表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/24

第3話:神々の契約書とパンの禁令

キキが軽やかに笑うと、次の瞬間には小舟が綺麗さっぱり消滅していた。


タルゴムは宙に浮き、身体を包み込む黄金の光によって、まるで見えない水の上に浮かんでいるかのように穏やかに引き上げられていく。


「釣りは中止よ」

アエディが戯れ気味なトーンで告げた。

「これからは神聖なお仕事があるんだから」


「お、俺の船はどうなるんだ!? おじいちゃんの形見なんだぞ!?」

急上昇しながらタルゴムが悲鳴をあげる。


『船は混沌へ捧げられた』

ゼネクスは振り返りもせずに言い切った。

『神聖なる秩序に基づき、あの船は今や「情緒的見捨てられ」のメタファーとなったのだ』


「翻訳:誰も手入れしないから沈んだのよ」

ドロマが呆れたように目を丸くして付け加えた。


そして実際、はるか下方では、腐りかけた木造船が波間に沈み始めていた。キキの不用意な思いつきひとつで、海が突如として息を吹き返したからだ。


アエディはタルゴムの腕を掴むと、ジャガイモの袋でも担ぐような雑さで彼を引き引っ張り上げた。

漁師の男は今や、指先ひとつで自分を消し去ることができる存在たち……四神の目の前に浮かんでいた。


「息を吸って。死にはしないから……今日はね」

アエディが彼の頬をポンポンと叩く。


「き、今日!? 今日って言った!?」

タルゴムが息を切らせる。


ゼネクスが片腕を掲げると、虚空から巨大な羊皮紙が出現した。

それは自ら開かれ、生まれたての星々のように輝く黄金の文字が浮かび上がっていた。


そこに記されていたのは——


『第一条:神々の中間管理職インターミディエイターは、生きとし生けるものの要望を聞き届けるべし』

『第二条:取りまとめた要望を、四人の神聖なる守護神に伝えるべし』

『第三条:誓約のもとで嘘をつくことを禁じ、職務期間中これを継続すべし』


アエディが深いため息をついた。

「誰が書いたのこれ? あなた?」


ゼネクスは誇らしげに胸を張り、幾何学模様の顔のラインを絶対的な威厳とともに硬化させた。


『そうだ。我が執筆した。法的に絶対の拘束力を持つ文書だ』


「……これ、パンを食べちゃいけないって項目も含まれてるのか? 第四十七条……?」

タルゴムが目を丸くして羊皮紙を読み進める。


「第四十七条はね、『大パン暴動事件』の後に追記されたのよ」

ドロマが静かだが冷徹な声で説明した。

「ある国王が軍のために一日千個のパンを要求してね。発酵の魔法を乱用したせいで、タハマラが崩壊しかけたの」


キキが大爆笑し、腹を押さえながら仰向けで宙を転がった。

「あはは! あったな! バゲット国王だろ! ありゃ大惨事だった!」


「人間の分際で神々に直接『食料の貢物』を要求した、最初で最後の事件だったわね」

アエディが不自然なほど真面目な顔で頷く。


「……で、なんでパンを食べるのが禁止なんだ? パンが神様にとって毒なのか?」

タルゴムがゼネクスをチラリと見る。


『パンは経済的爆弾の象徴である!』

ゼネクスが神罰の宣告のような重厚な声で放つ。

『パンが豊かになれば戦争は停止し、しかる後に強力な労働運動によって新たな争いが勃発するのだ!』


キキはまだ笑い転げながら、空中を猫のように転がってタルゴムを悪戯っぽく指差した。


「つまりさ……パン職人たちが組合を作ると、もう戦争が起きなくなっちゃうんだよ。で、戦争がなくなると……」

彼は劇的に気絶するフリをしてみせた。

「……軍隊がお払い箱になっちゃうのさ!」


「その通り!」

アエディが嬉々として乗っかる。

「純粋な混沌カオスよ。将軍たちは泣き出し、鍛冶屋は剣の注文を失うの」


「……じゃあ、パンを禁止するのは平和を防ぐためなのか?」

混乱したタルゴムが尋ねる。


ゼネクスは厳かに頷いた。

『そうだ。定期的な紛争によって権力の過度な集中を防がねば、長期的平和など維持できんのだ』


「世界の均衡はサイクルによって成り立っているの」

ドロマが氷のように冷ややかに告げる。

「冬と夏のようにね。パンの禁止は、平和が長続きしすぎるのを防ぐための予防措置に過ぎないわ」


「凡夫が幸せになりすぎて争いをやめるなんて、危険すぎるもの」

アエディがあくびを噛み殺す。


「大衆の幸福なんて、発情期のオーガよりタチが悪いからね」

キキが呆れたように目を丸くした。


ゼネクスは、まるで宇宙の真理を発見したかのように神妙な顔で頷いた。

タルゴムは再び、手元の契約書へと目を落とした……。

お読みいただきありがとうございます!


「パンを食べると平和になって困る」という、神々の理不尽すぎる経済理論に巻き込まれるタルゴム。

契約書にはまだまだ怪しい条項が眠っているようで……!?


【更新情報】

現在、スタートダッシュとして【1日4〜5話ペースで爆速更新中】です!


「神々の理屈がひどすぎる」「タルゴム頑張れ」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【ポイント評価(★★★★★)】で作品を応援していただけると嬉しいです!


第4話もすぐに更新されますので、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ