羅で作られた老眼鏡をかけている。腕には羊皮紙を抱え、手にはクワを握っていた。
「命の創造主を讃えよ! キキ、君の存在が我がデーツ農園を優雅に香らせてくれるよ!」
声は深かったが、まるで学者のように完璧な発音だった。
「ガルーック! 私の大好きな詩人!」
キキは緑の巨人の腰にしがみついた。
「見て、神聖なる中間管理職を連れてきたのよ。みんなの『情緒的福祉』を監査しに来たの」
ガルーックはタルゴムを見つめた。
王家の煤で汚れ、三回連続で心臓麻痺を起こしたような顔をした漁師は、お世辞にも立派とは言えなかった。だが、胸元のメダルはまばゆく輝いている。
ガルーックは感動したように胸に手を当てた。
「選ばれし者……『神聖なる宇宙的泥酔の第一夜』の聖典に予言されていた通りだ。約束の地へようこそ。全宇宙に対して我々の強靭さを証明するため、創造主が与えてくださった場所だ」
「約……束の地? この赤い砂漠の真ん中でか?」
タルゴムは目を細めた。
「左様。創造主がその無限の、そして泥酔した知恵によって我々をここへ投げ入れた時、我々は神学的な権利においてこの地が我らのものであると悟ったのだ。逆境の中で開花せよと命じられた。そして我々はそれを成し遂げた。図書館を建て、川を引き、存在主義の詩集を三冊執筆したのだよ」
姿なきギターのブルースが激しさを増し、切ない音色を引く。
タルゴムは美しい土造りの小屋の先へと目を向けた。川のほとり、重い石材を積み込む作業場で、彼は浮遊する暗く儚い影を目にした。まるで破れた黒いカッパが地上スレスレを漂っているかのようだ。彼らが息を吐くたび、極寒の冷気が生じ、通り過ぎる川の水が凍りついていく。そのスペクトル状の手首には、磁気を含む重い鉄の鎖が繋がれていた。
「待て……あれはなんだ? なんであいつらは繋がれているんだ?」
タルゴムの血が凍りついた。
「ああ、先住民だよ。ディメンターさ。基本的には占拠者だね」
ガルーックは至極当然のように眼鏡の位置を直した。
「せ……占拠者!?」
タルゴムは呆気にとられた。
「そうさ。千前に我々の先祖がここへやって来る前から、このオアシスに住んでいた元の住民だよ」
ガルーックは顔色一つ変えずに言った。
「ちょっと待て、ここが平和なオアシスなら、なんであの連中が繋がれているんだ?」
底なしの井戸のように黒く虚ろな目をした、すぐ目の前に浮かぶ一匹を指差しながらタルゴムが問う。
ガルーックはため息をついた。まるで子どもたちに戦争の起源を幾度目かに説明する教師のようだった。彼は甲羅の眼鏡を外し、ジャスミンの香りがする布で丁寧に拭いた。
「必要なことだったのだよ。我々の先祖が宇宙の啓示に導かれてこの約束の地を見つけた時、そこはすでに先客がいた」
彼はディメンターたちを指差し、ドラマチックな間を置いた。
「その時、我々は『強靭さ』の意味を理解したのだ。聖なる地を我が物とするためには、偽物どもを追い出し、定住しなければならなかったのだから」
一番近くにいたディメンターが静寂の中で鉄の鎖を鐘のように鳴らしながら、ゆっくりと近づいてきた。口は存在しない——光を吸い込む無の亀裂があるだけだ。タルゴムの背筋に冷たいものが走る。姿に対する恐怖ではない。それ以上に恐ろしい、存在の欠如から発せられる絶対的な「無」そのものだった。
「で、彼らはここで何をしていたんだ? どうやって暮らしていたんだ?」
キキは無邪気な好奇心でディメンターを見つめた。
「役に立つことは何もしていないよ。ただ……存在していただけだ。ヤシの木の間を漂い、何も栽培せず、詩も書かず、動物の世話もしなかった」
ガルーックは分厚い胸の上で腕を組んだ。
「それって奴隷制じゃないか!」
タルゴムは信じられないといった声を上げた。
「我々が非難しているのは異質さではない。神聖なる目的の欠如なのだよ」
ガルーックは厳かに首を振った。
そして『詩的なカメの学院』で学術講義でもするかのように、寸分の狂いもない白いローブを整えた。
「神の理に従わぬ者に対しては、我々は古来よりの理解のメカニズムを用いる……鎖だ。理に従う者には、別の道が用意されている」
彼は言葉を切り、川のほとりに設置された巨大な石板を厳粛に指差した。
***『受動的ディメンターのための情緒的リハビリテーション区域』***
「……情緒的リハビリテーション? リハビリのために鎖で繋いでるのか?」
タルゴムが読み上げる。
「その通り! 我々の神聖なる地域社会統合プログラムの一環だよ」
キキは興奮気味に頷いた。
ディメンターの一匹が、ゆっくりとタルゴムの方へ頭を向けた。底なしの黒い瞳が彼をまっすぐに射抜く。口も表情もないというのに、タルゴムはその存在から明確な意思を感じ取った。深く、静かで、無限の憎悪を。
「さあ、遅れないで! 詩を堪能する時間だよ!」
キキが痺れを切らしたように言った。
ガルーックは穏やかな笑みを浮かべた。その笑顔は、目の前の凄惨な光景と恐ろしいほどミスマッチだった。彼は言葉もなくくるりと向きを変え、オアシスの中心へと歩き始めた。そこには平らな岩が研磨された砂の広場を囲む、自然の円形劇場があった。そこには多くのオークたちが腰かけていた。金糸の刺繍が施された緑のローブを着た老人たち、植物紙の巻物を読む子どもたち、儀式用の絨毯を織る女性たち。
輪の中央には、乾燥した花びらで覆われた低い舞台——詩の祭壇——があり、そこにはタルゴムが遠くから耳にしていたあの錆びついたギターが鎮座していた。楽器はまるで意志を持っているかのように、誰にも触れられていないのに弦を細かく震わせていた。
「木曜日は聖なる詩の夜なんだ。大人のオークなら出席は義務だよ」
歩きながらキキがタルゴムにささやいた。
「……じゃあ、あいつらも来るのか?」
タルゴムは、いまだに死んだような視線を浴びせてくる繋がれたディメンターを見つめながら尋ねた。
「もちろん! 彼らはプログラムの積極的な参加者なんだから!」
お読みいただきありがとうございます!
オークたちの「平和なオアシス」の裏に隠された、ディメンターたちの強制リハビリ(物理)。
そして始まる、まさかの義務制「ポエムの夜」……!?
【更新情報】
スタートダッシュとして【1日4〜5話ペースで爆速更新中】です!
「ポエムの強制は草」「オークがインテリすぎて怖い」「ディメンターの無言の殺意がリアル」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【ポイント評価(★★★★★)】で作品を応援していただけると嬉しいです!
第11話もすぐに更新されますので、どうぞお楽しみに!




