第10話:実存的トンテキと千年の痛み
彼らが自然の劇場へと到着したまさにその時、ガルーックがステージ(正確には……儀式用の小高くなった壇)へと足を踏み入れた。観客たちは瞬時に静まり返り、何人かは彼に向かって小さく一礼した。
錆びついたギターのブルースが不協和音を響かせ、重く歪んだノートが参加者全員の胸を揺さぶる。ガルーックは古典的な思想家のような優雅さで壇上に登ると、太木のような指で植物紙の巻物を広げ、まるで採石場が崩落するかのような大音量で咳払いをした。
円形劇場のオークたちは息をのんだ。キキは期待に目を輝かせながら砂の上に胡坐をかいた。その傍らでは、繋がれたディメンターたちが静かに漂い、極寒の冷気を吐き出している。雰囲気をぶち壊してはいたが、どこか芸術的で陰鬱な照明効果をもたらしていた。
「この演目の題名は……『存在の軋みにおける砂漠の夜明け』。生命の設計図を描きし者に捧ぐ」
ガルーックは目を閉じ、純粋な感動に声を震わせた。
彼は息を吸い込み、二メートル半の胸を膨らませると、花崗岩の塊すら動かしそうな情熱を込めて詩を詠み上げた。
「朝の朝食 食卓の
君の口づけ トンテキのよう
砂漠にひとり 我が運命を
惑わす者など ありはしない
火に弾ける 脂の音は
君を愛おしむ 我が魂
ああ キキよ 神聖なるブタ野郎!」
墓場のような静寂が円形劇場を包み込んだ。
タルゴムは口をぽかんと開けたまま固まり、ゆっくりとまばたきをした。一番近い出口か、あるいは自らの苦痛を終わらせてくれる斧を探して周囲を見回す。だが、観客の反応は劇的なものだった。
老齢のオークの女性が儀式用の絨毯で顔を覆い、涙を流し始めた。最前列にいた巨大な戦士は、男らしい嗚咽を噛み殺しながら胸を叩き、「トンテキの比喩が……リアルすぎるぞ、頭領……」と呟いた。二人のオークの子供たちは、詩の成熟した深みに圧倒され、静かに抱き合っていた。
「ブラボー! すばらしいわ!『神聖なるブタ野郎』! 私の宇宙論的な本質を、これほど繊細な叙情性で捉えた者はいなかったわ! アエディが見たら嫉妬で狂い死ぬわね!」
キキは感動の涙を浮かべ、猛烈な拍手を送った。
「待て……本気か!? 三人のエルフを泣かせた大詩人の存在主義の詩ってのがこれなのか!?『朝食』と『ひとり』で韻を踏んだだけだろ! しかも面と向かってブタ野郎って言われてるんだぞ!?」
タルゴムは頭を抱え、残されたわずかな正気を失いかけていた。
「中間管理職はオーク的リアリズムの重みを理解していないようだな。トンテキは俗世を、脂は宇宙の無に立ち向かい魂を育む糧を表しているのだ。そして『ブタ野郎』とは、太古より伝わる豊穣の尊称である」
ガルーックは知的な憐れみと見下すような態度を交えて壇上からタルゴムを見下ろし、眼鏡の位置を正した。
「これは『存在』の解体なのだよ」
「ただの文学に対する冒涜だ! 俺は読み書きもろくにできないが、これが度し難い愚行だってことくらいは分かるぞ!」
背景のブルースギターが短く張りつめたコードを奏でた。その瞬間、タルゴムの胸元のメダルが激しく脈動し始め、嘔吐感を催すほどの凡夫の思念が怒涛のように流れ込んできた。
(……二日も何も食べていない)
(……俺たちは神々の生贄だ)
(……一ヶ月間鞭打たれ続けて、背中が割れそうだ)
彼の脳裏に一つの光景が浮かび上がった。黒い鎧を着たオークが、宙に浮いたまま動かないディメンターを鞭で打っている。声を持たないため悲鳴こそ上げないが、その体は目に見えない激痛に悶え苦しんでいた。
タルゴムは拳を固く握りしめ、爪が掌に食い込んで痛むほどだった。彼の顔から一切の血色が失われ、銀色の瞳さえも日食を迎えた月のように光を失う。
一方、キキは人生で一番幸せそうな顔でそこにいた。
「見たかしら? あの美しさを! 集団の情緒的文脈における、本物の感情に基づいた純粋なアートよ。素晴らしいわ!」
涙を拭いながらキキが振り返る。
万雷の拍手を浴びた後、ガルーックは静かに儀式用の壇から下りてきた。彼はタルゴムへ歩み寄り、その大きな手をタルゴムの肩に乗せた。
「最初の混乱は理解できるよ……外から来た者が、我々の神聖なる詩的証言の形に不快感を覚えるのは自然なことだからね」
彼は父親のような口調で、小さく身をかがめた。
「だが我々はここで、絶対的な道徳構造によって真の美を創造したのだ」
タルゴムは答えなかった。答えられなかった。肩に乗せられたガルーックの手は、墓石の大理石のように重かった。赤い夕暮れの光の中、繋がれたディメンターたちに向けられた彼の視線は、それまで見落としていた新たなディテールを捉えていた。
一番近くにいる一匹——首に鎖を巻かれた個体の傷口が血に濡れていた。古く、異質で暗い組織で塞がりかけた傷跡……だが、確実にそこに存在していた。
そしてメダルが再び振動した。思念の渦の中に、新しい声が現れる。
(……ようやく、誰かが俺たちを見てくれた)
キキはタルゴムの肩に手を置くガルーックの横で、オークの聖なる詩に新しい観客ができた喜びを語りながら、未だに手を叩いて笑っていた。
「アエディを連れてこられたらよかったのに! 彼女なら実存的トンテキの深い象徴性を理解できたはずだわ!」
「左様……『運命』で韻を踏むには、もっと血が必要だと主張したかもしれないがね」
ガルーックは厳かに頷いた。
ガルーックの手を振り払うように、タルゴムは無意識に一歩踏み出し、ディメンターたちに向かってまっすぐ歩き始めた。
タルゴムの足元で砂が音を立てた。一歩踏み出すごとに、彼は輪から、笑い声から、馬鹿げた詩から遠ざかっていく。タルゴムの接近を感じ取ったディメンターたちは動かなかった——驚きからではなく、ブルースの音が一段と強まったからだ。
彼らの発する冷気が強まり、近くの川から立ち上る蒸気がタルゴムの足元で鋭い氷の結晶となって凍りつき始めた。
「タルゴム? どこへ行くの?」
キキが拍手を止めた。
だがタルゴムは答えなかった。彼は最も深い傷を負ったディメンター——幽霊のような首に血の滲む鎖を巻きつけた個体の前に立ち止まった。底なしの黒い瞳をまっすぐ見つめる……今回は退かなかった。
「おい……あの男は何をしているんだ?」
ガルーックがゆっくりと立ち上がった。
タルゴムと向き合ったディメンターが、ついに動いた。力なく片腕を持ち上げたのだ。タルゴムは一瞬ためらった後、手を伸ばし、その異形の手に自らの手を重ね合わせた。
その瞬間、タルゴムの脳内に衝撃が走った。暴力的で絶望的な映像の奔流が、彼の頭蓋内で弾け飛ぶ。
燃え上がる小屋、松明を手に浮遊する影へ罵声を浴びせるオークたち、磔にされたディメンターと燃えさかる十字架、きつく締め上げられた鎖から滴り落ちる黒い血。
神のハンマーで背骨を叩かれたかのように、タルゴムはその場にひざまずいた。彼の目から制御不能な血の涙がこぼれ落ち、千年にわたって蓄積された痛みがその精神を侵食していく。
「タルゴム!? 一体何が起きているの!?」
キキが叫んだ。
「それに触れるべきではないな」
ガルーックの声から一瞬にして温もりが消え、冷酷な響きが宿った。
周囲のオークたちが立ち上がり始めた。女性たちは織物を止め、子供たちは巻物を落とした。
そしてタルゴムは、血に染まった目でガルーックを見上げ、かつてないほどの怒りを込めて言い放った。
「この……メガネをかけた偽善者野郎が」
お読みいただきありがとうございます!
オークたちの「実存的トンテキ詩」に隠された、あまりにも残酷な千年の歴史。
ディメンターの手に触れ、彼らの絶望と痛みを知ったタルゴムがついに激怒し……!?
【更新情報】
スタートダッシュとして【1日4〜5話ペースで爆速更新中】です!
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第11話もすぐに更新されますので、どうぞお楽しみに!




