第4話:契約完了と最初のミッション
「第八十五条……なんだって!?」
タルゴムがあぜんとした声をあげる。
『第八十五条:神々の事前承認なき知性的種族の創造の絶対的禁止。例:オーク、ダークエルフ、その他武器を使用し、あるいは複雑な思考をなし得る一切の種族』
ゼネクスが腕を組むと、その幾何学的な影が宇宙の裁判官のようにタルゴムへ鋭く落ちた。
「ああ、それね……」
アエディがいたずらっぽく明かす。
「キキが月光の蜜酒を三日三晩飲み明かして、泥酔した勢いで作っちゃったのよ」
「有意義な実験だったって!」
キキが肩をすくめ、引きつった笑いを浮かべた。
「声と感情……それに殺意をあげたんだ。これ以上何を望むってんだよ?」
「オークの創造自体は承認されていたわ……」
ドロマが冷ややかに口をはさむ。
「問題は、キキが彼らを賢く作りすぎたことよ。自由について哲学を語り、詩を書き始め……あろうことか、一人のオークが『血のオアシス』に本屋を開業したの」
『本屋だと!? 神々の許可もなくか!?』
ゼネクスが憤怒で声を震わせる。
『「喜び」や「隣人愛」などという愚行の使用を誰が許可したのだ!?』
アエディは噴き出さないよう必死で口元を抑えた。
「もっとひどいのは……一人のオークが書いた詩のせいで、エルフが三人泣いたことよ」
「名作だったんだよ!」
キキが心外そうに反論する。
「全詩節に『血』と『死』を入れずに一作書き上げるのに、どれだけの苦労があったか分かるか!? ありゃ奇跡なんだぞ!」
『そして今やオークどもは思考し、読書に勤しみ、雨の中で抱き合っているのだ!』
「この前なんて、パートナーにラブレターを書いてクランの焚き火の前で朗読していたわ。音楽つきでね」
ドロマが心底うんざりした様子で告げる。
神々の間に重苦しい沈黙が流れた。
「……世界の終わりが近いわね」
アエディが小さく呟く。
『ゆえに、もはや一刻の猶予もない!』
ゼネクスは羊皮紙をタルゴムへ突きつけた。
『我に授けられし神威に基づき、我、ゼネクスは命じる! 凡夫よ、直ちに契約書に署名し、中間管理職の職務に就き、世界を正す偉業に貢献せよ!』
羊皮紙がタルゴムの目の前に漂い、その上を黄金のインクでできた鳥が急かすように飛び回る。
文書の最下部には点線が引かれており、そのすぐ下に極小の文字が刻まれていた。
『※署名により、個人としての自由、日曜の休日権、プライバシー、および「誰からも何も要求されない時間」をすべて自主放棄したものとみなします』
タルゴムは契約書を見つめ、それから「書かなきゃ殺す」と言わんばかりの顔で周りを取り囲む四神を見やった。インクの鳥が彼の額をツンツンとつつく。
「……あー、その……弁護士を呼んでも?」
タルゴムがおそるおそる尋ねる。
「天国に弁護士なんていないわよ!」
アエディが爆笑する。
「自分を何様だと思ってるの、国王?」
「署名するか……ゼネクスに魂を観賞用の雲に変えられるかだね」
キキが甘い、だが脅迫めいた声で囁く。
ゼネクスが重々しく頷くと、視覚的な警告として彼の背後に黒雲が立ち込めた。
ドロマはただ、堕天使の骨でできたペンを取り出し、静かに差し出した。タルゴムはそのペンを掴み、二度ほどためらった後、意に反して署名した。
ペン先が羊皮紙に触れた瞬間、黄金の閃光が弾けた。
千の鐘が鳴り響くような音が宇宙を駆け抜け、直後、タルゴムの全身に変化が訪れた。
彼の質素な服は銀の刺繍が施された優雅なローブへと変わり、腰には外すことのできない神聖な革ベルトが巻きつき、その中央には四神のシンモボルが刻まれたメダルが輝いていた。
『契約は結ばれた。もはや後戻りはできん』
「ようこそ、タハマラで一番不毛なお仕事へ」
満足そうにアエディが言う。
タルゴムの胸にあるメダルが、まるで意志を持つかのように柔らかい光を放ち始めた。同時に、全身の脈管を千匹の神聖なアリが這い回るような、未知のマジックの感覚が駆け巡る。
「な、なんだこの感覚は……? これが力なのか? それともただの空腹感か……?」
「役職の証さ」
キキが興味深そうに観察する。
「これで世界のどこにいても凡夫の願いが聞こえるようになった……ついでに、誰かがバカげた祈りを捧げた瞬間にそれも感じ取れる」
「ほら、五分前みたいにね」
アエディが笑う。
「ある村人が『畑にコーヒーの雨を降らせてくれ』って祈ったのよ」
『ゆえに中間管理職が必要なのだ!』ゼネクスが早くも苛立ちを露わにする。『神々に届く前に、そうした愚行をふるい落とすためにな!』
ドロマがタルゴムにゆっくりと近づき、彼の両肩に手を置いた。
「よく聞きなさい。あなたの最初の任務は、ヴォルスラム王国へ行くことよ。国王が『毎週火曜日はピンクの帽子を被るべし』という令を出して、暴動が起きているの」
タルゴムが混乱して目をパチクリさせた。
「ピンクの帽子……? 火曜日に……?」
「現時代における国家の一大事よ」
アエディが呆れたように目を丸くする。
「全員がピンクの帽子を被った兵士たちが戦場に突撃していくところを想像してみなよ」
キキがあたかも当然のように頷く。
「ファッションの大惨事だろ」
ゼネクスは、まるで軍事的ファッションが世界を滅ぼしかねないと言わんばかりに重々しく頷いた。
ドロマがゴホンと咳払いをする。
「これを迅速かつ効率的に解決することが重要なの。理解できたかしら?」
「え、ええ……まあ。国王と話してきます。でも……もしダメだと言われたら? 一生火曜日にピンクの帽子を強制する気だったら?」
「なら、持ち前の創造性で説得するしかないわね」
アエディが眉をひそめる。
『問答している時間はない!』
ゼネクスが重厚な声を張り上げた。
ゼネクスが手をかざすと、千のガラスが砕けるような音とともにタルゴムの足元にポータルが開いた。
その向こうには、緑のフィールド、灰色の石塔、秩序なき民衆のデモ隊という奇妙な光景が広がっている。
タルゴムには悲鳴をあげる時間すら残されていなかった。
「待ってくれ! 何て言えばいいのかも分かってないんだぞ!!」
抗議の声も虚しく、彼の足元から地面が消失した。
底なしの穴に落ちていくようにポータルへと真っ逆さまに落ちていく。ヴォルスラムに向かって急降下する中、風切り音が周囲で激しく鳴り響く。
はるか上空では、キキが笑顔で手を振っていた。
「やあ、傑作だったね!」
キキが笑う。
「ゴミみたいに風の中に投げ捨てちゃったわね」
アエディが腕を組む。
『運命のエレガンスに配慮など不要なのだ』
ゼネクスが誇らしげに頷いた。
ドロマは、今や雲と遠くの大地しか見えない下方へ冷ややかな視線を向けた。
「……帽子マニアの怒れる群衆に踏み潰されず、せめて十分間は生き延びてくれるといいけれど」
「オークが本屋開いてるの面白すぎる」「初任務がしょうもなさすぎて最高」「タルゴムの受難を応援したい」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【ポイント評価(★★★★★)】で作品を応援していただけると嬉しいです!
第5話もすぐに更新されますので、どうぞお楽しみに!




