第5話:空から降ってきた男
風が刃物のように皮膚を切り裂く中、タルゴムは真っ逆さまに落下していた。新しいローブが必死の旗のように風にたなびく。
緑の畑、灰色の石造りの城壁……そして民衆の叫び声が、あっという間に迫ってくる。
ヴォルスラム王国の広場は、凄まじい大群衆で埋め尽くされていた。
錆びついた鎧を着て、綺麗にアイロンのあてられたピンクの帽子をかぶった男たちが、処刑台の周りに軍隊さながらの列をなしている。
その一段高い場所で、羽毛クッションが敷き詰められた豪華な玉座に腰かけ、国王ボルヴィル三世が厳めしい表情で民を見下ろしていた。
「国王令である! 本日より永遠に! 火曜日は『ピンクの帽子の日』と定める!」
群衆からどよめきが起こった。歓喜して拍手を送る者もいれば、あからさまに眉をひそめる者もいる。
「毎週毎週、ピンクなんて被りたくないぞ!」
「王に逆らうつもり!? あなたに王より良いセンスがあるとでも言うの!?」
広場の至る所で口論が勃発した。押し合いが始まり、ついに殴り合いに発展しかけた……まさにその瞬間。
——ドスン!
タルゴムは、焼き捨てられたピンクの帽子の山の上にダイレクトに落下した。
完璧なピンクの帽子をかぶり、心底うんざりした顔をした一人の兵士が近づいてくると、金属のブーツでタルゴムを小突いた。
「また帽子トラウマに耐えかねて飛び降り自殺を図った愚か者か?」
タルゴムは目を回しながら顔を上げた。髪には泥がつき、頬にはかすり傷……そして何より、周囲の全員が自分を凝視していた。
兵士はタルゴムを見下しながら、まるで神聖な王冠でも扱うかのようにピンクの帽子を整えた。
周囲の群衆は一瞬だけ喧嘩をやめた。泣きそうな目、怒りに満ちた目……すべての視線がタルゴムに突き刺さる。
「見ろ! 空から見知らぬ男が落ちてきたぞ!」
「予言者か? ピンクの帽子は呪われていると告げに来たのか!?」
「服がキラキラしてる! 貧乏な王子様みたい!」
幼い子供が高らかな声をあげる。
玉座からその光景を見ていたボルヴィル三世も、疑わしそうに目を細めてタルゴムを指差した。
「捕らえよ! ファッション強制令を妨害するために、他国から送り込まれた工作員かもしれん!」
2秒もたたないうちに、3人の兵士がタルゴムを取り囲み、残りの2人が短剣を抜いた。
「立て」
兵士の一人がタルゴムの腕を掴む。
「あう……頭が……」
まだフラフラしているタルゴムが呟く。
「ここで死ぬにしても、少しはシャキッとして死ね」
別の兵士がタルゴムの背中を軽く小突いた。
兵士たちはタルゴムをジャガイモの袋のように乱暴に引きずっていった。
国王ボルヴィル三世の冷ややかで品定めするような視線が待つ、舞台の中央へと引き出されていく。
国王は金糸の施された長いローブを纏い、ゆっくりと階段を下りてきた。
……そして当然ながら、彼もまたパリッとノリの効いたピンクの帽子をかぶっていた。上が広く、頭頂部が尖ったデザインで、皮肉めいたピンクの羽飾りがついている。
「貴様は何者だ? どこから来た? 色についての過激な思想で、我が統治を揺るगाすつもりか?」
「お、俺はどこから来たわけじゃ……空から落ちてきただけで……」
広場全体が静まり返った。鳥のさえずりすらピタリと止まる。
「……空から落ちてきた?」
「神々しい嘘ね」
「つまずいた天使様だ!」
子供が手を叩く。
ボルヴィル三世は懐疑的に片眉をはね上げた。
「樽に三回連続で潰されたような顔をして、魚臭い天使がいてたまるか」
国王はさらに一歩近づいた。
「真実を話せ……さもなければ日没までに処刑する」
兵士の一人がタルゴムを押しつけ、国王の前にひざまずかせた。
もう一人の兵士はすでに左肩の上に剣を構え、合図を待っている。
「お、俺は……えーっと……神々の中間管理職です……」
次の瞬間、爆笑の渦が巻き起こった。
民衆はお腹を抱えて笑い転げ、自分の膝を叩く者までいる。兵士の一人は「ははっ!」と大きく笑いすぎてピンクの帽子を落としてしまい、恥ずかしそうに慌てて拾い上げた。
「中間管理職ぅ!? お前がか!? 酔っ払いの漁師にしか見えないぞ!」
「まあ! いつから神様は、派手な服を着たビビり顔の天使を遣わすようになったのかしらねぇ!?」
民衆が笑い転げる中——。
「待て……」
ボルヴィル三世が、かつてないほど真剣な声を張り上げた。
「もし貴様がただの凡夫なら……なぜ生きている?」
国王が手を挙げると、再び静寂が訪れた。まるで分厚い本を力任せに閉じられたかのように、笑い声が一瞬で消え去る。
「羽もなく……既知の魔法も使わずに空から落ちた人間は……全員死ぬはずだ。地面に叩きつけられてミンチになる」
国王は劇的な間を置き、目の前で震える漁師をじっくりと観察した。
「だが貴様は生きている。服も破れず、骨も折れておらん」
国王の指先が、タルゴムの胸元で光るメダルを指した。
「そしてそれは……この世のものとは思えん輝きだ」
あざ笑っていた民衆が、ハッと息をのんだ。兵士たちも不安そうに顔を見合わせる。
ボルヴィル三世はさらに一歩踏み出し、タルゴムと至近距離で向き合った。
「……そのメダルは……あの御方々から授かったものか?」
お読みいただきありがとうございます!
空中から暴動真っ最中の現場へとダイレクトアタックを決めたタルゴム。
「怪しい奴」として即処刑のピンチ……と思いきや、国王ボルヴィルの目が変わり始め……!?
【更新情報】
スタートダッシュとして【1日4〜5話ペースで爆速更新中】です!
「ピンクの帽子で暴動起きてるのシュールすぎる」「神様メダルが役に立ってよかった」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【ポイント評価(★★★★★)】で作品を応援していただけると嬉しいです!
第6話もすぐに更新されますので、どうぞお楽しみに!




